「以上で私の話しはお終い。
此処数年は藩主として藩の建て直しで忙しくってね。
ようやく報告出来るくらいには落ち着いてきたってわけ。」
火を囲む皆の前で続いていたヤオノの話しはそこで一段落ついたようだ。
「そんなことがあったんか。
あんさんがヤオノを助けてくれた色男っちゅうわけやな?」
正信は狸達の視線を集めているのが解ると挨拶した。
「どうも、正信です。
今はヤオノさんの側近として藩のあれやこれを取り仕切ってます。」
「あれやこれて・・・」
正信のざっくりした紹介にナジムも苦笑する。
だがそれに対しヤオノがフォローを入れた。
「人手不足が深刻なのよ。旧五郎左衛門一派には重要な所は任せられないし。」
「武太夫様とその門下の方々には本当に助けられています。」
「なに、これからの時代、武官といえど武一辺倒ではいかん。
これも良い修行というもの、一辺倒の代表みたいな私が言うのもなんだがな。」
大飢饉による領民の大量餓死を無事乗り切った後、
二人は藩の体制を大きく改革し始めた。
旧五郎左衛門一派を減俸し、
役職名はそのままに実際は雑用などの仕事をやらせる形で飼い殺し。
藩の政治には一切口を出させぬようにした。
飼い殺すための資金は余分に掛かるが、
不正の温床であった以前に比べれば、
むしろ掛かる資金は浮いているくらいであった。
そして藩の要職の実務は武太夫門下や、
ヤオノが定国に化けている事情を知っている城下の人々から、
協力を仰ぐ形で行う事となった。
出来て間もない歪な体制ではあるが、ヤオノと正信の手腕もあり、
此処数年で無事飢饉の前と変らぬ位には藩の財政は回復していた。
「まあ、人も死なんかったしヤオノはんにも男が出来た。
ええ事尽くめですわ。ねえウロブサ様。はよう孫の顔が見たいんちゃいますか?」
「まあのう、じゃがワシからして随分掛かったしの。
とりあえず飢饉のどたばたで結婚式あげとらんしそっちが先かのう。」
などと酒を酌み交わす二人の傍らで、シュカは鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。
「なあラン。」
「何かしら?」
「孫って言ったか? 今。」
「ええ、そりゃあだってヤオノはウロブサ様の娘だし。御相手が見つかったとなればね。」
「えっ?!」
「えっ?」
「知らない! 初めて聞いたよ私。娘?」
「・・・・・・ああ〜〜〜」
ランは気まずそうにあさって方を向き、ウロブサは横から突っ込んだ。
「なんじゃラン。言っとらんかったんか。」
「あれ・・・あれ〜〜〜」
「ちょっと、同期で私だけハブってこと?! し、しどい。」
すっかりいじけモードに入ってしまったシュカに対し、
ランが懸命に謝罪をするも、地面には土を操作して同時に数千ののの字が書かれていく。
そんなランとシュカを呆れ顔で見つつウロブサは酒を呷る。
「なにやっとるんじゃまったく。」
「お久しぶりです御義母さま。」
「おおう、婿殿。ほんに久しぶりじゃのう。」
そういってウロブサは正信に跳び付くようにハグをした。
「どうじゃ? あの子とはよろしくやっとるかの。」
「どうにも忙しくて、夫としては失格かもしれません。」
「ふむ、そんな存分に取れぬ時間を割いてまで、
今日集まった理由をそろそろ聞かせてもらおうかの。」
「その前に離れてくださいなウロブサ様。人の夫に何時までくっ付いてるつもりです。」
後ろから現れたヤオノ、顔は笑っているが声音はだいぶ硬い。
そんなヤオノに対し、ウロブサは余裕綽々といった感じで返す。
「んん〜、何か問題が? 婿殿とはもはや家族、
久しぶりに会った家族と親睦を深めるためにスキンシップしとる。
ただそれだけじゃよヤ・オ・ノ。」
一層深く、ウロブサは正信の胸に顔を埋めると、
匂いをすりつけるようにすりすりする。
それに対し顔は笑顔のままだが、無言で目の下をひくひく動かすヤオノ。
「どうじゃ婿殿、御主にはヤオノの事で並々ならぬ恩もある。
忙しくて溜まっておるならわしが手ずから御礼をしてもよいのじゃが・・・」
「てめえ、このババア!! いい歳こいて息子相手に盛ってんじゃないわよ。」
「おほっ、きれたきれた。鬼嫁こ〜わ〜い〜。」
「待たんかい!!」
きゃっきゃと跳ね回って逃げるウロブサと、それを追うヤオノは暗い夜の森に消えた。
一人取り残された正信は二人が消えた森を見ながら微笑している。
そこに酒を持ったナジムが現れ、空になった正信の御猪口に酒を注ぐ。
「まったく、ウロブサ様もしゃあないなあ。」
「ありがとうございます。まあ構いたくて仕方ないって感じですか?」
「そや、ヤオノはんは手の掛からんええ子やったからな。
その分親子喧嘩とかもあんましとらんはずや、
ウロブサ様的には、あんさんっつう挑発するええネタが出来たっちゅうこっちゃ。」
「ま
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