連載小説
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Yes/No枕
世にYes/No枕と呼ばれるものが、ある。
使用者がパートナーに対し、性行為の意思があるかどうかを枕の裏表に書かれたYesかNoで表示するのだ。人間の世界ではある程度その存在が認知され、真偽のほどは別として使用されてきたものであるようだが、魔物娘がそこらここらで愛を囁き腰を振る世界で、その存在意義があるのかと問われればはなはだ疑問である。

だが、何事も性行への情熱が一入である魔物娘たち。

そんな彼女達が、魔物娘たちだからこそできる利用方法でYes/No枕を使い始めるのに、そう時間を必要とはしなかった。




…………




就寝前に歯磨きや用足しを終え、寝室へと利一は向かう。
布団を敷き、自分を待ちわびてくれているであろう妻とのめくるめく甘美な夜を想像し、自然と足早になった。
「おまたせ〜、春代」
「………はい。」
「あれ、どうしたの…ってそれは」
部屋の真ん中に敷かれた、ラミア用の大きな布団。
その真ん中に、春代は利一へ背を向け俯きながら座っている。いつもであれば待ちわびたといわんばかりに淫欲に頬を火照らせ、満面の笑みで迎えてくれるのだが、今の彼女は布団の上に置かれたあるものへと視線を向け、まるで何かを耐えるかのようにじっとしている。いつもらしからぬ春代の行動を疑問に思いつつ、彼女が何を見ているのかその視線の先へと目を向けるとそこには――—

「Y、Yes/No枕」
普段は押し入れの奥底に入れられているはずのYes/No枕が置かれている。
「………はい♡」
しかも、青地に白でNoと書かれた面が表になって―—置かれていた。
「Noで、いいんだね?」
「はい。よろしゅうお願い…します♡」
低く小さな声で尋ねると、妻はぶるりと小刻みに体を震わせ僅かに頷いた。

「ッ春代!!」
「ひゃん♡」
利一はたまらず、春代に飛びつき背後から力を込めて抱きしめる。
そして普段では絶対しないような荒々しさで帯を緩め、襦袢の襟を肌蹴させ、かぶりつくように露出した乳房を握りしめる。たっぷりと中身がつまり、美しいお椀型で一切重力に負けない愛妻の胸は、こうされることを期待していたのか既に乳首は固くなり、肌はしっとりと汗ばんでいた。背後から胸を痛くならないぎりぎりの力で荒く揉みしだきながら双胸を中央に寄せ、乳首同士を押し付け合い春代の興奮をより一層煽るようにぐりぐりと擦り動かしていく。

「もうこんなにしちゃって…そんなにこうされるのを期待していたんだ。」
「そ、それは…」
「そ、れ、は?んちゅ、ちゅぅ」
「ひゃぁ耳、耳を舐めんでく、ださ…ひん♡」
真っ赤に染まった妻のエルフ耳を口に含み、問答無用でじゅるじゅると舐めていく。
「そんなこと言って、ちゅっぷ、嫌じゃないんでしょ?その証拠に、ほら」
「うぅ♡」
「さっきよりもガッチガチに乳首が充血して、触ってほしいってアピールしているよ。まったく普段はあんなに貞淑な奥様だっていうのに、淫乱だね春代は。」
「だ、旦那様だけやもん♡…うちがこんなになるんは、ひゃぅっ…淫らになるんは旦那様の前でだけやもん!」
まるで子供が駄々をこねるように首をふって恥ずかしそうに言葉を零す春代の愛くるしさは、利一をますます燃え滾らせていく。
「なら責任を取ってよ。」
「ふぇ?」
抱きしめていた手を緩め下着ごとズボンを脱ぎ捨てながら立ち上がると、解放された春代はどこか残念そうに声をあげる。

「春代がそうやって誘惑してくるからこっちもさっきからパンパンに勃起して苦しくってね、痛いくらいさ。」
「え、きゃあ♡」
胸からの快楽でどこかぼんやりとしていた妻の前に回り込み、男根を突き付ける。
まるで春代に否があるように口にしてはいるが、愛する妻を愛撫していてインキュバスの夫が平常心でいられるはずもなく、利一は下半身を熱く滾らせていた。亀頭の傘は見せつけるように力強く開き、尿道はうっすらと先走り液を滲ませ、押し付けられた春代の白磁の如き美しい肌をべたべたと汚していく。まるで大切な美術品を汚しているような背徳感が堪らなく利一の欲情を燃え盛らせた。
「さあ、春代。」
「は、はい♡」
「舐めて?」
「………♡」
利一のどこか高圧的な言葉に無言で息を飲んだ春代は、ペニスをうっとりと見つめつつ、頬についた先走りをその細指で拭い取りちゅぱちゅぱと舐め終えるとそっと両手でペニスを掴み、顔を近づけ深く深呼吸をした。そしてぶるぶると小刻みに震えながら小さく可憐な軟舌でぺろぺろと犬のように舐め始める。

