読切小説
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人魚のいる浜辺
 俺は、朝日に光る海を眺めながら歩いていた。白い光を放つ海面を直視することは出来ず、俺は目を細めて歩く。潮の匂いが俺の鼻を覆っている。空は一面の青で、雲はほとんど無い。今日も暑くなるだろう。
 夜勤が終わった後は、こうして浜辺を歩きながら帰る。自分も機械になったような作業をしていると、俺は海を見たくなる。索漠とした仕事や人間関係の苦痛が、少しだけ和らぐ。
 俺は、コンビニで買ってきたビールを取り出す。缶を握ると、まだ冷たいままだ。俺は、海を眺めながらビールを飲む。冷たい刺激とアルコールが、疲れを癒す。
 俺の目の前で、海面が盛り上がる。白く光る海面から、人とも魚ともつかない者が飛び出す。白い飛沫が飛び散り、濡れた体は日の光で輝く。豊かな胸やくびれた腰が日の光を反射する。女が海面へと飛び出してきたのだ。
 女は、俺を見ると微笑みかけた。その笑みは、明るさと温和さがある。
 俺は、驚きから固まっていた。だが、女の笑みで固まりがほぐれる。俺は、苦笑ともつかぬ笑みを返した。

 俺は、もう一本のビールを女に渡す。女は、浜辺に座りながらビールを飲む。女の濡れた喉が、音を立てて動く。俺は女の隣に座り、ビールを喉へ流し込む。
 女は、俺の方を見て笑いかける。明るい赤い色の髪が揺れ動き、エメラルドグリーンの瞳が俺を見つめる。笑いと共に身体が動き、濡れた白い肌が弾けそうだ。ビキニのような黒い服でわずかに覆った胸が、軌跡を描きながら揺れ動く。
 俺は胸から目を離し、彼女の瞳を見つめた。南海の色のような瞳の中に吸い込まれそうになる。俺は、残りのビールを喉へ流し込む。それで誤魔化そうとする。
 軽い音が響き渡った。俺は地面を見つめる。赤い魚の胴が、ふざけるように砂浜を叩いているのだ。その魚の胴は、女の上半身とつながっている。
 女は人魚だ。正確にはメロウという種族だ。この近辺の海では、魔物娘たちが暮らしている。イカの下半身を持つクラーケン、タコの下半身を持つスキュラ、カニの体の上に人間の上半身があるキャンサー、そしてメロウと同じ人魚であるマーメイド。
 この浜辺を歩いていると、彼女たちを見かけることがある。海を泳ぐ者、浜辺を歩く者、砂浜にたたずむ者、色々だ。メロウも海で泳いでいた。
 俺は、メロウとよく合うようになった。浜辺を歩いていると、メロウが泳ぐ姿を見かける。彼女は俺を見ると、手を振って挨拶をする。浜辺でたたずむ俺に近寄り、話しかけてくる。そうしている内に、俺たちは共にビールを飲む仲になった。
 飲み終わったビールの缶を浜辺に置くと、メロウは海に入った。振り返ると、俺に水をかけてくる。彼女は、笑いながら俺を泳ぎに誘う。
 俺は立ち上がり、Tシャツを脱ぎ捨てる。スニーカーも脱ぎ捨てる。ジーンズとトランクスを脱ぎ、浜辺に放る。俺は水着を持っていない。裸のまま海に駆け込む。
 冷たい海水の中に身を投げ込む。汗で濡れた体が洗い流される。俺は、思わず歓喜の声を上げる。波をかき分け、水の中で体を伸ばす。全身が躍動する。仕事の後の疲れた身体とは思えない。俺は笑い声を上げる。
 メロウは、俺のすぐそばで泳ぐ。時折、俺の体を悪戯っぽくくすぐる。尾ひれで俺の尻を軽くたたく。俺は、メロウを捕まえようとするが、すべるような動きで逃げられる。俺は、メロウを追いかける。波の間で笑う彼女を、海水をかき分けながら捕まえようとする。
 俺たちは、そうして海で戯れた。追いかけ、追いかけられ、水をかけあい、体をくすぐりあった。疲れた俺は、浜辺へと上がる。彼女も浜辺に上がって来る。水から出た俺たちを、夏の日差しが照り付ける。
 俺たちは、共に浜辺に寝そべった。俺は裸だ。この浜辺は人通りが少ないが、それでも時々通る人がいる。だが、別に構いはしない。仰向けになって、水で濡れた体を照らす日差しを楽しむ。
 俺は、すぐそばに横たわる彼女の方を見つめた。彼女も、あお向けになりながら俺の方を見ている。エメラルドグリーンの瞳が俺を見つめている。
 ステラと、俺は彼女に呼びかける。彼女は、名を呼ばれて笑顔を俺に向ける。俺は、ステラに手を伸ばす。彼女は、俺の手を握り占める。俺たちは笑い合う。
 俺たちは、夏の浜辺で笑い合った。

