エピソード2、導かれし者たち

各ポータルから王魔界へ進軍した遠征軍第一陣。
彼らは魔王軍の作戦通り、まともな戦闘をほとんどすることなく、
その兵達の大半を行動不能に追い込まれ捕虜として捕らえられていった。

魔王軍の罠を掻い潜り逃げ延びた者達も当然居たが、
そういった者達は迷った所を魔王軍の哨戒部隊に拾われるか、
彷徨い続け、餓死を免れるために王魔界の水や果物に手を出し、
インキュバス化してしまい、性欲を抑えきれず投降する者がほとんどであった。

逃げ延びた中で残り一割にも満たない数であったが、
星などから方角を割り出し、自分で目的地に辿り着く者も少数ながらいた。
そういった聡い者達は第一陣の中で唯一被害を負っていない軍。
小国トールキン軍に合流し吸収されることとなった。

小国トールキン
地理的に辺境にあり、産業も無く農水産の特産品にも乏しい。
さらに周辺を教団国家に囲まれ、そのうちの一つと国境にある山脈の鉱物資源をめぐり睨み合う。
そんな赤貧国家の一つであるこの国が今までやってこれたのは教団の援助あってのことである。
しかし教団側も慈善事業で国家運営の手助けまではしない。
援助の見返り、それは軍事力である。この国は貧しく人口も少ない。
本来軍事力もその国力同様貸し出せるようなものではない。
だがこの国には一人の強力な勇者がいた。

舞う者(フェザー)の異名を取る男。
エウネリオス=ブライズである。
軽やかな動きで万の矢が飛び交う戦場であろうとも被弾せず駆ける。
そんなスタイルより名づけられた二つ名を持つ勇者で、
その名は周辺国は勿論、耳聡い者なら遠方の教団国家でも知っている者すらいた。
彼という力の主権の譲渡、これによる見返りでトールキンはかろうじて運営されている国であった。

エウネリオスはまだ二十台前半と年若いにも関わらず、
戦闘経験も豊富で軍略に明るく指揮能力も高い。
また人当りも良く人格者であった。
それ故に国では英雄として慕われ、いっしょに戦った者達からの評価も軒並み高かった。
そんな彼が陣頭指揮を取るトールキン軍はいち早く合流地点に到着し、
他国の軍の到着を待っている状態であった。

だが待っても来るのは散り散りの敗走してくる兵ばかり、
エウネリオスはそんな者達の報告を聞いて一人考えていた。

(これで5つ、第一陣の軍の内壊滅が報告されている。
果たして此処に来る味方はまだ残っているのか? もし残りが我が軍だけなら、
ここでこうして待つのは愚行以外の何者でもない・・・
いや、そもそもこの遠征そのものが無茶で無謀極まりないものだ。
もし、私の想像している通りなら・・・む?)

彼の前に兵士が息せき切って走ってくる。
だがエウネリオスはその者が喋りだす前に手を出して言葉を制した。
「よい、魔物の一団がこちらに接近していることだろう?
こちらでも感知している。お前はそのまま戦闘準備に掛かれ。
みなへの伝令はこちらでやる。」

兵は敬礼の姿勢を取ると走っていった。
エウネリオスは膝を曲げるとそのまま放たれた矢のように跳躍した。
風を切りあっという間に数十mの高度を稼ぐと、
エウネリオスは高所から目視で敵の数と陣容を大雑把に把握する。
上昇が止まり、落下すると思われた彼の体は、
マントがたなびきまるで羽根のようにふわりと滞空する。

彼は両の手を上げ、そのひらとひらを強く打ちつけた。
バァァアン! 空気が振るえ、巨大な風船が間近で割れたような音が周囲に響き渡る。
それは彼の軍内で決めてある戦闘準備の合図である。
これにより、全軍は遅れる者無く魔物の接近前に戦闘準備を完了することとなる。


※※※


紅く巨大な月を天に頂き広大な平原を二つに割るように、
トールキン軍と魔王軍は相対していた。
トールキン軍の先頭に立つのは当然エウネリオスで、
魔王軍側の先頭には白銀の髪に紅い瞳のサキュバス、リリムが立っていた。
何故かその格好は丈が短くぴっちりとしているセクシャルなナース服である。

トールキン軍の先頭辺りの兵達はその艶かしい格好と美貌に息を呑む。
エウネリオスは口元を抑え、周りに気取られぬように笑っていた。
(まったく、相変わらず緊張感の無い連中だ。)

両軍睨み合う中、リリムがゆっくりとこちらに歩いてくる。
それを見てエウネリオスはぐるりと首を巡らし号令を発した。
「手出しはするな。私からの指示があるまで一切だ。」

そう声を上げるとエウネリオスもゆっくりと歩き出す。
そして両軍が睨み合う中間地点にて、両者は向かい合っていた。

「お初お目にかかります。魔王の娘、第91位のイスナーニと申します。」
「トールキン軍指揮官。エウネリオスだ。」
「ぞんじておりますわ。フェザーの二つ名を持つ勇者様でいらっしゃいますわよね?」
「辺境国の一勇者に過ぎない私な
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