読切小説
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ねぇ、笑って?
ねぇ、笑って?



街にサーカスがやって来る。

暗い世の中も冬の寒さも不幸な事も切り裂きジェーンも忘れましょう♪私共は愉快な一座♪♪きっと素敵な一夜の夢を♪あなたの為に至高の芸を♪そして皆んなに享楽を♪

愉快な音楽と共に街にやって来た一座は、そのような謳い文句と花とビラと笑顔と笑いをまき散らして、ほんの少しの恐怖とひとつまみの狂気を連れて街の中を練り歩く。

さあさあ踊り出したよ♪糸の切れた操り人形♪片足のブリキの兵隊さん♪音の歪んだクラリネット♪♪さあさあ皆んなで笑おうか♪今日はめでたい日♪誰も誕生日じゃない日♪♪

ある人は楽しそうに、ある人は怖いもの見たさに、ある人はまやかしの光に誘われて、そのパレードを賑やかに見ていた。

彼らが配るビラにはこう書いてある。


""""""""""""""""""""""""""""""""""
不思議な不思議なサーカス

シルク・ド・エトワール

星と夢とひと握りの狂気をアナタに

""""""""""""""""""""""""""""""""""


そんなお祭り騒ぎの中で1人だけ下を向いて歩いている男の子がいた。歳の頃は12か13だろう。ぶかぶかですすけたハンチング帽を目深く被るとサーカス達が練り歩く大通りから逃げる様にスモックの煙る裏路地へと去って行った。

ロンド市イーストエンドのバラック街に男の子の家がある。荒れた掘立て小屋みたいな我が家に入ると中は散らかっていて、嫌な煙りが立ち込めている。その奥で母親がベッドの上で飲んだくれていた。

『……帰ったかいウィル。今日は給料日だね?こっちへ来な。』

起き上がりてを招く痩せた母親は、光りの加減か髪の生えた骸骨のように見える。

ウィルは怯えながら恐る恐る母親に近く。

『さぁ、金を出すんだ。』

ウィルは黙って10シリンをポケットから出した。その瞬間、母親が裏手でウィルの頬を引っ叩いた。

『ぎゃっ!!』

『ふざけんじゃねぇ!クソガキ!……テメェが週15シリン貰ってんのは分かってんだ!!アタシを馬鹿にしやがって!!出すんだよ!!』

母親が倒れたウィルを更に殴って、上着の内ポケットから残りの5シリンを取り出した。母親はウィルを外に放り出すと、また酒を飲み始めた。

ウィルは立ち上がると歩き出した。その身体はあざと泥で薄汚れている。きっと今夜は母親が仕事に行くまで家には戻れない。今はまだ夕方で肌寒い程度だけど、夜になったらいっそう冷え込むだろう。しばらく嫌な匂いがする寒空のロンド市の下町をふらつく事になりそうだ。

『お金……どうしようか?』

歩きながらそんな事が自然と口に出た。

ウィルは娼婦の子供だ。顔も見たことの無い父親は帰って来たら結婚しようと母親と幸せの約束をして、結局はブリタニアから遠く離れた霧の国との戦争に行ったっきり帰って来なかったらしい。ウィルがいると母親は客を取れない。小さな頃は今よりもっと貧乏で寒くてひもじい生活だった。

だからウィルは5歳から工場で働か無ければならなかった。何を作っているのかウィル自身にもよく分からない。ただ金持ちの為に何かを作っていてその対価にお金を貰っている。彼にはそれで充分だった。

それで最初は週2シリンで雇われて、それが4シリンに増え、5シリンになり、7年近く働いてやっと週15シリン貰えるようになったが、給料が週10シリンを超えた辺りから母親がウィルに対して辛く当たり始めた。

