空はどんより曇り空、雨がシトシト足音鳴らす。
険しい山道キリキリと、道幅ギリギリ大きな轍、
大きな荷車登ってる。
そんな光景が広がる暗黒魔界のとある一角、
車体の造りは幌のついてない荷馬車そのものだが、
それを引いているのは馬ではないため、
それは馬車とは言い難いのだ。
本来なら最低でも二頭、
もしくは四頭の馬で引くのが普通の大型4輪馬車を、
今引いているのはたった一人だ。
もっとも一人といっても人間とは言えぬ容姿の持ち主である。
毛むくじゃらの下半身には八本の鋭い脚が生えており、
其処から生えた女性の上半身には二本の大きな角が付いていた。
肌の色は灰色がかった緑色、
ウシオニというジパング固有のアラクネ種である。
角度は30度を切ることが無いような急勾配が延々と続く難所だが、
彼女はその八本の脚でしっかりと車体を支え、
濡れた山道をグイグイと登っていく。
馬車と馬体を繋ぐハーネスの代わりに、
彼女の蜘蛛糸を編んで作ったロープで荷馬車と体を固定している。
荷物は大きな四角い物体だが、布で覆われており中身は見えない。
荷物も彼女の糸によって荷台にしっかりと固定されていた。
彼女の背には連れ合いらしきおやじが座わる。
彼女の下半身の毛を一部だけ伸ばして結び、
鐙(足を入れる所)の代わりとしていた。
「だいぶん登ったなあ。山向うから魔灯花の灯りが漏れてきてるな。」
「死都ガガントスが見えるまであと少しってとこさね、あんた。」
此処は常夜の国、とある不死者の国領内である。
死都とはこの国の首都を指す言葉で、
魔物の魔力を吸って発光する魔灯花や、
その品種改良品によって、常に淡い光が都市中を遍く照らす。
不夜城としても内外に有名な場所である。
彼女たちは牛鬼運送の名で運送業を営む夫婦である。
堅実な仕事ぶりに定評があり、
今回も以来された品をガガントスに運ぶ最中である。
今回の荷物はハーピー種には少々骨の折れる重量であり、
おまけにワイバーン等の飛龍であっても、
この国は常に暗雲に空が塞がれ、
空の視界が著しく悪く都合が悪い。
よって陸路で悪路走破性の高い彼女達に白羽の矢が立った。
何せその気になれば90度の絶壁どころか、
オーバーハングな場所でさえ踏破出来るのだ。
今のところ道行は順調と言えた。
ウシオニの後ろに座っているおやじは、
背負ったリュックから光る石を取り出すと、
それに自分の魔力を込める。
すると宙に3Dのマップが投影される。
それはこの山と周囲を示しており、
さらに今まで通過した順路が光の線で示され、
現在地と何処まで来たかが判るようになっていた。
この石はネドアリアという魔法道具で、
予め指定された場所でしか使用できないが、
自動でその場所内での使用者の位置をマッピングしてくれる。
魔界産の便利道具の一つである。
この発明は自分の住むダンジョンの道がとんと覚えられず。
我が家で迷子になり続け、
結局壁を壊し続けて脱出したミノタウロスが、
泣いて頼んで作らせたものが始まりだとかなんとか・・・
「この分なら指定された時間より少し早くつけそうだ。」
「そうかい、ならさあんた。頂上で一休みしてかないかい?
あたしゃ仕事が終わるまで待てないんだけどね。」
ウシオニはパートナーの手をぐいっと
その大きな胸元に引き寄せると、濡れた声で甘く誘う。
「そうさな、荷物がタダの物だったら是非もないんだけどよ。
何でも難病に苦しむ娘っ子らしいからな、また今度だ。」
そう言いながらもきっちり胸を揉むおやじ。
「んぅ
#9829; もう・・・判ったよう。出来るだけ急ぐさね。」
「それがいい、症状は詳しく知らんが、
そこらの町や村の医者じゃ対処出来ないってことだろうしな。
お嬢ちゃん。もう少しで峠を越える。あと少し辛抱してくれ。」
おやじは荷台の荷物の中にいるらしき魔物娘に語り掛けた。
返事が返ってきたことはないが、依頼主曰く聞こえているらしいので、
彼は少しでも気が紛れればと時折中に話しかけていた。
勿論今回も、返事を特に期待してのことではなかった。
しかし、今度ばかりは中から返事があった。
「・・・つくの? もうすこしで。」
「おっ! へへ、そうだぜ。お嬢ちゃんの苦しみもあと少しで終わりさ。」
「・・・・・・そう・・・」
ガゴォッンン
「えっ?!」
「んなぁ?!」
突如凄まじい音が荷台からする。
だが異常はそれだけには留まらない。
音に負けない位の衝撃が二人を襲う。
完全に不意を突かれたウシオニの体が後方へと一気に引かれる。
ウィリー状態のバイクのようにその体が持ち上がる。
荷台の中身、それが自身の入れられてる何かに体当たりしたのだ。
ウシオニの彼女すら驚く圧倒的なベクトルが坂の下へ向けて発生した。
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