読切小説
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夢幻都市の祝祭
 軽やかな破裂音が響きわたった。俺は、ベッドの上で目を見開く。何が起こったのか分からない。
 破裂音は六発ほど続く。音は外から聞こえてくる。俺は、寝ぼけた頭で思い出す。あれは祝砲だろう。今日は祝祭日だ。この街では、年に一度祝祭がある。魔王や神々を称え、街の繁栄を祝う日だ。祝祭は今日から三日続く。
 俺は、ベッドの中で身じろぎしながら考える。職場の同僚から、この祝祭に参加することを勧められていた。祝祭の間は、俺は休暇になっている。俺は半年前にこの街に来た。一度も祝祭に参加したことは無い。
 俺は、祝祭に参加することにした。一日中寝て過ごすのも楽しいが、好奇心が勝ったのだ。俺は、ベッドから跳ね起きる。
 俺は、フレッシュチーズ入りのパンとコーヒーで朝食をすます。パジャマを脱ぎ捨てると、空中にライムの香りのする香水を噴き上げてその下をくぐる。普段は香水をあまりつけないが、祝祭だからつける気になったのだ。俺は香りを身にまとうと、水色のシャツと麻で出来た白いスーツを着る。
 グラスに氷を入れ、ラム酒を入れようとする。ブラックラムにするかホワイトラムにするか少し迷うが、ホワイトラムにすることにした。昼間の祝祭にはホワイトラムの方が似合う気がする。ホワイトラムを入れると何度かグラスをゆすり、喉に流し込む。氷で冷やされたラム酒の甘い味わいが口に広がる。
 景気づけをすますと、俺は住んでいる部屋から飛び出した。

 外は、白い家の壁が日に照らされてまぶしい。この街は、花崗岩と大理石でできた白い街だ。空の青と海の青が、白い街と鮮やかな対照となっている。俺は少し目を細めると、人を避けながら大通りへ進む。
 空にはドラゴンとハーピーが飛び回っていた。ドラゴンは宙に赤い炎を噴き、緑色の巨体を誇示している。鳥の魔物娘ハーピーは、かごから赤色、ピンク色、黄色、オレンジ色、紫色の花びらを撒いている。俺の肩に、紫色の花びらがのる。
 大通りでは踊りや見世物の披露が行われていた。祭りの間は交通規制がされて、車が通らない所が多いのだ。大通りの真ん中で、褐色の肌の踊り子が弦楽器に合わせて踊っている。広場では、巨体を誇るオーガが岩や木を破砕して見せている。
 歩いている人々の服装は様々だ。白いチュニックに赤いトーガを羽織った男が大股で歩いている。黒い三つ揃えのスーツに紫色のアスコット・タイの紳士が、婦人と談笑しながら歩いている。黒いパーカーに黒いジーンズの青年が、噴水のふちに腰を掛けてビールを飲んでいる。様々な時代の服装が入り混じっている。この街では普通のことだ。
 軽快な破裂音が響き渡った。合計で三発だ。祝砲の音を合図に人の流れが変わる。大通りから外れる人々と、大通りへ入る人々の流れだ。俺は、訳が分からずに辺りを見回す。大通りにいる者達は男だけになった。男達は小走りに走り始める。
 俺はやっと思い出した。この大通りで牛追いが始まるのだ。祝砲を合図に牛達が走って来る。男達は牛から逃げ、牛達は追う。その追いかけっこを楽しむのだ。ただし、牛はただの牛では無い。ミノタウロスなどの牛の魔物娘達だ。
 俺は、慌てて大通りから出ようとする。だが、男達の流れに邪魔されて上手く出ることが出来ない。俺は斜め前に走りながら出ようとする。
 後ろから獰猛な叫び声と、とどろくような地を蹴る音が聞こえ始めた。「牛」が追って来ているのだ。「牛」達は、男を捕えようとしている。周りの男達は笑いながら走り始める。俺は、流れに邪魔されながら大通りを横へ出ようとする。後ろを振り向くと「牛」達の姿が見える。角を振りかざし前のめりに突進してくる。
