読切小説
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逆巻永愛
異性というのは、この世に数え切れないほどいるものだ。
しかし、自分と結ばれるのは、その中でも…たった一人。

「…壮観だな」

目の前の光景に、思わず胸の内が洩れる。
右を見ても左を見ても、男、男、男…。ざっと100人弱。
老若問わず、大小問わず、性格問わず、容姿問わず。
宝の山。そんな言葉が似合う、圧巻されるほどの男の数だ。

これが、今回私達が行った『男狩り』の成果。

「………」

『男狩り』とは、その名の通り、人間の男を狩ることだ。
ただ、狩りといっても、決して彼らの命を奪うわけではない。
人里を襲い、まだ女を知らぬ男性を頂戴してくるだけだ。
婿探し、と言ってもいいだろう。『男狩り』は恋人探しなのだ。

恋人探しならば、なぜ襲う必要があるのかと問う人間がいる。
それは魔物本来の姿…血に飢えた獣の証だと叫ぶ、早とちりな人間もいる。
彼らは未だに、なぜ私達が人里を襲うのか理解できていないようだ。

「…ふむ」

『男狩り』には二つの意味がある。

ひとつは、成人の儀式としての意味だ。
古来よりアマゾネスは、生まれながらにして戦士の宿命を授かった種族。
何者よりも勇敢で、強く、そして美しく。女戦士の祖とも云われている。
「深森の女戦士、剣を抱き生まれ、剣の下に眠る」という詩が示すように、
私達は幼い頃から戦士としての教育を受け、剣と共に育ちゆくのだ。

その中で『男狩り』は、戦士が一人前となったことを証明するための大切な儀式。
しかし、それを証明するのは、卓越した剣の腕前や洗練された武術などではない。

アマゾネスの戦士にとっての一人前とは、自分の想い人を見つけることだ。
剣を満足に振るえなくとも、自らの力で想い人を掴んだ者は、竜を討つ者より素晴らしい。
幸せを掴んでいるからだ。他の誰でもない、自分自身の手によって。
自ら幸せを手に入れられる者を、私達は一人前の戦士として称えるのだ。

「………」

もうひとつは、人間の男達に、男性のあるべき姿を教え込むためだ。
人間の社会においては、男性が剣を持ち、女性が家を守る立場となっている。
よって、私達が人里を襲うと、迎え撃ってくるのは男性の戦士である場合が多い。

それが如何に、私達にとって理解し難いことか。
男とはか弱い存在だ。持たせる刃は、剣ではなく包丁であるべき。
しかし彼らはそれが分からない。男は戦うものだと思い込んでいる。
だからこそ、まずはその凝り固まった思想を打ち砕く必要がある。
勇猛果敢に。されど、その珠の肌を傷付けることのないように。
私達は幼い頃より鍛えた剣の腕をもって、彼らの間違った男性像を矯正する。

こうすることで、男達は己の弱さを知る。
最初こそ、彼らの中の概念が破られたことで、落ち込んではしまうものの、
私達の夫として生活することで、次第に正しい男性像を身に付けていく。
料理を作ったり、編み物をしたり、おしゃれをしたり、子供を育てたり…。
それが彼らの新しい自信、生き甲斐となり、幸せを感じるようになる。
『男狩り』は、人間の男性を正しい方向へと導く矯正術でもあるのだ。

「………」

さて、その『男狩り』を終えた今。
私もこれで一人前の戦士かと言えば、そうではない。
先にも述べたように、想い人を見つけて、初めて一人前なのだ。
いくら『男狩り』に参加しようと、意中の相手を見つけられねば意味がない。

そのことを、身をもって示している戦士もいる。
あそこにいる、前髪の長い彼女。目付きが異様に鋭い戦士がいるだろう。
彼女はもう、30回近く『男狩り』に参加しているらしいが、未だに未婚だ。
聞いた話では、昔に自分を負かした勇者の男性に惚れ、探していると云う。
尻に敷かれるのが好きなタイプなのだろう。まぁ、中にはああいった者もいるのだ。

「…ん」

特殊な例はさておき、誰しにも多少なり好みというものはある。
面喰いな者、性格で選ぶ者、家事の得手不得手にこだわる者、直感に頼る者…。
捕らわれた男達が様々ならば、選ぶアマゾネスも様々だ。十人十色、誰もが違う。
だからこそ、皆こうして慎重に…されど他者に奪われる前に、自らに合った夫を選ぶ。

