39ページ:人間?
職人の朝は早い。
一時的とはいえ、ミラル殿の弟子(と言う事にされている)である我輩も例外ではない。

「…どうであるか?」
「……教えた私が言うのもなんだけど、短期間でよくここまで出来るようになったね。」
「ミラル殿の教え方が良かったからである。」
「そんなことはないさ、素質があったからここまで出来るようになったんだと思うよ。」

そう言うミラル殿の表情は、嬉しそうに見えるがどこか寂しそうな雰囲気が見て取れた。
人並みに出来るようになった以上、刀を返してもらってアレクシアの腰が良くなったら旅に戻るであるからな…
…まぁ、早急に旅に戻らねばならん理由も特に無いのだが。

「そんな悲しそうな顔をしないで欲しいである…何も、今すぐに旅に戻るわけではないのであるぞ?」
「…もう少し居る?」
「この町で出来ることはたくさんあるからな…出来ることをやり尽くしてからでも遅くはあるまい。」
「そっか、まだ居てくれるのか…えへへ…」

今にも泣き出しそうだった事もあってか、彼女は目に涙を溜めながら笑い掛けてきた。
文句なしに可愛い…可愛いのだが、何と言うか…こう…胸の辺りが痛むであるな…

「さぁ!そうと決まったら既成事……ゲフンゲフン!…みっちりと修行をしようか!と言うわけで奥の部屋に…」
「ミラル様、お客さんが来てますよ。」
「…呼ばれてるぞ。」
「いいところだったのに…はいはい、今行くよ。」

不機嫌そうな顔をして工房を出て行くミラル殿…
逆が来なかったら我輩は何をされていたのだろうか…

まぁいいか、ミラル殿が戻ってくるまでこっそりサボるか。





「失礼しま……だ、大丈夫ですか?」
「前が見えねぇ……」

サボっている途中で眠ってしまったらしく、思いっきり殴られた上に説教までくらってしまったである…
読者の諸君…人に向かって金槌を振ってはいけないであるぞ…

「…その…これを鍛え直して欲しいのですが…」
「うむ、少し待っていてくれ…」
「あの…本当に大丈夫なんですか?」
「問題ない、戻って来るころにはギャグ補正で治ってる。」
「えっ?」
「いや…なんでもない。」

さて…サイクロプス殿のところへ持っていくとしようか。
そう言えば、我輩の刀を預けたままだったな…調査とやらはいつ終わるのだろうか。



「状態は悪くないとの事でそんなに時間はかからないと言っていたな、万全の状態になるまで大体1時間かかるがいいであるか?」
「それではお願いします……本当に治ってる…」

ギャグ補正ゆえ致し方なし…
なんて冗談を言ってる場合じゃないな…接客中だし、真面目にやろう。

…それにしても、目の前の女性…人間のように見えるが……何と言ったらいいのだろう。
人間の女性にはない何かを持っている気がする…我輩の勘はあまり当てにはならないが、なんとなくそんな気がするである…

「……あの…」
「ん?あぁ失礼した、あまり女性の顔をじっと見つめるものではなかったな。」
「いえ…ただ、貴方のお名前を聞きたいなと…」
「我輩の名であるか?鉄輝であるが。」

我輩の名を聞いた瞬間、彼女の表情が先ほどよりも明るくなった。
…んん?我輩って名を知られるようなことをしたであるっけ?

「やはり貴方でしたか!こんな所で出会えるなんて非常に光栄です!」
「…すまん、我輩は過去に貴殿に出会ったことはないのだが…」
「初対面ですから…私は貴方に憧れて育ったんですよ。」

…本当にどういうことであろうか?……自分で言うのもなんだが、変態的な意味以外では有名になった覚えは無いのであるがな?