『あの男に似て来たね……』

そう言って殴られるようになった。

母親は次第に飲んだくれるようになった。飲んだくれるようになってから暴力が酷くなった。

いや、それはまだマシだったとウィルは思う。最近になりアヘンを始めてしまい母親の無気力ぶりと暴力と浪費はますます酷くなったからだ。

ウィルは最初は泣いて叫いたが、泣いても叫いてもどうにもならない事を知ると、それをやめた。それでどうにかなっていればとっくに解決している。

最後にウィルが心から笑ったのはいつだろう?それはもうずっと前の事だ。夕闇の中寂しく歩く小さな男の子は笑顔をすっかり忘れて、ただ現実だけを見るようになった。

暮らして行くにはそれ相応の金が掛かる。

母子2人が1週間暮らして行くには切り詰めて15シリンがギリギリだ。食べ物に雑貨、水は水質が悪くて沸騰させなければ飲めないので、出来れば石炭か、石炭が買えなければ薪を買わなくてはならない。それがまた酒とアヘンに消えてしまう。母親も娼館で客を取れなくなって来ていて稼ぎも悪くなる一方だ。

成人に……17歳なれば親の許可無く1人で仕事を請け負う事が出来て給料も週25シリンになる。つまりは17歳になれば母親から解放されるのだが、後5年も絶えなければならないと思うとゾッとしない。

それにもし母親から離れて遠くの街に行って働いても、ろくに読み書きの出来ない自分は肉体労働以外出来ないだろう。そうなればまた週給2シリンからやり直しだ。それとも母親が死ぬまで今のこの状況が続くのだろうか?

消えてしまいたい。最近、ウィルはそう思うようになった。

そんな事を考えながら当てもなく街を彷徨っていると知らない路地に入っていた事に気付く。

戻れば良いと思って後ろを見ると、そこは行き止まりになっていた。

少し恐くなって前を見ると暗い路地道が続いているだけだ。戻れない。でも、もしかしたら、この先で自分の知っている道に出られるかも知れない。ウィルは大した事は無いと自分に言い聞かせながら、とりあえず前に進む事を選んだ。

すっかり日が傾いて、影が長くなった道をしばらく進むと、ガス灯の淡い光が見えた。その下にはクラウン(道化師)がいて、ジェントリー階級だろう綺麗な服を着た裕福そうな女の子達に手品を披露していた。

蒼白い星色の髪、道化化粧からでも分かる雪のような白い肌、紅と蒼のチグハグな眼の色。金色の太陽と銀色の月が描かれた赤と青の二又の道化帽子、胸の部分が大きく裂けた同じ模様の赤と青の道化師の服。タイツには星の模様に先のくるんと曲がった白いブーツ。

彼女の手からいきなり花が出たり、指をパチンと鳴らすと女の子の帽子からカードが出て来たり、コインが増えたり。その度にキャッキャと女の子達がはしゃいでいる。女の子達を呼ぶ声が聞こえると、最後に道化師は何処からともなく色とりどりの浮かぶ紐付きの風船(この時代は贅沢品)を取り出すと、ひとりにひとつづつ配る。女の子は嬉しそうに親に手を引かれて路地道の闇に消えていった。

その光景はウィルにとってまるで、こことは違う別の世界の事のようだった。暖かそうで綺麗な服の女の子達、裕福そうな両親、幸せそうな笑顔。欲しいと思っても手に入れられない全てがそこにあった。

少年はただその影を見ていた。

すると、男の子に気付いた道化師が微笑んだ。

『……っ!?』

ウィルは思わず後退りをしてしまった。ぞっとするような美しい笑顔の中にはとびきりの狂気があって、それが怖いのだ。

道化師は指をパチリと鳴らすと瞬きひとつ前までそこには無かった大きな手回しオルガンの上に立っていて、もう一度指をパチリと鳴らす。すると手回しオルガンは不思議な事にハンドルを回す人もいないのに勝手に風変わりで楽しげな音楽を奏始めた。

『コンバンハ♪キミはだあれ??』

すると今度はウィルの耳元で声が聞こえた。右を見るとそこには道化師のさも嬉しそうな綺麗な顔があった。今まで手回しオルガンの上に居たのにいきなりウィルの右側に現れた。

