乾いた風がわずかばかりの熱砂を巻き上げ吹き抜ける。
其処は見渡す限り空と砂と空と砂。
地上にはシルフの気まぐれで描かれた砂紋と凹凸が生み出す砂と陰影の色。
空は見渡す限りに蒼く、地平線に向かって深い青から水色に、
見事なグラデーションをなして見る者の目を楽しませる絶景を生み出していた。
もっとも、それはあくまで額縁に入れて風景画として見るならという前提で、
其処を移動する者達にとっては、
変りばえのせぬ退屈で忌々しい風景になっていることであろう。
そんな風景の中を蟻のような影が4つ程連なってゆっくりと移動していた。
ラクダに乗ってこの砂漠を横断しようという者達である。
この時、神の如くこの広大な砂漠を俯瞰して見る事が出来れば、
彼らの他にもこの砂の景観の中を移動する者達が、
ちらほらいる事が判ったであろう。
さらに注意深く見てみれば、彼らがみな同じ方角を、
ある一点を目指している事に気づいたであろう。
その進路の交わる場所、其処には大きな都市があった。
その周辺は魔法の力なのか不毛な砂漠に緑や水場があり。
行商人達のものであろうテントやゲルなど。
移動式の住居が都市を取り囲むように放射状に点在していた。
大商業都市カメロ、それがその場所の名であった。
その外縁部にまた新たな旅客達が辿り着いた。
ある一団は魔獣である魔界大ラクダに家兼店の建物ごと引かせていた。
家の下部には引くのを補助するローラーが所々に設置してあるようだ。
そして家が止ると、中からガヤガヤと数人の住人が降りてくる。
「あ〜退屈だった。持ってきた本も読み終わっちゃったし。」
「だから言ったのよ。夫がいないならたんと暇つぶしの準備をしとけって。」
「しょうがないよ。彼女はこの旅は今回が初めてだし。」
インキュバスの男性一人と女性二人がまず降りてきた。
愚痴を言っているのはインプの少女で、
それを諌めているのがサキュバスの女性である。
他にも数人魔物と番の夫がゾロゾロと降りてくる。
それを隣で見ていたのは豪奢な装飾を施した砂漠用の魔導馬車に乗った一団である。
それを引いているのはただのラクダだが、
飛空挺などに使われる技術の応用で浮力を得て浮いているのが魔導馬車である。
その一団はまっすぐ進もうとしていたが、
連れていたラクダが魔界大ラクダに怯えて少し隊列が乱れていた。
「どうどう。落ち着けおまえら。」
「やれやれ、無粋な連中だな。」
忌々しそうに魔物側の一団をねめつける彼らの手首からは、
十字のロザリオがみな下がっている。
これは教団の加盟国やその傘下にあるという証の一つである。
そして一際豪奢な馬車の戸が開き、一団の長らしき男が顔を出す。
「おいおい、お前ら、此処はうちの領内ってわけじゃないし。
そんなに目くじら立てなさんな。先方にも悪気があったわけでなし。」
「ですがアルスラン様、彼奴らは魔物です。」
「こんな地の果てまであいつら(教団)に義理立てする道理はねえよ。
それともあれか? 気になる女の子の一人や二人いたか?
ガルディはどうも堅くて素直じゃないしな。
ちょっかい出したくなっちゃったか?」
「ちっ、違いますよ。」
「ムキになっちゃってまあ。ほれ、あちらさんも興味深そうにこっち見てるぞ。」
近衛であろうガルディと呼ばれた男性は主であるアルスランの言で振り返る。
すると魔界大ラクダに引かれる家から降りてきた一団のうち、
明らかに同伴者のいない数名が彼の事をぎらついた目で見ていた。
殺気とは違うが明らかに視線は肉食獣のそれで独特の迫力がある。
「ツンツンデレツン・・・」
「ありゃ相当使うな。決闘を申し込んでみるか。」
「あんたのそれ、勝ったら貰って負けたら嫁ぐんでしょ?
よくよく考えなくても詐欺よねえ。相手に選択の余地無いじゃん。」
「選択の余地などと甘い事言ってたから駄目なのだ。
戦いとは始まった時点ですでに勝敗は決しているものなのだ。(ドヤァ)」
「はいはい、そうよねえ。甘いこと言ってたからあんたも私達も、
いい歳して一人寂しく砂漠の寒い夜一人枕を濡らしてるわけで。」
「敗者・・・圧倒的敗者。」
「るっさい。今度のカメロでは必ず強くてイケテル男ゲットするんじゃ。」
「そうねえ、でも向こうさんはドン引きみたいよ。」
「何?!」
ドクシンジャー三人組のおおなめくじ、
リザードマン、ワーラビットの三人はやいのやいのと姦しい。
ガルディはそそくさと隊列を直すと警戒しつつさっさとその場を後にしていた。
アルスランはにやにやしながら三人娘のコントを見続けている。
「残念ですがねレディ方、此処は中立地帯です。
許可なき私闘は禁じられています。
そしてガルディは教団との同盟国である我がアヴァラガの優秀な戦士。
魔物とくっつけば追放を免れま
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