 俺の後ろを走る男がミノタウロスに捕まった。ミノタウロスは、汗を飛ばしながら腕を回して男を抱き寄せる。ミノタウロスは、汗で濡れ光る顔を男の顔に押し付けて頬ずりをする。歓喜の叫びが牛の魔物娘の口からほとばしる。
 俺は、ぎりぎり大通りから外れることが出来た。俺の横をミノタウロスが走り抜けていく。ミノタウロスは、俺を横目で見ながら舌打ちをする。どうやら俺を狙っていたらしい。俺は、走り去っていくミノタウロスの背にふざけた態度で手を振ってやる。俺は、ミノタウロスの婿になる気は無い。
 この牛追いに参加できるものは、妻や恋人のいない男だけだ。彼らを、夫や恋人のいない牛の魔物娘が追う。捕まった男は、捕まえた魔物娘のものとなる。
 俺は、大通りの横に立ちハンカチで汗をぬぐいながら、走っているミノタウロス達を眺めた。褐色の大柄な体は、胸や下腹部をベルトで隠しただけの姿だ。むき出しになっている体は、躍動する筋肉で弾けそうだ。突き上げられた角の下の顔は、精悍であり整っている。彼女達の顔も体も、汗で濡れて光っている。
 彼女達の方から風が吹いてきた。甘い汗の匂いが俺の鼻を覆う。彼女達の体は肉感的だ。俺の下半身に力が入り始める。
 俺は、下半身に力を込めて抑えようとする。俺は、苦笑しながら大通りを離れた。

 俺は、大通りから少し離れた所にあるカフェに入った。この街の他の建物と同じく白い花崗岩で出来ているカフェだ。祝祭の客で満員かと思ったが、いくらか空きがある。俺は、店の端にある白いテーブルの前の白い椅子に座る。このカフェでは、コーヒーだけでは無く酒も飲ませてくれるようだ。狼の魔物娘キキーモラの店員にジン・ライムを注文する。
 少し経つと、キキーモラの店員はジン・ライムを持ってきた。微笑みを浮かべながら丁寧に俺の前に置く。透明なカットグラスに、淡いエメラルドグリーン色のジン・ライムが氷と一緒に入っている。俺はグラスに口をつけ、甘さと辛さの混じった味わいを楽しむ。
 祭りを楽しむ人々を窓から見ながら、俺はこの街に来た時のことを思い出す。俺は、半年前に記憶を失ったまま街の門の前にいた。紺のスーツを着て、黒いビジネスバッグを持っていた。なぜこんな所にいるのか理解できないまま、俺は門の前に立ち尽くしていた。
 やがて、門の警備員らしい者が俺の前に来た。その女は心得顔で俺を門の中へと導き、門のそばにある建物へと案内する。どうやら入管の役所らしい。彼女は、俺の身元を尋ね始めた。持ち物を検査されたが、身元が分かる物は無い。銀製の懐中時計の他は目立った物は無い。俺に記憶が無いことを確認すると、市の担当役人が引き継いだ。
 俺から聴収をした警備員は、緑色の尻尾を生やしていた。俺の面倒を見るために引き継いだ市の職員は、黒い翼と尻尾を生やしていた。彼女達は人間では無い。だが、なぜか俺の中には恐れの感情が起こらなかった。おかしなことに、記憶を無くしたにもかかわらず、俺は混乱することも無かった。
 後で知ったことだが、俺のように記憶を失った者がこの街に来ることは良くあるそうだ。入管の職員を始め市の役人は、俺のような人間に慣れているのだ。
 俺は、市の職員からこの街について説明を受けた。この街は魔王の支配下にある街であり、魔王の娘であるリリムが市長をしているそうだ。魔物と人間が共に暮らしている街であり、よそからの移住者を歓迎しているそうだ。俺は魔王の庇護下にあり、この街は俺のことを歓迎するそうだ。
 俺は、彼らの勧めに従い市庁舎の市民課で働くことになった。市民のために様々な便宜を図る仕事をする部署、要するに市の雑務を担う仕事だ。市民の届け出に関する書類を処理したかと思えば、住民のもめごとに関して対処したりする。市のイベントの会場整理に駆り出されることもある。