逆に、珍しいケースではあるが、男の方から誰と結ばれたいかを申し出る場合もある。
それは選ばれた女性にとって、この上ない喜びであり、戦士としての誉れだ。

なぜなら、私達の最もたる好みは共通しているからだ。
「自分を好いてくれる男性と結ばれたい」。これが私達の想い。
些細なことで良い。ほんの少しでも、自分に興味を抱いてくれれば…。

「………」

…その僅かな想いを、今、私は感じた。
この少年から。ふと目が合った、この男の子から。

「…お前」

傍に近付く私に対し、身を縮こまらせる少年。
かなり若い。やっと性を覚え始めるかというほどの子供。
衣装も一般的な人間のもの。中流階級の子供だろうか。
この状況か、あるいは私に怯えているらしく、顔を伏せて震えている。

さて、どうしたものか。
大人しい成年が好みの私だが、幼ない夫も範疇ではある。
家事ができないのは目に見えているが、それはそれ。教え込めばいい。
子供の方が覚えも早いし、面倒見良く育てれば、素直で恭しい夫になる。
将来像を見越して考えれば、中々に理想的な相手と言えるのではなかろうか。

それに、この子は私と目が合った。私を見ていたということ。
偶然かもしれないが、それを運命と考えるのも悪くはないだろう。
目と目が合って、恋に落ちて…。ロマンチックだ。非常に好い。

「私と来い…。今日からお前が、私の夫だ」

契りの言葉を交わし、小さな恋人の手を取る。
びくりと、顔を上げこちらを見る彼。恐ろしいものを見る表情で。
無理もない。彼らは、誰とも知らぬ相手と付き合う習慣がないらしい。
そこもまた、私が彼に教えてやる必要がある。一から十まで、一つずつ。

私は彼の指を縛る縄を解き、抱きかかえた。
人間の間では『お姫様ダッコ』と呼ばれているのだったか。
私達にとっては、夫と子供にしか行わない、愛情表現のひとつだ。
こうして手の中に宝物を携えることで、妻は深い幸せを得るのだ。

「…軽いな、お前は…」

私も今、それを存分に噛み締めていた。

これが幸せ。夫を手に入れたことの喜び。
なるほど、とても温かいものが胸の中を満たしていく。
剣の稽古で友に打ち勝った時とは違う。美味い料理を食べた時とも違う。

不思議な心地良さだ。いつまでもこうしていたいと思う。
これが常々、師が熱く語っていた『恋』というものか。
あそこに見える戦士も、どうやら想い人を見つけたようだが、
私も彼女と同じ、あんなに惚けた表情を浮かべているのだろうか。
鏡で見る私は、しかめっ面であることが多いのに…。

「…そう見えるか?」

腕の中の彼に、私は問う。
私は笑っているか。幸せそうか。

その問い掛けに、彼は驚いたようだった。
やはり笑顔ではなかったか…と思ったが、そうではないらしい。
彼は、じっと私を見つめた後…小さく頷いた。微かな声と共に。

きれい、と。

「っ!?」

どきりと、私の心臓が跳ねた。
その答えだけではない。彼が…私に微笑み掛けたからだ。
先程まであんなに警戒していた少年が、心を開いてくれたのだ。
私の想いが伝わったのだろうか。それとも、笑顔に釣られたのか。

しかし、この全身を震わせる感情は何だ。
これが『恋』だとするのならば、それはこんなにも敏感なのか。
彼が笑顔を浮かべただけで、心臓が張り裂けんばかりに脈を打つ。
幸せが溢れ過ぎて、気が狂いそうになる。躁を呼び起こす毒に似た症状。

私は彼から目を反らし、速足に自宅へと向かった。
両肩から響く、戦士達の門出を祝う拍手の嵐。けたたましく。
だが私の耳には、その轟音すら届かない。そよかぜと同じ。
頭の中に、それ以上の嵐が吹き荒れていたからだ。彼に惑う想いが。

「…なるほど」

冷静を保とうと、私は声に出しながら、ひとり納得した。

思い出されるのは、集落の広場に置かれた舞台。
一人前となった戦士達が、夫との契りを皆に見せつける場所だ。
アマゾネスは、他者に自らの所有物を自慢することで、そのものへの愛を示す。
私達にとっての一番の自慢とは、もちろん夫。皆これでもかと見せびらかす。

