連載小説
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剣の神器
「ふんふんふ〜ん、ん〜?もうちょっといける〜かな〜?」
「や、やめろ……わかった!なにが知りたい!?持っている情報ならすべて……」
「別に〜情報とかどうでもいいよ〜」
「なっ!?」
「だってそういうのは星村君の仕事だもん。私は暇だから遊んでるだけ〜。さぁてと、次はどのくらい伸ばそうかな〜?」
「ヒッ!?」
『……なにやってるんですか、神奈さん……』

デューナさんへのサポートと、ローラン君救出に打ち合わせで通信を切った少しの間で、なぜこんな惨状ができるのだろうか……
と、呆れながら、僕は45の内5人いた教団師団メンバーの一人を、使い方がソレであると明らかにわかる、長方形の枠に拘束用の鎖がついたものを使ってアソんでいた。どうやら、手足を引き延ばそうとしていたらしい。

「えー?なにって、暇だから遊んでたんだよ?」
『まったく、人をいたぶって楽しいですか?』
「全然?むしろうるさいよ?でも人が生きたままどこまで伸びるのか調べてるのはいい暇つぶしになったよ?」
『……そうですか……まぁ、いいです。とりあえず、この辺り一帯の人達を回収しますけど、ちゃんと全員無力化しましたか?』
「大丈夫だよー。普通の子は麻痺針で動けないし、強化兵だっけ?あの子たちは麻痺針使ってもすぐ効果きれちゃうから、動けないように四肢と顎の関節全部外しちゃったから〜」
『……なんというか、あなたのそういうところがすごくて、そして怖いですよね……』
「まぁ、私怪物だしね〜」
『ご冗談を、あなたはあくまでも人ですよ』
「ん、ありがと。ところで、あの子たちの情報はちゃんと取ったの?」
『観測と情報収集、記録の式を取り出して送っていたので、映像も情報もちゃんと取れてますよ』
「そっか、よかったよかった」
『では、回収しますよ。“エスケープロード”』

そう言ってから、僕は神奈さんとその周囲にいる45人を僕のいる外へ転送する。

「ただいま〜」
「お帰りなさいませ、神奈様」
「あ、サラちゃんにルゥちゃん!二人とも先に戻ってたんだ〜?」

これで、こちらで回収している敵戦力は146。半分以上を回収出来た。
しかし、これでこちらの戦力はデューナさん以外を回収してしまったため、残る104人はデューナさんの場所に集中することになる。
特に、ほとんどデューナさんと変わらない強さを感じる一人がいることが、僕の心配に拍車をかける。まだ向こうで合流していないとはいえ、大丈夫だろうか……?
いや、心配しててもしょうがないな。今はやるべきことをやらないと。

「それにしても、ルゥちゃんたち早かったね〜?たぶん私より人数多く相手してたでしょ〜?」
「いえ、神奈さんよりはずっと少ないですよ」
「まぁ、ほとんどの方がすぐに降伏してくれましたからね」
「そうなの?あの子たちの様子だとすぐに降参してくれそうになかったと思うんだけど……」
「そうですね。私たちだけでは、全員をすぐに降伏させることは出来ないですね」
「でも、あの方が彼らを止めてくれたんですよ」
「ん?あ、来たんだあの子〜?」
『さて、そしたら準備をお願いします。もうデューナさんも目的地についてますからね』
「りょーかいりょーかい。とりあえず、まずは作戦の確認からか?」
『そうですね。それと、現状の説明もします。まず……』


××××××××××××××××××××××××××××××


ドゴンッという激しい音を立てながら、私は突っ込んだ扉を吹き飛ばして部屋の中に入る。
同時に、周囲の観察も欠かさない。
部屋は大規模で何かの研究室にでもするのかと思えるほどに広いが、今はそう思える研究機材は見当たらない。
その代わりに、たくさんの……おそらくは神奈さんたちが相手している以外のすべての人間が、そこにいた。
入口……つまり私の周りには、強化兵らしい表情の乏しい人が9人、ちょうど星村が私と同じ強さの化け物と呼ぶアレ以外の残りと同じ数、配置されていた。
……恨みはないけど……殺るか。
判断し、突っ込んだ姿勢を直すことなく、私は次の行動へ移す。