 俺とステラは、寄り添うように横たわっていた。日差しが濡れた体を乾かしていき、潮風が俺たちの体に吹き付ける。俺は日差しと風を楽しみながら、ステラの体を感じる。ステラの体は柔らかく、熱を持っている。
 ステラは俺の体に手を回し、抱き付いてきた。頬を俺の胸にすり付け、胸を腹に押し付ける。彼女の弾力が俺を刺激する。潮の匂いに混じって、彼女の甘い匂いがする。俺は、彼女の生渇きの髪を撫でた。
 俺の目に、彼女のかぶっている帽子が目に入る。白い羽根飾りのついた赤い帽子だ。彼女は、泳ぐ時もその帽子をかぶっている。どのような作りか分からないが、泳いでいても取れることは無い。
 ステラは、俺の顔を見つめる。手で俺の頬を愛撫する。彼女の顔が近づき、俺の口を口でふさぐ。柔らかい感触が俺の口に感じられる。濡れた舌が俺の唇を、歯を、舌を愛撫する。俺は彼女に口を押し付け、彼女の舌に舌を絡ませる。彼女の体を抱きしめた。
 ステラは、俺のペニスに腹を押し付けて愛撫する。俺のペニスはすでに硬くなり、彼女の腹の感触を楽しんでいた。程よく柔らかい腹が、俺のものに快楽を与える。俺は腰を動かし、ペニスで彼女の感触を貪る。
 俺は、ステラをあお向けにしてその上に覆いかぶさった。彼女の胸に顔を埋める。日で照らされた肌の匂いが俺の鼻腔を覆う。深く息を吸い、彼女の匂いを堪能する。顔を動かし、柔らかな感触を顔全体で感じる。
 俺は顔を下げ、うろこに覆われたステラの下半身に顔をすり寄せた。彼女は、下半身には服を身に着けていない。うろこが大事な部分を隠しているからかもしれない。だが、その露わになった下半身は官能的だ。俺は、ぬめる下半身に頬をすり寄せ続ける。
 俺は、鱗をそっと寄せてステラのヴァギナを露わにした。ヴァギナからは蜜があふれ、日の光で輝いている。俺は、その泉に口を付けた。潮のような匂いと味が、俺の鼻と口の中に広がる。俺は泉を吸い上げ、その中を舌で愛撫する。彼女は、体を震わせながら歓喜の声を上げる。
 彼女は俺から離れた。俺をあお向けにすると、シックスナインの格好で俺の上に乗る。俺のたぎり立ったペニスに繰り返しキスをする。そして口に含んで舌で奉仕をする。柔らかい胸を押し付け、硬い乳首で所々をくすぐる。俺の下半身から刺激が走り抜ける。俺は声を抑えられない。
 俺の顔の前に濡れ光るヴァギナがある。俺は再び口をつけ、貝のような形になっている中を舌で刺激する。人間ならば尻にあたる所を撫でる。うろこのなめらかな感触が手の平に感じられた。俺たちは、互いの最も敏感な部分を味わい、刺激しあう。彼女は喘ぎ声を上げ、俺も呻き声を上げる。
 先に果てたのは彼女だ。身体が痙攣し、ヴァギナから潮がほとばしる。俺の顔は、温かい液体で濡れる。潮を味わいながら俺も果てた。彼女の口の中に、欲望の塊を放つ。彼女は、喉を鳴らして俺の放った液を飲み込んでいく。
 ステラは、俺のペニスに頬をすり寄せながら俺を見つめる。俺は、彼女のヴァギナに顔を着けながら彼女を見る。俺たちは、そろって声を上げて笑う。ステラに頬ずりされている俺のペニスは回復していく。
 俺はステラをあお向けにして、彼女の上に覆いかぶさった。彼女の中に俺のものを埋めていく。熱い肉の渦が俺を引き込む。下半身から頭頂へと快楽が叩き付けられる。
 俺はステラを抱きしめて、彼女の頬に顔をすり寄せた。彼女は俺を抱き返して、俺の頬に顔をすり付ける。俺は、海水に濡れて日に照らされた彼女の髪に顔を埋める。海の匂いが俺の鼻を覆う。彼女は、ささやきながら俺の耳をなめる。
 俺は、彼女の瞳を見つめた。そのエメラルドグリーンの中へと引き込まれる。鮮やかな色彩の中にいながら、俺は彼女が果てるのが分かる。俺は彼女から抜こうとするが、彼女はそれを許さない。俺はエメラルドグリーンの世界に囚われ、その中で果てた。
 快楽の渦の中で俺は漂う。俺が見ているものは何だ?空か?海か?彼女の瞳か?青と緑の渦が俺を引き込んでいく。俺は逃れられない。快楽が俺を逃がさない。
 俺は、光る青と緑の中で果てていった。

 俺たちは、浜辺に仰向けに横たわっていた。事後の体を日差しが照り付ける。体に付着して混ざり合った液体が、日差しのために乾いていく。体から濃厚な臭いが立ち上る。だが、その感触と臭いは、俺には心地よい。
 俺は心地よい疲れに侵され、眠くなっていく。半ば閉じた瞳でステラを見る。彼女は、半身を起こして俺を見つめている。頭にかぶっていた帽子を取り、手に持ちながら俺に微笑みかける。
 ステラは、帽子を俺の頭にかぶせた。柔らかい感触が俺の髪を覆う。俺は、彼女に笑いかける。彼女は戯れているのだ。彼女も、俺に笑い返す。
 俺は首を傾げる。どこか彼女の様子がいつもとは違う。笑い方に何か意味があるような気がする。そう言えば、メロウの帽子について聞いたことがある。ただ、よく覚えていない。俺は思い出そうとする。
 だが、心地よい眠気が俺を浸していく。ステラの穏やかな微笑も、俺を眠りへといざなう。
 後で思い出せばよい。今は、この心地よさを楽しもう。俺はそう思い、考えることをやめる。ステラは、俺の体にオイルを塗ってくれている。日焼けで体が痛まないようにしてくれているのだ。やさしい愛撫が俺を安堵させる。彼女は、日差しで白く輝いている。
 俺は目を閉じた。俺の中に映像が広がる。海の中で、俺とステラは泳いでいる。俺は、ステラと共に海で暮らしているのだ。もう、陸には未練はない。
 俺は笑う。これは夢だ。だが、心地よい夢だ。人魚の微笑みを脳裏に浮かべながら、俺は眠りへと落ちていった。

16/07/21 20:31更新 / 鬼畜軍曹

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