己が貧しさに嘆く二匹の狸を呆れ顔で見つめるウロブサとナジム。
「まったく、嘆かわしいのう。大きさ何ぞ気にしおって。」
「まあうちらの一族は基本的に慎ましい体系の者が多いってのは事実ですから。
そんなに気にせん方がええよ御二方。商いしとる西の妖怪が言っとったけどな、
なんでもサバトっちゅう集団ではむしろ幼児体系をこそ尊ぶべし
みたいな価値観を布教しとるらしいで。
世の中には色々な花があってええと思うんや。」
前屈みになると重そうに谷間を形成するナジムの胸元を薄目で見上げる二人。
ヤオノは目をそらしアマヅメは物欲しそうに見上げ続けている。
それを見たウロブサは一行の中で最も薄い胸をそらし
「こいつのはただのデブじゃ。羨む必要なんぞないぞ。」
「ひどっ!せめてぽっちゃりとかふくよかと言ってくださいな。」
「そう言うがな、お前・・・本当に太ったじゃろ。銭勘定ばかりしとるからか?」
ぎゅむっとナジムの肩口から覗く二の腕を摘まむウロブサ。
摘ままれた腕を振り払って口をへの字に曲げるナジム。
「し・・・幸せ太りって奴です。良いんです。」
「不摂生の言い訳を旦那に求めるか、良い根性じゃのうw」
カカと笑いながらポンポンと今度はナジムの腹をたたき始めるウロブサ。
逃げるナジムに追うウロブサ、ランとシュカの後ろまで逃げてしまったナジムを置いて、
戻って来たウロブサは二人に話しかける。
「で?何ぞ話でもあったのではないか?」
ようやく我に返った二人はウロブサに問うた。
「いえ、たいしたことでは、ただ南海狸会談の成り立ちなどを聞きたいと思いまして。」
「そんなことか、まあ簡単な話じゃよ。
知ってのとおり、ワシら狸は弱い。
龍や蛇、狐に鬼族、そこらに比べるとどうしても単体の力は劣る。
ワシやシュカのような武闘派は全体で見ても一握りじゃしの。
じゃから狐との縄張り争いをしていく上で、自然と狸は徒党を組むようになった。
基本一人行動であり、群れであっても組織ではないものが多い妖怪の中で、
横のつながりが強いワシら狸が一大勢力になるのに大きな時間は掛からなかった。
じゃがのう、やっぱり集団の長ってのはそれなりに大変なんじゃよ。
考えることも多いし気苦労も増える。
男と乳繰り合うために徒党を組んだのに、
それで時間が削られ本末転倒となってしもうたわけじゃ。
今は争いもあまりないし、雑事を片付けることに関しては仕組みが出来、
昔のように長に負担を大きく掛けるようになっては無いがな。
そんな当時の責任者達が慰労のために設けたのが狸会談というわけじゃ。」
「つまり、重要な会議があるんですよ。
という建前の元、上の者達だけで酒盛りをしていたと。」
アマヅメが口を挟むとそれにウロブサも頷く。
「そうじゃ、会談と称してはほうぼうで集まり、飲んだりぐちったりしておったというわけじゃ。
そうでもせんではストレスで尻尾の毛が剥げそうじゃったからな。」
「それ程忙しくなくなった今も、名残として残ってるのがこの南海狸会談。
というわけですか。」
ヤオノが最後にそう締めくくる。その頬は酒が入りほんのりと赤く染まっている。
向こうに戦略的後退をしていたナジムが戻ってくると、
話を聞いていたのか語りだす。
「会談の話で思い出しましたけどな。
ヤオノはん、今回の会談はあんさんの招待での開催や。
なんぞ報告することがあるんやろ?」
アマヅメがヤオノに向き直って問う。
「どういうことですか。」
「ああ、アマヅメはウロブサ様に招かれたのだったわね。
南海狸会談わね。基本的に参加資格のある狸が開催したい時、
他の資格ある狸達に招待状を送って開催するものなのよ。」
「もちろん強制力は無い。みなそれなりに事情もあるじゃろうしな。
じゃがまあ、昔仲間と飲める機会をふいにする奴はあまりおらんがのう。」
「ですが、ヤオノは故あってずっと会談に参加することを拒んで来ました。」
「そのヤオノの招待だ、こりゃあ来ねえわけにはいかねえよなあ。」
二人で飲んでいたランとシュカも興味を引いたのか、
何時の間にか輪に加わって話しに参加していた。
みなの視線を受け、ヤオノは静かにほうっと吐息を吐き出した。
「その節は、皆様の数々の招待を無碍にしてしまい、申し訳ありませんでした。」
「いいわい、いいわい、大体じゃが事情は聞いとるしの。」
「何かあったのですか?ヤオノ様の身に。」
「いいえ、私の身には何も無かったわ・・・
そうね、アマヅメもいることだし。
最初から語りましょう。私の犯した罪の話を。」
バキンッと弾け舞い上がる金色の蛍の様な火の粉、
それらが月を目指す様に舞い上がり、やがて途中で空に消えた。
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