「“信護珠”」

氣を練って腕に溜め、そのまま腕を床に叩きつけて体を止め、着地しながら氣を放出する。
使ったのは、本来の……いや、逆ね。劣化させた呼称で呼ぶならば、打撃属性我流広範囲遅延攻撃型“アカシャアーツ・乱”。もちろん、手加減なんてする気のない十割の技だ。
私の放った氣は、衝撃波を出すことなく、ただただ広がっていくばかりで強化兵にダメージを与えない。そして、やはりさすがと言うべきか、突如現れた私に対して、それを視認した強化兵はすぐさま臨戦体制を取って攻撃を仕掛けようとしていた。
すごいわね……普通の兵士であったら天才と言えるレベルの反応よ。
それでも……残念ながら……

「遅いわよ」

そういいながら、私は立ち上がり、そのまま自分の放った氣の経過を確認した。
私の放った氣は、“すべてそれぞれの強化兵の目の前に球状の形を取って留まっている”。
そして、強化兵が私に向かって一歩、踏み出そうとして見えないその凝縮された氣に触れた途端……


パパパパパパパパパンッ!


風船が割れたような音と同時に、氣の塊がおおよそ普通の人間であったらなす術もなく消し飛ばされるような威力の爆風を撒き散らした。
爆風に呑まれた強化兵や、その周りにいて巻き添えをくらった教団師団員は、しかし消し飛ぶことなく吹き飛ばされ、壁に大きな亀裂を入れながらぶつかった。技がぶつかった瞬間、青い壁のようなものが彼らを最低限死なない程度まで護ったのだ。
……よかった、星村はちゃんと仕事しているようね。
次の行動のために氣を練りながらその様子を見て、私は内心ホッとした。あの一撃はほとんど殺す気で放ったものだから、もし星村のサポートが間に合っていなかったら、彼らは死体も残さず消えていたかもしれないのだ。
だからと言って、手加減をしてやるほど、私の怒りはぬるくない。
死んだら死んだだ。あの子の幸せを奪うやつらに、容赦する気はない。
さて、まだ残ってるわね。
今はまだローランの姿が見えない。なら、たとえローランが死角にいたとしても肉壁が守ってくれる。だから私は、さらなる追撃のために構えを取る。
次は、あの黒い刀使い君につかった、斬撃属性我流広範囲調整射出型“空間殺法・操”。
全身に収めた高練度の氣を、後は放つだけとなった私は、すぐさま狙いを定めて技を実行しようとして……

「そこまでですよ、“剣の神器”」
「……っ!!」

ひどく懐かしい呼び名で呼ばれ、注意をそちらに向けた途端、私は技の中止を余儀なくされた。
声の主は、白衣を着た若そうな男……第四師団長。そしてこいつは、よりにもよって十字架に括り付けて拘束され、気絶しているローランの首筋に、ナイフを当てていた。

「……卑怯者……っ!」
「なんとでもいいなさい。私は私のできる最大限で結果を残すだけですから」

そう言いながら、師団長は私が動けないのを言いことに、余裕を持って語り始める。

「やはり先見調査は重要ですね。こんな弱点を見つけることができたのですから。……それにしても、まさか我々の欲していたものをまだ貴方が側に置いていたとは、ある意味では幸運でしたね。一度見失ってからはもう見つからないのではないかと思っていた魔力霧散の素材がこんなにも簡単に手に入ったのですから、感謝の一つくらいしましょう」
「……っ!」

師団長の話にイラつきながらも、私は攻撃出来ないでいる。
……私の速さであれば、こいつらに気づかれることなく攻撃を打ち込むことなんて簡単だ。しかし、そのせいで、万が一でもローランを傷つけるようなことが起きたのなら、と考えると、動きたくても動けない。しかも、あいつがナイフを当てているのはローランの首元だ。もし衝撃で勢いそのままナイフがローランに向かって動いたらと思うと……恐怖で身が竦む。
もちろん、星村がプロテスを張って保護してくれる可能性も高い。でも、それがわかっていても、私は行動することを躊躇っていた。
私のことを縛っているのは、今この状況というよりも、昨日の、ジンとの戦いでの最後の一撃、あの記憶。あの時はライカが止めてくれたけど、今、ここに私の失敗をフォローできる人は、いない。
絶対に、失敗できない。

