エピソード1、もう一つの世界 

魔王城、それは今も広がり続ける魔界の奥深く。
王魔界と呼ばれる場所に存在した。
過去幾たびか教団主導で魔王城への侵攻は行われている。
その結果は何れも芳しくない。
そんな数多の失敗を元に、今度の連合遠征軍の侵攻作戦は練られていた。

陸路、王魔界に至るまでには周囲の暗黒魔界や親魔物国家を越えて行かねばならない。
戦線は伸びて維持することも間々ならず、
また魔界への長期滞在は男をインキュバスに、そして女性をサキュバスへと変えてしまう。
教団側からすれば魔物化した者はもはや敵でしかない。
これでは数を揃える意味がまるでないというものである。

海路、時間こそ掛かるが周囲の魔界を避けて大船団を王魔界へ直接船付け出来る。
ただ海上での戦闘は人側に圧倒的に不利な上、
海を統べる神であるポセイドンはあろうことか魔王の側についている。
どう転んでも侵略目的の大船団は航行不能にされるのがおちであった。

空路、国によって文明レベルに差はあるが、
所によっては気球や飛行船の類を所有している国もある。
また、空に浮かぶ島々から採掘される鉱石、
空に浮かぶ性質を持った飛行石と呼ばれる石を使い。
大きな飛空艇を有する国すらあったが、建造には多大なコストがかかるので数を確保出来ぬ上、
それ自体が軍事機密の塊であるので、他国においそれと使わせられぬ事情もあった。
結局兵を大量輸送出来ぬためこのルートは文字通り机上の空論となった。

結論としては、王魔界に直通のポータルという転送魔術が設置された親魔物国家、
これを世界中で同時に複数侵略し、電撃的に一気に大軍を進軍させる。
という作戦が水面下で急ピッチで進められ、実行に移された。

少数精鋭の勇者や工作兵などを敵国に侵入させ、
破壊活動を行い、浮き足立った相手を秘密裏に行軍させていた大軍で一気に囲み降伏させる。
宣戦布告すらせずの侵略行為、
このような流れを想定していた教団側であったが、
作戦は意外な形で修正を余儀なくされた。


※※※


大きな城を中心に城壁が張られ、その外側に街ともう一枚の城壁が立ち並ぶ大きな都市。
その街の中心辺りにある広場、其処に男がただ一人佇んでいた。
そんな男に駆け寄るもう一人の男が居た。
男は周囲を見回しつつ、駆け寄る男に対し尋ねた。

「各国の軍と連絡は取れたか?」
「はい、隊長の読みどおりです。此処だけでなく全ての箇所で同じ有様とのことです。」
「そうか、やはり・・・」
「どういうことでしょう。これだけの規模の都市に誰もいないというのは。」
「どうもこうも、事前にこちらの襲撃する日時が漏れていた。
そういうことだろうさ。これだけの城を捨て、交戦でなく避難というのが解せんがな。
空城の計か、はたまた誘ってやがるのか・・・食料や物資の類はどうだ?」
「それも手付かずです。しばらくは此処に篭れるだけの蓄えはありますよ。」
「・・・念のため調べがつくまで手を出すなっつっとけ。
毒が入れられてる可能性があるし、よしんばそうでなくとも、
親魔物国家で流通している飲食物は魔力含有量が高く、
俺達が食べると何かとまずい物も多いだろうからな。」
「はっ!」

連絡を伝えた男は、再び来た道を戻って伝令を伝えに走った。
広場に残った男は頭痛を覚えながら今後の事に考えをめぐらせた。

(まったく、船出の途端に船底からの水漏れが報告された気分だ。
これだけの規模の避難作戦を悟られずに決行する。
実働部隊である俺達よりも早い段階で襲撃の日を知らなきゃ無理だ。
何処の国の馬鹿か知らんが、だいぶ上の方とパイプがあるようだな魔王側は。)

頭痛に悩まされる部隊長に近づくローブを羽織った女性が一人。
「魔法による都市内部の索敵は終了しました。
伏兵の類も一切居ません。如何いたしますか?」
「本隊へ進軍するように連絡してくれ、
それと同時作戦中の各国や作戦本部に報告を頼む。」
「了解しました。」


その日、侵略予定だった多くの親魔物国家から忽然と人の姿が消えた。
遠征軍は何の抵抗も受けず。作戦の第一目標である王魔界直通のポータルを確保した。
消耗ゼロでの作戦成功。本来であれば手放しで喜ぶべき事態だが、
これで兜の緒を緩めるような愚者は少なくとも現場で指揮する者にはいない。
どう考えても罠、作戦は筒抜けであり、
ポータルの向こうにはいかな障害が待ち構えていることか・・・
みな本音を言えば行きたくない。
よしんば行くとしても入念な調査の上での進軍を。
そう考えていた。だがそれは許されない。
今度の日食までに魔王城に攻め入り、魔王を娘達共々討ち滅ぼさねば世界は滅ぶ。
参加した国々にはそのような内容が通達されていた。
よって時間を掛けることは許されず。
遠征軍の第一陣を担当する国々の軍隊は、
すぐさま事前調査によ
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