魔王軍は事前に教団側の一部の国家と通じ、王魔界侵攻作戦の情報をリークしてもらう。
それにより、教団側の送り込んだ第一陣は共に死亡者ゼロという驚異的な戦果のうちに壊滅した。
だがそれは教団側も想定していた結果であった。
第一陣は全滅することを前提とした捨て駒であったのである。
この捨て駒により、魔王軍側の戦法や陣容などの情報を掴み、
さらに捕虜となった男とにゃんにゃんさせることで魔王軍側の兵の数を削ぐ、
それこそが第一陣の役割、情報のリークにより魔王軍はそれを元に作戦を実行していた。
しかし、そのリークされた情報そのものが更なる目論見のための目くらましであった。
第一陣への対応により大量の人員を割かれ、更に奇襲用に発生させられた霧に紛れ、
少数精鋭の伏兵が王魔界に侵入し魔王城付近にポータルを設置する。
それこそが教団側の真の目的であったのだ。
裏をかかれた魔王軍対策本部、彼女達はその作戦の変更を余儀なくされていた。
遠征軍対策本部の隣にある控え室にて
「というわけでごめんさない。
偉そうな事を言っておいて一杯くわされたわ。」
ばつが悪そうにメルシュが頭を下げる。
ウロブサとナハルは引き継いで現状を説明する。
「教団側が送って来る第二陣、これこそ本命の部隊。
世界中の教団傘下の猛者共が押し寄せてくるはずじゃ。」
「当初の予定では、第二陣も我々の用意したポータルから来る。
そういう想定で作戦を立てていました。」
「広さを生かして敵の戦力に合わせた兵を送って各個撃破。
じゃがそうもいっておれんようになった。
正直みなには掛かる負担は相当大きくなったと思う。」
「構わないわ。分の悪い賭けは嫌いじゃないし。」
「聞いた限り、其処は敵を賞賛すべきね。」
「逆境なんて何時以来だろうねえ? わくわくしてきた。」
だが、控え室に集められた魔王軍の中でも生抜きの猛者達の表情は一様に明るい。
むしろこの状況を楽しんでいるとさえ言えた。
ガヤガヤとし始める皆の中である一人がスッと手を上げた。
それを見てみなも意図を察して黙る。
「メルシュ、質問いいかしら?」
「勿論いいですよ。」
「今の状況じゃあ安全に勝てる保障はないわよね。
それでもまだ教団側への殺さずを貫くつもりかしら?」
「難易度も危険も相当高いです。正直こっち側に死人が出かねない。
こうなったのは私達が不甲斐ないから、だから命令は出来ない。
でもね、お願いします。出来るだけでいい。誰も殺さないようにして。」
メルシュはみなに対して頭を下げた。
それを見ていた質問者はくすりと笑う。
「心意気は買うわ。でもね、それじゃあ駄目よ。
あなたはこう言うべきだわ。殺すなと・・・命令すべきよ。
だってそうでしょう? 全ての事の始まり、
それはお父様とお母様が互いに殺しあう定めを憂いた事。
だというのに、少し状況が厳しくなったからって仕方ないと殺すの?
それは二人の理想に唾を吐く行為だわ。そんな事私は認めない。」
周囲の魔物や元勇者達もその言葉に頷く。
「もっと私達を信頼なさい。
体を労わられる程柔な者は此処にはいない。
要求なさい。我々は何を成せばこの馬鹿げた戦を終わらせられる?
きつい要求にだって応えるわよ。わたしも早くこの腕に弟を抱きたいしね。」
その者の立ち居振る舞いと言葉には力があった。
人の心を動かし魅了する華。カリスマと呼ばれる資質。
今までバラバラに其処にいた猛者達の心は、
まとまり一つの意思をもった塊になっていた。
「ほう、流石じゃのう。」
「うう、ご・・・ご立派になられて。」
感心するウロブサに目を潤ませて鼻をかむナハル。
メルシュは頭を上げ、頷いていった。
「仰るとおりですね。私達は最後まで不殺を貫くべき。
敵も味方も殺さずあの方の出産も守る。全てをもって初めて勝利。
みんな、力を貸して! みなが心から笑える明日のために!!」
メルシュの檄に控え室の猛者達は鬨の声で応える。
その様子を見て場を暖めた立役者であるリリムは自身の肩を抱いて身を震わせた。
「いい、すごくいい感じだわ。ぞくぞくしてきちゃった。」
「楽しそうですね。」
隣に付き従っていたサキュバスの少女が言った。
「ええ、燃えてきたわ。ウィルマリナ、貴方は違うのかしら?」
「正直あの人と貴方様以外のことはどうでもいいです。
でも、弟を抱いた時どのような顔をするのかには興味がありますねデルエラ様。」
「お、おい! あれを見ろ?!」
誰かが声を上げる。控え室には現在、
遠見の魔法でポータルの状況がリアルタイムで映し出されていた。
大きなポータルから転送されてきた巨大な影、
見た目は甲冑に身を包んだ重騎士といった風貌だ。
問題はそのサイズである。ざっと身長50m、まるで小山のような図体のそれは一体だけ
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