「……さて、全員、剣の神器を拘束、回収しなさい」

師団長の命令で、私の周りを師団員が取り囲み、拘束しようとジリジリと近づいてくる。
……どうすれば、いい……!!
今動いたら、ローランが傷ついてしまう。でもだからって、動かないと……なにかしないと……!

『今はなにもしない、が正解です。ローラン君救出の策を発動させます。デューナさんはしばらく待機してください』

焦っていると、星村の通信が入り、そう指示された。
いったいなにを?と思わなくもなかったけれど、どうせ今は動けないのだから、星村を信じるしかないわね。

「ふふふ……これでやっと、こんな強化兵のような回されてきたものじゃない、自分の研究ができる……!さぁ、早く剣の神器の回……」
「ちょっち失礼するぜ」
「収……を……?」

師団長が命令する中、一人の男がそう割り込んで、師団長のナイフを持った手首を掴んだ。
突然のことに、師団長はなにも理解できず、不思議そうな顔で自分の手首を掴んでいる手を見、そしてその手の主を見、驚く。

「なっ!?貴様……!!」
「あなた、なんでここに……!?」
「よう大将、よくもまぁあんなことをさせやがったなぁ?」

突然の乱入者の正体に、私も驚いた。
乱入者は、私が午後に気絶させた炎帝……ジンであった。
あれから回復して星村と合流し、ここに転送してもらったのだろう。
……できるのだったら早くそれをやって欲しかったのだが、まぁ今はそれはおいておこう。
師団長は、ジンが突然出てきたことに驚いたものの、傀儡輪という自分のアドバンテージを忘れてないからか、すぐに余裕の笑みに表情を変えた。……まぁこういうのもあれだけど、馬鹿みたいに、といちおう注釈を加えておく。

「ふっ、まぁいい。“すぐにその手を……」
「“アギ”」
ギャァアァァァァァァァアァアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアァァァァァアアアアアア!?

傀儡輪を発動させようとして命令をしようとしたのだろうが、師団長はよく状況を理解してなかったために悲鳴をあげることとなった。
……馬鹿な男。そんな余計なことしなければ、手首を焼かれずに済んだろうに……
しかし、今回それは僥倖なことだ。
手首を焼かれ、痛みにうずくまったため、ローランに向けていたナイフは取り落とされ、簡単にローランを救出することができるようになった。
でも、ローランの拘束を解き、ここから離れるという役目を担うのは、私ではないのだろう。
だから私は、ローランのいる場所に一番近いところにいる味方に、その役目を譲る。

「ジン、頼んだっ!羨ましいなこんちきしょうっ!!」
「応っ!任されたっ!……ってあんたはなにを言ってるんだ……」

言葉を交わすと、ジンはすぐにローランを縛っている十字架の根元をスキルで折り、そのままそれをローランごと担いで私の方へ走ってから跳ぶ。
持ち前の高い身体能力を活かしてジンのジャンプは一跳びで私も、師団員も跳び越して、私が入ってきた、その部屋唯一の出入り口に到着し、出て行った。
そんな、ほぼ数秒だけの出来事に、師団員は反応できず、ボンヤリとジンを見送るだけだった。が、しかし状況を理解するや否や、出て行ったジンを追いかけようと我先にと言った風に出入り口を目指す。

「いかせないわよ?」

そんな彼らを外に出さないため、私は縮地を使用して彼らの前に立ちふさがり、近づく者は蹴って吹き飛ばす。しかし、星村のサポートもあって彼らは吹き飛ばされてもダメージはない。
それにしても、状況判断能力が低いのかしらね?こんな威力で攻撃されて自分たちが死なないことに疑問を持たないなんて……
まぁいい。今はそれよりも心配事を解消しないと。行動はそれからだ。

