連載小説
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天使と悪魔と森の遺産!
「さてと、それじゃあ行こうかセレナ!」
「そうだね……って珍しく露出の少ない恰好してるじゃん。どうしたの?」
「ああ。今回向かう場所が場所だからね」
「?」

フィアさんのところから帰って来てから2週間とちょっとが経過した朝。私達はまたしても新たなお宝を探しに出掛けるところだった。

「今回って……たしかカラットフォレストっていう森に眠る遺産とやらを探しに行くんだよね?遺跡でも洞窟でも変わらず露出高めの服装で、フィアさんの家の時に至ってはフィアさんに指摘されるまで下半身に何も身に着けて無かったモーリンがなんでそんなの気にするの?」
「う……最近セレナの攻めがキツイ……ボクマゾじゃないから言葉責めは趣味じゃないよ?」
「そんな事は聞いてないから。それで答えは?」
「ああ。その森は反魔物領にあるんだよ。だから近くの親魔物領までポータルで移動した後、人化の術で人に紛れるのさ。その時にいつもの格好してたら頭の固い人達に破廉恥だとか言われて捕まっちゃうだろ?」
「なるほど……」

今回は反魔物領にあるカラットフォレストという名の森に眠る遺産とやらを探しに行く。
反魔物領なのでモーリンの正体がばれないようにする必要はあるが、触手みたいな危険性はさほど無いだろう。
それに人間界に居る虫や獣など魔物にとっては何の脅威でもない。もちろん天使である私にとってもである。
そう考えると今回はかなり楽になるのかもしれない。

「あれ?私人化の術とか使えないんだけど……」
「え?あんなに簡単な術も使えないの?」
「むぐ……戦闘に関係ないものは覚えるのが面倒だったからね……」
「まあ……セレナはエンジェルだから問題無いと思うよ?多少魔物化が進行してるって言っても、そう簡単にバレるものでもないしね」
「それもそうか……」

念のために虫よけ(サバト製)も買っておいたし、食糧も寝袋も準備したので、今から出発する。
はたして今回はどんな事が待ちうけているのやら……



…………



………



……







「ふぅ……どうセレナ?普通の人間に見える?」
「うん。魔力も抑えられてるし、顔が割れて無ければサキュバスだなんて気付かれる心配は無いよ」

ポータルで近場の親魔物領まで移動した後、ご飯を食べてから反魔物領に向かう私達。
私はエンジェルだからこのままでも多分問題無いだろう……主神が直接私達を見た人に「こいつらは魔物です!!」だなんて話しかけたら別だが、まあまずないだろう。

「というか……もしかして魔物になる前のモーリンってそんな姿してたの?」
「うん。まあもうちょっとだけ綺麗さや可愛げは無かったけどね。人間だった時は髪や肌の手入れなんてした事無かったから、結構傷んでたと思うよ」
「手入れとか今でもしてるところ見た事無いけど……まあ魔物だからしなくても大丈夫なんでしょうけど。私もだしね」

それにしても翼や尻尾や角が無く耳が尖ってないモーリンは見慣れない。
モーリンは魔物化した元人間だって話だから今の姿が本来のモーリンなんだろうけど……私はサキュバスのモーリンしか知らないからもの凄い違和感だ。

「これなら大丈夫だね。じゃあセレナ、何か聞かれた時の誤魔化しは大丈夫だよね?」
「まあね。よっぽど高貴な奴や同族が現れない限りは大丈夫だと思う」
「まあこんな辺境の村にエンジェルなんて降りてこないと思うけど……いたら全力で逃げよう」
「逃げようって言っても……時差のせいで今ここ夜だし、一晩村に泊まったほうが良いって言ったばかりじゃん」
「その為の寝袋だろ?」
「まあ……どうせ数日掛かる気がするからって持ってきたものだしね……まあ危険を冒すよりはいいか」

私達はお互い不自然な所がないか確認し合いながら、森へと続く村の中に進んで行った。





「ん?おお!天使様がいらっしゃるぞ!!」
「なんと!?こんな辺境の村に何用でございますかな天使殿?」
「あ、どうも……」

私達が村に入って幾分も経過しないうちに、あっという間に村人に囲まれてしまった。
とはいっても別にモーリンが魔物だって気付いたわけでは無く、私というエンジェルが村に来た事に感動しているようだ。

