33ページ:ドワーフ
「……駄目だ…我輩ではどうにも出来ん…」
「輝はんにも出来ない事ってあるんやな…あ、別に嫌味で言ったわけやないでな?気ぃ悪くしたんやったらごめんな…」

失敗作を置き、額の汗を拭う。
悲しそうな顔をしている弥生の頭を撫でると、少しだけ表情が和らいだ。

今我輩が何をしているかというと、金属や宝石を使った小物を作っている途中である。
しかし、我輩は今までに鍛冶や加工をした事がないので、納得のいく物が全然作れていない。

「輝はんはいろいろ出来て凄いと思うで?せやけど、完璧を目指さんでもええんやない?」
「…我輩は、作る時も使う時も自分が納得いくようにしたいのである…使うからには、最高の能力を発揮させたいのである…」
「輝はん…」
「まぁ、世界を我が物とするためにあらゆる技能を得る必要があるからな。」
「そんなことやろうと思ったわ…一瞬感動したうちがあほらしく思えてくるわ。」

呆れ顔で首を横に振る弥生。
やはり、我輩の崇高な野望を解する者はいないのか…むぅ…

「まぁ、鍛冶とか習いたいんやったらこの先の町が調度ええで?」
「ふむ?」
「確かにあそこなら適任かもしれないわね、軍の兵達の中にもそこの武器を愛用している子がいたくらいだから。」
「ほう…それは楽しみであるな。」
「宿決めたら良さそうな人探してくるな、楽しみに待っててや。」

自信満々に言い放つ弥生が可愛過ぎて、思わず抱き寄せて頭を撫でてしまった。

「んにゃ!?い、いきなりなにするん!?」
「すまん…可愛らしくてつい…」
「か、可愛らしい…えへへー♪」
「…羨ましい…私にもして?」
「アレクシアには今朝したから駄目。」
「しゅん…」
「口でしゅんって言う人物を初めて見たである。」

いじけているアレクシアも中々可愛らしいであるな…
ついでに撫でようか迷っていると、何かが我輩の体に巻きついてきた。

「弥生ばかりずるい…わっちも撫でるのじゃ!」
「もちろん、私も撫でてくださいますよね?」
「わ、わかったから落ちついt」
「弥生ちゃんの次は私だからね!?」
「うちの番はまだ終わっとらんで?輝はん…もっと撫でて?」
「えぇい!早く輝から離れるのじゃ!」
「そういう貴方も輝様から離れてください!」
「ちょ…やめ…苦し……」

彼女達の取り合いが長引く度に、桜花の締め付けがどんどん強まっていく…
薄れ行く意識の中、父上と母上が苦笑いをしている姿が薄らと見えた…気がした。



「…亡き父上母上と雑談してた方が良かったかも知れんな…」
「いつまでグチってるつもりだい?さっさと手を動かしな!」
「我輩は病み上がりのか弱い人間であるぞ…あんまり酷使しないでほしいである…」

我輩が意識を取り戻した頃には町に着いていたようで、早く早くと急かす弥生に連れられて指導をしてくれると言う者の所まで向かった…まではよかったのだが…
目的の場所へ着いた我輩を向かえたのは、何者かの怒鳴り声とこちらへ飛んでくる金槌であった…
まぁ、流石に何度も気を失うわけには行かないので避けたがな。
で、その後は喧嘩をしていた店員と客を殴……説得し、店の奥へ通してもらう…と言った所で、小さい何かが我輩にぶつかって来た。
ぶつかって来たのはドワーフという魔物で、弥生が見つけてきた我輩の講師となる者だった。
弥生が我輩の事を話すと、彼女は調度いいから手伝ってとだけ言って我輩をここまで連れてき、現在に至る。

ちなみに、落ち着いた彼女に聞いたところ、教材として使う鉱石が足りなくて堀に行こうとしたところに都合良く我輩が訪れたらしい。
そのついでに、使用する鉱石を採掘するところから教えようかと考え付いたらしいな…