そこでは昼夜問わず、誰かしらが夫婦の営みを行っている。
嬌声は集落中に響き渡り、未熟な戦士はその声を聞いて舞台に集まる。
淫らに乱れ、幸せそうに混じり合う夫婦。見つめ、胸を焦がす未熟な戦士達。

その中に紛れていた私は、常々疑問だった。
舞台の上で激しく躍る彼女達は、私の知る限り、誇り高い戦士だったはずだ。
それがどうだろう。男と交わると、皆々表情を蕩けさせ、卑猥な言葉を叫んだ。
あまりの落差に、私は愕然としながらも、疼く想いを抱いたのも確かだった。
自らの情欲を慰めながら、どうしてだろう、どうしてだろうと、ずっと考えていた。
何度と達しても分からなかった。自分の指では、何十、何百と達しようと…。

「これが男か…」

分かる。こうして彼に触れて、初めて分かった。
夫が為す一挙一動に、私達はどうしようもなく悶えてしまうのだ。
それは戦士としての誇りさえもかなぐり捨てさせるほど、強烈に。

彼らは可愛いのだ。とても愛い。
恐らくそれは、妻にしか分からないものなのかもしれない。
もしかすれば、彼らは無意識に妻へとだけ見せているのかもしれない。
どちらかはともかく、私も彼から、それを恐ろしいまでに感じている。
私を見つめる、つぶらな目。戸惑うような、見惚れているような瞳。
もっと見てほしいという想いと、これ以上見ないでほしいという想い。
ぶつかり合い、歪み、私の心をぐちゃぐちゃに掻き混ぜてくる。

「………」

出来ることならば、ここで彼の服を破り、犯してしまいたい。
しかし、それだけは我慢する。我慢しなければいけない理由がある。

人間というのは、行為を誰かに見られることを非常に嫌がるのだ。
そのため、いきなり人前で服を剥ごうものなら、泣き出す者さえいる。
顔を真っ赤に、身体を隠す姿も、それはそれで可愛らしいものなのだが、
恋人が嫌がることを行うのは、誰しもが避けて通りたいと思っている。

だから、少しずつ慣らしていく必要がある。
まずは夫婦で、性行為自体への恥ずかしさを失くしていく。
次に、家族…主に両親へと、愛し合う子供達の姿を見てもらう。
そして親戚、友達と範囲を広め…行き着く先が、広場の舞台だ。
夫が元よりそのような趣向があるのなら、この手順を踏む必要はないが、
彼にその性癖はないだろうと思う。大人しい子は、大抵恥ずかしがり屋だ。

「…そうだ、お前…」

家はまだか。早くこの子と愛し合いたい。

速まる足。歩くというより、駆ける。駆け抜ける。
長年付き添った剣を落とそうと、今の私では気付けない。
この子さえいればいい。この少年さえ抱いていれば。

出会ってから、ほんの僅かしか経たぬ時。
本当か、本当に僅かな時しか経っていないのか。
まるで千年もの時の間、恋焦がれていたかのよう。
一目惚れ。急直落下。一秒毎に、一年分の愛が実り咲く。

「お前、名前は…?」

再び問う。彼の方は見ない。
見れば、一年分が千年分に切り替わる。
そうなれば、私は彼を獣のように喰らうだろう。

彼は、私の腕の中で小さく動いた後。
身を切る風の音に消え入りそうな声で、答えた。

「…ソラ、か…」

あぁ、良い名前だ。ソラ。ソラ…。

ソラ、お前はきっと良い夫になる。そうさせてやる。
世界一幸せな夫になれるよう、私が妻として力を尽くす。

洗濯をする時、あまり石鹸は使うな。肌が荒れるといけない。
料理で刃物を扱う際は、声を掛けてほしい。お前の指が切れては一大事だ。
髪は短く、男らしくしよう。服は私が買ってきてやる。好みの服を教えてくれ。
犬は好きか。猫の方のが好みか。狸でも、狐でも、狼だろうと捕まえてこよう。
趣味は何だ。好きな料理は。好みの女性像は。他にも、あれや、これや…。

「ソラ…」

ソラ、これが新婚というものらしい。
凄まじいな。お前のことばかり気になってしょうがない。
お前はどうだ。お前も、私のことが気になっているのか。
だとすれば、とても嬉しい。嬉しくて、嬉しくて…。