「ボク達はこの先にあるカラットフォレストの調査をしに来たんだ」
「おやあなたは?天使殿と一緒にいるようですが……」
「ボクは勇者モーリン。エンジェルのセレナと共に各地を回って魔物の脅威が無いか調査しているのさ」
「おお!勇者殿でしたか!これは失礼しました!!普通の村娘の姿をしていたので勇者殿とは気付かずに……」
「まあそれは仕方ない事さ。つい先ほどまで親魔物領に潜入調査をしていたから、勇者とわかる格好は出来なかったからね」
「そうでございましたか……ご苦労様です!」

外見からでは勇者かどうかなんてそう簡単に見分けがつくものではない。こういうのは言った者勝ちだ。
あっさりとモーリンが勇者だと信じた村人達……ほんの少し良心が痛むが、背に腹は代えられない。

「ところで……カラットフォレストに魔物が居るのでございますか?」
「いや、まだわからない。それを調査しに来たのさ。だから安心してくれたまえ」
「ぷぷ……もし魔物がいたとしても、その魔物は私達が追い払います。もしここから出て行かないと言うのであれば強制排除もする予定です」
「おお!それはありがたい!村の者共!!勇者様と天使様を盛大に迎えるのだ!!村中の食糧をありったけ集めて宴を開くのだ!!」
「あ、いや、そこまでしてもらわないで良い。食事は間に合っている。寝泊まりできる場所だけを提供してほしいだけだ」

途中畏まった言い方をするモーリンの不自然さにおもわず笑いそうになったが、なんとか堪えて勇者とエンジェルのコンビが言いそうな事を言う私達。
完全に私達を勇者コンビだと思い込んだ村人達が宴会を始めるような事を言い始めたが、流石にそこまでやってもらうと心苦しくなるのでやんわりと断った。
そのかわり寝床を用意してもらう事になった……案の定教会だったけど、ふかふかのベッドで寝られるのでまあいい。

「悪魔が教会に寝泊まりとかちゃんちゃらおかしいや!」
「おかしいと言えば、私エンジェルなのに今日初めて地上の教会に来たよ。行く前にモーリンに会ったからなんだかんだ一度も行ってなかったんだよね」
「へぇ〜……あ、じゃあ後で主神に御祈りでもしていく?ついでに命令無視してごめんなさいとか言っちゃう?」
「う〜ん……いいや。なんか面倒な事になりそうな気もするし、祈らざるをえない時はフィアさんのところで飲んだ紅茶の味でも思い出しておくよ」
「うわ……エンジェルとは思えないお言葉……聞かれたら一発アウトだ」
「大きな声じゃないし大丈夫でしょ。モーリンは術解かないようにね」
「大丈夫。寝ていてもそう解除されるものじゃないよ」

ベッドを二つくっつけてその上で寝転びながら話をする私達。ベッドを一緒にした理由は言うまでもなくモーリンが私を抱いて寝る為だ。
最近は抱き枕が吹き飛んで私を抱き枕にしてきても全く気にする事無く寝る事が出来るようになった……が、もちろんこういう遠出してる時以外に抱き枕になる気は無い。

「それじゃあおやすみ……明日は森林探検頑張ろうね……」
「うんおやすみ……」

こうして私達は教会の中で眠りに着いたのであった……



……………………



「いってらっしゃいませ勇者様ー!!」
「頑張って下さいね天使様ー!!」

朝目覚めた後、私達は村人たちの見送りの中カラットフォレストに入った。
この森はとても複雑な作りをしており、内部がどうなっているかどこを探しても詳しくわからなかった。
だから私達は地道にそれらしきものを探すしかない。今回は危険こそそうなさそうだが、とにかく見つけるのが大変そうだ。