 俺は記憶を失っているにもかかわらず、仕事や生活をするための知識や技術はある程度残っていた。なぜこのような記憶の失い方をしているのかは分からない。ただ、市の職員の話では、この様なことはこの街ではよくあることだそうだ。俺は、上司や同僚の気を使った指導の下で何とか仕事をこなしている。

 カフェの中でこの街に来た頃のことを思い出していると、店内のざわめきに気が付いた。店内は満員に近い状態となっており、人々の談笑する声が聞こえてくる。大抵の者は連れがいる。恋人同士の者もいれば、友人同士の者もいる。独りでいるのは俺くらいだ。
 俺は軽く肩をすくめる。いつものことだ。記憶を回復した訳では無いが、俺はいつも独りでいたような気がする。ただ、祭りは好きだったようだ。こうして独りで祭りを楽しんでいたようだ。俺は、人々のざわめきや歓声を聞きながら、祭り特有の波動のようなものに身をゆだねていた。
 俺は、この祭りに参加することを勧めた同僚の女のことを思い出した。女は、俺の先輩職員として俺に仕事を教えてくれている。その丁寧で辛抱強い教え方は、俺の方がすまなく思うほどだ。彼女は、黒い角と翼、尻尾を生やした女だ。淫魔と言われるサキュバスと言う魔物だ。
 彼女はサキュバスにふさわしい艶麗な顔をしており、豊かな胸の目立つ官能的な体をしている。仕事の時はスーツを着ているが、その蠱惑的な体を隠すことは出来ない。しかも彼女は、胸の谷間や太ももが見える着こなし方をしている。そのような格好で仕事をしていても、この街では問題とはならない。
 彼女は俺に仕事を教えるときは、俺に寄り添うようにして教える。その際に彼女の付けるジャスミンの香水の香りが俺を包む。彼女は手をひらひらと動かす癖がある。その芝居がかった仕草は、俺の印象に残っている。
 俺は肩をすくめた。俺と彼女は、仕事の同僚と言うだけだ。特別な関係は無い。俺は、馬鹿な考えを振り払うためにジン・ライムを飲み干す。そしてもう一杯のジン・ライムを注文する。
 ジン・ライムのエメラルドグリーン越しに店内を見ていると、二人の者が同席を頼み込んできた。店内は満員で空きが無いようだ。俺は、笑顔を浮かべて席を勧める。若い男女は丁寧に頭を下げて席に着く。彼らは、そろってフローズンダイキリを注文する。
 俺は、その男女と談笑をする。彼らは恋人同士らしい。青年は人間の男、娘は蛇の魔物娘であるラミアだ。彼女は、青年に身をすり寄せている。俺は、苦笑しそうになることをこらえる。
 俺は、彼らと談笑しながらジン・ライムを飲み干す。そして話が一区切りつくと、笑顔を浮かべながら席を立つ。恋人同士を邪魔するほど、俺は野暮では無い。恋人達と一緒にいる気もない。俺は彼らに会釈すると、勘定をすませてカフェを出た。

 大通りに戻ると、牛追いは終わっていた。踊りや見世物が戻ってきている。今頃、ミノタウロスと彼女達に捕まった男達は、よろしくやっているだろう。祝祭の間中やりまくるかも知れない。
 俺は、通りにある店で買った仮面をかぶった。額から鼻の上までを覆う白い仮面だ。俺同様に仮面をかぶっている者も、通りにはかなりの数いる。この祝祭は、参加者が仮面をかぶることも一つの特長らしい。
 大通りから街の西側を見ると、白い花崗岩で出来た古代風の壮麗な館が見える。「夢の館」と呼ばれる建物だ。俺同様によそから来た者で、訳ありの者が暮らしているそうだ。
 俺の視界に褐色の乱舞が目に入った。愛の女神の踊り子アプサラスが踊っているのだ。愛の女神の楽師ガンダルヴァが弦楽器を演奏するのに合わせて、弾ける様に踊っている。俺は、彼女達に近づいて見物を始める。
 アプサラスは青みがかった黒髪を振り乱し、胸と下腹部をかろうじて隠した格好で体をひけらかしながら踊っている。体を躍動させるたびに、香油を塗った褐色の体が日の光を反射して輝く。豊かな胸が音楽に合わせて弾む。彼女の体の周りでは、彼女の踊りに合わせて乳白色の膜が踊る。