「…好き…♥」

もう…。

……………

………



…気が付けば、私は自宅の前に立っていた。
乱暴に扉を開け、自分の部屋へと向け一直線に走る。
お母さんとお父さんの声が聞こえたような気がしたが、無視。
応えている余裕がない。それよりもずっと大切なことがある。

私は部屋へと駆け入り、すぐさま扉を締めた。
バタンッ、と響く戸の音と共に、少しだけ落ち着きを取り戻す心。
深呼吸をひとつ、歩を進め…彼を丁重にベッドの上へと下ろす。
彼の体重に、小さく軋んだ音を立てる木造りの寝具。軽い彼。
まだ状況が飲み込めていないのか、心配そうな顔でこちらを見ている。

「………」

逸る気持ちを押さえ、ベッドに片膝を置き、彼との距離を縮める。
近付く身体に、少し後ろへと逃げる恋人。心の距離に、ちくりと胸が痛む。

まずは彼を安心させようと、私はその小さな頭に手を添えた。
上目でそれを見る彼に微笑み掛け、円を描くように優しく撫でる。
目を細め、受け入れる彼はまるで猫。可愛い子猫。愛おしい。
彼の緊張がほぐれるまで、ゆっくりと、時間を掛けて撫で続ける…。

「…ふふっ…♥」

洩れる笑み。頬が火照るのを感じる。

私は彼の様子を窺いながら、そっと自らの衣服を解いた。
はらりと落ちる、服と呼ぶには寂しい、戦士の身衣。
胸と秘部を覆う布地が払われたことに、彼もすぐさま気が付く。
目を見開き、凝視される恥部。恥ずかしさと悦びが、私の胸をくすぐる。

そうだ…。もっと…、もっと見てくれ…。
お前だけの身体を…。お前を愛する私を…。

「あっ…」

しかし、彼は顔を真っ赤にして、そっぽを向いてしまった。
いきなり裸になるのは、彼にとっては少々下品だったか…。

ここで私は、ふとある疑問が思い立った。
そもそも彼は、性に関してどれほどの知識があるのか。
反応を見る限り、異性の裸さえ初めて見るように思える。
ならば、まず性とは何なのかを教える必要があるのではないか。

「…ソラ…」

呼ぶと、ちらりと…横目でこちらを見る彼。
私の裸を見ないようにしているのか。可愛いものだ。

ひとまず、私は彼に対して性とは何かを教えることにした。
と言っても、性というものを言葉で教えるのは非常に難しい。
私自身も、師と彼女の夫のまぐわいからそれを習ったのだ。
言葉で伝えるよりも、実際に行動で教えた方のが分かりやすい。

そのためには…。

「お前の服、脱がしてもいいか…?」

私の申し出に、彼は心底驚いたようだった。
必死で首を左右に振り、断りのサインを示す。

しかし、私も引き下がらない。
このままでは、彼と身体を重ねることができないからだ。
服を脱がなくとも行為はできるが、裸も見せられないようでは、
行為自体してくれるわけがない。それではさすがに困るのだ。

「約束する。痛くしない、恐いこともしない」

説得。なんとしてでも説得する。してみせる。
私は早く、彼と交わり合いたいのだ。舞台で踊る戦士達のように。

彼は見えているのだろうか。私の秘部が。
想いの余り、愛液が溢れて止まらない。まるでおもらし。
恥ずかしいさ。皆に行為を見せつけるアマゾネスにだって、恥はある。
夫にお預けを喰らっている妻が、如何に惨めか、情けないか。

「気持ち良くしてやるから…」

でも、お前だから。ソラ、お前だからこそ、私は恥を受け入れている。
お前に恥や痛み、恐怖を与えるくらいなら、自ら受けた方がマシだからだ。
アマゾネスの妻は、皆そう思うはずだ。夫に何かあるくらいなら、と。

あるものが欲しいからだ。
愛にも似た、その言葉。

「私を…信じてくれないか…?」

信頼。夫婦の間に、無くてはならないもの。

「………」

…長い沈黙の後。
彼は、横に向けていた顔をこちらに戻し…頷いた。

「…ありがとう…」

礼を述べながら。
私は彼の服に手を掛け、優しく脱がしていった。

慌てない。彼は恥ずかしさを抑えて、許してくれたのだから。
幼くも綺麗な胸が覗いても。くぼみが愛らしいおへそが見えても。
下着を下ろし…彼のいきり立ったペニスが、中から飛び出てこようとも。
渇く喉に唾液を流し込みながら、私は必死になって彼の身体の誘惑に耐えた。