「さーて、まずはどっちに進んでみようかねえ」
「出口がわからなくなりそうだけどそこは大丈夫なの?」
「まあね。このサバト製コンパスはどんなに磁場が酷い場所でも正しい方角を指せるようになってるし、最悪生い茂っている木の上に登って空から脱出すればいいしね」
「まあそれもそうね」

とりあえず森の奥の方に入ってみる。
途中野生動物達の姿を見掛けたが、猪も熊も野生の勘で私達のほうが強いとわかっているのか、襲ってくるなんて事は無かった。

「太陽の光がほとんど無くなったわね……」
「まあこれだけ大きな木があればね。ちょっとじめっとし始めたからか、茸がそこらに生えてるよ。この茸は食べられそうだな……」
「え?何?茸食べるの?」
「うん。食糧だってそんなに持ってきてないわけだし、現地で調達できる物は調達して食べるのも楽しみの一つだよ」

しばらく歩いているうちに、垂れ下っている植物の蔓や、表面がボロボロになって人の顔みたいに見える木なんかはあったが、特に遺産みたいなものは見当たらなかった。
とりあえず一休憩する為に落ちている枯葉や枝を集めて魔術で火を点け、生えていた茸や木の実を焼いて食べている。

「遺産ってどんなものだろうね」
「うーん……おそらく形ある物じゃないとは思うんだよね」
「形無い物……つまり自然が生み出した景色とか?」
「そうそう。そういうのだとちょっと大変かもね。決まった時間や方角で見ないとわからない物とか結構多いからさ」
「なるほどね……あ、茸が丁度よさそうに焼けたみたいよ。持ってきたパンにお肉と挟んで食べようか」
「それもいいけど、ボクはまずそのまま食べるよ」

こんな自然地帯ならおそらく遺産というのは素晴らしい光景とかであろう。
むしろ今までのような形ある財宝系だったら驚きだ……こんな広くて壮大なだけの森になぜそんな物を隠す必要があったかわからない。
まあある意味今食べている茸や木の実も自然の宝と言えなくもないが……うん、普通に美味しい。

「しっかし本当に背が高い木ばかりだな〜」
「それだけ栄養があるって事だろうね……あれ?木の上に人影が……」
「あ、ホントだ……あれは……ドリアード?」

食事も終わったので、薪の火を消した後再び歩き始めた私達。
森の奥に進むほど背丈が高くなってる木だったが、森の中央まではまだありそうなのに既に木の一本一本が私の数十倍もの大きさを誇っていた。
そんな滅多に見られない迫力ある森を見上げていたら……高い位置に人影があるのを発見した。
どうやら木の精霊と言われる魔物のドリアードらしい……確かめる為に飛んでみたら、眠そうな顔をこちらに向けてボーっとしているドリアードが居た。
反魔物領でもこういった魔物はいるんだなと思いながら、ちょっとこのドリアードに尋ねてみる事にした。

「あれぇ?人がこんなところに居るなんて珍しぃな〜……」
「どうもです。ちょっと聞きたい事があるのですが、この森の遺産について何か知りませんか?」
「遺産〜?」
「何かこう……凄い景色が見られる場所とか……そんな感じの……」
「ん〜?」

この森の住民だし、何か遺産について知っているかもしれないと思い尋ねてみたのだが……イマイチパッとしたものは思い付かないようだった。

「まあわからないのならいいです。それでは……」
「あ〜!もしかしてアレの事かも〜!」
「え?何か思い付いたのですか?」

だからまた地上に戻って地道に探すかと思って下降を始めた瞬間、何かを思いついた様子を見せたドリアード。

「私も一回だけしか見た事無いし詳しく覚えてないんだけど〜、この森のどこかに黄金のお花畑があるよ〜」
「黄金のお花畑……なるほど、ありがとうございます」
「もしかしたらこの森に住むアルラウネちゃん達やハニービーちゃん達なら何かわかるかもしれないから会ったら聞いてみるといいかも〜」