 踊り子は、激しい踊りとは対照的に温和そうな顔をしている。その整った顔に笑みを浮かべながら俺に近づいてくる。体をくねらせながら俺の前に来て、胸を見せつけながら踊る。彼女からは香油の香りが漂ってくる。
 俺の左腕に柔らかい感触が当たった。振り向くと、銀の仮面をかぶった女が俺に体をすり寄せている。黒髪からは黒い角が生え、背には黒い翼が生えている。女はサキュバスらしい。仮面は、女の額から鼻の上まで隠している。仮面から覗く顔に妖艶な笑みを浮かべ、俺の耳にささやく。女からただようジャスミンの香りが俺を包む。
 踊り子は口の端を吊り上げ、体を扇情的にくねらす。香油でぬめり光る胸や腰をひけらかし、腕を上げて腋を見せつける。
 淫魔は、俺の耳に息を吹きかけながら豊かな胸を押し付ける。彼女は、透ける素材の黒いチュニックを着ていた。アメジストをはめ込んだ銀の装身具を胸に付けて、中心をかろうじて隠している。淫魔の柔らかい感触と甘い香りが俺に侵食する。紫のルージュを塗った唇が俺の耳をくすぐる。
 俺は、淫魔の腰に手を回して抱き寄せる。サキュバスは笑いながら体を押し付け、俺の腰に手を回す。俺の耳に口付けをする。
 アプサラスは一瞬不快そうな顔をしたが、しょうがないと言った顔で笑う。そして笑みを浮かべながら背を向け、腰をくねらせ尻を振りながら踊り、離れて行った。
 サキュバスは、それを横目で見ながら俺の耳に口を付けて、息を吹きかけ続けた。

 俺とサキュバスは闘技場に入った。俺達は少しの間、祝祭を一緒に楽しむことにしたのだ。闘技場では様々な催しが行われるので、さっそく二人で入ったのだ。
 石造りの闘技場は円形となっており、その中心で闘技が行われる。三百六十度から闘技を取り囲む形だ。闘技場は満員に近く、見物客達の熱気が満ちている。
 筋骨たくましい人間男と鬼の魔物娘オーガの拳闘が行われた。その次は、人間男の剣闘士とトカゲの魔物娘リザードマンの剣闘士の戦いが行われた。どちらも迫力ある戦いだった。死者が出ないように配慮してあったが、どちらかが死ぬのではないかと思ったほどだ。
 その後に、人間男の闘牛士とミノタウロス女の戦いが始まった。始まりを告げるトランペットとタンバリンの音が鳴り響く。まず、闘牛士が右手から現れる。青地に金糸を縫い込んだカポーテを羽織った敏捷そうな男だ。引き締まった褐色の顔は禁欲的に見える。闘牛士は、会場に向かって一礼する。
 続いて、左手からミノタウロスが現れた。二メートルを超える褐色の巨体を持ち、頭に白い角を生やした女だ。牛追いのミノタウロス達と同じく、胸と下腹部を皮のベルトで覆っただけの姿だ。弾ける様な筋肉が日の光に輝く。整った精悍な顔に不敵な笑みを浮かべる。
 闘牛士は、ミノタウロスの正面に立つ。赤いムレタを振りかざし、ミノタウロスを挑発する。ミノタウロスは身を屈めると、闘牛士に向かって駆け出す。頑丈そうな足が激しく地を蹴り、土埃が舞い上がる。ミノタウロスは、闘牛士の懐に突き進もうとする。
 ミノタウロスは赤いムレタで愛撫された。突進した先に闘牛士はいない。軽やかな動きでかわしてしまっている。激しい動きで振り向くミノタウロスに、闘牛士は微笑みかける。
 再び土が蹴立て上げられる。褐色の塊が赤いムレタに突き進む。闘牛士の青と金のカポーテが踊る。闘牛士のわきをミノタウロスは通り過ぎ、ムレタで愛撫される。ミノタウロスは黒髪を振り乱しながら振り向き、歯をむいて怒りの声を上げた。
 闘技場内から爆発的な歓声が上がった。熱気が天へ向かって放たれる。俺は、その狂熱の中で目がくらみそうになる。闘技場内は日が差し、白い光が目を射る。光と影の世界だ。
 俺は、左隣にいるサキュバスを見た。日の光で彼女の銀仮面は白く輝いている。仮面から覗く頬は紅潮している。彼女の口からは歓喜の声が上がっている。彼女は、生の歓喜に酔っているのだ。