「綺麗な身体だな…♥」

囁きながら、胸からお腹に掛けて撫でる。
甘い声を漏らしながら、反応する恋人。感度は悪くないようだ。

私は彼の乳首を口に含み、軽く吸い上げた。
チュゥ…という音に合わせ、ぴくりと跳ねる小さな身体。
まるで女の子のような反応に、ぞくりと肩が震える。
私は彼の背中に手を添え、少しだけ身体を反らし上げながら、
突き出た胸を丹念に味わった。幼く、瑞々しい少年の肢体を…。

「ソラ…。子供の作り方は分かるか…?」

空いた手を、彼の股間に添えると。
指先に触れる…熱く逞しい男のシンボル。
未知と興味の塊。愛液をとろりと垂らす肉棒。
彼のような少年でも、この部分は充分に雄を感じさせる。

「…男はここから、『精液』というものが出せるんだ…」

摘み、扱こうとして…気付く。

剥けていない。皮を被ったまま。
どうやら彼は、まだ亀頭を晒したことがないようだった。
となると、このまま剥けば、彼は痛みを感じてしまうだろう。

「………」

…考えた挙句、私は彼のペニスを口で剥くことにした。
唾液を絡ませながら剥けば、多少は痛みが和らぐかもしれない…と考えて。

胸に吸い付いていた口を離し、股間へと移る。
目の前に映る未熟な雄。青臭い匂い。早熟の果実。
閉じた皮の隙間から流れ出る液は、私を想う愛の滴。
皺の少ない、サクランボのような睾丸。薄く浮かぶ産毛。

しかし、私の動きに、彼は何をされるのか察したのだろう。
小さな二つの手を重ねて、反りかえるそれを隠してしまった。

「ん…」

見ると…彼は耳まで赤くして、羞恥の色に染まっていた。
一度は許してくれたものの、近くで見られるのは耐えられないらしい。
これはこれで好い反応だ。こういうウブな恥じらいは嫌いじゃない。

「…大丈夫だ。恐くない…」

私は彼の手を掴み、囁きながら…開くようにして壁を払った。
抵抗は無い。どうやら彼も、隠すのは本意ではなかったようだ。

再び眼前に姿を現した肉棒。皮被りのペニス。
これからされる行為を、待ち切れないと涎を垂らして。
私もだ。早く彼のモノをしゃぶりたいと、勝手に口が開く。
上も、下も。夫の味を知りたくて、覚えたくて、唾液が止まらない。

「…あむっ…♥」

しかし、幼い夫を前に、私ばかりが乱れるわけにもいかない。
私は落ち着きを装いながら、彼のペニスを根元まで咥え込んだ。

瞬間、口の中に彼の匂いが充満する。
濃厚な雄の匂い。鼻腔を抜け、脳の奥にまで響くほど。
異性のフェロモンに反応し、ツンと勃つ乳首。むず痒い。

「ん…♥」

私は上目で彼の様子を窺いながら、先端に舌を捻じ込んだ。
にゅるりと皮を分け入り、亀頭に触れる。感じる、しょっぱい味。
あまり奥の敏感なところに触れないようにしながら、
潤滑油代わりの唾液を流し込み、万遍無く塗り付けていく…。

「ちゅ…、ぢゅるっ…♥ ん…ちゅっ♥ ちゅぅ…♥」

まだ子作りの機能として目覚めていない性器。
呼び起こしていく。彼にとっては未知の感覚、射精感。
精液を吐き出す悦び。子種を植え付ける悦び。男として最高の悦び。
彼が最も幸せに感じるであろう瞬間を、私の手によって…。

「…んむ…♥」

ある程度、塗り付けを終えたところで。
私はペニスの先端を、唇で軽く挟み込んだ。

その瞬間が来たことを感じ、怯えた表情を浮かべる彼。
痛みがあることを知っているのか、あるいは直感か。
安心させるべく、私は彼のわき腹やお尻を撫でながら、
意識をそちらへ反らしつつ…根元へ向け、ゆっくりと顔を下ろした。