『僕は……』

『こっちこっち♪』

次は左側から声が。振り向くと頬に道化師の指がぷにっと突き刺さった。

『ーーーーっ!』

『ふふふふふ♪引っかかった引っかかった♪♪……おや、笑ってくれませんねぇ?』

左側にいたのも一瞬で、今度は勝手に演奏を続けている手回しオルガンの正面にパッと移動した。

『ふふふ♪♪……申し遅れましたが、ワタクシはボーギーのジェシカ♪生まれながらの道化師(クラウン)でございま〜す♪♪苗字はございません。た・だ・の・ジェシカ♪♪さぁて……坊ちゃん?キミはだあれ??』

優雅に両手を手を広げて、頭を下げながら右手を胸に。一昔前の宮廷風の大袈裟な礼をすると、体はそのままに頭だけがグリンとこちらに向いた。

『……ウィル。……ウィリアム・ロビンソン。』

『ウィリアム♪なんと素晴らしい♪なんと高貴なお名前でございましょうか♪♪』

道化師は嬉しそうにくるくると踊り、手を叩きながら喜んだ。

その様子を見てウィルはため息を吐いた。

『なんと!ウィリアム様はため息を吐いていらっしゃる!ワタクシの踊りがお気に召しませんか?よよよ……ワタクシ、落ち込んでしまいます……』

先程とは打って変わってしょぼんと項垂れて見せる。

『僕……この路地を出たいんだ。あなた出口を知ってるの?』

『出口♪出口ですか?……えっとですねー?』

パチリと指の音がした。

『あっち?』

屋根の上から声がした。

『こっち?』

と思ったら今度は路地の向こう側から。

『それとも……こっち??』

今度は正面に現れた。

『……はてさて……どちらでございましょうか♪♪』

パッと消えては現れて、あっちに居たらこっちに居る。ジェシカに良いようにおちょくられるウィルの様子は、まるでクラウンに振り回されるジェスターのようだ。

『もういい!!』

ほとほと嫌になったウィルはそのまま来た道を戻ろうと後ろを向くとまた道化師の顔があった。

『ーーーー!!』

『おやおやおや♪ウィリアム様は怒りんぼさんですねぇ♪こちらをどうぞ??』

手渡されたのはふわふわと浮かぶ赤い風船。ウィルがそれを取るとパン!と弾けて中から星色の光がキラキラと宙を漂った。びっくりしたウィルはますます不機嫌になった。

『……ねぇ、こんな事して楽しいの?』

『ええ♪すっごく♪♪ですが………』

一瞬にして道化師の雰囲気が変わり、怖くなって後退りをすると背中が何かに当たった。目の前に居た道化師が居なくなっていて、ウィルの顔に白くて冷たい手がヒタヒタと触れる。

『ふふふふ♪♪早くお帰りになった方が良いのでは?……ウィリアム様は知っておられますかぁ??夕日が沈んでも帰らない悪〜い子は……サーカスに攫われてしまいますよぉ♪♪』

その声はぞっとするほど綺麗で怖かった。

『……ほんとに攫われるの??』

『えぇ♪そうですとも♪そうですとも♪♪こわ〜いサーカスの道化師がやって来て……』

『じゃあ、僕を連れて行って……』

『なぁ〜〜んちゃって☆……あれ?んんん??今なんと???』

道化師のジェシカは少年の予想外の言葉に首を90度にグリンと傾けて素っ頓狂な声を上げた。

実の所、ウィル少年がこの路地に迷い込んだのは、道化師のジェシカがこの路地に子供が集まるように仕組んだちょっとした迷宮魔法のひとつを掛けていたからだ。

そもそもジェシカの目的は子供相手に大道芸を披露し、時折ウィルのようになかなか笑わない手強い子供もいるが、ひとしきり怖がらせたり楽しませた後で、最後にサーカスの子供用無料チケットと本物の風船でもあげて帰らせる。

つまりは一座の宣伝と営業で今回もそのつもりだった。

サーカスの開催期間は2週間〜1ヶ月。開演時間は基本的に平日なら夕方で、休日なら昼と夜の2回公演。子供がサーカスを見に来ればその子のパパとママも余程の事が無い限り必ず来る。加えて子供のスペースは大人の半分で済む。子供無料チケット1枚で大人チケット2枚(ちょっと割高)がほぼ確実に売れるのだ。

