読切小説
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クリスマ…ス?

「ハァ…ハァ…!!」

俺は裏道を走っていた
いや、逃げていた

「クソッ!なんでこんな事に!?」

逃げてきた道を見ながら、とにかく逃げていた

「くそっ!くそくそクソッ!!何がいけなかった!?何が問題だったってんだよ!?」

そう言いながらも、自分が逃げる事になったきっかけは自分が悪いのは承知している
承知しているし、自業自得なのはわかっている
わかっていても、納得できなかった

「クリスマスに暴れようとしただけだろうが…なんで!?」

本来カップルや家族の団欒で幸せいっぱいな日―――クリスマス

俺が暗い裏道を逃げているのを説明する為には、少しばかり時間を遡らなければならない

・・・

「シングルベール♪シングルベール♪今日すっげぇヒマー♪」

そんな寂しい歌を歌いながら、知り合いと待っていた

「その歌やめろよ…気が滅入る」

「わかってるけど、やめらんない」

そう言いながら駄弁っていると、前から三人の男性が来た

「おいすー」

「お疲れー」

クリスマスに男5人が集まり、道を行く
周りにはカップルだとか家族連れがたくさんいる

「で、どこで飲む?」

「とりあえずいつもの居酒屋でいんじゃね?」

そんな事を話しながら、歩いていると前からイチャついてるカップルが何組か歩いてきた
全員が同じ顔をする

―――なんで俺らに彼女ができないんだよ

何かと女性に縁もなく、貧乏くじを引くことが多い
そんな連中が集まり、忘年会をしようとしたら、必然的にこんな感情がみんな浮かんで来るだろう

「こいつらとかになんか出来たらなぁ…」

一人がボソッと言う

「気持ちはわかるがやめとけ…」

別の奴も言う

世に言うリア充に対して、オタクは隅に追いやられる感覚
隅に追いやられ、自分達は別の世界の住人として扱われ、いらないのではと思わされているような感覚

負け犬根性と分かっていても、逆恨みしてでも他の人間の幸せをぶち壊したくなる時がある

「えぇい!とりあえず飲んで忘れるのが一番だ!それが良い!」

一人がそう言って空気を変えてくれた
全員が取り敢えず居酒屋に向かうことにした

・・・

「「「「「…」」」」」

全員が重い空気の中、外の雪を見ながら歩いている
手には酒を持って、気分はダウン状態で歩いている

『申し訳ありません…本日はもう満席でして…』

予約をしていなかった甘さもあるのはわかるが、殆どがカップルや合コンで埋め尽くされていた居酒屋を見て、なんとも言えない気分になってきていた

「雪が…気持ちいいな…」

「せやな…」

結局コンビニで酒の缶を買って。歩いて飲んでいる

「俺…合コンあるの知らなかったわ…」

特にダメージを受けている奴は、知り合いが合コンをしているのを見かけてしまったのだ

「はは…あいつ彼女いたのかよ…」

他にも、友人に彼女ができてるのを見てへこんでいるのもいる

「…もうさ、クリスマスなんていらねんじゃね?」

酒が入り、変なテンションになり始め―――

「そうだよな…日本は神道の国なんだから、いらねーよな!」

「そうだそうだ!クリスマスなんて中止だ!」

「クリスマスで浮かれてる連中に制裁を!」

そんな事を言っていたら、一人が言う

「おい!近くでクリスマスデモだかってやる為に集まってる連中がいるらしいぞ!」

「マジか!?」

「スレが立ってる!」

「行くぞ!同志たちが待っている!」

なぜか異常なまでに興奮した俺たちは、そこに向かい始めた

・・・

「―――以上の事から!我々は今の浮かれているこの国を叩き起さねばならない!」

呼びかけた張本人だろうか、「今のこの国は多文化を取り込みすぎた危ない状態だ」とか「我々は立たねばならない」とか大層なご高説をしてくれていた
―――要約すればリア充爆発しろ、でしかないのをよくもまぁあんな演説をできたもんだ

そんな呼びかけに答えた俺らもそうだが、みんなわかっていながらもこの祭に対して意気込んでるようだ

―――最も、周り以上に俺が意気込んでる
と、誰もがそんな空気を出している

そんな一体感に、俺は高揚していた

「さぁ!全員手に得物を持て!」

全員がプラカードなり、武器なり色々持ち始める
―――もはや暴徒と何も変わらない

「さぁ!いくぞ!」

―――オオォォォー!