どうやらこの森には黄金のお花畑なるものがあるみたいだ。
黄金色の花が咲き乱れているのか、それとも本当に黄金が花に隠されているのかはわからないが……とにかく有力そうな情報を得る事が出来た。
その事を下で待機していたモーリンに伝え、私達はそのお花畑を探す為更に森の奥に進む事にした。
というかドリアードといい、そのドリアードの口から出てきたアルラウネやハニービーといい、この森には案外魔物も多く生息しているみたいだ。
もちろん私達は勇者コンビじゃないので強制排除も撤退もしてもらうつもりは無い。迷い込んだ村人には魔物の旦那さんになってもらえばいい。というか既に何人かはそうなってる可能性もあるだろう。
こんな考えに至ってるって事は既に私は魔物よりになってるんだなと実感しながら、私はお花畑を探す事に専念した。

「うーん……それらしいものは無かったね」
「だね……今日はここまでにしようか」

しかし、結局今日中に見つける事は出来なかった。
まあ森に住むドリアードが詳しい場所を覚えてないと言った程だ。簡単には見つからないだろう。
という事で私達は少し広い場所でキャンプをしていた。持ってきていた保存食や森で収穫した果実なんかを食べながら、明日はどんなルートで行こうかとか、黄金のお花畑とはどんなものなのかとか考えていた。

「黄金のお花畑かぁ……どんなのだろうね?」
「綺麗なんだろうとは思うけど……どこら辺にあるかな?」

パチパチと火花の弾ける音と私達の声以外にも、虫や動物達の鳴き声が聞こえる森。
一歩間違えれば怖い風景にも思えるが、気持ちが前向きに働いてる今は幻想的な気分になる。

「ま、自分達で見つけるか、もしくはこの森に棲む魔物に聞くしかないか」
「そうだね……お昼過ぎに会ったドリアード以外見てないけど、一応この森にはアルラウネやハニービーも居るみたいだしね」
「だね。あの村の人達は全く気付いてないって事は奥のほうにいるんだろうな」

ご飯も食べ終わったので、焚火を消して3人ぐらいなら余裕で入る生物避け寝袋(サバト製)で寝る事にした私達。
なぜこんな大きな寝袋なのかというと……もう説明する必要ないか。

「じゃあおやすみ〜」
「ええ……」

遠くで狼(ワーウルフかもしれないけど)の遠吠えが微かに聞こえる静かな森の中、私達は静かに寝息を立て始めたのだった……



……………………



「痛いよぉ……」
「ふん……あんな事するからよ!」

次の日の朝。私達はご飯を済ませた後、更に深い森に足を進めていた。
とりあえず目的は黄金のお花畑を見つける事だ。これが例の遺産かどうかは定かではないが、可能性は高いからだ。

「そんな事言っても別にボクの意志でやってたわけじゃないし……」
「反省しないなら今度から旅先でも抱き枕なんて絶対やらないからね」
「そんなあ!!」

ちなみに今モーリンの頭には大きなこぶがある。もちろん作ったのは私だが、原因はモーリンにある。
何故なら、仕方なく大人しく抱き枕になってあげていたというのに……目が覚めた私はとんでもない事をされていたのだ。

「というか別にいいじゃないか女の子同士なんだし!!」
「よくない!モーリンはいいかもしれないけど私は嫌!!というか人の胸を触っておいていいじゃんとか言うな!!」

目覚めた私は胸の辺りに違和感を覚え、寝惚け眼で自分の胸元を見たら……いやらしい手つきで私の胸を撫でるモーリンの手があったのだ。
それを見た瞬間意識を覚醒させた私はモーリンの手を払い寝惚けているモーリンの頭に全力でげんこつを振り落としたのだった。
寝惚けていたため神経が鈍感だったから気持ち良かったかどうかなんて覚えてないのが救いだろう……もしこれで気持ちいいだなんて思ってたら堕落一直線だ。

「はぁ……まあ今度やってたらこれだけじゃ済まさないからね」
「うぅ……セレナもボクのおっぱい同じように揉むって事で許し……ゴメン冗談」
「はぁ……」

そんなモーリンを一睨みして黙らせて、私は真面目にお花畑を探す。
昨日とあまり変わらない光景が続く森の中を隈なく探すが……中々それらしきものは無かった。
途中で色とりどりのお花畑は見つけたが……それでは無いと思ったので、とりあえず確認のため一輪だけ摘んでまた探し続けていた。