結果、チケットは売れて席は満席。お客様からお狸なスポンサーに一座の懐から団員のお財布まで、皆満足の拍手喝采万々歳。

現に既に彼女の手にはいつの間にかウィル少年の名前が書かれたチケットとプカプカ浮かぶ赤い風船が握られている。

『こんな街から離れられるんだったら、何処でもいい!あんな家から離れられるんだったら怖くても構わない!』

ただ、ウィル少年にとってジェシカの言葉はこの路地と同じで出口の無い暗い自分自身の運命に刺した一筋の光に思えた。

もしかしたら全てを捨てられるかも知れない。

例え道化師の言う事が冗談だったとしても淡い希望を抱かずにはいられなかった。

確かにジェシカの言葉はその大半が冗談だ。道化師らしく嘘と欺瞞に満ち溢れている。しかしながら、ただの冗談ではあれ程の迫力は出ない。嘘、欺瞞、甘言を吐く時、ジェシカと言う道化師は常に半分くらい本気でそう思った事を口にする。

だからウィル少年が僕も連れて行ってと言った時、本当に心の底から嬉しく思った。

と同時に、子供にそうまで言わせる原因を知りたくなった。

『あらあらあら、まあまあまあ♪♪そうですか、そうですか……では、ウィリアム様にはこちらをプレゼント☆』

ジェシカは持って居た風船を何処からか取り出した針でパン!と割る。すると風船の中から一枚のトランプが出てきた。

『……ジョーカー?』

『あぁ……人の世と心は虚い行くもの……一期一会の港町……なんと勿体ない事でしょうか!?ワタクシ、ウィリアム様がとてもとても気に入りました☆そのジョーカーは特別なチケット♪♪ウィリアム様とワタクシを繋いでくれるのデス♪♪』

ジェシカは芝居がかった大袈裟な身振りで口上を挙げると風と共に何処かに消えてしまった。

(ふふふふ……今日の所はお帰り下さいませ……そうそう♪出口はあちらへ♪♪』

ウィルが途方に暮れているとすっかり暗くなった空から道化師の声が降ってきた。

声の方へ歩いて暫く進むと、良く知ったテーム川の川沿いの通りに出た。相変わらずの酷い匂いが鼻を刺激したが、ウィル少年は安心した。

と同時にさっきまでのあの路地での出来事は夢なのではないかとも思った。そう都合が良い話しがあるわけは無いとため息を吐いて、寒さから手を粗末な上着のポケットに手を入れると、中にはトランプのカードが一枚入っていた。

『……夢じゃない。』

ウィル少年は不思議そうな顔をしつつも上着のポケットに穴が空いていないか確認をしてから大事にカードをポケットにしまった。

ゴーン………ゴーン………ゴーン…………

ビックベルの7時の鐘が微かに聴こえる。路地での出来事を現実だとそう告げるように。

それからウィルはイーストエンドを暫く彷徨った後、母親が居ないのを確認してから自宅に入った。

鳴き声を上げるお腹を生水で誤魔化して、殆どブランケットの役目を果たさないようなボロ布に包まりカビ臭いベッドに横たわった。

今日が土の日で明日が安息日の太陽の日。だから主神教の教会に行けばパンでも貰えるかも知れない。もう寝てしまおうと目を閉じた。

『起きろクソガキ!』

『ぎゃっ!痛いっ!!痛いっ!!』

『これから客が来るんだ!さっさと退くんだよっ!!』

ウィルが寝て暫く経った深夜に母親が帰って来ると、ウィルの髪を引っ張って殴ると無理矢理起こして物置きに閉じ込めてしまった。

寒くて暗くて狭い物置の中で寝れば凍えてしまう。途方に暮れたウィルはその場で蹲ってしまった。

すると上着のポケットが光っているのに気がついて、なんだろうと見るとトランプのジョーカーが光っていた。ジョーカーはウィルの手をするりと抜けて物置中を飛び回った後、ボフン!と煙を出した。

