Drシェムハの巨兵部隊
勇壮に聳え立つ三つの人影が魔界の大地を進撃する。
それはDrシェムハ自慢の三つの巨人兵(グランギニョル)。
タロス、スプリガン、ゴリアテの三機である。
彼らはその威容に見劣りせぬ実力で魔物達を蹴散らし、
現在何の障害も無いまま進撃を続けていた。
タロスの肩にはDrシェムハと助手のエンブリオが隣り合って座り、
眼下に魔界の大地を見下ろしながら話し合っていた。
「マスター、何故彼女達を見逃したのです?
仕留めねば後々再びマスターの事を狙うかもしれません。」
魔物達を倒しこそすれ、止めを刺さずに進軍を命じたシェムハに対し、
エンブリオは護衛として当然と言えば当然の疑問を呈していた。
そんなエンブリオに対し、シェムハは出来の悪い生徒を見る教師のような視線を向ける。
「・・・馬鹿かね? 君は。」
「・・・マスターにだけは言われたくありませんが、
一応お伺いいたします。理由をお教え願えますか。」
「は〜〜〜、こんなことも言わねば判らないとは悲しい。すんごく悲しいですよパパは。」
「そういう前振りはいりませんので。」
「我々は何かねエンブリオ?」
「・・・王魔界遠征軍ですが。」
「ちっがーう。そうじゃない。我々は軍である前に正義だ。
邪悪で強大な悪を、牙なき民草に成り代わり討ち滅ぼす対魔の矛。
それが我々なのだよ。判ったかね?」
大仰な身振り手振りで力説を始めるシェムハ、
揺れで足を滑らせそうになる彼を万力のような力で支えながら、
エンブリオはその一見怜悧にすら見える無表情を変えずに尋ねた。
「判りかねます。正義と強大な悪を見逃すことの相関関係について説明を求めます。」
あくまで冷静に突っ込むエンブリオに対し、
シェムハはわかってねえなこいつ・・・と言わんばかりに肩をすくめる。
「あのなあ、どこの世界に負けて逃げ帰る悪役を背中から撃ち殺す正義がいる?
おぼえてろ〜などと小悪党な台詞を吐いてふらふら逃げる悪役を、
追撃して蹴散らし虐殺する。そんな正義の味方がいてたまるかねかっこ悪い。
前々から思っていたがねエンブリオ、君には熱い正義のソウルが欠けているようだ。」
「そういう風に私のルーンを書かれたのはマスターでは?
それとその手のはマスターお一人で必要十分どころかむしろ過剰かと・・・」
「・・・それもそうだな、朝から熱く正義を語るお前さんを想像したがゲップが出そうだった。」
「狂いつつも高い理解力と自身をすぐ改められるのは、
マスターの美点だと前々から思っていました。」
「最初の一言が余計だがまあいい、もっと褒め称えたまえ、
天才であるこの私の美点とその偉業を・・・」
「マスター、どうでもいい会話はこの辺に・・・前方に敵魔力反応。」
「どうでもいいだとこの失敗作が! とはいえ、優先順位はそっちが先なのも事実か。」
シェムハは懐からごそごそとゴーグルのようなものを持ち出し掛ける。
それは魔力感知の出来ない彼が発明した。魔力測定器である。
いわば魔力版ス○ウターのようなものだ。シェムハはそれによって、
前方に立ちはだかる三つの高い魔力反応と、それらとの距離を確認する。
「三人待構えているな、今までの雑魚共とは一線を画す反応だ。」
「詳細を確認いたしました。うち一人は以前のデータと一致します。
城への投石を打ち返してきたあの鬼です。残る二人は赤毛の女性とその夫の男性です。
女性のほうは角、翼に尾、四肢を覆う鱗、容姿からドラゴンと推察されます。」
「面白い、あの馬鹿力の鬼っこか、
それに残る二人は古株のドラゴンと元ライバルの勇者ってところだな。
しかもこちらに合わせた人数、私の作品達との一騎討ちが御所望と見える。
地の利はあちらにあるというのに、あえて対等な条件での決闘を望むとは・・・いいぞ!
判っている奴があちらさんにもいるようじゃないか・・・エンブリオ!」
「・・・用件は判りますが、承諾しかねます。一応言いますが・・・」
「無駄なことを言うな、私がそんなもん聴くわけないことくらい。」
「痛い程理解しております。」
エンブリオは嘆息という形でその無表情から感情を覗かせる。
しかし眼をキラキラさせているシェムハを見て諦めているのか彼の命令に従う。
彼女はシェムハをお姫様抱っこの形で抱えると、巨人の肩から腕、
肘から腕、手から腰、腰から脚と移動を始める。
無論彼女なら一足飛びで飛び降りることも造作もないが、
シェムハの体に負担を掛けぬように彼女は巨人というアスレチックをゆっくり下る。
地面に降り立つとその姿のまま彼女は前方へと疾走を始める。
そして巨人達も肩からシェムハが降りてゆっくり歩く必要がなくなり、
その二本の脚を如何なく蹴り上げて駆ける。
三体のグランギニョルとシェムハを抱えたエンブリオはあっ
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