「どんな強情な魔物でも、胸を触られることを喜ぶように調教してしまう凄い人だと聞いています!」
「……それって凄いのか?」
「凄い事ですよ!私の友達も、貴方のような調教師になりたいと言っていましたから。」
「勘違いしている所申し訳ないのだが、我輩は世界せ……どこにでもいるつまらない学者であるぞ?」
「武術にも長けていると聞きました…一度手合わせしてみたいです。」

我輩の言ったことを聞いているのだろうか……うん、聞いてないなこれは。
早く誰か来ないかな…適当に押し付けて、戦利品の研究をしたいである…

「あきらー、お主の剣…もとい、刀の調査が終わったのじゃー。」
「む?そうか…それで、サイクロプス殿は何と?」
「武器として使うなら、これ以上のものは中々無いって言ってたの…彼女が認めるのだから、それだけ素晴らしいものだと言うことじゃろうな。」
「ふむ…流石父上の刀、サイクロプスにも認められるとは…」

これを八代目が聞いたらどう言うであろうか…流石に返せとまでは言わないだろうが…
まあ、埃を被せるほどなのだから彼には必要はないだろう。

さて…バフォメット殿に彼女を押し付けて逃げ…

「話は聞かせてもらったわ!輝ちゃんとの決闘を認めましょう!」
「本当ですか!?」

店の扉を勢いよく開け、アレクシアが入ってきた。
いろいろ突っ込みたいところはあるのだが…

「…腰はどうした。」
「…私、今すっごい頑張ってるわ。」
「無理をしてまで来なくてもいいであろう…」
「楽しそうな事に首を突っ込まないなんて、私の存在を溝に捨てるようなものよ。」

…何を言っても無駄そうだ…
しかし、相手の力量を知らない上で手合わせしなければならないのか…

「一応説明しておくと、その子も魔物よ。」
「ふむ…まともにやったら我輩では勝てんだろうな…」
「私なんてまだまだ半人前…貴方との戦いの中でいろいろと学ばせていただきますね。」

むぅ…自分を過小評価している者って大抵がやたらと強かったりするからなぁ…
とはいえ、何時までも渋っているわけには行くまい…覚悟を決めるであるか…



1時間後、店の前には大きな人集りが出来ていた。
その中心にいるのは我輩と人間にしか見えない魔物…
相手が何を使うか分からん以上、一瞬たりとも油断は出来んな…

「ルールは簡単、相手を気絶させるか負けを認めさせるかすれば良いわ…あ、それ以外は何でもありで。」
「分かりました…輝さん、お手柔らかにお願いしますね。」
「こちらこそ…少しでも長く耐えれるよう努力はするである。」

なんでもありなら何とかなるかもしれん、それでも気を抜けない事には変わりはないのだがな。

「用意はいいかしら?……始めよ!」

始めの合図と共に、弓を構え矢を放つ。
が、彼女はかわす素振りも見せずに、一振りで矢を切り落としてしまった。
ふむ…少なくとも、矢を平気で落とせる程度の腕前か…詰んでる気がするなぁ…
さらに二度三度と続けて矢を射っていくが、一本も当たらずに落とされていく。
最後の一本もよく狙って射ったが…

「せやぁ!!」
「ぬおっ!?」

偶然かは知らないが、彼女が斬りはらった矢が我輩の方へと飛んできた。
咄嗟に弓を持った手を捻って弾いたが、その反動でバランスを崩したうえに弓がどこかへいってしまった…
体勢を立て直す暇もなく彼女の剣が我輩に向かって振るわれる。

「くぅ…」
「あの弾き方…流石です。」

相手にはまだまだ余裕がありそうだ…これは長引きそうだな……
全力で押し返し、彼女から距離を置く。
道具を上手く使いながら攻めるしかないであるな…隙が出来なければ道具すら使えんが…
…ん?目を閉じて何やら呟きだしたな…魔法でも使う気だろうか?

何にしても、今を逃したら次はあるまい!

その場に我輩の人形を置き、彼女に向かって走り出す。
あと少しで届くという所で、彼女の足の間を抜けるように滑り込む。
…通過成功!白!