『わっ!』

出て来たのはあの道化師だった。

『コンバンハ♪♪坊っちゃん♪また会いましたねぇ♪♪けほっ、けほっ……うん!煙たい♪』

楽しげな声が投げかけられた。

『あなたはさっきの………』

『コホン!そう♪ワタクシはジェシカ♪ た・だ・の・ジェシカ♪♪道化師でございま〜〜〜す♪♪……あらやだ、ココ狭いしくら〜い。』

ジェシカはパチンと指を鳴らすと何処からとも無く浮かぶキラキラした星形の光が物置中に優しい光を灯していた。

『ふふふふふ♪これで明るくなりましたね?……さぁて、ウィリアム様♪ワタクシ、ウィリアム様の事を我が一座の座長であらせられる魔王が娘、リリムがひとり、ルミエラ様に話をさせていただきました♪♪結果は……』

ダララララララララララララララララ………

何処からとも無くドラムロールが聴こえてきた。

『ウィリアム様が望まれるのでしたら構わないと快諾していただきました☆』

シャーン♪♪パッパラーーー♪♪♪

今度はおめでたいと言わんばかりのシンバルとトランペットの音に色とりどりの紙吹雪まで。ウィルは先程までの深刻な顔から一気に毒気が抜かれてしまった。

『役職は道化師見習い♪ゆくゆくは立派なオーギュストになって頂きます♪♪雇用条件は3食昼寝付きで週給、小魔界銀貨3枚☆……あ、もちろん昇級もありますよ♪やったー☆』

『はぁ……』

『……いやぁ〜良かった良かった♪今一座の道化師はワタクシだけなのデス……クラウンなのですがピエロとオーギュストも兼任で、終いにはルミエラ様の公務にジェスターとして引き回される始末で、もーホントーにホントーに大変なのデスヨ……あ、これナイショですヨ??』

先程とは打って変わってズーーン……と落ち込んで見せる。何がどうなっているのかガラス玉のような涙が振り子のように左右に振れている。

『と言うワケで、ワタクシとしては是が非でもウィリアム様を攫いたいのですが……条件が御座います❤』

ジェシカの雰囲気が変わった。

『我が一座は魔物娘とインキュバスのみのサーカス団❤シルク・ド・エトワール……ウィリアム様……いいえ、ウィル君にはインキュバスに……ワタクシの家族になって頂きマス❤❤』

『それはどう言う……うわっ……』

ジェシカはウィル少年を優しく押し倒した。ポスリと落ちた先は柔らかいベッドだった。

『こう言うことデス❤』

『んぐっ????』

ジェシカは戸惑うウィルの唇を奪うとそのまま舌を口内に入れてウィルの舌を追いかける。クラウンから逃げ回るオーギュストは結局最後にはクラウンに捕まって良いようにされてしまう。