 闘技場では生死をかけた踊りが続く。俺は、この競技が安全だとは思わない。闘牛士もミノタウロスも本気だ。光と影の中、生死の踊りを踊っている。闘牛士は剣を取り、ミノタウロスに突きを入れる。ミノタウロスは辛うじてかわす。ミノタウロスの突きを、闘牛士は寸前の所でかわす。土と汗で汚れた二人は、白い光の中で戦い、踊る。
 青と金のカポーテに褐色の巨体がぶつかる。赤いムレタが宙に舞う。白い光の中で、剣が銀色の光を放つ。闘牛士はミノタウロスに突き上げられる。会場内から悲鳴と絶叫がほとばしる。
 ミノタウロスは、闘牛士を筋肉で弾けそうな腕で抱きしめていた。そして、闘牛士を天に向かって掲げている。日の光が、勝利者とその戦利品を輝かせている。
 歓喜と称賛の叫びが爆発した。勝者に向かって会場全部から叫びが浴びせられる。観客達は、白いハンカチをミノタウロスに振る。汗で輝く牛の魔物は、勝利の叫びを天に向かって放つ。光の世界で叫喚が響く。
 俺は、白いハンカチを握りしめた拳を振り上げて勝者を称える叫びを上げる。俺の左隣からは高い口笛が響き渡る。サキュバスは、口笛を吹いて称えているのだ。

 闘技場から出た頃には日が沈みかけていた。俺とサキュバスは、夕食を探そうとレストランを探す。祝祭日にレストランは満員だと思ったが、サキュバスによると祝祭の時だけ増設しているそうだ。ただ、料理人は限られるので、一般家庭の主婦達が動員されているそうだ。その為に「家庭の味」になりがちなのだそうだ。
 俺達は、闘技場から三百メートルほど行った所にあるレストランに入った。建物の三階にあり、俺達はテラスにある席に着く。海に沈みゆく日の光を見ることが出来た。この街の落日は、葡萄酒に例えられる。西の空と海は赤紫色に染まり、白い街も赤紫色に染まる。
 俺達は、ビールを飲みながら食事をとる。焼いた鶏の肉と野菜を挟んだパン、香辛料で味付けした羊の肉と野菜の串焼き、牛と野菜を煮込んだシチューを食べた。見事に肉ばかりだが、俺は肉を食べたかったのだ。彼女も俺と同じ物を食べた。かなりの量だが、彼女は次々と平らげていく。
 俺達は、闘牛士とミノタウロスの戦いについて話す。闘牛士の持っている剣は魔界銀と言う素材で出来ており、相手を殺さない物らしい。ミノタウロスを初めとする魔物娘も、人を殺すことを避ける存在らしい。
 ただ、仮に相手が本気で殺そうとしても、彼らは戦っただろう。闘牛士は死を覚悟で牛と戦い、金と栄誉を手にする。ミノタウロスは死を覚悟で闘牛士と戦い、男を手に入れる。ミノタウロスは勝ち、闘牛士という男を手に入れたのだ。だからこそ迫力のある戦いだった。
 女は、興奮を抑えられないように話し続ける。そしてやや照れたようになり、ふざけるような軽い話し方をする。話しながら、芝居がかった態度で手をひらひらとさせる。
 俺は、彼女の話を受け応えながら手の動きを見ていた。

 夜になっても祝祭は続く。大通りには人々が繰り出して踊っている。踊る人々は様々な仮面をかぶっている。狼の仮面をかぶった男が、猫の仮面をかぶった女と踊る。笑う道化の仮面と蝶の仮面が戯れ合う。仮面の乱舞を、ヴィーナやギターの演奏が、トランペットやサックスフォンの演奏が煽り立てる。
 サキュバスは、俺を踊りに誘う。踊りは苦手だと答えると、私がリードすると彼女は言う。俺は彼女の誘いに乗り、彼女と踊る。俺は、彼女の銀仮面と向き合いながら踊る。彼女は俺を自在にリードする。俺は踊らされる。彼女の銀仮面を装飾するアメジストが照明に輝く。
 俺達は踊り続ける。犬や猫、狼や虎の仮面と、牛や鬼の仮面、蛇やサソリの仮面達と踊り続ける。
 仮面だろうか?彼女達は仮面をかぶっているのだろうか?俺には分からなくなる。俺は酒に、踊りに酔っているのか?