そう雄叫びを上げた時だった

「あらあら…そんな事しなくても良いのに…」

突然、女性の声が聞こえた
辺りを見渡しても、いない

―――と、呼びかけた張本人の後ろの影から、ゆっくりと、銀髪の女性が現れ始めたのだ

「だ、だれだ!?」

「そうねぇ…恋のキューピット、かしら?」

クスクスと笑う姿も可憐で美しいが、俺や友人も含め何人かが表情に出していた
―――コレはヤバい、関わってはならないタイプのヤバいのだ

「こ、ここには恋だとかそんなものはない!ほかに行ってくれ!」

声が震えている事から、おそらく呼びかけた張本人も危険を感じているのだろう
が…もう遅かった

「そんな事言わずに…ね?貴方達だってそんな物騒な事して他の人に迷惑かけちゃダメよ?」

その声には媚薬でも盛られているのか、聞く度に快感がこみ上げてくる

「さぁ…みんなも待っているわ…」

その言葉と共に、彼女の姿が変わり始める

背中から翼としっぽが見え始め…頭に角が生え始め…
その姿は、もはや異形としか言えなかった

・・・

それから俺はひたすら逃げ続けた
なぜか?答えは単純だ

異形に変わった女性の後ろから、耳が生えた女性や羽の生えた女性、下半身が馬だったり蜘蛛だったりな…とにかくいろんな女性―――異形とは言え、尋常ではないくらいに美人―――が現れ、何人かが囚われていたからだ

