空には大きなお月様、星もまばらに瞬いて。
潮風凪いで森が揺れ、炎が火の粉のくしゃみした。
彼女達は火を囲み、長い影を放射状に森に投掛ける。
その影には当然耳があり尻尾もある。
妖怪と言われる彼女達の集い、
だがそのやっていることたるや、
森の中の飲み会とでも言った様相である。
彼女達の中でも比較的若輩であるアマヅメは、
場の雰囲気を掴みかね、酒を飲みつつも周囲に目を配る。
シュカはあっという間に酔いが回り、(というか始まる前から酔っていた。)
駄々っ子のように泣きじゃくりながら回らぬ舌で虚空を罵倒している。
ランはそんなシュカの背を摩りながら相槌を打っている。
彼女の愚痴にやさしげな笑顔で付き合っている様子は、
姉妹どころか親子のようでさえある。
遅れてきたナジムはウロブサと和気藹々と喋りあっている。
商売上顔の広いナジムは、色々尽きぬ話題を持っているようで、
ウロブサは興味深そうに彼女の話を聞いていた。
そんな中、ヤオノはアマヅメ同様にどちらの輪に加わるでもなく、
空を見上げ、月や星との語らいを酒の肴に杯を傾けていた。
何かを聞くなら今のうち、とアマヅメはヤオノの所に酒を持って歩いていった。
「ヤオノ様、飲んでいらっしゃいますか?」
「あらアマヅメ。」
ヤオノはしばしアマヅメと周囲を見ていたが、
その振る舞いから大体のことを察したのか、
手持ちの酒をくいと空にしてアマヅメに差し出す。
「酌をしてちょうだいなアマヅメ。」
「それではこちらをお試しください。甘くて癖はありますが、中々に乙な味ですよ。」
アマヅメから注がれた酒を、表面に浮ぶ月ごと一息に飲み干すヤオノ。
「あら本当ね、甘い・・・この甘さは・・」
「はい、なんでもここいらで取れたキントキを使用したとか・・・ん?」
ヤオノの物思いに捕らわれた様子を見て、
アマヅメが軽く袖を引く。
「いかがなさいました。お口に合いませんでしたか?」
「いいえ、とっても美味しいわ。」
ヤオノはすぐに向き直るとアマヅメにもう一杯もらい、
今度はゆっくりと一口一口吟味するように味わい始める。
「気に入っていただけたようで何よりです。」
「それで?何か聞きたいことがあるのでしょう。」
「ええ、今更なのですが、この集まりは会談と銘打っているわけですが・・・」
「ああ、そういうこと。」
合点がいったとヤオノはくすりと笑って語りだす。
「ああ、アマヅメは今回が初めての参加なのね。」
「はい、そろそろお前さんも参加する頃合じゃとかウロブサ様に呼ばれまして。」
「南海狸会談、大仰な名前がついちゃいるけどね。
中身は見ての通りの飲み会なの。
もちろん近況報告とか情報交換的な側面も持つけどね。」
「何でそんな・・・」
「慣例化してるけど、そも始まりが何なのかは私も知らないわね。
まあ此処には生き字引がいるじゃない?聞いてみましょう。」
ヤオノはアマヅメを引きつれ、ウロブサとナジムの輪へ近づいていく。
二人は蟒蛇(うわばみ)の様に空き瓶を増やしつつ、
変わらずに話に花を咲かせていた。
「そもそも何で3つも寺があるんじゃ。全国的な知名度のある神というわけでもあるまい?」
「ええそらあ、沼を中心として一つの地に寺が3つ固まってましてな。
なんでも教義の違いでもめた結果なんだとか。」
「意味が解らん。妖怪を崇め奉るのに教義の違い?」
「いえね、昔日照り続きだった時、
自分の命を削らん勢いで力を使い雨を降らせてくれた龍がおりまして。
人々は大層感謝して神として祭る事にしたそうなんですがね、
誰が言い始めたか貧しい土地なのに御神体は金(きん)で作るとかいう話になっちまいまして、
無茶なのは明白なのに無茶だと言い出せない空気だったらしく。」
「ああ〜、あるのう。自明なのに反対するとはぶられる空気っちゅうやつ、
村社会じゃと特に強いじゃろうしなあ。」
「ええ、でも当然作る段になって資金が足りないとなるわけでして、
当初は龍の全身をかたどった御神体にする予定を変更し、
一部をかたどった物にすることで話が付いたそうです。」
「胸像辺りか、まあ妥当なせんじゃの。」
「いえ、胸像でも資金が足りず、結局首から上だけの御神体になりそうになったそうで。」
「何その生首!?金で作ろうなんてどうして言い出した!!」
「まあ何ぶん学の無い人々だったらしく、勢いってやつでしょうな・・・
でその話に待ったが掛かりましてな。」
「当然じゃな。」
「どうせ一部しか作れないなら御神体は是非おっぱいが良いと言い出す勢力が現れまして。」
「アホしかおらんのかその村は!」
「勢いってやつでしょうな・・・
さらにそんなことを言うならと対抗心を燃やしたんか尻派も台等しまして。」
「・・・恐ろしいの・・・勢い・・・」
「最初の生首と合
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