昔々、というほど昔ではない少し前の話。
あるところにワームと娘とインキュバスの三人家族がいました。
その少女は健やかにすくすくと育ちました。
両親は彼女が一人前の年齢に成長すると、
彼女の元を離れて長い長い旅行へと出かけました。
ドラゴンやワームなど、生まれつき強い肉体を持った魔物は、
親の庇護を赤ん坊の時くらいにしか必要としません。
家庭ごとに違いはあるものの、番いを見つけられる年齢になれば、
後は独り立ちさせる所も少なくありません。
彼女の家庭もそうでした。
でも一人になった彼女は心配していません。
何故なら、彼女は良くも悪くもバカだったからです。
明るく健やかなバカだったからです。
何とかなるさ、ケセラセラ。
そんな感じで意味もなく、
自信をもって彼女は旅を続けます。無計画に続けます。
時には道に迷い。時には食料がなくなりつつも、
彼女のお婿さん探しは続きます。
彼女はとってもおバカでしたが、途中でリタイヤすることはありません。
ノーテンキな彼女にとって世界は概ね優しかったからです。
どこぞの紳士的なテンタクルブレインが、
道に迷った彼女をこっそり触手を使って誘導したり、
空腹で目を回す彼女の口に、アルラウネとハニービーがこっそり蜜を飲ませたり、
そんなこんなでまた元気に先を行く彼女を、
陰ながら見守りつつ、道行く彼女に皆手を振って見送ります。
そうやって彼女は色々な親切と愛を貰いながら、
ずんずんずんずん進みます。何も考えずに進みます。
そして国境に差し掛かろうかという荒野で、
彼女は最初の相手を見つけます。
自分より少し年下の男の子でした。
休憩しているキャラバンにいたその子を見初め、
彼女は良く判らないながらも犬の様にじゃれつき、
そのまま本能に従って相手を押し倒したのです。
しかし世界が彼女に優しかったのは此処まででした。
彼女はその子に怪我を負わせてしまいます。
愛しくて抱きしめただけなのに、
大きな怪我をさせてしまいます。
彼女は怪我を直す魔法など使えません。
何故なら彼女はおバカだからです。
彼女は一心に謝りました。
そしてその少年を助けてあげてと仲間の元へと返すと、
攻撃されたので逃げ出しました。
彼女は彼女なりに考えます。
何がいけなかったのだろうと、
取りあえずヒトがとっても壊れやすいということは判りました。
とっても丁寧に扱わないといけないなと彼女は考えます。
次こそはと彼女は考えました。
きっと小さい子だったから駄目だったのだ。
お父さん位の人なら・・・と今度は年上の男性に突撃です。
今度も駄目でした。ぽきん といとも簡単に彼女は相手に怪我をさせてしまいます。
そしてその男性を助けてあげてと仲間の元へと返すと、
攻撃されたのでまた逃げ出しました。
歳は関係無いんだなと彼女は気づきます。
ギューってすると駄目っぽい。
おバカな彼女も失敗から学ぶのです。
今度は中間くらいの青年が相手です。
青年は魔物に対しそれ程敵意を持っていませんでした。
彼女の事を純粋に可愛いと言ってくれました。
犬の様に尻尾を左右にふりふりしつつ、
彼女は頑張って気持ちを抑えてハグは禁止、
今度は口だけで頑張ってみました。
青年はとても喜んでくれました。
白い喜びを彼女の口内に出してくれました。
それを食べた彼女はその余りのおいしさに我を忘れました。
気づいたらまた青年に怪我をさせてしまっていました。
彼女は精一杯謝り、青年を医者のいる街へと連れて行きました。
其処でも攻撃されたのでまたまた逃げ出しました。
何時の間にか、彼女はその一帯では有名になっていました。
被害者が皆死んでおらず。仲間の元へと返されたため、
皮肉にも被害届が全て上に届けられてしまい、、
彼女は周辺の人々から狂暴な魔物だと思われてしまいました。
彼女を捕えるため、勇者を中心とした部隊が組まれました。
そんな大事になっているなどつゆとも知らぬ彼女は、
また相手を探そうとねぐらから出てきた所を、
すぐに包囲されてしまいました。
彼女は単純な力ではその勇者に勝っていましたが、
敵意が殆ど無いこと、あと彼女がおバカだったことから、
彼女は勇者に負けて捕えられてしまいました。
しかしその勇者も根は良く話せば判る奴でした。
何で彼女が追われていたかの話をして、
彼女が怪我をさせてしまった人々について謝る姿を見て、
彼女が悪意を持ってそうしたのではない事を理解してくれました。
何より、彼女がうそをついたり企みが出来るほど、
おつむがよろしくないことは話していれば判りました。
そしてそんな勇者は彼女にとっても、
自分を打ち負かした強い♂としてとても魅力的に映ります。
この人なら、とっても強いこの人ならきっと大丈夫。
ぶきぶきぶきっ
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