レギウス軍最前線
周囲を巻き込まぬために突出した形になったスピリタスの兄弟、
そしてサプリエートらは十分距離が稼げた所で停止する。
「これくらい離れればまあ大丈夫でしょう。」
「意図的に狙わにゃまあ平気だろうて。」
(あの・・・降伏しては頂けないでしょうか。)
兄弟はサプリエートに顔を向ける。
自信無げに顔を伏せながらも彼女は主張する。
(御話を聞いていて御二人が魔物を憎んでいないことが判りました。
でしたら我々が争う必要は無い筈です。
同じ精霊学を修める者同士、話したいこともたくさんありますし。)
兄弟はそんなサプリエートの言葉に顔を見合わせ困ったように笑う。
「はは、女史の持論、強い精霊使いに悪いものはいないって奴ですか。
まあ概ね同意しますよ。彼女らに好かれて強い力を引き出す時点で、
根っからの悪人ではないでしょうからね。」
「じゃがなあ、残念だがこれは戦争だ。
戦争は正義と正義がぶつかることも良くある話よ」
サプリエートは尚も食い下がる。
(教団に正義が在ると? 味方を騙して捨て駒に使い。
魔王が世界を滅ぼそうと画策している。などという偽りで各国を騙している教団に・・・)
「そんな戯言を信じてる者はこの遠征軍でも少数派ですよ。」
「別に正義感で教団に組する国などそんなにいないわなあ。
だがそれでも教団は過去には人を守る絶対正義の砦であり、
その時に培ったコネや権力で今だ人類最大の武力と権勢を誇る集団だあ。
正面きって敵にまわせる国なんぞ数える程よ。
もし経済制裁をくえばほとんどの国が干上がる。」
「貴方の故郷、ポローヴェの二の舞というわけですよ。
だったら魔界化させれば良い、貴方ならそう言われるでしょうね。」
「じゃがな、ポローヴェと違いレギウスは今のままでも別に困らん。
だというのに教団への個人的な叛意から国を勝手に魔界化させるのか?
大方の国民は明日の生活が保障されていればそれで良いという立場だろう。
それを怠惰と叱責して国を魔界化させて教団を敵にまわす。
そのような決断をみなに強いるのが正義か?
まあ立場や周囲との縁、そういうものを無視し、
内側から体制を変えたり壊したりするのは難しいわな実際。」
(残念です。)
サプリエートは俯いてそう言った。
「まあ、お互い生きてたらまた会いましょう。当然、非公式なものになるでしょうが・・・」
「さあて我らの長年の研究成果、試すには絶好の相手。
とばすぞクルーエル! 出し惜しみは無しじゃあ!!」
先手必勝、とばかりに二人は一気に仕掛ける。
実際、単純な戦力の差は圧倒的といって良い。
スピリタスの技術は闇精霊と魔精霊の力の差を埋めてくれる。
だがそれは条件が対等になったというだけだ。
使える精霊の属性の数、精霊使いとしてのキャリア、
そして何よりダークマターであるサプリエートの魔力は人から見れば無尽蔵と言っても良い。
黒い太陽の異名を取るダークマター、
その正体は純粋な魔力の塊に意思が宿ったものとされている。
魔力の貯蔵量として兄弟を電池とするならサプリエートは原子炉だ。
長期戦での勝ち目は皆無。
それでも、兄弟にとって有利な点が一つだけある。それは―――
(戦闘経験の差・・・)
(強大な力を持ちながらも精霊を戦いに使うを良しとせぬその気性・・・)
(対して我らは最初から戦うためにその技術と力を研鑽してきた。)
(付け入る隙があるとすればそこしかないなあ。)
クルーエルは両手を前にかざすと、その手からビームと見紛う強力な冷気の線を発っする。
バスターもそれに合わせ炎弾を片手に生じさせ撃ち込んできた。
それらはサプリエートの眼前の空間でぶつかり、
急激な温度差は水蒸気爆発を生じさせた。
空気を震わせその爆発と音は遠くまで轟き渡る。
もうもうと雲のように蒸気が吹き上がり一体に立ち込めるが、
瞬時にそれは竜巻のような突風が巻き起こり晴らされてしまう。
中心にいたサプリエートは無傷である。
眼前で発生した爆風に対し、シルフが同威力の突風をぶつけ爆発を周囲に反らしていた。
その後の蒸気も一瞬でシルフが吹き飛ばした。
(まあ効きませんよね。これぐらいじゃあ。)
だが晴れたサプリエートの視界いっぱいに、巨大な鋭く尖った氷柱が映る。
まるでこれから氷のウニでも作らん勢いで球状に彼女は氷の槍に囲まれていた。
「青い牙(アスル・コルミリョ)!」
クルーエルの気合と共に氷が一斉に舞う。
360度全方位逃げ道の無い攻撃に対してもサプリエートは落ち着いている。
つい と彼女は指揮者の様に人差し指で空中をなぞる。
すると彼女に迫る氷柱がある線を境に蒸発して消えうせた。
イグニスがサプリエートをその黒い炎でバリアの様に覆い氷から守ったのだ。
しかも同時に溶けて発生した水蒸
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