八門遁甲(はちもんとんこう)の陣の中心
「おおっ、そこ! もうちょい下、下でござる。」
「あのねえ、伊江紋ちゃん。各地の戦況を見ようとはいったけど、
濡れ場を出歯亀しろなんて言ってないでしょ?」
ルアハルとその護衛の侍、伊江紋(いえもん)の二人は第二陣の部隊を待つ間。
各部隊に持たせた受信器の力を借り、遠見の魔法で映し出された各部隊の状況を見ていた。
「しかしでござるな。待てど暮らせど帰ってくる者がおらぬ以上。
ただ待つというのも退屈でござる。それぐらいは役得で許して欲しいでござる。
それに天使や魔王の娘の痴態などそうそうお目にかかれぬでござるからして・・・うっ・・・」
伊江紋の前には、一人の白髪のサキュバスを中心とした肉欲の宴が映し出されている。
隊を率いるノフェルが堕天し、万魔殿に引きこもってしまい隊は完全に崩壊してしまった。
ノフェルと似たような経緯で後を追うように堕落して異界に消える者が半分。
残った者達はデルエラを中心とした肉欲の渦に溺れ、色に狂って華を散らしている。
「んん〜、まあねえ、散った八軍と奇襲を仕掛けた一つのうちすでに5つが敗れてる。
しかも第二陣のうちでもトップ3の実力を持つ教団本部直属軍、巨兵部隊、レギウス軍。
それがこの5つの内に含まれてるときた。残りの4つも3つはほぼ壊滅状態。
比較的損害が軽微のエスクード殿の率いる部隊はどうなってる?」
「・・・先程と変らぬでござるな。完全にこう着状態でござるよ。」
「エスクード殿は反射を除けば大規模破壊などの大技を持たんからなあ。
完全に見透かされた上で完封されてるって感じだ。
まったくこれだけタレント揃いの第二陣に対し、
即興で対応できる選手層の厚さはやはりうらやましいな。」
映し出された映像にはゾンビやグール、マミーにスケルトンといった死人の群れが、
エスクードの率いる部隊と大混戦の殴り合いを展開している。
それらアンデッドの群れはそれを率いるリッチにより、
強化と回復を施されており少々傷ついてもすぐに再生してしまう。
エスクード軍にも、エスクードの掛けた全軍魔法による防御の底上げと、
後方部隊の回復により同じような効果が付加されていた。
両軍は決め手に欠ける泥仕合を延々とさせられていた。
肝心のエスクード、彼ならこの腐海を掻き分けリッチの首を上げることも出来た。
しかしそのリッチの姉であり、
この死者の軍勢の王であるワイトが後方で睨みを利かせていた。
彼女の能力であるエナジードレイン、彼女は触れずとも広範囲の相手にその能力を発揮する。
直と違い一瞬で行動不能とはいかないが、その分敵の軍勢全てにその効果を発揮する。
その彼女の干渉を遮蔽する。その事にエスクードは力を割かれ、
自身で切り込むだけの余裕は無い状態に追い込まれていた。
もし、ドレインの妨害をせずに彼が本気で攻め込んでも、
自分が彼女達を討つよりも自軍の側の崩壊の方が遥かに早いであろう。
エスクードはその事を冷静に感じ取り、次の手を打ちあぐねているようであった。
「とられはしないだろうがね、ありゃ完全な死に駒だ。
此処に帰ってくることは出来んだろうなあ。」
「しからばどうする? 大駒も失い、壊滅寸前の部隊と死に駒同然の部隊が残るのみ。
投了するのが打ち手としての取るべき道ではないのか?」
パチリと歩を進めると、ルアハルの前面に座るストクが言う。
「まあこれが将棋であればそうなんですがね。でもまあ・・・」
ルアハルは懐から懐中時計を取り出すと時間を一瞥して相手の陣内に角を打ち込んだ。
「むう・・・」
その角が攻めと守り、三方に睨みを利かせて攻めていたストクの手を止めさせる。
ストクは攻めるか受けるか一瞬迷う、だが堅実に受ける手を選択した。
「ふむ・・・そっちでくるか・・・なら。」
「くっ。」
打ち込まれる歩、陣地の中で歩は成り、金としてストクの守りを食い破る。
その隙間に打ち込まれる飛車、それは竜となりさらに先程の角も陣の中で馬となる。
と金と竜馬の猛攻にストクの必死の受けが続くが、
そこから十手さした後、うな垂れると告げた。
「無い。余の負けだ。」
「ありがとうございました。」
両者の礼で終わる。戦場の盤上対決。
「ふむ、我が遠征軍第二陣は十戦一勝、八敗一引き分けといったところかねえ。」
「ええ〜、これを勝利に数えるのでござるか?」
伊江紋は突然押しかけてきたストクと、
暇なら一局どうか・・・などと携帯出きる簡易版の将棋を取り出し、
本当に打ち始めたルアハルに呆れていう。
しかしその言葉に噛み付いたのはルアハルでなくストクの方であった。
「下郎、余とこやつの真剣なひとさし、愚弄するとあらばまた灸をすえてやるぞ。」
「うぇえ! め・・・滅相もござらん。だからも
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
12]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録