連載小説
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第一話「幻夢」




夢を見た、これは夢だと明確に分かる夢、明晰夢である。


自分は光が満ちる、怪しげな空間を一人歩いている。


しばらく歩むと、不思議な声が聞こえた。



「貴方の見る場所な神の見る場所、貴方の行くべき道は魔王の行く道、貴方はいかなる世界を願う?」



不思議な声だ、女のようにも男のようにも聞こえる、そんな声だ。



「貴方が望むは神の秩序?、それとも魔王の混沌?、いずれの道にしても、その両手から希望は無くさぬように・・・」



声が聞こえなくなると、また自分は歩き出す、すると墓石に腰掛け、こちらを見つめる少女がいた。


肌は病的に白く、とても生きているとは思えないが、その容姿含め、全てが美しいと感じる美少女だ。


「私はワイト、寄るべき魂を失った泡沫の存在、何故ここにいるかはわかりませんが、貴方とともに、しばし歩んでも良いですか?」


己が頷くと、ワイトは墓石から降りて後ろに付き従った。








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しばらく進むと、今度は倒れこんだ黒髪の少年がいた。



近づいて揺さぶると、少年はまるで少女と見まごうような美しい顔を歪めた。



「誰だっ!、ボクの眠りを妨げるのは・・・」



少年は目を覚ますと、自分を見た。



「キミがボクを呼び起こしたの?、ふんっ!、なら少しは付き合ってあげるよ」



黒髪の美少年を加え、三人で先へと進んでいく。







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しばらく歩くと、今度は全裸で泉に浸かる美少女がいた。


「誰かしら?、私を見ているのは・・・」


よく見るとその美少女、頭からは角が生え、瞳の色は紅に染まっていた。


「貴方、もしかして・・・」



しばらく少女は考えていたが、やがて頷いた。


「私はサキュバスのウォフ・マナフ、またどこかで会いましょう?」




瞬間、すさまじいベルの音がして、無理やり意識は覚醒した。









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「う、ん・・・?」


竹で組まれたベッドの上で目覚めると、青年遮那はゆっくりと身体を起こした。



「夢、か・・・」


それにしても不思議な夢だった、自分と、あと三人くらい出てきたような気がするのだが。


机の上に置かれた卓上カレンダーを見て、遮那は目をこすった。



今日から三連休、何をしたものか。



とりあえず着替えようとして、突如として枕元に置いていた携帯電話が鳴った。


「・・・はい?」


『遮那さま?、起きてらっしゃいましたか?』



端末から聞こえてくる声で、相手が誰かわかった。


「真由?、どうかしたのか?」


隣の開業医の娘にして幼馴染の少女、真由である。


ふと、遮那は真由と目覚める前にどこかで会ったような気がした。


昨日は遅くに帰り、誰とも会わずに眠ったはずだったが。



『遮那さま、よろしければ今日ご一緒されませんか?、お話ししたいこともございますし・・・』



「わかった、何時に待ち合わせする?」


今はそんなことは置いておこう、せっかく幼馴染が誘ってくれているのだ。


『午後一時くらいに、新京極の喫茶『カミツレ』でお待ちしております』


「わかった、それじゃあ」


電話を切ると、遮那はガリガリと頭を掻いてから寝間着を脱ぎ、私服に着替えた。









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待ち合わせの時間までまだまだ時間がある、遮那は家から出ると、東の方面へじっくりと散歩し始めた。



「やけに警官が多いな・・・」


四条界隈を歩き出してまだ数十分しか経っていないにも関わらず、パトカーや警官が普段よりも見受けられた。



「何か事件でもあったのかな?」


連続殺人犯が逃げているなどでなければ自分には関係ない、遮那は軽く伸びをして歩き始めた。




新京極には良い店がたくさんある、遮那はその内の一つである刃物店で見事な波紋の包丁を眺めた。


「なるほど、やはり一流の店で使うような包丁は違うな」



続いて遮那はその隣にある、それなりの大きさの手斧を見つめた。



「ふむふむ・・・」



「それ、買うんですか?」


いきなり後ろから声をかけられ、遮那は思わず飛び上がってしまった。



「おはようございます遮那さま、お早いお着きですね」



そこにいたのは白いワンピースに髪をポニーテールに纏めた幼馴染だった。


「・・・あ」


彼女の姿を見て、遮那はようやくどこで会ったのかを思い出した。


「遮那さま?、どうかされましたか?」


キョトンとする真由、遮那は軽く肩をすくめると、気まずさを誤魔化すべく、手斧を買おうと人を呼んだ。








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喫茶『カミツレ』の窓側の席、いささか予定よりも早くに遮那と真由はいた。


