「いやあ、流石のわしもまさかあの世を見ることになろうとはのう。」
「へえ、地獄ってそんな風になってるんですね。」
「ちょっと、感心してる場合? もう少しでぽっくり逝っちゃうとこだったんでしょ?」
「ふむ、ある方の仲裁と機転で何とかなったがな。」
「全く、いい歳して戦争の最前線に立つ何て危ない事するから。」
「うっさいのう、こうして生きて帰ったんじゃから良いじゃろう。」
「まあまあ、そういう時生きて帰れるのも普段の行いが良いからだよ。」
「ほほ、婿殿は判っとるのう。」
「何よう正信、この古狸の肩を持つってわけ?」
「い・・・いやあ、何というか僕も似たような経緯を体験してるしね、
此処で義母様を責めると色々と自分に返ってきてしまうというか・・・」
「く・・・何とか言ってやってよ父さん。」
義理とはいえ、すっかり仲良くなった親子三人を後ろでニコニコ見ているのは、
ヤオノの父であり、ウロブサの婿となった男である。
髭を蓄えた美丈夫で、精悍ながら人の好さそうな笑顔で三人を見ていた。
「そうだねえ、お互い忙しい身ではあるけど、
勝手にそんな危ないことをされては、私の身が持たない。
あまり私を苦しめないでおくれ。」
「・・・は〜い。」
けして声を荒げぬがそれ故の真摯な言葉に、
ウロブサも自分の非を認め反省を口にする。
まあ同時にその膝元でゴロゴロと甘え始めたのだが・・・
反省の色は一瞬で鳴りを潜める。
「まったく、幾つになっても膝枕が好きなのは変らないねえ。」
「こうしておると思い出すんじゃよ、二人が出会った頃のことをのう。」
「へえ、お二人の出会いですか? 聞いたことありませんね。」
「聞きたい? 聞きたい聞きたい?」
「是非に。」
「私は耳たこ何だけどね。」
「はは、良いじゃない。僕は初めて何だし。」
ウロブサは夫の膝上で頭を撫でられたりあやされたりしながら、
ご満悦な表情で語り始める。
「いやあ、わしも昔は若かった。シュカ程ではないが天狗になっておってな。
国外の取引で少々危ない橋を渡ってしもうたんじゃ、
相手を半分騙すようなやり方でのう、怒った先方から追っ手をかけられてしまったんじゃ。」
「自業自得よねまったく。」
「そこうるさい、まあビューティフルでキューティクルなわしは無事逃げ延びた。」
「いやいや、全然無事じゃなかったじゃない。正信の前だからって見栄張らないでよね。」
「怪我をなされたんですか?」
「ふむ、逃げることは出来たんじゃが、膝に矢を受けてしまってな。
しかもとびっきり質の悪い毒矢だったようでな、
南海のある島で倒れ伏してしもうたんじゃ。」
「其処にたまたま通りがかったのが私だったというわけだよ。
家内はその時弱りに弱っていたようでね。
武将である私が近づいても、逃げたり化けてやり過ごすことも出来ない有様だった。」
「当時の父の立場で言えば、妖怪はお家存続を脅かす敵だったし、
いきなり切り捨てられてもおかしくなかったのよ。」
「それはそれは・・・でも切り捨てなかったんですよね?」
正信の問いに、ウロブサを撫でながらその男は答えた。
「うん、家内は一目で大妖だと判る立派な尻尾と出で立ちをしていた。
だけどそんな立派な狸が、一人寂しく潰えようとしている。
その姿に私は自分の立場を重ねてしまったのか、
はたまた単純にこいつの美貌に参っていたのか、
見捨てることが出来ずに手厚く看護をして助けたんだ。」
「もう、重ちーってば、美貌に参ったなんて・・・照れるじゃろ。
・・・・・・もっと言ってもいいんじゃよ?」
「立場・・・それに武将ですか、失礼ですが義父様(おとうさま)は元々高貴な血筋で?」
「ああ、そういえば言ってなかったけ? 平重盛(たいらのしげもり)、それが私の名前だよ。
まあ今の若い子には六波羅とか言ってもピンとこないかもだけどね。」
「え・・・平家の?」
「そう・・・平家の。」
「僕の記憶が確かなら、その名前は清盛公の嫡男だったような。」
「おお、よく知ってるね君、そうそうその重盛だよ。
まあ正室の子じゃないし後ろ盾もない、
使い走りみたいなポジションだったけどね。
父が我儘ばっかり言って天皇といがみ合うからさ、
間に立ってた私の胃が痛いこと痛いこと。」
話を聞きながら正信は冷や汗を流していた。
「ええ〜〜〜、じゃあ僕って平清盛の孫ってこと?
んなアホな。恐るべし妖怪との縁組・・・」
「気にしとってもしゃあないぞ婿殿、妖怪の家族ならよくあることじゃて。
魔王様のとあるご息女なんて十個くらい下の妹がある日叔母になったりとかな。」
「頭痛い・・・というかこの事を家の両親は知ってたんですか?」
「モチの論じゃよ。忙しいお主等とちごうてとっくに挨拶もすんでおるわ。」
「父は肝をつぶしてませんでした?」
「受け入
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