幕間の6〜それぞれの日々、城下にて

碧(あおい)です。生まれはクノイチ、
今は予てよりの盟約により、敬愛する主である武太夫様に御仕えしています。
そんな武太夫様の朝はお早い。
元々寝付きの浅い方でしたが、以前は悪夢にうなされる毎日であられせられました。
今はその・・・毎夜私が添い寝して胸に頭を抱いて共に眠ります。
その甲斐あってか、最近の武太夫様は赤子のように安らかに眠られるようになりました。
そのかわいい寝顔を見つつこうしているのはとても幸せではあるのですが、
私としても大変悩ましい状態ではあります。
主の安らかな眠りを妨げるのは従者としてあるまじき事、
ですが私も一人の妖怪、この状態でのお預けは大変堪えます。
里での大抵の修行も、このもどかしさに比べれば大した事は無かったように思えます。

などともんもんとしているうちに何時も武太夫様は起きてしまわれます。
朝は決まって剣の素振りなどじっくり体を動かされます。
その後軽く一風呂浴びてから起床して後、私が準備していた食事を召し上がります。
私もクノイチの端くれ、分身をすれば添い寝役、屋敷の護衛役、朝食の準備役、
それらを平行して行うのは本来であれば不可能ではありません。
ですがそれが実行できた事は一度としてありません。
分身の間で誰が添い寝役になるかで揉めに揉めてしまい、
武太夫様が見かねてそこまでしてくれなくとも良い。
とピシャリと我々(?)を叱りつけてくださいました。
その際の凛々しいお声とお姿に少し濡れてしまったのは・・・内緒です。

その後、お天道様が折り返すより前に道場に顔を出し。
弟子の方達とその日の仕事について話し合います。
足らぬ人手の中、毎日忙しそうに仕事をされる皆様のために、
掃除に洗濯、食事にお風呂焚き、と身の回りの世話をやくのが私の基本的な毎日です。
こういう縁の下で力を振るうのは、性分にあっているのか大変楽しいものです。

そんなある日の事です。弟子の方の食事の世話をしている時のこと。
「いやあ相変わらず奥方の作られる御新香は絶品ですな。
漬かり具合が良い塩梅で箸が止りませぬ。」
「里で母に教えてもらいました。気に入ってもらえたのなら良かったです。」
「器量良しでその上に武の腕も立たれるとは、
本当に我らが師ながら良い相手を見つけたものです。
いや、見つけていたが正しいですかな。」
「あまり褒められてもオカズの量は増えませぬよ。」
「あいや、これは手厳しい。
それはそれとして少々下世話な事を聞いてもよろしいか?」
「・・・妖怪ですので下ネタも問題はありませんが・・・」
「ほう、では奥方のそのたわわな四肢のサイズなどを・・・」
「・・・その程度私は別に構わぬのですが、
この体は髪の先から爪先まで武太夫様のモノにございますれば・・・
後ろにおられる当人に許可を頂いてからなら存分に。」

そう言った私の言葉で弟子の方は箸を落とされ、
その動きを石の様に止めてしまわれました。
お地蔵様のように固まるその頭に後ろから指が食い込みます。
「ほう、よけいな元気が有り余っておる様子。
今日のお前の身回り場所はもう一区画増やしておくとしよう。」
「武太夫様! か・・・堪忍してつかあさい。」
「謝る事はないぞ? 何もな・・・」

何時の間にか後ろに立たれていた武太夫様により、
軽口を叩かれたお弟子様は食事もそのまま何処かに連れ去られてしまわれました。

静まった道場内に箸と白飯を食む音が響きます。
何とも微妙なその空気を打開しようとしたのか、
別の弟子の方が話しを振ってきました。
「え、ええそれでは話しの内容を変えまして。」
「そうですね、武太夫様に叱られぬ内容で頼みます。」
「ごもっとも、いえ大した事ではござらん。
武太夫様が奥方を我らに紹介されてよりだいぶ立ち申すが、
そろそろ御子などが出来る気配はないのですかな?
何分我々は妖怪の体の事に疎いですから。
そこ等へんはどうなっているのかと気になってしまい。」
「・・・・・・」
「奥方・・・どうされました? うぎゃああ。」

質問に対しての私の見事なまでの静止っぷりで何かを察したのか、
師範代の他数名の方たちがその弟子を道場の裏手に引き摺っていきました。
何か悲鳴のようなものが聞こえてきた気もしますが、
呆然としてた私にはよく判りませんでした。

何故か頬に血がついている師範代が裏手から帰ってくると、
「奥方、我らの立場でまるで小姑のようなことを言うのはお門違いかもしれませぬ。
ですが、聞いた所によると妖怪とは人よりかなりの好色とのこと。
だというのにやることをやられておられないというのは・・・如何なものかと。」
「面目次第もございません。」

消沈してがっくりする私に対し、師範代は頭を振る。
「いえいえ、そうではなく。奥方の御体に障るのではと申している
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