「それっぽい物は全く見当たらないな……」
「だよね……このまま今日は収穫なしで日が暮れるかもね……ん?」
「どうし……何か聞こえるね……」

だがしかし、いくら森の中を探索しても先程のお花畑以外のお花畑なんて見当たらない。
花自体は至るところに咲いてはいるが……畑と言える規模でもないし、別に黄金でも無かった。
これは今日は収穫なしだなと思っていたら……どこかから小さく何かの声みたいなものが聞こえた。
その声がするほうに近付いてみると……その声は何者かの喘ぎ声だと言う事が……ってええ!?

「な、なんなの!?」
「ん……なんか甘い匂いがしてきたな……もしかしてアルラウネがオナニーでもしてるかもしれないし、とりあえず行ってみようよ」
「な、なんで行く事になってるの!?」
「え?だって黄金のお花畑について聞くんじゃないの?」
「あ……そ、そうだった……」

正直目と耳に毒なので近付きたくないのだが仕方が無い。
私達は喘ぎ声の持ち主の下まで近付き……そこで衝撃の光景を目撃した。


「あんっ!あ、あんた達やめなああっ!!」
「今日も美味しい蜜くっださいな〜♪」
「とろっとろの蜜出して下さいね♪」
「やめっああああっ!」

「うわあ〜!」
「うわあ……」

それは……2人のハニービーが、一人のアルラウネをネチョネチョに弄っている光景だった。
ハニービー二人に為すがままにされているアルラウネ……緑の顔を真っ赤にして喘ぎ続けている。
どうやらハニービー達はアルラウネの蜜狙いらしい……下半身の花弁部分から溢れている黄色の蜜を腰に掛けている壺に集めていた。
というかもはや3人とも全身蜜だらけだ……どこか扇情的な姿をしている。

「あっあなた達!!誰だか知らないけど助けっああん♪」
「何あなた達?わたし達の邪魔するの?」
「いや?ボク達は黄金のお花畑の情報を集めてるだけだよ。この森のドリアードさんから聞いた情報なんだけど、何か知らない?」
「あーそれ多分あの花畑の事かな?この先ずっと進むとある底なし沼を通り越えた先にあるよ。でも今から行ってももう遅いと思うよ」
「あれは夕方にしか現れないもんね〜。今からじゃどんなに飛ばしても間に合わないと思う」
「なるほど……ありがとう。それじゃあこれで」
「ちょ、ちょっとおー!!」

話しかけようか悩んでいたらアルラウネがこちらに気付いたようで私達に助けを求めてきた。
まあでも魔物だし別に嫌では無いだろうと思いとりあえず求めはスルーして黄金のお花畑について聞いてみた。
どうやらここから西にずっと進んで行くと底なし沼があるようで、更にそこを渡りきるとそのお花畑が夕方限定で現れるらしい。
まあ今から行こうにも後30分程で夕方になるし、とりあえず沼だけでも確認してから寝るかと思って私達は指された場所まで行ってみる事にした。
もちろんそんな私達に非難の声を上げるアルラウネだが……さっきハニービーの片方が今日『も』と言っていたし、さほど大きな問題でもないだろうと思ってそのまま立ち去った。
蜜の甘い匂いは美味しそうだったが……発生源が発生源なので私は食べなかった……こそっとモーリンは指で掬って舐めていたけどね。

「アルラウネの蜜って凄く甘くて美味しいし栄養もあるんだよね〜」
「でも私は食べようという気はしないな……あれってつまりアレよね?」
「まあアレみたいなものだね。まあでも普通の花の蜜と同じ物だって考えれば問題無いでしょ?」
「う〜ん……まあ……まあ……」


アルラウネの絶頂の声が響く中、私達は気にする事無く先へ進む。
生い茂った木々とうっすらとした木漏れ日……森林浴でもしてる気持ちで歩いていた。
そして、日が暮れて辺りが暗くなりかけてきた頃……やたらドロドロとしていて変な臭いがする場所まで出てきた。
おそらく例の底なし沼が近付いているのだと思い、私達は少し戻って地面が乾いているところで再びキャンプを始めたのだった。