ちゃぷっ……

唇が離れるとヨダレの橋が名残りおしそうに糸を引いた。

ウィルは脳みそが溶かされるような快楽を与えられて、ぼうっとしている。

『おやおやおや♪♪』

ジェシカが自身のお腹に当たるものを見ると、嬉しそうに目を三日月のように歪めた。

『な……あれ?……僕のココ変になっちゃった……』

『ふふふ♪嬉しいなぁ❤ぜーんぶワタクシにお任せあれ♪♪』

ウィルはいつのまにか脱がされていて、未熟ながらしっかりと勃っているソレをジェシカは愛おしそうに頬擦りすると、パクリと口の中に放り入れた。

『いゃあ!た、食べないでぇ!!』

『らいじょーふ、らいじょうふっ♪♪』

濡れた肉がウィルをなぞるたびにピクリと腰が跳ねる。

じゅるっ……ちゃぷっ……

『あっ……あったかい……だめ……キモチイイ……』

『ふふふ♪♪れしょ〜?……かわ……むいひゃうれ♪』

上目遣いでウィルのモノを咥えながら顔を歪めるジェシカは倒錯的な美しさがある。

『ひゃっ……あっ!……いっっ?……』

ざらりとした柔らかい舌が継目との境目を丹念に優しく、しかし確実に皮を剥いでいく。ウィルは快楽とほんの少しの痛みの間で翻弄されていた。

暫くして痛みが消えた後、とろけるようなな快楽だけを感じていた。

じゅるっ……ちゅぽっ♪

『はーい☆ウィル君大へんしーん♪パチパチパチパチ☆』

『な、なにこれ』

ウィル少年が目にした自分のソレはいつもトイレの時に見ているソレではなくて、言うなれば大人のソレだった。

『ウィル君はオトナになったのサ♪♪じゃ、続きしよう♪』

『ひゃっ!』

そうしてまたジェシカは口の中にウィル少年を放り込んだ。

じゅるっ……じゅぽっ……ちゅぱっ……

『あああ……何か……何かでちゃう……!!』

びゅくっっ!!……どく……どくっどく……

ジェシカの口の中でウィルが爆ぜた。快楽から逃れるように足をピンと伸ばして身体を大きく逸らせている。そんな様子のウィルにジェシカは頬を膨らませて口の中でびくびくと痙攣するウィルを労るように撫でるように舌を転がした。

暫くしてウィルが落ちつくとちゃぷり♪と音を立てて口を離した。

『んあっ♪』

ジェシカは口を開けてウィルにウィルの出した白い液体見せてからゴクリと飲み込んだ。

『ふふふふふふ♪ごちそうさま♪♪』

『僕、どうなっちゃったの??』

『ハジメテだったかなぁ〜?ふふふ♪嬉しいなぁ〜♪♪ウィル君が出した白いのは精子って言うんだ♪♪男の子がキモチイイと出るんだ♪……それじゃ、しよっか❤』

例によっていつの間にかハダカになっていたジェシカが頬を染めている。抜群のプロポーション、熱を持ったほんのりと薄く色づいたジパングのサクラの花のような肌に豊かな胸。何より男性と女性を決定的に隔てる女のソレはもう濡れそぼっている。

ジェシカのハダカを見てウィルは劣情と性欲と恥ずかしさから顔を真っ赤にするのと同時に、ある感情を抱いていた。

『や、やだ……怖い……怖いよぉ……』

それは恐怖。

ジェシカが身に纏う女の臭いがウィルを怖がらせた。

ウィルはこれからすることを何か知っていた。母親が顔も知らない男とシていた事だ。母親が身に纏っていたその臭いも嫌だった。その臭いがする時、必ず母親はウィルに暴力を振るった。ウィルを見る冷たい目も嫌だった。捨てられるのではないか。ジェシカとシてしまったら彼女もそうなってしまうのではないかと震えていた。

そんなウィルの怖いと言う感情を察知したジェシカは、その豊かな胸にぎゅっと抱きしめて、額に唇を落とし、ウィルの目元から落ちる星の雫をそっと指で拭いた。それからまたぎゅっと抱きしめながら耳元で優しく囁いた。

『ゴメンネ……怖かったね?どうしたんだい?』

『僕、これから何をするのか知ってる。……それをすると女の人はイジワルになるんだ。母さんはお酒を飲んで僕を叩くんだ。』

『大丈夫……ワタクシはウィル君を絶対に悲しませない。愛する旦那様にそんな事は絶対にしないよ。これからずっとずっと一緒。それこそイヤでも一緒にいてもらうさ。……嬉しい時も、悲しい時も、良い時も、悪い時も、辛い時も、苦しい時も、ずっと一緒。キミとなら幸せでも不幸せでも何でも良いんだよ。だから……ねぇ、笑って?ワタクシは道化師。知ってるかな?皆を笑顔にするのが使命なんだよ。だからそんな悲しい顔をしないで?その涙で胸が痛いんだ。』

ジェシカの目から一筋の流れ星のような光が落ちた。

『本当に家族になってくれるの?』

『ホントだよ。』

『本当に本当?』

『ホントにホント。』

『本当に本当に本当に本当に本当???』

『ホントにホントにホントにホントにホントだよ☆』

『約束だよ?』

『約束するヨ♪♪』

今度はウィルがジェシカの頬に流れる雫を拭いた。それが終わるとウィルはジェシカを押し倒した。

『ジェシカ……僕の家族になって下さい。』

『喜んで♪……さぁ、ウィル君の好きにして❤』

ウィルはジェシカのソレに自身を当てがう。もどかしいムズムズとしたもどかしい感覚が2人を包む。やがて少年は冒険者のようにその入り口を探り当てた。

『そう……そこダヨ……そのままゆっくり腰を落としてご覧??』

『う……うん……』

ずちゅっ……!