ゆるゆると剥けゆく皮。濃くなる匂い。
時間を掛けて、彼の痛みが最小限になるよう注意を払う。
しかし、それでもかなりの苦痛を感じるらしく、歪む表情。

思った通りにいかず、不安が脳裏を過ぎる。
もしや、私のやり方は間違っているのだろうか。
彼のためを思えば、一気に向いてしまった方が良かったのでは…。

「…ん…?」

そう思った時だ。

「んぐぅっ!?」

突然咽を打つ、熱い何か。
むせ返りそうなほどの苦味が舌を刺し、吐き出しそうになる。
幾度と注ぎ込まれるそれは、固形のような、液体のような…。

その正体には、すぐに気が付いた。
精液。精通を迎えた、彼の初めての精液だ。

理解した瞬間、あれほど苦かった味が劇的に変化する。
まるで蜂蜜のような、舌にいつまでも留まる濃い甘さに。
だというのに、いくら啜っても、舐め取っても、物足りない。
渇望。病み付き。中毒症状。飲んでも、飲んでも、飲んでも…。

「んぐっ♥ んっ…♥ んくっ♥ ぢゅるっ♥ ちゅ…♥ ちゅぅぅ…っ♥」

私は夢中になって、彼の幼いペニスに吸い付いた。
恥も忘れ、淫らな音を潜めもせずに、若い精を飲み干していく。
一滴すら残さない。尿道を舌先で刺激し、全て喉奥へと流し込む。

「ちゅっ…♥ ちゅぅ…♥ ん…♥ ちゅ…♥」

夢と見まごう至福の時。
初めての精液の味は、私の魂を桃源へと連れ去っていく。
身に、心に、彼の子種が沁み渡っていくのを感じる。

これが幸せ。夫を得る幸せ。こんなにも幸せなものなのか。
今まで感じた数多の幸せが、全て霞んで見えてしまう…。

「はっ…♥ ちゅ…、ぺろっ…♥ ちろちろ…♥」

ソラ…。

「…ハッ!?」

…気が付いた時には、もう遅かった。

彼は…泣いてしまっていた。
恥に耐えられなかったか、刺激が強過ぎたか、射精が恐かったのか。
いや、今重要なのはそこではない。彼を泣かせてしまった事実だ。
男を泣かせるなど、女にあるまじき行為だ。最低最悪の所業である。
何をやっているんだ、私は。あれほど彼のことを気遣おうと誓ったのに。

私はすぐさま行為を中止し、すすり泣く彼を抱き締め、何度も謝った。
自分勝手にやってしまったこと、恐がらせてしまったこと、他様々。
もう絶対にソラを泣かせるようなことはしない…という誓いを添えて。

「…すまない…」

最後に、そう呟くと。
ほんの僅かだが…彼は頷いてくれたように見えた。

「………」

…目元を押さえていた手を外し、こちらを見つめるソラ。
少し充血した瞳には、僅かな恐怖と…淡い期待が宿っているように見える。

見つめ合うふたり。瞳で。身体で。心で。
どちらからともなく、唇を差し出し…重ね合わせる。

「…んっ…♥」

一瞬の空白の後。
すぐに離れていってしまう、彼の唇。触れ合うだけのキス。
私達のファーストキスは、とてもシンプルな形で終わった。
しかし、唇に残る彼の感触は、柔らかく、温かく、愛らしく…。
私は思わず自分の唇に指で触れ、その瞬間に思いを巡らせた。

「………」

惚けている。彼も。とろんと落ちた瞳。
ふたりの想いが、結び付いてきているのが分かる。

私は膝を前に出し、互いの距離を縮め…唇を寄せた。
それに対し、硬直する彼。恥という名の美しさ。愛い。
そんな彼の肩を掴み、更に距離を縮める。息の届く距離まで。
でも、触れない。決して私からは触れない。彼の意思に任せる。
先程のキスのように。一方的なものではなく、互いの心を重ねて…。

「………ん…♥」

…恐る恐るながら…彼は私の想いに応えてくれた。
持ち上がる肩。強張る身体。焦ってはいけない。貪ってはいけない…。

自制を繰り返しつつ、私は彼の小さな口内に舌を差し込んだ。
もちろん、より深い口付けを交わすためであり、愛を確かめるためだ。
しかし、大人しい彼のことだから、そう易々と中には入れてくれないだろう。
少しずつほぐしていこう。彼は優しい。きっと、いつか私の全てを受け入れてくれる…。