「う〜ん……明日には見つけられそうだね」
「だね。まあ夕方にしか見られないとかここまで掛かった時間を考えると帰れるのは数日後になりそうだけどな」
「まあそれは仕方ないね。そろそろシャワー浴びたくなってきたけど、目的地もわかったしもう少しの辛抱か〜」

自然の食材と街から持ってきた食材を掛け合わせた料理……何と美味しい事か。
そんな美味しいご飯をお腹いっぱい食べて満足した後眠りに就いた……もう一回私の胸を弄っていたら火炙りにするという条件付きで抱き枕になってだ。



……………………



「さて……ここを渡るのか……」
「何かが腐った臭いが立ち込めてて臭い……」

結局火炙りにする事無く朝を無事に過ごした私達は、早速昨日近くまで行った底なし沼に向かった。
昨日行った場所から少し歩いてみると……かなり広い範囲で底なし沼が広がっていた。
所々浮いている丸太や木から伸びている蔓を掴んで向こう岸まで渡れという事なんだろうけど……それらが沈んだり千切れたりしない保証は無く、また酷い腐敗臭のせいで集中する事が難しく、渡るのは困難に思えた。
だから……

「まあ底なし沼に入らなければどうって事は無いね」
「飛べば関係ないよね。今回はただの自然探索だから本当に楽だわね……」

私達は自分の翼を使って向こう岸まで飛んで渡った。
卑怯なんて言うのは飛べない種族だけだ。飛べないほうが悪い。

「よいしょっと。後は先に進んで夕方まで待つだけかな」
「そうだね……うわあ〜!!」

底なし沼を何の苦も無く渡りきった私達は、臭いから逃げるようにその先に走って進んだ。
そして、いつの間にやら臭いが「匂い」に変わってきて……

「すっご〜い!!」
「綺麗……」

開けた場所に出ると……そこは一面に白い花が咲き乱れている花畑だった。
丁度木が無く開けてる場所でもあり、太陽の光を浴びて燦々と輝いているように見えた。

「もしかしてこれが夕方になると……」
「きっとそうだよ!よし、夕方まで時間潰そうか!」

今のままでも凄く綺麗で美しい光景なのだが……黄金というよりは白銀なので、夕方になるまでこの場でモーリンと喋りながら待つ事にする。

「丁度いい機会だから聞くけどさ、セレナって天界では何してたの?」
「私?まあ普通になんの面白味も無く生活してただけだよ。自分がやっておくべくだと思う事に対しては真面目にやってたからね」
「転移や人化の魔術は重要とは思ってなかったって事だね。まあいいや。友達とかっていたの?」
「ん〜私あまり人付き合い得意じゃなかったからな〜……友達と言えなくもないぐらいには一応仲良かったエンジェルなら2人いたよ。ベリルとフローラって名前なんだけど、今頃この地上のどこかで何かしてると思う」
「どこかで何かってまた随分適当だな……まあセレナ自身が使命を投げ捨ててトレジャーハンターなんてやってるからハッキリと言える立場でもないのか。会いたいとは思ったりしないのかい?」
「別に。2人が堕ちてない限りは多分会っても非難されたり攻撃されるだけだろうしね」
「まあそれもそうか……」

今まで聞かれなかったから話していなかった天界での話をした私。仲良かった2人は元気だろうか……

なんて話をしたりお昼を食べたりボーっと空を見上げたりしているうちに日が沈みそうになっていた。

「そろそろ夕方か……さて、人があまり入って来なさそうなこのお花畑がどんなふうになるのかな……」
「……」

ドキドキしながら太陽が沈んで行くのを待つ。
そして……ついにその時がやってきた。


「……おおっ!」
「凄い……本当に黄金だ……」

太陽が傾き空が茜色になると同時に……太陽の光の色が変わったためか、花が一斉に強く輝き始めた。
それはまるで夕方の空がお花畑に落ちて来て、そのまま映し出しているようだった。
沈む量が増えるにつれ輝きも強くなり……瞬く間に黄金のお花畑は完成していた。

