その9 エピローグ それでも星は巡る


「これは冗談でも嘘でもない。一片の曇りもない真実だ。」

男の話が終わった。其処には男の話を静聴していた多くの者達がいた。
だが、誰も動かない。誰もしゃべらない。
マネキンの様に動かない皆の様子を見て、演説していた男が再び口を開いた。

「ごく最近まで私も知らなかったとはいえ、貴様たちを騙す形になった事を謝罪する。
話を聞いて去りたいものは去るがいい。付いていけぬと感じたなら背をむけろ。
罰を与えたり追撃したりなどはしない。それが今まで尽くしてくれた貴様たちに対し、
私が取れる数少ない礼儀だからな。」

そう言ってデュケルハイトは頭を下げた。
その姿に場は騒めき始め、一気に喧々囂々(けんけんごうごう)とし始めた。
普通であれば絶対に見せぬ謝罪の姿に、集まった将達はその言葉が嘘偽りない事を実感した。

緊急の招集の元、各地を治める将が皆集められた。
そこでデュケルハイトは自分が知る事となった、この国の実情を彼らに暴露したのだ。
その中には当然シルバとゴルドの姿もあった。

「兄者・・・・・・どういうことだべ? おらさっぱりわがんね。」
「・・・貴様に理解出来るように説明できる自信が無い。
この国を出たいなら今から自由に出ていい、
デュケルハイト様のそういうお許しが出た。
それだけ理解しておけばいい。」
「そが、で兄者はどうすんだべ?」
「・・・我は、ダラムス様とハイドラ様に恩義がある。
御二方が抜けぬというならついていくまで。」
「ふーん、ほんじゃおらも兄者についてぐべ。そうすりゃ間違いね。」
「少しは自分で考える事だ。貴様なら恐らく、外でも受け入れ先の一つくらいあるはずだ。」

ゴルドはぴたりと人差し指をシルバの額に当てて言った。
だがその人差し指をキョトンと見ていたシルバは、
やがて笑顔で言った。

「考えでっぺよ。兄者、考えでおら兄者にづいてぐって決めたんだべな。」

その笑顔は幼き日、生まれ落ちた日の事をゴルドに思い出させる。
ゴルドは嘆息して呟いた。他人には判らぬくらいに口角を上げながら。

「愚弟が。」

だがそんな風に穏便に済むところばかりでは勿論ない。
無言でデュケルハイトの居る檀上に背を向けるローブを目深にかぶった男、
そしてその男の肩に手を掛け、男の歩みを遮るもう一人の男がいた。

「何処行きやがる。」
「決まっていよう。離せ・・・火傷するぞ。」

強引に行こうとする男、だが睨み付ける男の握力は尋常ではなく。
ローブは今にもはちきれんばかりにギュギュッと音を立てていた。

「何様だ。おこがましいぞ!」
ローブ男が身を翻すと同時に、掴みかかっていた男が突然燃え上がった。
全身を一瞬で、足元から吹き上げたかのような火が覆い尽くす。
男のシルエットは黒く炎に浮かび上がり、
彼は人間トーチとなって轟々と燃える。
だが離さない。その握力は微塵も揺るがずローブごと男の肩を握り続ける。
耐火性があるのかローブは燃えぬものの、流石に煙を上げている。
そしていきなり炎が大きく翻る。燃えているためモーションが判りづらいが、
男は火達磨になりながらも、大きくもう一方の腕を振りかぶっていた。

拳で体を殴ったとも思われぬような、大音量のくぐもった低音が衝撃波と共に響く。
人という質量と床の摩擦を無視するように、
殴られた男は両足を付けたまま地面を火花を上げて高速で滑っていく。
足をつけている箇所は燃え上がり二本のフレイムロードを地面に描く
事前に察知していた周囲のものが道を開ける様に跳び退る。
そして迫る壁に対し腕を上げ壁に体が激突する前に、
ジェットコースターのようなその勢いを腕一本で殺す。

燃え上がった男は、パンチの際に発生した音速越えの衝撃波で自身の炎を吹っ飛ばしていた。
燃える前の姿から一変、黒い甲冑の表面に血管が走ったような鎧を付け、
首元から上は、先を魔女の爪の様に曲げた六角錘に、
顔を出す穴をあけた様な特徴的な兜で覆われている。
「火傷するにはちとぬるいんじゃあねえか? 炎将。」

一方、殴られた男もその一撃でローブがはじけ飛び、
中の姿を晒していた。履いていた靴も摩擦で焦げ臭い大気となり裸足だった。
その服の下からはこれまた奇妙な姿が現れる。
男は中心で左右非対称になった仮面をつけている。
片方が泣き顔、もう片方が笑顔をした悪魔の様なデザインである。
そして体は黒いタイツの上から外骨格の様に骨を纏ったような奇抜なものだ。
「もうその名で呼ぶのは止してもらおう。
私はもう此処を出て行くのだから、予言しよう、この国の亡びはもはや避けられん。
だがその前に貴様は殺していくとしよう。撫でられた事は兎も角、
服と靴を台無しにされたお代位は頂いていく。」

ローブの男は塵を払う様に殴られた胸を撫でる。
強がりなどではなく、拳
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