「いきますよ!ヘルファイア!」

彼女の掌から無数の火球が放たれ、人形へと襲い掛かる。
あれを喰らったとしたら……考えたくもないな…
滑り込んだ勢いを利用して立ち上がり、閃光玉の導火線に火を点ける。
しっかりと点いたのを確認して軽く上へ放り投げ、彼女の肩を叩いてから後ろへ向きつつしゃがんで耳を塞ぐ。
我輩の直ぐ上を彼女の剣が空振り、その少し後に甲高い音が響き渡った。
彼女はもろに影響を受けたらしく、その場で膝をついている…

問題なのは、野次馬の皆さん方で…

「「「へあぁぁ…目がぁぁぁ…目がああぁぁぁ!」」」

…そういえば野次馬がいたのだったな…すっかり忘れていた。
野次馬に気を取られている間に、彼女がフラフラしながら立ち上がってしまった。

「うぅ…こんなものを持ってるなんて…」
「至近距離で喰らってもその程度か…即効で終わらせるしかないか…」

蜘蛛糸玉に火を点け、彼女に向かって投げつける…が。

「くっ!」

閃光玉の影響が残っているにもかかわらず、彼女は蜘蛛糸玉の導火線を正確に切り落としてしまった。
不味いな…何としてでもあれを発動させねば勝ち目が…
…仕方ない…少々強引に行くか。
我輩は刀を抜き、鞘を彼女目掛けて投げつけて走り出す。
彼女が鞘をはらっている隙を突いて玉を回収し、振り下ろされた剣を受け止める。

「だいぶ治まってきました…お返しはちゃんとしますからね?」
「後でなら貰うぞ、今はダメだ。」

だいぶ短くなった導火線に再度火を点け、すぐさま上へと投げる。
手から離れた直後に炸裂し、上へとエロいと評判の糸が拡散する。
すぐさま離れようとするが…

「…こうなったら道連れです!」
「ちょっ!?は、離すである!」
「嫌です!死なば諸共です!」
「命に関わるような物では…あっ…」


結局彼女共々ねっとり絡まり、その上彼女が我輩の上に倒れこんだせいで離れることも出来ず……
あぁ…影響を受けていない者からの野次が……そこ、もげろとか言うなである…



その後、周囲の視線を感じながら宿へと戻り、一緒に糸を洗い流したである。
無論、彼女の裸も見えてしまったわけで…

「…いろいろとすまん。」
「いえ…その…気持ちよかったですから…」
「…輝様?」
「………」

胸があったら自然と手が出てしまうわけで…
…し、仕方がなかったのだ!条件反射で気がついたら胸に手が伸びていたのである!
我輩は悪くねぇ!我輩の手が悪いのである!

「言い訳は後で聞きます、とりあえず部屋へ行きましょうか。」
「……はい。」
「今度は八尾になるまで…フフフ…」
「…休憩はあるか?」
「あったらお仕置きになりません。」
「あぁ…見えないはずの星が見える…」

琴音に引きずられて部屋を出て行く我輩…
アレクシアの次は我輩が腰を痛めることになるのか…むぅん…



「痛たたた…輝ちゃんももう少し加減して欲しいわ…」
「大丈夫ですか?」
「何とかね…貴方こそ大丈夫?顔が赤いけど。」
「…あんな事されたの初めてです…」
「…もしかして、気に入っちゃった?」
「………はい。」
「輝ちゃんも本当に懲りないわね…そのうちに刺されるんじゃないかしら?」
「そうなったら私が守ります!輝さんの妻として!弟子として!」
「妻は分かるけど弟子?」
「私も輝さんの様に、臨機応変に立ち回れるようになりたいのです!」
「まぁ、貴方なら出来ると思うわよ?」

「なんて言ったって、ヴァンパイアの血が流れてますものね?」
「はい♪」



〜今日の観察記録〜

すまないが、今回は諸事情により記入出来ないである。
人間に非常に近い魔物と言うことは分かっているが、詳しい事は次回で記入しようと思う。
…ちょっ!?流石に7連戦は無理である!少しでもいいから休憩を……

アッーーーーーーーーー!!!



「…出番…無かったの…」
「…せやな…」
12/06/28 21:42 up
どうでもいい事ですが、あの魔物が白くて粘つく液体に塗れてたら皆さん襲い掛かってしまいますよね?
白い黒猫
DL