 俺は、女に大通りから建物の陰へと誘導された。女は、柔らかい体を俺に押し付けながら笑いかける。女は誘っているのだろう。踊っている最中に建物の陰や小さな通りへと消えていく男女の姿を見た。俺たちもそれに倣うことにしたのだ。女のジャスミンの香りが俺を包む。
 俺達は口づけを交わす。彼女の口からは、レストランで最後に飲んだ香草入りの酒の香りがする。俺は香りをかぎながら彼女の口の感触を、舌の柔らかさを味わう。彼女は俺の舌に舌を絡ませ、俺の口の中を愛撫する。
 淫魔は、俺のスラックスの上から愛撫する。俺のものが張り詰めてきたことを確認すると、俺の前にひざまずく。俺のスラックスのジッパーを下げ、俺のトランクスを下げる。俺のペニスを愛撫し、先端に口付ける。俺は体を震わせてしまう。
 淫魔は、俺のペニスを口と舌で奉仕する。巧みな技で俺に快楽を与える。俺はただ快楽に溺れていく。上目づかいに微笑む女を、俺は震えながら見下ろす。
 気が付くと、俺のスラックスとトランクスは完全に引き下ろされていた。淫魔は、自分の胸の銀飾りを取り除く。彼女は、透けるチュニックの下に何もつけていない。胸の中心の突起が見える。淫魔は俺のペニスを豊かな胸で挟み、チュニックごと俺のペニスを揉み解す。ペニスの先端を舌で愛撫する。
 俺は直ぐに登り詰める。出そうだと言うと、淫魔は俺のペニスを口に含む。緩急をつけて吸い上げ、女の頬がくぼむ。
 俺は淫魔の口の中で弾けた。腰を震わせながら淫魔の中に注ぎ込む。彼女は、頬をくぼませたまま俺の出す液を飲み下していく。ペニスを胸で愛撫して精の放出を助ける。
 出し切っても、淫魔は俺のものを吸い上げ続けた。胸をつかった愛撫も続けている。俺の欲望は回復してくる。俺は、俺のものを吸い続けている女の口を見つめる。
 淫魔は、俺の前で立ち上がった。大通りから漏れてくる明かりが淫魔を照らす。女の身に付けているチュニックは、透けている上に女の体の線を露わにしている。快楽を与えてくれた胸と引き締まった腰、滑らかそうな尻を強調している。所々についているアメジストのはまった銀の装身具は、女の性の魅力をかき立てている。
 淫魔は、下腹部の銀とアメジストを取り外す。チュニック越しに茂みが見える。チュニックの下には何も履いていない。俺は、女の前にひざまずく。チュニックの裾に手をかけて引き上げ、女の奥を露わにする。女の茂みは濡れており、漏れてくる照明で光っている。甘酸っぱい匂いがする。
 俺は、口と舌で淫魔のヴァギナを貪った。ねっとりとした液があふれてくる。女は、俺の口と舌であえぎ声を出す。女は俺の頭に手を当て、催促をしてくる。
 俺は立ち上がり、淫魔の中へ俺の欲望の塊を埋め込む。淫魔の熱く柔らかい中は、俺のものを貪欲に奥へと引き込み、貪って来る。俺は、熱い泉の奥へと突き進む。
 大通りから音楽と踊る人々の声が聞こえる。歓喜の歌が聞こえる。俺は、渦へと巻きこまれる。渦の中で女の銀仮面が踊る。俺の過去がどうかはどうでもいい。今だ、今が大事なんだ!この快楽と歓喜の中にいる今が全てなんだ!