「我輩は、こういう地味な作業は苦手である…」
「地味とか言わない!職人を目指すんならこれくらい出来ないと話にならないよ?」
「職人を目指しているわけではないのだが……もう面倒だから爆破していいであるか?」
「そんな事したらあたし等も巻き込まれるよ?」
「むぅ…地道に掘るしかないか…」

使い込まれたつるはしを握り締め、土壁に向かって振り下ろす。
さっきからずっと目的の鉱石が全然出てこないである…出てくるのは、緑色だとか赤色とかの透き通った物が混じった石ばかりである…

「それなりにいい掘りっぷり………えっ?」
「む?どうかしたのか?」
「いやいや!えっ!?何でこんなに宝石掘り当ててんのさ!?」
「宝石…このカラフルな石っころであるか?」
「宝石を石ころ扱いする人間を初めてみたよ…」

我輩が石ころ扱いしていた物は宝石の原石だったようだ…まったく気づかなかったである。
…まぁ、授業料代わりくらいにならなるだろう。

「我輩がほしい物ではないしな…必要ならもって行くといいぞ講師殿?」
「それじゃあ遠慮なく…後、講師殿じゃなくて名前で呼んでもらえないかい?何だかむず痒くてね…」
「貴殿がそう言うならそうしよう…よろしく頼むぞミラル殿?」
「おう!大船に乗った気持ちであたしに全て任せときな!」

名前で呼んだ途端に、彼女の掘る速度が異常なくらい早くなった…
何故だ?…ドワーフの隠された力なのか?



「これ位でいいな…おーい、そろそろ帰るぞー。」
「了解であるー。」

鉱石を掘り始めて数時間が経過したころに、奥の方からミラル殿が我輩にそう言って来た。
疲れたな…帰ったら琴音に頼んでマッサージでもしてもらうであるか。

「うーん…大量大量♪」
「確かに大量であるな…こんなにたくさん持って帰れるだろうか?」
「任せときなって、こう見えても力は強いんだよ?」
「我輩はお世辞にも力があるとは言えないからな…すまない…」
「気にすることないよ、子供にしては上出来さね。」
「…自分より小さい者に子ども扱いされるなんて初めてである…」
「あはははっ!そりゃぁそうだろうね……あっ…」
「どうしたである……あぁ…」

雑談をしながら薄暗い坑道を進んでいた我輩達。
いざ外へ出ようとしたら、酷く雨が降っていた…
さっきまでは晴れていたのだが…これでは帰れそうにないであるな…

「まいったねぇ…今から帰らないと今日中に戻れないんだよなぁ…」
「仕方がないであろう、休憩所みたいな所はないであるか?」
「あるにはあるけど…食べ物とか置いてないぞ?」
「肉類でよければ我輩が狩って来るであるぞ?」
「でも…いや、お願いしようかな。」
「了解である、少し待ってて欲しいである。」
「お湯沸かして待ってるよ。」

お湯とは風呂の事だろうか?まぁ、何でもいいであるか。
さて…一狩行くであるか!



「うんまぁぁぁぁい!!」
「少し大げさではないか?喜んでもらえたなら嬉しいであるが。」

狩りを終えて帰ってきた我輩は、お腹を空かせて待っていたミラル殿に簡単な料理を振舞ったである。
その辺で拾った香草と一緒に炒めた程度の料理だが、何であっても喜んでもらえるというのは心地よいものであるな…

「いやいや、本当に美味しいよ?」
「気に入ってもらえて何よりである。」
「お前さん、いい婿になるだろうねぇ…」
「い、いきなり何を言い出すであるか!?」

我輩が婿に行く前提なのか!?我輩はどう見ても嫁を取る側であろう!
あっ…でも、嫁を取る前にさらわれそうなきがするである…あの4人ならやりかねん…

「あたしだったら婿に欲しいね…気に入ってもらえないだろうけどさ。」
「む?何故であるか?」
「あたしなんて、金属を弄るくらいしか出来ないし、体もこんなだから色仕掛けしても笑われるしさ…」