ジェシカの中は熱く、トロトロの愛液で溢れていてウィルを歓喜を持って歓迎した。その歓迎はエゲツないの一言で、柔らかいヒダの一枚一枚、ツブのひとつひとつがまるで意思を持つかの様にウィルに吸い付いてはやわやわ翻弄している。 

『『んんんんっっっ!!!(❤❤❤』』

一度出していなければ入れた瞬間に果てていただろう。

『ふふふ♪♪いらっしゃい❤❤……やっぱり膜はなくなっていたわねー……すこーしザンネン♪ま、キモチイイからいっか☆』

『あー……あぅー……』

ジェシカが目を下に向けると、ウィル少年が胸の谷間に顔を埋めて蕩けた顔をしている。その表情は彼女の中の劣情の火に油を注ぎ入れた。キュンとお腹の下……子宮が疼き、コプリと愛液を吐き出しながら降りてくる。

『ねぇ?キモチイイ??』

『きもち……い……い……』

『ふふふ♪♪ワタクシもっ❤』

飄々としている様に見えてその実、ジェシカの方も退っ引きならないところまで追い詰められている。目の前、眼下で頑張っている少年が愛おしくてたまらない。

『ねぇ♪そのまま腰を引いて……』

ぬちゅ……

『んっ……あっ……』

『やっ❤……推し付けてごらん?』 

ずっちゅっ……

『あー……』

『んんっ❤❤じょうず♪♪』

拙いながらも腰をい動かしていく。段々と慣れてくるにしたがって、水遊びのような音と2人の息遣いの間隔が短くなっていく。

『ジェシカ……すき……しゅきっ……』

『ふふふ♪♪女の人に好きって言ったらねぇ??ちゃ〜んとセキニン取らなきゃダメ❤❤』

ジェシカはウィルの腰に脚を絡ませて引き寄せて左手は背中に、右手は頭の後ろに。いわゆる " らいしゅきホールド " でしっかりと抱き抱えるように、しっかり密着するように、絶対に逃れられないように優しく押さえ付けた。

『ジェシカぁぁ………』

ウィルは動けないもどかしさと安心感の狭間で身体と心はぐちゃぐちゃになっていた。

『ウィル君……ツカマエタ❤』

にゅぱっ……ぱくっ……はむ……はむ……

ジェシカの子宮が降りて来てパクンとウィルに食い付いた。

『ああー!ナニコレ!!ナニコレぇぇぇええ!!』

オーギュストはクラウンに捕ってしまった。

ジェシカはもうウィル少年が欲しくて欲しくてたまらない。その瞳は愛と歓喜と欲望と独占欲で煮えたぎった窯のよう。

欲望と狂気のままジェシカの子宮はウィルの精を求めた。

『ウィル君♪ウィル君♪あっ❤がまんし❤ない❤でぇっ❤❤ワタクシに全部♪♪ぜーんぶちょうだい❤❤』

『あっ……っ!!ーーーーーーーーー…………』

びゅくっ!!………どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく

『あっ❤きたっ❤……きたきたきたきたきたきたきたきたきたきた❤❤❤❤』

ビクンと2人の身体が大きく跳ねてそのままダラんと力が抜ける。時々ぴくりと痙攣するだけ。溶けてしまうような絶頂。それでも魔物娘の本能だろうか?ジェシカの子宮はウィルを解放する事は無く、彼の命のスープを一滴残らずその中に飲み込んでいる。

少し痙攣が収まってきた頃、微睡に落ちそうなウィル少年の額にジェシカは『素敵な夢を♪♪』と囁いて唇を落とした。そうして目を閉じたウィルは安らかに幸せそうな顔で淫夢の中に旅立った。

