邂逅(かいこう)

「此処が本部? 物部様、間違えているのでは?」
「いや、間違いござらん、数こそ少ないが中から複数の妖気を感じるでござる。
此処が妖怪の組織所縁の店であるのは確かでござるよ。」

歩き、宿場で籠に乗り込み。二人は物部が教えられた場所まで辿り着いていた。
大きな川が流れている宿場で、土蔵が水辺に連なってその前の川を荷を乗せて船が行きかう。
そんな風景からこの宿場の賑わい見て取ることが出来た。
ただ其処にあったのは小さな小汚い宿屋であった。
目立つ赤い暖簾に白抜きで○とその内側に善の文字。
大きな土蔵と背中合わせにポツンと建てられたそれは逆の意味で目立った。

目立つ赤暖簾が浮いてしまう程、建物の方は貧相でみすぼらしい。
泊まれる部屋の数も片手で足りる数しかなく。部屋自体も猫の額のような代物だ。
確認を取ると部屋はみんな埋まっており、今は誰も宿泊出来ないとのことである。

正信は刑部狸の組織の本部というから、
どれ程りっぱな店構えかと想像を膨らませていたこともあり、
とんだ肩透かしをくったと思うと共に、
この建物も実は術で作られた幻ではないかと疑ってしまう。

「物部様、もしやこの店は幻術の類でしょうか?」
「それは流石にする意味がないでござろう。
ずっと幻術を張り続けるのは非効率的でござるよ。」

物部は店の入り口で店番をしている丁稚らしき少女に声を掛ける。
「シュカ殿の紹介でまいった物部という祓い屋にござる。
少々依頼したいことがあって参ったしだい。
あとこちらは正信殿、何やら八百乃殿に用があるらしく。
願えれば取次ぎをして欲しいでござるよ。」

店番をしていた少女は、二人の狸の名が出たことで明らかに驚いたようであった。
「少々お待ち下さい。」
そう言って店の奥に引っ込んでしまう。
それ程広くないはずの店の奥は、しかしシンとして人の気配が感じられない。
数分程待つと、店の奥から先程の少女が戻ってきた。

「お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」

二人は店番の少女に案内され、店の奥へと通された。


※※※


二人は奥に通され、その途中で別々の狸に案内され。
別々の部屋へと通された。用が違うのだから当然であろう。

物部は通された先の部屋で一人の幼女の風体をしながら、
一際大きな尻尾を持った狸と相対していた。

(この者、形はこんなじゃが・・・此処の長か?
妖気の底が見えぬ。こんなことは初めての感覚でござる。)

「ようこそおいでなすった御客人。
そのように緊張せんでも取って食ったりはせんよw わしはもう既婚じゃからなあ。」
「いやあ、大したものでござるな。
まさかあの店の奥がそのまま土蔵に繋がっていようとは。
しかもそれすら地下に作られた本部への入り口にすぎぬなど・・・」

「お釈迦様でも気づくまい。っとな・・・
いやあ、作るのにはそれなりに時間と費用が掛かったでな。
賛辞を貰えるのは純粋にうれしいのう。」
「地下にこれだけの空間と設備、いったいどのように?」
「ジャイアントアント、という妖怪を知っておいでか?」
「もちろん、成る程・・・あやつらに土木工事を行わせたでござるか。」

「一つの巣を丸々スカウトしてな、空を飛べる妖怪の人海戦術で、
大陸から一晩で此処まで引っ越してもらった。
葉っぱにくるまれたベットで一晩しっぽりと楽しんだら翌朝には仕事場というわけじゃ。
旦那諸共ここまで連れてきて工事期間中の食料や警護はこちらで受け持ち、
その間、蟻達にはひたすら渡した図面通りに掘ってもらった。
これ程大掛かりなものは初めてじゃが、実は前にも似たような依頼をしたことがあってな。
その経験もあってまあ大した事故も無く、試算より期間も工費もかなり安く上がったわい。
工期短縮に成功したら、ギフトとして旬の魔界果実詰め合わせセットをつける。
などと人参ぶら下げたのも功を奏した感じじゃな。」

「流石に組織の長ともなると人・・・いや妖怪使いを心得ていらっしゃいますな。」
「褒めても何もでぬよ。それにしても此度はうちのヤオノが大変世話になったのう。
改めて礼を言わせて貰おう。そなたがおらねばあの子の立場が最悪になるところであった。」

ウロブサは三つ指ついて物部に頭を下げた。

「なんのなんの、拙者はただ言われた仕事をこなしたまでの事。
頭を上げて下され、そのままでは仕事の依頼もし辛いでござるよ。」
「そうか、それでは遠慮なく。」

ウロブサは頭を上げると弾丸のように飛んで間合いを詰める。
その小さな掌で、物部の頬を仮面ごと張った。
正座したまま独楽のように回転する物部、その膝は宙に浮き。
回転中にへりから外れたローターのように壁に突っ込んだ。
二・三度バウンドしてようやくその勢いは止まり、
物部の体は何というか・・・こう・・・全体的に・
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