エピソード4、戦火を交えて

レギウス軍

巨大な氷の塊となってしまったエリザベスを尻目に、
レギウス軍は進軍を再開しようとしていた。
だがそんな彼らの前にエリザベスの夫であるロワが立ちふさがる。

「よくもエリザベスを! 許さない。」
「許さなければどうする少年。
おっと、それとも見た目に反してご年配の方なのかな?
どちらにせよ貴様に我らは止められぬ。
退け、無駄な殺生は好かんが、抜くというなら容赦せんぞ。」

部隊長のヴィクトールはロワの腰に差している物を指差してそう言った。

「やめましょう。」
「そうじゃそうじゃ、どうもこやつは見た目どおりの子供らしい。
御主も子供を殺して貰った勲章なぞ欲しくあるまい。」

ヴィクトールの両サイドにいた精霊もどきの二人がそう進言する。
それを聞き、ヴィクトールは殺気を治める。
「違いない。子供とはいえ戦場に出た以上戦士として扱うが礼儀と思ったが、
大人げなかったかもしれんな。少年、くやしいかろうが此処で友軍を待つが良い。
我らは進ませてもらう。エリザベスとやらの意思を無駄にするな。」

「くそっ・・・」
ロワは大地に握った両手を叩きつけてポロポロと涙をこぼした。
だが自分が凍る前に救ってくれたエリザベスの行為を無駄にするな。
そう言われ彼はどうしてよいか判らなくなってしまい動けなかった。

そんなロワを横目に隊列を整えたレギウス軍は進撃を開始・・・
しようとして再びその歩みを止められた。

先頭のヴィクトールと精霊もどきの二人が空を見つめる。
「来るな。」
「これは・・・」
「強いのが二・・・いや六? 一人超ド級の魔力の持ち主がおるな。」

まず最初に、カラステングに運ばれ一人の騎士がその場に舞い降りた。
騎士は巨大な氷塊となったクイーンスライムの上に着地すると剣を抜き上段に構えをとった。
呼吸にして3つほど、構えたまま静止していた騎士は、
シャンッ と傍目には軽く剣を振り落ろしたように見えた。

だが、変化は劇的であった。瞬く間に氷にひびが広がり粉々に氷は砕け散った。

「む?!」
「なんと・・・」

一瞬、騎士が凍らされたクイーンスライムを砕いたかのように見えた。
しかし砕け散ったのは氷だけで、そこにはクイーンスライムの巨体が傷一つつかずにあった。
その騎士は凍らされた物体を傷一つつけず、氷だけを斬って捨てたのである。

「な・・・何をした?」
ヴィクトールはその怪現象に対し口をアングリ開けて度肝を抜かれていた。

対し精霊もどきの二人は理解があるのか多少落ち着いている。
「恐らくですが、氷ではなく魔力そのものを断ったのではないかと。」
「この世界、そして魔法の根幹である魔力そのものに干渉する剣
・・・それで凍らせるという術式そのものを無力化したんじゃろうな。
理屈は判らんでもないが、剣でそれを実践するとは。」

「礼を言います。スクナ殿。」
「礼には及びません。こちらこそ遅れてすみません。」
動けるようになったクイーンスライムはその体を伸ばし、騎士を地面のレギウス軍の前に降ろした。

「エリザベス!」
「よくご無事で、我が君。」
ロワは走るとエリザベスの体にダイブした。
エリザベスもそれを受け入れ内部で愛しい人をいっぱいに感じる。

そんな二人を尻目に、騎士はレギウス軍に向き対峙する。
白を基調とした荘厳とさえ感じられる意匠の鎧に身を包み、
鎧の胸元の形状と兜からこぼれるサラサラの髪から女性とわかる。
騎士は兜のフェイスガードを上げるとその端麗な美貌を晒した。

「これ以上此処にいるのは無粋というもの、戦場を移したいが構いませんか?」
「出会って第一声で戦場で敵に願いを請うのか?
せめて名乗りを上げてからにしてはどうかなレディ。」
ヴィクトールは現れた女性騎士に対してからかい気味にそのようなことを言った。

「これは失礼を・・・元魔王軍騎士団、デュラハンのスクナだ。」
「レギウス国軍、魔界侵攻部隊長のヴィクトールだ。元か・・・召集されたので?」
「ああそうだ。とっくに剣を置き引退した身だったが、そうも言ってられなくなったのでな。」
「それで、何故戦場を移すなどというのだ。
此処でやればあの復活したクイーンスライムも戦力に数えられるだろうに。」
「彼女はすでに負けているし立派に勤めを果した。
これからは貴行らの相手は我々が勤めさせてもらう。
そっちにとっても先に進め敵の戦力も減る。悪い話ではなかろう?」
「我々がそれを受けると?」
「ああ、ロワ殿に手を上げようとしなかった貴殿らなら、
この提案受けてもらえると確信している。」
「・・・良いだろう。戦意の無い相手を討つなどレギウス魂に悖る。」
「それでは彼女も来たことだし。この森を抜けたところで再戦といこうか。」

そう言ってスクナが振り向いて上を見た。
そこには
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