ハムッ ハフハフ、ハフッ!!

渦潮が渦巻く海峡、そこは渦潮の影響で肥沃な海となり、漁場として申し分ない。
また立地の関係上、多くの藩と海を挟んで隣接し、
西の大陸からくる商船なども泊まる海路の要所の一つと言えた。

そこら一帯を取り仕切る巨大な廻船問屋。
足の早い食料から装飾品、消耗品の日用雑貨など。
ありとあらゆるものが此処には海路を通って集められる。
膨大な量の品物を売りたい荷主とそれを運ぶ船主、
一同に会するそれら二つの職業に渡りをつけ、
適切な人員配置と計画を立案実行するのがこの問屋の主な役割である。

他にも船への水食料の補給や品物の補完、管理、売り買いの斡旋まで世話することもあり、
実質海路での物流を取り仕切る立場であるとも言えた。
その店は大層立派で、そこいらの名家の屋敷と比べても見劣りするものではない。
大きな蔵が併設され、さらに川から海へと繋がる水路には自前の船を何艘も繋いである。
船頭もある程度自前で、普段は店の雑用をしつつ、必要になれば荷を乗せて海を行く。
もちろんそれだけでは捌ききれぬ物量を毎日扱っているため、
船宿にいる個人や商会に斡旋される他の船も使うが、
店自身で船と船頭を持つことにより、急な仕事に対してもより融通が聞かせられるので、
この店では昔からこの体勢をしいている。
その店の名前は○喜(まるよし)といい、赤いのれんには大きな○の字、
その内側に喜の文字が白抜きで書かれ、風になびいて人目を引いていた。

そんな大店の中を歩く一人の男がいた。
歩くと言っても足音は微塵もせず、
角の向こうからでは男の存在は少しも窺い知れぬことであろう。
ここ一月、その男は宿や向かいのそば屋で一杯やりつつ店のことをつぶさに観察し続けてきた。
普段店に出入りしている者の数、そしてそれらが時間帯や曜日ごとにどのような動きをするのか。
時間を掛けじっくりと場所を移しつつ観察してきた。

そして本日、店の中がもっとも手薄になる時間を狙い、
男は当初の目的であった店への侵入を開始した。
店の間取りは店の建設に携わった職人の一人を捕まえ、
そこから金を使い人をたどり図面をどうにか手に入れることが出来たので、
それをあらかじめ頭に叩き込んで侵入経路を決めていた。

するりと侵入し、店の帳簿やら関係者の家系図やらをくすねてすぐにおさらばする。
仮に不測の事態で侵入がばれ、引っ立てられてもここの岡っ引きとは
五郎左衛門様を通じて話が付いている。
自分が少々くさい飯を食えば目的の品は別の人物が城まで届けてくれることになっていた。

簡単な仕事だ。男はついさっきまでそう考えていた。
だが男は困惑する。必死に店の間取りを思い出しそれを頭の中で上下左右に反転させる。
しかしどこをどう見比べても自分の要る所が皆目検討もつかない。
完全に迷っていた。こんなことは初めての経験である。
そもそもいくら大きな店とはいえ一度も外の景色が拝めていないというのがおかしい。
外さえ見えれば周囲の建物から位置も自ずと解るはずなのに、
先ほどから薄暗い廊下をずっと右へ左へと歩かされている。
男の勘がこれ以上このまま進むのはまずいと告げていた。
しかし、戻ろうにも場所すら判らない現状では、進むも引くもほぼ同義であった。
内心あせりつつも進む男の前に、薄暗い廊下を僅かに割く明かりが見えた。
灯りは廊下にある襖の隙間から漏れているものの様である。
ようやく現れた変化に対し、男は安堵と猜疑を両方心に浮かべる。
この時刻に中にいる者がまだいたのかという猜疑と、
あの部屋の中を確認すれば自分の位置のヒントになるという安堵である。

だがいいかげん窮していた男は気配も足音も消したまま襖の向こうに目を凝らした。
そして男が見たものは灯篭の揺れる明かりが照らす一人の女の姿であった。
(この店の関係者か?だが見たことが無い女だ・・・しかし・・・それよりも・・・)
男は女の素性に思いを馳せようとするが、眼前の光景がその思考の邪魔をした。

女は若く、額を出したロングヘアーとやや垂れ気味の細めをしており。
着物を着ていたがそれを大きく着崩していた。
襟元は下がり鎖骨も肩もあらわにしており、それに伴って胸元も大きくはだけている。
裾も大きく捲くれ上がり、その長く艶やかな両の脚を太股まで晒している。
両の手ははだけた胸元と捲くれ上がった裾から着物の内へと伸び、
その下に隠された女の柔肌を自身で愛撫しているようである。

(白い・・・なんという・・・)
男はただ目の前の光景に圧倒されごくりと唾を飲み込んでいた。
女の肌は薄明かりでも解るくらいに雪のように白く、
伸びる肢体はまるで芸術のような美しさと同時に淫靡さも兼ね備えていた。
女は時々鼻から抜けるような声を上げ、
体を少しずつ動かしていたが、上も下も大事な部分はぎり
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