いつの間にかウィル少年の下腹部、お臍の下の辺りには紫色に光魔法陣が浮かんでおり、ジェシカの下腹部、丁度子宮の真上にも同じ魔法陣が浮かんでいた。その魔法陣を使ってジェシカはウィル少年に貰った人間の精を魔力にして注ぎ、世界にただ1人の恋人を丁寧に丁寧に自分色に染め上げ、作り変えてゆく。彼女専用のインキュバスへと。

それが終わるとウィル少年を起こさないように撤収の準備を始める。指を鳴らして一瞬で元の服に着替えて、ウィルを毛布で包み、魔法で出したベッドを始め、あらゆるものを片付け、転移用の魔法陣を地面に書いた。

その時……

ガシャッ………

『おい!クソガキッ!!……な、なんだよアンタ!!』

酒瓶を持った母親が物置きを開けた。殴るつもりだったのだろうか?酷く酔っていたが、ジェシカを見るなり慌てふためいた。

『コンバンハ……ウィリアム様のお母様でございますね?ワタクシはジェシカと申します♪』

丁寧な言葉使いで宮廷風の礼をする。しかし、ジェシカがウィルの母親を見る目は湖も氷そうなほど冷たいものだった。

『ウィリアム様をお迎えに参りました♪もうこちらに戻って来る事はございませんし、二度と会う事も無いでしょう♪』

『ハァ??アンタ何勝手な事……』

ジェシカは瞬間に怒りを放った。魔物娘ボーギーの性質かジェシカ個人の人間性か、笑顔を作る事を生業とする彼女はもしかしたら今この時生まれて初めて本気で怒ったのかも知れない。

『黙れっっ!!!この子は……道具じゃないっ!!ウィル君はっ!オマエの所有物なんかじゃないっ!!!』

ウィルの母親はジェシカの怒りと溢れ出た魔力の前にペタリと膝を折ってしまった。

『アナタがココまでこの子を不幸にシテおいて、母親と名乗る事はワタクシが絶対にユルサナイ!!この子は……ウィル君はワタクシが幸せにシテ見せます!!……この子は幸せにならなければいけないのデス!!』

毛布に巻かれて眠るウィル少年を抱き上げてジェシカは指をパチリと鳴らした。床の魔法陣が輝いた。

『道化師は退場いたします♪ご機嫌よう♪♪サヨウナラ☆』

道化師と少年は寒空の彼方に消えた。






それから10年後……

街にサーカスがやってくる。

新世紀まであと数日♪この100年の悲しい事や辛い事♪みーんな笑って忘れよう♪♪ 私共は愉快な一座♪♪きっと素敵な一夜の夢を♪あなたの為に至高の芸を♪そして皆んなに享楽を♪

愉快な音楽と共に街にやって来た一座は、そのような謳い文句と花とビラと笑顔と笑いをまき散らして、ほんの少しの恐怖とひとつまみの狂気を連れてパリスの街を練り歩く。

パレードの中には2人の道化師。赤と青の女のクラウンと、黒い仮面にスラリとした影のような男はオーギュスト。超一流と名高いサーカス団、シルク・ド・エトワールに2人の道化師は無くてはならない存在だ。

吊られた王女に鳴かないカナリヤ♪ひとりぼっちの羊飼い♪破れたシンバル壊れたピアノ♪さあ、みんなで歌おうか♪きっと今日は素晴らしい♪誰も何の役にも立たない日♪♪

ある人は楽しそうに、ある人は怖いもの見たさに、ある人はまやかしの光に誘われて、そのパレードを賑やかに見ていた。

そんなお祭り騒ぎの中で1人だけ悲しそうに涙を流している小さな女の子がいた。

2人の道化師はその女の子の前に行くと真っ赤な風船とキャンディーを差し出して涙をそっと拭いてあげた。



『『ねぇ、笑って?』』




おわり。
22/04/01 22:17更新 / francois

■作者メッセージ
お読み頂きありがとうございます。
綺麗なショタを書きたかったのよ。ホントーに。
舞台は1880年代後半から1900年初頭の紅茶とロックで有名なあの国です。
最近ユーロ抜けましたね?
その頃の雰囲気が出て居れば良いなーと。。。
ご意見ご感想に罵詈雑言、作者への苦情は感想欄までお気兼ねなく。

ではまた〜

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