「星村、わかってると思うけど、アレと接触しないうちに回収しなさいよ」
『わかってます。もうすぐ回収できる距離になりますから心配しないでください。あと、アレはそちらに向かっていますから、ご注意を』
「了解したわ」

よし、これでいちおうは大丈夫そうだ。問題は、こちらに向かっているあいつか……とりあえず、こいつらは邪魔ね。
……さて、と……

「……じゃあ、いちおう言っておくけど、死にたくないやつはすぐに降伏しなさい。あと、コレの意味もわからないやつにやられる気はないからそのつもりで」
「なにを言ってる!?全員あいつを追いかけろ!障害はなんであろうと排除だ!」

完全に、今まで放っていた怒りも殺気も霧散し消して、私は忠告したのだけれど、師団員たちはどうやらこれの意味もわからないらしく、行動不能な師団長の代わりの補佐らしき人の命令に従い、私を排除しようとする。

「……馬鹿ね」

まぁ今の状態の意味がわからないのはしょうがないのだけれど、こんなにも簡単に私に……元々は戦用に派遣された天使に向かってくるなんて、どこまで平和な頭をしているのだろう?
そんなことを考えながら、私は真っ先に剣を振ってきた一人の頭をおもむろに鷲掴みにする。
……そういえば、殺しちゃいけないのよね。とりあえずこの状態だと防護魔術は発動しないだろうし……

「ヒビ割れるくらいでいいや」
「ガッ!?あ"ぁあぁぁああぁぁあ!?」

ミシッという嫌な音がなったかと思うと、頭を掴まれた男は叫び出す。
まぁしょうがないわよね。頭蓋にヒビ入ったんだから。
もう攻撃はしてこないでしょう。と考えて、私は掴んでいた男を投げ捨てる。
男の悲鳴を聞いてから、師団員は全員私に向かうのを躊躇していた。
……殺気というのは、私と戦ったらあなたのことを殺しますよ、という警告の意味合いが強い。ある程度修羅場をくぐってきた人なら、殺気を感じて攻撃を避けることも出来るし、脅しという目的以外には、案外邪魔なものだ。
ローランが向こうにいない今、私は攻撃の躊躇をする必要がない。こいつらの生死も、興味ない。
だから私は今、向かってくるなら殺す気で攻撃するけど、こないならなにもしないという意味で、殺気を消した。
……このことは第三の教え子たちにはちゃんと教えたから、ジンは昨日、私の条件を呑んで完全に敵として扱われることを免れた。
でもこいつらに教えてやる義理はないし、全部見逃してやるほど怒りはまだ収まってない。
さて、誰かこないかな……?
思ったけど、やっぱりさっきのが脅しの効果を発揮したのか、誰も私に向かってこようとしない。
……しょうがない、時間もないだろうし、一気に片付けちゃうか……

「戦う気のないやつはそのに転がってる師団長のところまで下がりなさい。5秒待つわ」

そういいながら、私はゆっくりと氣を練りながら5秒待つ。
しかし、なかなかその場から下がる者はいない。……まぁ、まだ勝てると思ってるのだろう。普通なら、その判断は死に直結するんだけど……

「よかったわね。今回は死なないで済むわよ。……“ダンスマカブル”」

そう言って、私はそこに転がってるやつの脅しのせいで中断せざるを得なかった行動を実行した。
今まで放たず溜めたままであった氣を、一気に活性化させる。
全身の活性によって、私の思考が、感覚が、身体能力が、一瞬だけ、停止した時間の中を唯一動けると言うような表現が一致してしまうほどに加速した。
そして、私がやることは単純なこと。