「ちゅっ♥ ちゅ…、んむ…♥ んっ……ぅ…?」

しかし、意外なことに。
ソラは私の舌を、思いの外あっさりと受け入れてくれた。
それどころか、彼も私の肩を掴み、より深く唇を重ねてくる。

明らかな変化。この行動をどう見るか。彼に何が起こったのか。

「ん…、ちゅっ…♥ ちゅ♥ ちゅるっ…♥ ぺろ…♥」

…どう考えても、答えはひとつ。
彼が、私を求めているとしか考えられない。

弾ける想い。大きな幸せに包まれて。
嬉しくなった私は、夢中になって彼の口内を愛した。
口の端から、ふたりの混合液がこぼれ出す。それでも行為を緩めない。
愛して、愛して、愛して。幾度と愛しても、愛し足りなくて。
埋めては生じる隙間。満たされない想い。止まぬ口付け…。

「ふはっ…♥」

そう思っていたのに、いつしか離れる唇。
夫婦の口を繋ぐ、唾液のアーチ。きらきらと輝いて。

「ソラ…♥」

私は彼に跨り…そっとペニスに手を添えた。
縮こまっていたままだったらどうしようかと不安だったが、
先程のキスが功を奏したのか、それは大きく膨らんでいた。
ビクビクと跳ね、元気も充分。どうやら彼も待ち望んでいるようだ。

「私の…ソラ…♥」

待ち焦がれていた、ふたりがひとつになる瞬間。
それが目の前にまで迫ったことに、大きく高鳴る胸。

これで、私達は本当の夫婦に…。

「…入れるぞ…♥ 見ていてくれ…♥」

食い入るように見つめる彼の腰に手を置き…腰を落とす。
触れ合う性器。走る快感。まだ入れてもいないのに、達しそう。

「………あっ♥」

つぷり…。

「あぁぁ…っ♥」

微かな水音と共に、私の中を分け入ってくる彼のモノ。
純潔の証を破り、中程まで届いたところで…根元に付く。
結合部から溢れ出る、艶やかな愛液、紅く鮮やかな破瓜の血。
処女を散らした痛みよりも、彼と結ばれた幸せが私を包み込む。

これが…セックス…。

「っ…♥ ソラ…♥」

彼は、彼は感じてくれているだろうか。
同じ想いを。この同じ喜びを。私と同じ幸せを。

私達は、男と女でふたりだけれど。
ふたりでなければ、愛し合えないけれど。

今は、今だけは…。

「今…、私達……ひとつに…♥」

私の言葉に…瞳を潤ませながら、頷く彼。

あぁ…。
可愛い。どうしようもなく可愛い。
世界でたった一人の、私だけのお婿さん。
ずっと大切にしたい。いつでも喜ばせてあげたい。

もっと、幸せを感じさせてあげたい…。

「ソラ…ッ♥」

私はゆっくりと腰を動かし、愛の営みを始めた。

ほんの僅かに動いただけで、幾重もの襞が繊細に彼を感じ取る。
そのひとつひとつが、まるでクリトリスかのような強い刺激。
なのに、より彼にしがみついては、全身を擦り付けていく。
まるで彼を求めて止まない私の心を、体現しているかのよう。
より強く、より淫らに。彼のペニスを愛し貪る、私の膣内…。

「あっ♥ んっ♥ ソラッ♥ きもちっ♥ きもちいいかっ♥ ソラッ♥」

ぐちゃぐちゃと音を立て、愛液を撒き散らすふたり。
彼は快感に耐えるのが精いっぱいらしく、肌を紅潮させ、
アンアン鳴きながら、私とのセックスに酔い痴れている。

しかし、その可愛い仕草とは裏腹に。
私の膣内を抉る肉棒は、凶暴そのもの。まるで獣。
襞を強く突き、ゴリゴリと押し付けてきたかと思えば、
抜かれていく時に、雁首で特に敏感な部分を撫でてくる。