それを見た俺たちは誰が最初にともわからず、兎に角逃げ始めた

友人達とはぐれたが、俺は兎に角今は自分の身の安全を最優先に考えている
我ながら最低なのはわかっているが、兎に角怖かったのだ

「クソっ!なんで俺らがこんな目にあわなきゃならねーんだよ…!クソ!」

そう言いながら逃げていく
どこをどう走ったかは覚えていないが、兎に角隠れれる場所を探していた

「うわあああ!」

と、横から聞き覚えのある声がした
一緒にいた友人だ

「つっかまっえた♪」

と、狼みたいなみのこなしと耳を持った女性に捕まり、何処かへ連れてかれそうになっていた

捕まえた女性は、嬉しそうにしながら抱きついてて…

「何見てるの?」

「友人が捕まってて…え?」

まるで愛しい人を見つけたようなその表情に違和感を覚えながら観察していたら、横から声がした

そっちを見ると、小柄な少女がいた

―――うん、槍も手足の水かきも、しっぽも見えないと思う

「あの人友達?」

「あ、あぁ…」

「あの人リア充になったよ」

「なら俺の敵だな、うん」

「大丈夫…」

貴方も、そうなるから―――

その言葉を最後に、俺はまた走り出した

友人を見やると、服を剥がれていたが、パイズリでもされているようで…やっぱあいつはもう敵だ、敵

そう意識を変え、俺は再び走り出す
後ろを見ると、さっきの少女が追い掛けて来ている

と、また横に別の友人が今度は別の―――手が鳥の羽みたいな可愛い系の女性―――に跨がれてた
一瞬見えたのは嬉しそうなお互いの顔

畜生、もげてしまえ

そんな事を思いながら、兎に角逃げ回った

・・・

「ハァ…ハァ…」

息切れをしながらも、なんとか家の付近まで逃げてきた

「ハァ…ゲホッ!…うぇ…」

心臓は痛むし咳は出るし吐き気はするし…

「はい、水」

「…」

おまけに追いつかれた

「…さんきゅー…」

「どういたしまして」

そう言いながら、近くのベンチに腰掛け―――

「って、雪で冷てぇんだよ」

ようと思ったが、雪が積もってそれも叶わない

「…クシュン!」

「おま…その格好寒いだろ」

追いかけていた少女はよく見たら、スク水しか着ていないような格好だった

「たく…これ着てろ」

上着を脱ぎ、渡した時…

「ありがとう…」

無表情な少女の表情が、一瞬柔らかくなった気がした

「これで匂いを覚えた」

「その不穏な言い方なかったら良かったのに…」

ホント、残念でならない

「…どうして逃げたの?」

「…今となってはわからん、食われると思ったからじゃねーかな?」

帰路に付いているが、彼女もついてくる

「間違ってはいない…」

「ハハッ…人間の肉は美味いかよ?」

「?お肉じゃない、精が美味しい」

「生?生命力食うんかい」

「いやだから精だって」

そんな事を話しながら、気がついたらアパートに付いていた

「…で、どうすんだ?」

「家まで押しかける」

「よし逃げよう」

「そしたら鍵は手に入れたから部屋で待ってる」

と、上着のポケットから鍵を取り出して言う少女

「…俺のバカ」

「やーいやーい」

なんとなくムカついたので、両ほっぺを引っ張ってやった

・・・

「…つまりあんたら魔物娘ってのは、人間の精液飲んで生きてるのと、クリスマスに不穏な事をしている独身のカモみっけてついでだから自分の餌にしようとした、っと」

「餌じゃなくてパートナー」

目の前の異形な少女―――魔物娘のサハギン種らしい―――は、俺をじっと見て言う

「魔物娘にとって、最愛の人であり人生の伴侶、それがパートナー」

「いや、言ってる事はわかるよ」

「カモじゃない」

カモという言い方によほど腹を立てたらしく、無表情なのに怒気を感じられる

「けど、一目ぼれで、んな簡単に伴侶を決めていいのかよ?」

「少なくとも私は問題ない」

そう言いながら、少女は続ける

「いざとなれば追い返せるのに追い返さないで上着までくれたし、あったかい飲み物もくれた。だから問題ない」

「その判断基準だとかなりの人間が入るぞ」

そう言い返しても、聞きもしないサハギンの少女

「なにより…一緒にいて楽しい」

その言葉に、俺は動きを止めた

「一緒にいて落ち着くし、楽しい。こんな事は今までなかった」

「…彼女がいなくてクリスマスに暴れようとした男だぞ?」

「私が見張れば問題ない」

「お前をこんな寒い中何時間も連れまわしたのは?」

「楽しかったし、追いかけっこは好きだから問題ない」

「…安月給で部屋も狭い」

「くっつく時間で暖房費節約になる」

「…会って、まだ一日もたってないんだぞ?」

「会って何年たったって解らないなら解らないし、分かり合えるなら会って一秒で分かり合える」

あぁ言えばこう言う―――それはお互い様

その言葉と一緒に、気が付いたら彼女を抱きしめていた

「…本当に、後悔しないな?」

「後悔しないしさせない自信があるから」

その言葉を最後に、俺は彼女に押し倒された

〜〜〜〜〜〜

毎年乱立するクリスマス中止告知

貴方は知っているだろうか?


独身の男性、女性が恋人が出来ない事を嘆いて立てていると言われているが、一部でこんな噂も囁かれている

これに触発されて、暴動を起こさせることによって、魔物娘と結ばれたり魔物娘になる人間を探し出す為の、魔物娘の策略だと

これにより、静かに人間世界を魔界に変えているのだと

根も葉もない噂だが、果たしてどうなのだろうか?

〜〜〜〜〜〜

「…見事に全員捕まってやがる」

朝、友人全員と連絡を取った
結果、全員魔物娘の彼女が出来ていたとの返答だった

「私達から逃れるなんて…出来ないと思ってほしい」

「いや、なんで無表情でドヤ顔なの?」

「なぜバレたし」

「雰囲気で」

お湯を沸かしてお茶を入れてくれたらしく、それを二人で飲む

「…今日おやすみ?」

「クリスマス明けがやっと休みなんだよ…だから昨日飲み会しようって誘ったんだ」

「なら今日は一日中繋がってられる」

ニヤリ、と黒い笑みを浮かべつつ、無表情に近いという芸当を見せてくれているうちの彼女を…誰が止めれようか

「あー…DVD見たかったんだけどな」

「繋がりながらみればいい」

なんていうか…

「お前もう少し笑えばもっと可愛いのに」

無表情な彼女も良いが、笑ってほしいなとふと思った

―――直後に、キョトンとしながらも最上級の笑顔を見せてくれたのは、言うまでもない
13/12/25 00:39更新 / ネームレス

■作者メッセージ
こんなクリスマス希望中

どうも、ネームレスです

ギャグになってれば良いのですが…ギャグのつもりで書きました
折角のクリスマスだし…羽目を外したくなりました!

あ、皆様はくれぐれもクリスマステロもどきをしないようにしてくださいね!
こんな美味しい事殆どないはずですから!

…クスン

では本日はこの辺d…
おや、だれか来たようだ

ちょっと見てこよう

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