全員の



四肢と首を狙って



限界まで



氣の斬撃を放ち続ける



……約500。撃ち漏らしなく一人につきだいたい5発の斬撃を放ったところで、活性化した氣を消費しきって、時間が動き出した。
私の感覚が普通に戻っていくに従って、ほとんど止まっているに近かった斬撃が、一つ、また一つとその場から消えて対象へと飛ぶ。
斬撃と同様に、師団員たちも動き出す……が、前列にいる者はすぐに放たれた斬撃によって弾き飛ばされる。
それを皮切りに、次々と吹き飛ばされ、叩きつけられ、倒れていく。
本当なら、この技で部屋が真っ赤……どころか、切断面が焦げて壊れたマネキン大量生産状態になるんだけど、星村のサポートもあって、そんなことにはならなかった。
まぁでも肋骨とかいろいろな場所は持ってくつもり……以前に殺す気で放っているから、その程度の被害はあってもしょうがないわよね。

「さてと……星村、終わったから私以外の全員回収しちゃって」

私がそういうのと同時に、ついに部屋内のすべての人間が倒れて、大きな動きを見せなくなった。
……それにしても頑丈な部屋よね。直撃はすべて免れたとはいえ、私のスキルの当たった勢いで吹き飛んだ人間が何人もぶつかって大きなヒビや傷が複数入ったのに、まだ部屋が崩れないのは相当なものだ。それでも、様子を見る限りもうそろそろ危なさそうだけど……

『……お見事です。では、全員回収しますので、デューナさんは範囲内に入らないよう、部屋を出てください』
「了解。あとは……あいつだけね……」

とりあえずどうせもうこの部屋に用はないため、星村の指示に従って部屋を出ようと出入り口のある後ろを向く。




瞬間まっすぐこちらに向かって来た炎塊を視認して、私は即座にスキルを放った。




「っ“迦具土”!」

ほぼ振り向くと同時に振った手刀は、ギリギリ炎塊に当たり、上方向に弾くことに成功する。
弾かれた炎塊は天井に当たり、爆散して瓦礫を落とす。一応全員部屋の端にとばしたし、炎塊は部屋の中央に打ち上げたから、誰も巻き込まれていないだろう。
完全に油断してた……まさかもうくるなんて……
思いながら、私は暗くて見えない通路の奥を目を凝らしてみようとする……が、まだあいつは見える位置にはいないらしく、通路には暗闇しか見ることができなかった。
遠距離からの視認と遠距離砲撃……
やっぱり、あいつしかいないわよね……
考えているとまた暗闇から、今度は複数の氷塊がとんできた。

「“信護珠”!」

すぐさま私は氣の玉をすべて前面に設置し、壁をつくって氷塊をやり過ごす。

「星村!ここにいる奴ら以外にこの空間にいるのは!?」
『あなたと今攻撃した彼女だけです!』
「わかった!そしたら私がでたらすぐ回収して!ここ、戦場と同じ惨状になると思うから!」
『了解です!』

言い終わるやいなや、私は信護珠の壁から出て、飛んでくる氷塊を避けながら縮地で暗闇の奥へ向かって走る。
私の接近を感知し、それを許さないためにか、だんだんと氷塊の密度が高まり、ついにはほとんど壁と言えるほどの大きさの氷塊が、通路の壁、床、天井すべてを削りながら迫ってきた。

「“神罰の矢”!」

回避不能ならば、壊して進むしかない。私はすぐさま練った氣を凝縮して、矢を放った。
青白い閃光が、巨大な氷塊を砕いて直進する。
氷塊の二連撃を想定してもう一撃分の氣を溜めながら、私は放った閃光の尾を追うようにして氷塊の射出地点……あいつのいる場所を見る。
砕けた氷塊の向こうには、予想通り、一人の天使がいた。
首元は傀儡輪の発動を示す紫の光の首輪、頭上の光輪と背中の羽は、気持ち悪いくらいに純白に光っている。星村の話も加味すると、大方、手首を焼かれたあの馬鹿がそのまま行動不能になったから、管理者行動不能時の緊急対応として発動してしまったのだろう……
そんな彼女に向かっていく氣の矢は、彼女に当たったかと思うと、急にパンッと弾けて消えてしまった。
……かなり強力な魔術障壁か……厄介な……
矢の消失を見てから、私はあることに気がつく。
目の前の天使の胸の辺りに、魔術陣と、光輪や羽と同じ、気持ち悪いくらいに純白な光が集まっていた。