 女は果てた。全身を震わせて、抑えた口から歓喜の声を上げる。俺のものを痙攣しながら締め上げる。俺も果てそうになる。女の中からペニスを出そうとする。だが、女は俺のものを締め付け、俺の腰に足を巻き付けた。俺は逃げられない。
 俺は、女の中で果てた。女の中に欲望のほとばしりを放つ。腰の奥から快楽が突き上げ、俺を快楽の渦に叩き込む。声を抑えようとするが、抑えきれない。渦の中で仮面が踊る。音楽が鳴り響き、仮面をかぶった淫魔が踊る。淫魔は俺をリードして踊る。俺達は、渦の中で踊り続ける。
 俺達は、祝祭の中で踊り続けた。

 俺達はバーに入った。交わりの後の気怠さの中で踊るのは難しい。休む場所が必要だった。俺達は香水を付けているから、情交後の匂いを気付かれることは無いだろう。もっとも、魔物娘は精臭に敏感らしいが。
 バーは、街の他の建物同様に白い花崗岩で出来ている。店内の所々が大理石で覆われ、彫刻されている。カウンターや店内の装飾品は黒色の物であり、店内は白と黒の空間だ。柔らかな照明が店内を照らしている。
 俺とサキュバスは、マティーニを注文した。バーテンダーは、酒の神の信徒であるサテュロスだ。白いシャツに黒い蝶ネクタイ、黒いベストを身に着けて、山羊の角を生やした魔物娘がカクテルを作ってくれる。
 俺は、マティーニを口に含む。辛い味わいが口の中に広がる。冷えたカクテルが喉を通っていく。熱を持った口の中が、体が冷めていく。
 サキュバスは、ある街の祝祭について話をした。その街は、厳しい法によってがんじがらめにされている。だが、厳しいだけでは人々が耐えられなくなる。そこで、仮面をつける祝祭を行ったそうだ。祝祭の間は無礼講となる。仮面をつけた男女は、身分に関係なく祝祭の間だけ愛し合う。
 サキュバスは、口の端を吊り上げる。この街は逆なのだそうだ。厳しい法にがんじがらめにされてはいない。だが、祝祭の間に愛し合った男女は、その後の人生を共にして愛し合わなくてはならないと。
 サキュバスは、俺の胸に手を当てた。そこには懐中時計が入っている。銀の懐中時計を持ってこの街に現れた男と、これから先も戯れたい。そう、女は囁く。
 俺は苦笑する。俺は、ふざけた態度で了承した。俺の懐中時計について話をしたサキュバスは一人だ。そのサキュバスは他の者に話し、別のサキュバスが伝え聞いたかもしれない。だが、ジャスミンの香りを漂わせて、芝居がかった態度で手をひらひらさせるサキュバスは限られる。
 サキュバスは俺に寄り添う。俺は、サキュバスの腰に手を当てて引き寄せる。俺達は、共にマティーニを口に含む。酒の神に仕えるバーテンダーは、微笑みながら見守っていた。

 俺達はバーを出ると、再び大通りに繰り出す。踊りはまだ終わっていない。サキュバスは俺の手を引いている。俺に向かって微笑みかける。
 俺は、今まで一人で祝祭を楽しんできた。だが、二人で楽しむ祝祭も良い気がする。
 踊る人々のざわめきと音楽が聞こえて来る。祝祭は、まだこれからだ。
16/05/07 22:45更新 / 鬼畜軍曹

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