「貴方達、妖怪自身・・・そうでしょう?」
当てずっぽうではない、それなりに筋は通っている。
だがそれでも確証のある話ではない。
幾つか解らないところもある。
正信はただ静かに、目の前の妖怪を見つめていた。
相手の考えは伺えないが、何処か愉快そうに目の前の少女は微笑む。
「御主、その話を何処で聞いた?」
「聞いたわけではありません。昔の洋書を中心とした資料を調べ、
この国に残された当時の人口推移の資料と照らし合わせ、
どうやれば今のこのジパングの現状に繋がるか、それを推察したに過ぎません。」
「自力で辿り着いたというか。何とも利発な小僧じゃな。」
「自分ではありません。この結論に辿り着いたのは定国様です。
僕は託されただけ、あの方の日記を託されただけに過ぎません。」
「領主殿か・・・成る程のう。流石に大陸側の資料までは検閲できんかったからな。
とはいえ、密貿易で外から資料を持ち込めるは一部の豪商と武家の御偉いさんのみじゃ。
断片的な情報から其処にまで考えがいたる者などおらんとたかをくくっておったわい。」
「あの方は人と妖怪が共にある。親魔物領というものを国に認めさせ。
初めての公式な親魔物藩を作ろうと考えておりました。
だからこそ、人と妖怪のありようについて調べ続け、
この国の歴史の違和感に気づいたと記していました。」
それを聞いて、目の前の刑部狸は目を閉じたまましばらく考えに耽る。
やはりどこか楽しんでいる節がある。耳がぴこぴこしている。かわいい・・・
しばらく黙っていたが、目の前の刑部狸は目を開けこちらを優しげに見ながら言った。
「続きはわしが語ろう。そう、御主の言うとおり、
かつてこの国の妖怪と人はより近しい存在であった。
人と妖怪は共にあり、共に歩み、共に笑う。
それはあの方の目指した楽園そのものといっても良かった。
大陸の者達が主神だの教団じゃのと妖怪を排す運動をしておる傍ら、
わしらは一足早くに目指すべき場所に辿り着いていたのじゃ。」
「でも・・・早すぎた。そうですよね?」
「そう、過ぎたるはなんとやらでな、わしら妖怪と人は仲良くなりすぎた。
ジパングはほうぼうが魔界化し、男性はインキュバスに、女性は妖怪に次々となっていった。
じゃがそうやっていくうちに、人と妖怪の比率が逆転を始める兆しを見せ始めた。
知っての通り、わしらは妖怪の女子しか産めん。
そうなると当然、男性の比率が徐々に減少していったわけじゃ。」
「定国様も、飢饉などが起きたわけでなく、
総人口は増えていく中で男性の数が増えずに横ばいである。
そういう資料を発見してこの仮定に辿り着いたそうです。」
「当時の人口の推移を記録していた者や一部の識者、
そして顧客の情報に気を配る、わしら刑部狸がいち早くそのことに気がついたわけじゃ。」
「そのままではいずれこの国に未婚の男性は一人もいなくなる・・・と?」
「この国の妖怪はハーレム気質の者より、一夫一妻の気質の者が多い。
いずれ男を巡って妖怪が武力衝突を日常的に起こす。
そんな事態が起きてしまうことになりかねない。
事実、当時すでに妖怪同士の小競り合いが増加傾向にあったくらいじゃ。」
「それで、どうなさったのです? そこまでは解るのですが。その後がどうしても解らなかった。
妖怪の増加を抑制するために、自発的に人と妖怪が離れるような施策を施した。
それが武家という制度であり武士の誕生である。というのはまあ想像できますが。
それでは解決しない問題もあります。魔界化してしまった土地です。
魔界化というのは不可逆なものではないのですか?
魔界になったら基本的には元に戻りませんよね。」
「そう、仮に妖怪と人を接しないようにしても、魔界化した土地に住む以上問題は解決せん。
そこでわしらは一計を案じた。大きな大きな一計をな。
全国津々浦々の妖怪や人間の代表者を集めて会議を開き、その場でとある決断を持ちかけた。
・・・時に、御主は異界というものを知っておるか?」
「異界? いえ、知りません。」
「パンデモニウムはどうじゃ?」
「ああ、それなら読んだことがあります。
性交を奨励する神様が別の次元に作り上げたという宮殿や町のことでしょう?
何でも時の流れまでこちら側とは違って腹も減らないし年もとらないとか・・・」
「その別の次元に作られた魔界を総称して異界というんじゃよ。」
「なるほど、それでその異界がどうしたというんです?」
「先程の続きじゃ。わしらはこう提案した。
ジパング全土を時の流れの早い異界に転移させてしまおうとな。」
「なっ!?」
正信は絶句した。それでは今自分達が暮らしている場所は一体なんだと言うのだろう。
「驚くのも無理からぬことじゃな。この国でも知っている者の数える程しかおらぬ事実よ。
勿論、当
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