…確かに、まともな性癖の人間なら魅力を感じることは少ないだろうな。

「だが、我輩はそうは思わんぞ?」
「…えっ?」
「仕事をしている時の楽しそうな笑み、我輩は素敵だと思ったである。」
「…でも…」
「それにな、我輩は小さくても大きくてもどんな胸も大好きである!」
「……一瞬かっこいいと思ったけどどうやら気のせいだったようだね。」

呆れたように首を横に振るミラル殿…我輩、何かおかしな事を言っただろうか?

「でも、あんたを見てたら元気が出てきたよ…ありがとな。」
「礼には及ばん、肝心の講師が暗い表情だと覚えも悪くなってしまうからな?」
「そういう時は、お世辞でも可愛い女の子を元気付けたいからって言うもんだよ?」
「我輩は世辞を言うのは苦手である。」
「ふぅん…それなら、こいつで素直になってもらおうかねぇ…」

そう言って、肩掛け式のバッグから液体の入った大きなビンを取り出してきた。
どう見ても酒だな!誰が何と言おうとも酒だ!酒だと言ってくれ!

…失礼した…酒の事となると少しばかり我を忘れてしまうのである…
琴音達に飲みすぎは駄目だと言われて飲めてなかったであるからな…久々に楽しむとしようか!

「いいのかホイホイ酒なんか出して、我輩は下戸でも構わず飲ませる男であるぞ?」
「面白い事を言うね…酔い潰せるもんならやってみなよ!」
「望むところである!鬼仕込の飲みっぷりを見て腰を抜かすなであるぞ?」



それから夜遅くまで飲み続けた結果…

「ふにゃぁぁ…」
「もうギブアップであるか…まぁ、大分もった方だろう。」

見事に酔い潰れた幼女と素面で飲み続ける人間が出来上がっていた

「あ…あんらほんほうひひんへんひゃ?」
「失礼な、我輩はどこからどう見ても普通の人間であるぞ…後、お前のような普通の人間がいるかと思った者は後でオフィスへ来るように。」
「なひをいっれ…」
「気にするな!である。」

我輩の様な代わり映えしないような者を捕まえて人外扱いするなんて…まったく酷いである
貴殿等もそう思わないか?……思わない?後でオフィスに…これはもういいか。

それよりも…だ。

「…何故抱きついてくるのであるか?」
「んふふー♪」
「少し飲ませすぎたか…味噌と大根はあったか?出来ればにぼしも…」

持ち物を確認するが…お、にぼしや調味料ならあったである。
流石に食材は持って来てないか…今日余った物で味噌汁でも作るか。
明日早起きするためにも、今日はもう寝るであるかな。

「もう寝るであるぞ…って、もう寝てるか…」

やけに静かだと思ったら、我輩にしっかりと抱きついて気持ち良さそうに寝ていたである。
このままだと寝辛いが…起こすのもかわいそうであるし仕方あるまい。

っと、寝る前に書いておかないとな…



〜今日の観察記録〜

種族:ドワーフ
犯罪レベルの外見を持つ魔物である…嘘みたいであろう?これでも成人なんだぜ…
手先が器用で、彼女達の多くは鉱夫や職人として生計を立てているな。
また、魔物になる前から人間などの異種族と交流を持っていたが、魔物になってからはより人間と親密な関係を築こうとしているようである。





………眠りについて数時間後…だろうか?…何か違和感を感じて目が覚めた…
何かが、ベッドの中でもぞもぞと動いているのが分かる…
確認したい所だが…眠くて仕方がない…
…明日確認すればいいか…眠くて何もする気になれん…

…確認しなかった事で、あのような事になるとも知らずに…
12/05/10 21:05 up
自分に自信がない姉御系ペドワーフっていぢめたくなりますよね?

ならない?そうですか(´・ω・`)
白い黒猫
DL