刺激は凄まじく、私も淫らな声を抑えることができなかった。
彼と一緒になって喘ぎ、セックスの魅力に呑み込まれてゆく…。

「はっ♥ あぁっ♥ んんっ♥ んくっ…♥」

…ふと。

「…?」

私は視線を感じて、後ろを振り向いた。

「っ!?」

僅かに開いた、扉の隙間。
そこから覗き込む、二つの影…。

お父さんと、お母さん。

「ひゃっ♥ あっ♥ な、なんでっ…♥」

いつの間に…という言葉を、必死で飲み込む。
ソラにバレてはいけない。彼は恥ずかしがり屋だ。
私の両親が覗いていることを知ったら、きっとまた泣いてしまう。

「んっ♥ ひぅっ♥ ひゃんっ♥ やっ♥ やぁっ♥」

私達の行為を、懐かしむような目で見つめるお母さん。
喘ぐ私に、どこか満足気な表情を浮かべるお父さん。
二人とも、どうやら最後まで覗いていくつもりらしい。

しかし…私は両親を追い返そうとはしなかった。
彼にバレるのを恐れたからじゃない。そうではなく…。

「あぁっ♥ ソラッ♥ ソラァッ♥ すきっ♥ ふぁっ♥ すきぃっ♥」

私は…感じていたのだ。
実の両親に、ふたりの愛の営みを見られて。

アマゾネスの血だろうか。
見られている興奮から、私の膣は更にきつく締まり上がった。
愛液は清水のように流れ出て、彼の股間をどろどろに汚していく。

だというのに、それでも満足しない私の欲望。
彼に覆い被さり、動きを大きく激しいストロークへと変える。
結合部が、より両親に見えるように。私達がひとつである証を…。

「ソラッ♥ 私のっ…♥ 私のソラッ♥ あっ♥ ソラァッ♥」

細かい絶頂の中に、ピンと張った太い糸。
はち切れそうなそれを、もっと、もっと張っていく。
彼と深く交わることで。両親に営みを見られることで。

夫婦の愛を、確かめ合うことで…。

「ひぅっ♥ イクッ♥ ソラッ♥ やっ♥ イッてっ♥ はやくぅっ♥」

ソラ。お前を選んで良かった。
目が合って良かった。ロマンチックに賭けて良かった。
あれを運命だと感じた私の勘は、間違いじゃなかった。

「みてっ♥ はっ♥ わたしたちっ♥ こんなっ…♥ こんなにっ♥」

健やかなるときも、病めるときも。
喜びのときも、悲しみのときも。
富めるときも、貧しいときも。

愛し、敬い、慰め、助け。
この命ある限り、真心を尽くすことを誓う。

「こんなに…愛し合って…っ♥」

だから、ずっと…。

「あっ…♥」

私を………。

「ふああぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥」

……………

………



…彼と出会って、早一ヶ月。
私達は今、広場にある舞台の上に立っていた。

「…まだ慣れないか?」

緊張からか、俯き、恥ずかしそうに身体を隠す彼。
そんな男らしくも可愛らしい動作に、黄色い声を上げるギャラリー。

彼が纏っている身衣は、私よりも布地の少ない卑猥なもの。
なんせ、股間部を薄布で覆っただけだ。目を凝らせば透けて見える。
つまりは、ほぼ裸と変わりない恰好なのだ。彼の魅力が存分に映える衣装。
この恰好でここまで来たので、道中、釣られて未熟な戦士達も付いてきた。
それでこの観衆だ。私達の愛を見せつけるには、充分な人目と言えるだろう。

「大丈夫だ、私が傍にいる」

気遣う言葉を掛けながら、肩を抱き寄せる。
どっと湧くギャラリーに対し、ますます縮こまる彼。可愛い。

「…始めるか」

私は衣装を脱ぎ捨て、彼を抱きかかえた。
もちろん、例の抱き方で。『お姫様ダッコ』。

敷かれたシーツの上に、彼をゆっくりと下ろし、薄布を剥ぐ。
一糸纏わぬ姿になるふたり。恥と興奮が、私達の胸を熱くする。

「ソラ…、綺麗だ…」

重なる想い。互いの言葉が、互いを愛する。
どこまでも、いつまでも、いくらでも…。

「…あっ♥」

異性というのは、この世に数え切れないほどいるものだ。
しかし、自分と結ばれるのは、その中でも…たった一人。

たった一人だけなのだ。

「ふふっ…♥」

その一人と結ばれた幸せ。

今日も私達は、夫婦の幸せを謳歌する。

「…ソラ♥」

この世で最も幸せな、男女として。

この世で最も幸せな、命として。

「愛してる…♥」

永遠に…。
12/08/24 00:41更新 / コジコジ

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