「ほぉ〜……うわっ!?」
「風……うっわああ〜っ!!」

輝く花に感動しながら見ていたら突然緩やかな風が吹いてきた。
その風に花びらが乗り……黄金が舞うかの如く花びらは宙を舞った。
空気中の魔力が付きの光に反応して輝く幻想的な魔界の夜とはまた別の、人間界だからこそ見られる、植物と太陽の輝きが生み出した煌びやかな世界……まさに先人達の森の遺産だ。

「そうだ。ねえセレナ、ちょっとお花畑の中心で舞ってみてよ」
「舞い……?適当で良いなら……」

文字通り目を輝かせながらその光景を見ていたらそう言ってきたモーリン。
一体なんだろうと思いつつ、私は羽ばたきお花畑の中心まで行って、手足や腰をそれっぽく動かして舞ってみた。

「……凄い……天女の舞でも見てるみたい……」

自分ではよくわからないが、感動している様子のモーリンがいた。
たしかに私の舞に合わせて光の花びらが舞っているように思えなくもなかった。
この感動は自分で感じられないのは残念だが……まあモーリンが喜んでいるので良しとしよう。

「日が沈んで……輝きも仄かな光になって……」
「……普通の白い花になっちゃったね……月光でも綺麗に輝いて見えるけど、黄金に輝いているのを見た後だとちょっと物足りないね」

そして、完全に日が沈み切り……花びらはその輝きを失った。
それでも、私達の心にはしっかりとその光景が感動と共に刻みついていた……忘れる事はまずないだろう。

「しっかしいい物見れたよね。財宝もワクワクするけど、こういったのもたまにはいいよね!」
「ああ!だからトレジャーハンターは止められないんだ!セレナもわかってきたみたいだね!」

興奮醒め止まぬ中、互いに感動した事を言い合いながら帰路につく私達。

「本当に綺麗だったな黄金のお花畑。絵にして保存しておきたかったよ」
「まあまあ、そうやって取っておけないからこそより強く心に残るんじゃないか」
「それもそうだね!」
「あ〜ん〜た〜た〜ち〜……」
「「ん?」」

暗くなってきたからどこか適当な場所でキャンプをしようかと思いながら歩いていたら、後ろからドスの利いた声が聞こえてきた。
振り向くと……そこには、昨日ハニービー達にいいようにされていたアルラウネが怒り顔で立っていた。
植物の蔓を今にでも私達に襲いかかってくるのではないかという程高々と掲げながら、アルラウネは叫んだ。

「あんた達が助けてくれなかったから蜂共にこってりと搾られちゃったじゃない!!見捨てて行った恨み、しっかりと晴らさせてもらうわよ!!」
「えっと……具体的には何をするつもりで……?」
「まずは蔓でグルグル巻きにしてから普通に痛めつけて、そのまま私の蜜漬けにして敏感になった肌に絞め後を付けてあげるわ!!その後でたっぷりと私の花粉を食事させて花粉症にしてやる!!そして最終的には私が鞭のようにビシバシやらないとイけない身体に改造してあ・げ・る!!」
「えっと……断る!!逃げるよセレナ!!」
「もちろん!!」
「あっ待て!!逃さん!!」

二人で視線を合わせた後、私達は怒り心頭なアルラウネから全力で逃げるのであった。
13/06/09 18:44更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
この後二人は無事逃げ切る事が出来ましたw

さて、今回は森の探索回でした。
なんだか今回は今までと比べると簡単のように思えたかもしれませんが……実際はそうでも無かったりします。
森の深い場所では目印になるものは特になくて迷子になりやすく、底なし沼もあり、隙あらば狙ってくる魔物も多数生息しており、虫や野生動物も沢山いる……二人が人間じゃなかったからこれらの要素がほぼすべて無効化され簡単に見えるだけですw

次回は……最初に言っていた4か所の最後の一つ、氷山に向かい財宝を探します。
大量の雪や襲いかかる吹雪の中、二人が目にしたものとは……の予定。

それではまた来週〜

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