ぺちゅ、ちゅぅ、むちゅ、ちゅっく
仁王立ちした利一の股間へ必死に顔を埋める春代の頭をそっと撫でる。
顔だけにおさまらず肌蹴た胸元まで真っ赤に紅潮させ、一心不乱に剛直への愛撫を施す春代は、その絹のような髪や形のいい丸い頭を撫でられると、いとも嬉しそうに鼻から息を零し、一層フェラチオに集中する。剛直の太い幹の根元から、敏感な裏筋、磨き上げられたような、いや実際彼女がその身と愛液で磨き上げた亀頭をまるでご馳走のように彼女はむしゃぶりつき貪っていく。

そこには普段の貞淑な姿は影一つもなく、本能に突き動かされた浅ましい一匹の魔物娘の本性しかなかった。

「ああ、気持ちいいよ春代。」
ある意味、利一以上にペニスの快楽の壺を知悉した春代の愛撫に堪らず声が漏れてしまう。
「んちゅ…ずちゅぅちゅう♡」
その声からあまり自制が効かないと察知した春代は、うっすらと涙の浮かぶ両眼をそれまで以上にとろんと蕩けさせ、ペニスを一気に根元まで飲み込み、まるで精子一匹すら逃さないと言わんばかりに強く、強くバキュームを始めた。喉奥がきゅうっと締まり、空気が美しい鼻梁から抜け、真空のようになった柔らかい頬肉や軟体のような舌がペニスをしつこく射精へを導こうと蠢く。

「おっと、そこまで。」
「ん…ちゅ、ちゅっぷん…だ、旦那様ぁ♡?」
ここで一度射精しても良いかと思ったが、今日はとことん春代の子宮を自身の精液で満たし、彼女のもっとも神聖な聖域を汚したいという思いで必死に射精を我慢し、妻の顔を両手で抑え渾身の力で腰を引きペニスを解放した。カウパー液と唾液をべっとりと纏い、もっと快感を貪りたいと赤黒く膨張する亀頭から太く泡立った液体の橋がかかり、春代の荒い息で音が聞こえるかのようにぶっつりと切れる。
「なんだか今日の春代におま○こ以外で出しちゃうのはもったいない気がしてね。」
「ふふ…旦那様のす・け・べ♡」
にちぃ…くっぱぁ♡
利一の言葉を聞いて、それまでとは違う繁殖を期待する発情の色をその瞳に色濃く滲ませた春代は、静かに襦袢を脱ぎつつ身を布団へ仰向けに横たえたかと思うと、蛇の下半身と人間の上半身の境目にある、すでに愛液を布団に滴らせるほど垂れ流している陰唇を両手でゆっくりと開き、利一に懇談する。

「なら、旦那様が欲しくてどうしようもないうちのお○んこ…徹底的に可愛がってくださいぃ♡」
「ああ、勿論…だ!」
ちゅくぅ…ジュク、ヌチュゥにゅるるぅ
「あぁ♡!!!」
横たわる春代へ覆いかぶさり、女性器へ一気にペニスを挿入する。
襞が折り重なったようなねっとりと絡みつくヴァギナを開ききった亀頭で我がものの顔に突き進み、こりこりとした感触の子宮口へがつんと男性器を突きたてる。胸の愛撫やフェラチオ奉仕による満足とは異質な、淫欲の渇きを唯一満たしてくれる性行為の快楽に、春代は喉を反らして震え、嬌声をその美しい口唇から淫らに垂れ流す。
「入れただけでイっちゃったのかい、春代?」
「だ、だってぇ…あンッ、だ、旦那様のおち○ちんでうちの赤ちゃんの部屋ぁ、ゴンってノックされたら…我慢なんてでけへんもん♡おかしゅうなってまう♡」
「じゃあこのまま動かずにじっとしていようか。」
「いやや、そんなん…生殺しや」
「なら、どうしてほしいか言ってごらん?」
「ふぅん、だ、旦那様ぁ♡」
「なんだい」

「旦那様のおちん○んで…うちの節操無いおま○こ、めちゃめちゃにしてください♡」

ねっちゃぢゅっちゅにちゃにちゃにちゃ
その春代の声が終わるか終わらないかを待たずに、利一は激しく腰を振り始める。
体重をのせ、恥骨をがつがつとぶつけるようにピストンを繰り返した。両足の指で布団を噛みしめ、浮かせた腰に満身の力を込めて振り下ろす。それは理性を失った獣の交尾のように荒々しく、ただひたすらに快楽を求めているセックス。多くの魔物娘の夫婦がしている当たり前のセックスではあるが、ラミア属の夫婦ではあまりない、我武者羅に腰を振るセックスだ。

そうやって日頃、蛇の下半身に抱きしめられて行う性行為と違う実に能動的なセックスに夢中になりつつ、利一は初めて春代がYes/No枕を持ち出した日のことを思いだしていた。