「やっば!?“崩拳”!」

状況を理解した私は、急いで“床を”殴って大きな穴を作り出し、その中に潜って可能な限り身を小さくする。
そして……



「……“セラフィム”」



あいつの魔術名が聞こえた瞬間、地面の中で身を屈めて小さくし、下を向いていてもわかるくらいに莫大な量の光が、私の上を通った。
術の余波である衝撃が、私の全身を叩く。……もし、直撃していたとしたら、冗談抜きで私は消滅していただろう。それくらいの大威力の魔術を、あいつは放っている。
と、段々と目に入る光量が変化し、その代わりに地面が大きく揺れていた。
……これはもしかして……光線が移動している?
様子を確かめたかったが、下手に顔を出せば消されかねないため、地面の揺れが完全に収まるまでおとなしく待つことにした。
そうして、数十秒後に揺れが収まる。
攻撃が終わったと確信した私は、すぐさま外に飛び出し、そして驚愕する。

「な……んなのよ、これは……!?」

私が外に出ると、そこにはあいつと、焼けた大地だけが残っていた。
さっきまで私がいた研究所など、跡形もなく、消えていた……
わかってはいたけど……こんなの、当たったら即死じゃない……!というか、星村の回収、間に合ったでしょうね……?
惨状に背筋が寒くなったが、今は恐怖にかられてる暇はない。
私は周囲の確認をしたあとすぐに、目の前の天使に集中する。
あの村での任務で、一緒にいたもう一人の天使。第四の実験に利用された天使。私とあともう一人と共に、三種の神器と呼ばれた、私の二人の同期のうちの片方、通称“珠の神器”……

「……久しぶりね、ファリス」
「目標を発見。排除します」
「……うん、そうだよね……」

話しかけた彼女に、やはり自我はなく、すぐに自分の役割を果たそうとする。
本当はこんな再会、したくなかったけど、しょうがないよね。
……今度こそ、ちゃんと止めてあげる。
内容は単純。相手を殺すか、行動不能にした者の勝ち。反則なしの一本勝負。

「じゃあ、始めよっか」

十数年ぶりの、望まない戦いが、今始まった。
12/09/13 14:24更新 / 星村 空理
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■作者メッセージ
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
バトル中心で魔物娘の良さがまったく書かれていないこんな作品早く終わらせた方がいいのに、まだラストバトルと後日談で二話分のこってるっていうね……
そして安定の説明長い戦闘?シーン……誰得なんでしょう……
しかもフラグ立っていたとはいえラスボスは新キャラって……
相変わらずの駄作者でもうしわけない限りです……
そんな私に付き合ってくれている皆様には筆舌し難いほどに感謝しています。これからも付き合っていただけたら嬉しいです。
さて、今回は第四師団戦。ちゃっちゃと師団員さんたちはお片づけしちゃいます。そしてローラン君も救出!実はジンを出すかどうか迷ったんですけど、あのまま退場じゃあまりにも可哀想なのでちょっと花を持たせてあげました。やったねデューナちゃん!本気で殺れるよ!(おいやめろ
最後はラスボス登場。学校での過去回想で出てきた同期の天使、ファリス・レヴィエさんです。新キャラがラスボスなのはなにか納得いかないでしょうが、まぁラスボスらしく同じくらいの実力なのでお付き合い願えれば幸いです。
ちなみに余談ですが、ここで出てきている強化兵は同じく拙作、“超常の輪舞曲”に登場した強化兵と同一であり、かつネームレス様からお借りした、人造勇者計画の設定をより書かせていただいたものです。
さらに、デューナの話にでた黒い刀使いも、ネームレス様からお借りしたキャラクター、ナナイ・クレッセント君のことを示しています。コラボSSをネームレス様が書かれていますので、もしよろしければご一読ください。
ネームレス様、ご協力ありがとうございます!
さてでは次回予告をば。
次回はラスボス戦。デューナのあらん限りの力を振り絞って戦ってもらいます。
サブタイトルは「デューナ・ダラン」楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、今回はここで。
星村でした。

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