「まさかこんなに早くにお会いできるなんて、不思議な縁ですね」


ニコニコと微笑む真由、遮那としては他に行くところがなく新京極に早めに来てしまっただけだが。



「そうだな、私も真由と会えて嬉しいよ」


紅茶をかき混ぜながら遮那がそんな台詞を吐くと、目に見えて真由は赤面してしまった。



「もう、遮那さまったら〜♪」



「たわばっ!」


肩を激しく叩かれ、遮那は危うく紅茶をこぼしそうになってしまった。



「そ、それで真由?、何か話したい事があったのでは?」



遮那の言葉に、ようやく真由は慌てて平常心を取り戻す。


「あ、はい、実は昨夜不思議な夢を見まして・・・」



「・・・夢?」



真由が話したところによると、自分はどういうわけか墓の下にいた。


しばらくして墓から這い出て、墓石に腰掛けていると、遮那が現れ、一緒に進むことになったという夢らしい。


「・・・なるほど、そんな夢を」


「普段なら夢なんて気にしませんが、何だかこの夢はどうにも気にかかりまして、今朝もそんなことを考えている時に遮那さまが今日お休みであることを思い出しまして・・・」


それで電話してみた、というわけか、遮那もまた軽く頷くと、自分の夢について真由に話してみた。


「遮那さまも、そのような夢を?」


真由は興奮からか、頬を染めながら身を乗り出した。


「・・・ああ、たしかその時に、君は別の名前を名乗っていた」


何だったろうか?、まるで種族名かのような不思議な響きだったが、どうにも思い出すことが出来ない。



「ですがこうして同じ夢を見るなんて、不思議ですね」


「・・・ああ、本当に不思議だな」


遮那は紅茶をまたかき混ぜながら外を眺めた。



相変わらずたくさんの警官が忙しそうに走り回っている。



「何だか警官が増えている気がするな・・・」



「遮那さま、何やらこの近くで事件が起きたようですよ?」



事件?、不穏な響きだ、何があったのだろうか・・・?




「詳しくはわたくしも知りませんが、四条河原で殺人事件があったみたいです」



四条河原、この近くではないか、そんな場所で殺人事件とは珍しい。



「あんな場所で殺人事件、周りに人がいそうなものだが?」



四条界隈はどこも人で溢れている、しかも河原など人目にもつきやすい、あんなところで殺人などすればすぐに見つかるだろう。



「それがまだ犯人は見つかっていないらしいですわ」


ひっそりと真由はそう遮那に告げた。



確かに犯人が見つかればここまで厳戒態勢をとる必要もないはずだ。


「おまけに四条河原町から八坂神社方面は警察に封鎖されています、京阪電車にはしばらく乗れませんね」



鴨川にある地下鉄には、乗る用事もないので別に構わないが、それにしても異様な雰囲気だ。



まず殺人事件が起こりそうもない場所で事件があったこともそうだが、たった一人の犯人を挙げるために大通りの封鎖までするとは。


「遮那さま?、いかがされましたか?」


難しい顔をしてしまっていたらしい、じっと真由は遮那を見つめていた。



「いやいや、なんでもない、早く犯人が捕まれば良いのにな」


からから笑いながら、遮那は紅茶を一口飲んだ。



「さ、殺人事件などでは、ない・・・」


よたよたと男が喫茶店に入ってきた。



その男、服はボロボロ、髪は乱れ、明らかに普通の様子ではない。



「あ、あんたら、か、河原町の殺人事件の、話し、してたろ?」


ばん、と机を叩く男に、さりげなく真由をかばいながら遮那は口を開いた。


「そうですが?」


「お、俺は見た、あれは、殺人事件じゃない、あれは、せ、世界の、壁が、あひゃひゃひゃひゃひゃ・・・」


笑い転げながら男は、喫茶店から外に出て行った。


「何だったのでしょうか?」


男がいずこかへ去ったのを確認すると、遮那は椅子に座った。



「わからない、しかし・・・」


ただの変人には見えなかった、明らかに彼は何かを見て、その結果あのような錯乱した状態になったのだろう。



「殺人事件では、ない?」


なんとも言えない嫌な予感に、遮那は知らず斧を握っていた。
16/07/24 00:04更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

今回は気分を変えて現代世界を舞台に連載小説をスタート、何気に普段は書かないジャンルかもしれませんね。

さてさて、もうお気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、今回はメガテンネタを多分に含みます、苦手な方には、この場にて謝罪を。

メガテンの代名詞である召喚プログラムは出ませんが、世界観や展開そのものはよく似ているかもしれませんのでご注意下さい。

ではではこの辺で。

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