そこでヤオノの話は一息つく。
それを聞いていた周囲の皆もしんみりとなる。
「僕は店や飢饉への対応に掛かりっきりでしたから、
あまり事件のことは知らなかったのですが・・・そんなことが。」
アマヅメがヤオノの空になった御猪口(おちょこ)に酒を注ぎながら言う。
それを受けてウロブサが続ける。
「何せ内容が内容じゃからな。ワシやシュカ、ランはある程度知っていたが、
本人の口から言うまでは勝手に言ってよい内容でもなかろうと思い。
悪いがアマヅメには今日まで言えなんだ。」
「いいんです。無理も無い話です。それで・・・その・・・」
「その後は、その後はどうなったんや? それで終いやと色々おかしいやろ。」
言いづらそうに言葉を濁すアマヅメ、
そしてそれとは対照的にずばりと切り込むナジム。
そんな二人を見てくすりと笑うヤオノ。
「そうね、これでお終いじゃないわよ当然。
これでお終いじゃあ到底話せる内容じゃないもの。
それといきなりで何だけど、今日はみんなの他にもゲストを招いているの。」
そう言うと、ヤオノはみなで囲む火に背を向け、シルエットになっている森に声を飛ばした。
「お待たせ、もう出てきてもいいわ。」
((っ?!))
それまで何も感じなかった森の中に、気配や匂い、魔力などの出現を感じ驚く狸達。
そして森の中から出てくる4人の人影、男3人に女1人の編成である。
その女性は薄手の格好で、ワイヤーのような細い尻尾をゆらりと生やしている。
「その匂い、あなたは・・・」
「何時ぞやは・・・」
アマヅメを見て軽く一礼する女性。噂どおり必要以上は語らぬ信条らしい。
「やはり、僕の結界を破って店から盗みを働いたクノイチさんですよね。」
「はい・・・それと、そこのあなた。」
「ん? なんじゃい。」
クノイチはウロブサの方へと視線を向ける。
「依頼者のヤオノ様は兎も角、あなたも驚きませんでしたね。」
「ああ、場所や人数まではわからなんだが、潜んでおるのは知っておったからの。
こちとら御主が生まれる前、クノイチとやりあったことも何度かあるでの。
見抜き方は企業秘密じゃが、まあコツがあるのよ。」
シュカは立っている面子の中に見知った顔(?)を見て話しかける。
「よう、ひさしぶりじゃねえか。相変わらず変なお面してんのな。」
「流派の当代が代々受け継ぐ物にござる。変呼ばわりは勘弁願いたいでござるよ。」
「その格好、物部様・・・でしょうか?」
「・・・その通りでござるよ。ええと、アマヅメ殿にござるか。」
「はい、よろしくお願いいたします。」
礼儀正しくお辞儀をするアマヅメを面の中からじぃと見つめる物部。
「・・・? ええと、何か?」
「・・・いやいやいやっ、な・・・何でもござらんよ。何でも。」
そしてアマヅメはクノイチの隣に立つもう一人の男性にも声を掛ける。
「とすると、その御顔と体付き、あなたは武太夫様でございますね。」
「いかにも、私は武太夫だ。」
「今までの話はこの人達の私との関わりの説明でもあったわけ。」
ヤオノはアマヅメとナジムにそう説明する。
「成る程、どういうつもりでこの会談を開いたのか、
それについてこいつらも一枚噛んどるっちゅうわけか。」
「ええ、その通りよナジム。」
「・・・ちょっと待ってください。ええと、ではあと一人、
この方は・・・いったいぜんたい、どなたでいらっしゃいますか?」
場に現れた4人のうち、最後の1人の該当者が解らないアマヅメはヤオノに尋ねた。
「それはこれから話すわ。アマヅメ。」
※※※
畳が敷かれたかび臭い一室、
少々薄暗いながらも室内を見渡せば其処には机や座布団もあり、
一見ただの普通の部屋のように見える。
しかし、廊下との境に目を向ければその異常性が一目瞭然である。
四角く太い木材が格子状に組まれ、部屋と通路を仕切っている。
ここは五郎左衛門が秘密裏に作らせた座敷牢である。
二の丸にある建物の一つに、どんでん返しで壁が動く場所が有り、
その奥に必要なら人を軟禁するために作られた代物である。
今、其処に一人の男が閉じ込められていた。
明かり取りの窓が高所に設置されているので昼か夜かは解る。
だが食事や糞尿を入れる壷の交換など、
必要最低限の接触を除けば誰も来ない此処で一人。
ただ男は閉じ込められ続けていた。
其処で男は窮地に立たされていた。
(腹はいいが・・・喉の渇き、如何ともしがたい・・・な)
じりじりと照り付けられるように体は乾きを彼に訴える。
しかし無い袖は振りようがない。
自分の尿を再び取り込むことで誤魔化してきたが、
それもそろそろ限界らしい。
ここ数日、来るはずの食事や飲み水の補給が一向に来ない。
ついに生かしておく価値が無くなったので自分を殺すことにしたのだろ
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