「Yes/No枕って本当にあったんだね。」
「ええ。ほら、前に話した商店街の布団屋さんが趣味で作ったんを偶々譲ってもろうたんです。」
初めて目にした枕を弄繰り回しつつ、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「Yes/Yes枕ならまあ、まだ分からないこともないけど…Noって側を使うことってあるのかな。」
「ああ、それは…」
「だってNoってことは、今日あなたとはセックスしませんってことだもんねえ。春代は…」
「勿論、そんなことありえません。旦那様とのセックスをいややなんてことは!!」
「ですよねー」
鼻息荒く春代が力説する姿にどこかほっと安心する。

「でも、だからこそ気になるんだよ。じゃあなんで春代はこの枕を譲り受けてきたの?」
「そ、それは」
「うん?」
「布団屋さんの奥さんに教わったんです。」
確か布団屋さんの奥さんは大百足で、やや太めの旦那さんを献身的に愛している人だと利一は春代から聞き及んでいた。
「い、いつもは百足の下半身で夫を抱きしめ牙を突き立てて毒を注入し、どちらかといえば自分が主導権を握っているけど…自分がこの枕のNoを表にしていたら一切抵抗しないから自分をしっかりと犯してくださいって…二人だけの暗号にしているんだと。」
「え?」

「『狐の里』の稲荷の奥さんや、素直になれないヴァンパイアの奥さんもこれを利用して、時折普段とは違うセックスを楽しんでいるから奥さんもどうですかって…」

その話を聞き、もし春代の場合ならと妄想してみる。
いつも利一は春代の下半身に絡み取られる受動的なセックスを行うことが多い。それはおおよそのラミア種を妻に持つ夫婦ならそう珍しいことではないと、思う。そんな普段のセックスとは違う、自ら腰を振り、春代を責めよがらせる能動的なセックス。確かにそれはとても魅力的に思えた。おそらく春代も、説明を聞いて同じ行為を想像したに違いない。そしてこの枕を貰ってきたということは―――

「なるほど、でもそれなら口で言えば済む話じゃ…」
利一の疑問を聞いた春代は、耳まで真っ赤にさせ両手で顔を覆ったかと思うと、俯きながら弱弱しげに呟いた。

「うちだってだ、旦那様とそういうセックスはしたい…けど、そんなはしたないお願いをして旦那様に嫌われたらいややもん」

春代の一言はとても破壊力のあるものだった。
仮に春代が口にしたところで、利一がそれをはしたないと思うとか嫌いになるなんてことは万が一にありえない。むしろ魔物娘である妻であれば自然なことと思うだろう。しかし、彼女はジパングの魔物娘であり、奥ゆかしい白蛇。恥じらいと献身を持って愛を貫く女性なのだ。だからこそ、こうやって羞恥に身をもだえ、躊躇いながらも快楽を求める意思を枕に託して、荒々しく抱かれることを待つ。

そんな春代を想像するだけで奇妙なほど興奮していることに利一は気付いた。

「利用方法はよく分かったよ。」
震える手で枕を掴み、春代へ手渡す。
「理解したうえで聞くね。春代は、どうしたい?」
受け取った枕を何か大きな決断をするようにぎゅっと胸にかき抱いたかと思うと、春代は顔を真っ赤にして俯きながらこちらに枕を差し出した
「……♡」
Noの側を、表にして―――



こうして二人の間に秘密の合図が出来上がった。
どこか幼稚で、だが二人だけの秘密という蠱惑な甘味。そしてその後に行われる動物的なセックスによる快楽は堪らなく夫婦を魅了した。

だが、貞淑な妻である春代はそれだけに囚われることはしない。

だからこそ、偶に行うこの快楽へ全力で溺れることができるのだ。


こうして山田夫婦のイレギュラーな愛の一夜は、めくるめくエクスタシーと共に更けていくのだった。


20/02/16 09:00更新 / 松崎 ノス
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■作者メッセージ
とあるイラスト投稿サイトで、白蛇さんがYes/No枕を使っているイラスト(そのイラストは枕をこのSSのように使用をしていません)を見て、それまでぼんやりと考えていた受動的なセックスをする白蛇さんの思い付きと結びついたので形にしてみました。

No(私は手を出しません)、時代によって言語が変化するように、魔物娘さんであれば既存の物も自分たちに会ったように変化させて使いそうだなあという妄想がこの話の根底です。

またこの話の中心に据えた恥じらい云々は、魔物娘を愛するその方によって違うと思うのではありますが、自分は特に白蛇さんや稲荷さんのようなジパングの魔物娘さんは、閨でどんなに乱れていたとしても、何十年と添い遂げていても、旦那さんの前では恥じらいを持っていたり貞淑であってほしいなあと思ってしまうのです。勿論、スイッチが入ってしまえば貪欲な魔物娘であってほしいものですが(笑)。

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