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第七話 裕也の初めての依頼
翌朝(というより夜)、オレはギルドへと足を向けていた。
起きてすぐに、机の上にセラからの手紙が置かれていることに気づいた。
手紙には簡潔に『仕事がある、ギルド本部に来い』と書かれていた。
早速の仕事に、若干不安も感じるが...

(まあ、それほどに人手が足りていないのか)

それに、人手が足りていないというのなら、収入もそこそこ見込めそうだ。
オレは少し疑問に思いながら、ギルドへと向かった。







「ふむ、予定時刻よりも30分早いが、みんなそろったことだ、話を始めようか」

ギルドに足を踏み入れると、あのときの黒騎士が話しを始めだした。
あの時には気づかなかったが、首の留め金を見るかぎりデュラハンだろう。

(みんなっていうことは、他にメンバーがいるってことだよな)

ギルド内には片手で数えられるほどの人(?)しか座っていなかった。
オレが確認しようとしたとき、近くの席から声をかけられた。

「早く来るとはいい心がけだな、裕也」

入ってすぐの長椅子に座っているセラ。
戦っているときの服装とは違って、今日はゆったりとした服装となっている。


Tシャツ1枚に短パン姿。
服の上からでもわかる胸の二つの果実。
緑色の鱗が外の光に照らされ、艶めかしく光る。
その姿は、艶やかというには力強く、剣士というには美しすぎた。

(今までこんな美女に会ったことはないな)

こんな女性が町中歩いていたら、誰でも振り替えるだろう。
もちろん、オレもその例外ではないが。
目線を上に上げると、彼女と目が合った。

「どうした、何か用か??」

「いや、何でもない」

オレはとっさに目線をそらした。
目が合ったその時、言い表せない何かが体を支配した。

たかが目が合っただけ。
それだけのはずなのに、なぜか鼓動が早くなる。
こんなこと生まれて初めてだ。
心の中で何かもやもやしたものがまとわりついてくる。

(くそっ、一体何なんだ)

オレは彼女にまた目を合わさないように、長椅子に座った。
前に立っていたデュラハンは、オレが座ったと当時に話しを始めだした。

「まず、裕也にはジパングへと向かってもらう。
そこで、とある事件の調査をしてほしい」

「とある事件??」

「そうか、あの事件を知らないか。

...まあ、無理もないか。

ジパングで15年前に起きた無差別殺人のことだ」


15年前か、随分昔の事件だな。
ちょうどオレが2歳の頃か。

今さっきのもやもやが、別の黒い感情へと変わっていく。
2歳の頃のことは、あまり思い出したくないな。

ちょうど両親が事故で亡くなった時だ。
二人がオレを連れて旅行に行っていた最中に事故に遭った。
事故に遭う直前、父さん母さんはオレをかばって死んだ、と祖父から教えてくれた。
オレ自身、その時のことをよく覚えてはいない。

祖父に事件のことを聞くと、いつも悲しそうな表情でオレに、

『いつか必ずわかる時が来る。それまでの辛抱じゃ』

と、話していた。
いつも豪快な笑い声をあげる祖父が、この話題になると決まってそんな表情をしていたことをよく覚えている。
オレにとって一番古い記憶といわれたら、迷わずこのことだろう。

その頃からだった。
祖父がオレに剣術を教え始めたのは。

小さな時から習わせるものではなかったが、両親がいないことを引きずらせて生活させていくよりもずっといいと思ったのだろう。

今になってはよい経験だと思う。
たぶん、あの時剣術を始めていなかったら、今頃ひん曲がった性格になっていただろう。


「裕也、どうした」

感傷にふけっているオレの肩をセラはそっと揺らした。
はっ、と顔を上げると、全員がこちらを向いていた。

「それで、依頼を受けるのか??」

デュラハンは依頼の承諾を催促してきた。
どうやら、オレが感傷にふけっている間に話しは進んでいたようだ。
依頼の内容は前半で理解できたから、問題はなさそうだ。

承諾の一言を伝え、準備するために部屋に戻ろうとしたとき。

「ああ、ちなみに今回のメンバーはセラとそこにいるジャックだ」

ジャック??

オレは振り向いてその男をみた。
あの顔は見覚えがある、というよりも忘れられない。

「おう、よろしくな裕也」

筋肉ムキムキの男が笑顔でにじり寄ってきた。
オレの頭の中で、とある記憶がよみがえってくる。
忘れようにも忘れられないあの記憶、そしてあの言葉。



『やらないか』

(スーパーイケメンヴォイス)



ゾクッ...

背筋の凍る思いをしながらも、オレはその場から逃げなかった。
いつものオレだったら、とっくの前に逃げ出している。
けれども、これはお仕事なのだ。
仕方が無いことだ、と割り切らないといけない。

そう、割り切らないと...

「ほう、あんなことがあっても俺から逃げ出さないとは、いい度胸だな」

やっぱ無理かも...

オレは半歩下がった状態で握手を交わした。
何かしてくるかと思っていたが、意外にもそれだけだった。
なんだか警戒していたオレがバカみたいだ。

「まあ、仕事は手伝ってはやるが、こちらも少々訳あり何でね。
当てにはしないでくれ」

どうやら依頼以外のことで何かあるようだ。
けれども、聞けるような雰囲気では無かった、というよりも聞く気も無かったのでオレはそのままギルドを後にした。






どうやらこの世界に来て、かなりツキがまわってきているのかもしれない。
セラと一緒にかえりながら、そんなことを考えていた。
最初はひどい災難だ、と思っていた。
でも、これからのことを想像したら、そんな気分も吹き飛んでしまった。
この依頼を受けるついでに、オレも少しやることがある。
とっても大切なこと。

もしかしたら...

(二人とも生きているのかなぁ)

ここが異世界であるなら、オレの両親も生きている可能性は0じゃない。
たとえオレの記憶はなくてもいい。
ただ、二人に会いたい。
少しでもいい、二人と話しがしてみたい。
とうの昔に無くしたものを、もう一度触れてみたい。
あの頃にあって、今にないものを。



「何をそんなに悩んでいるんだ、裕也」

ふと、目線を上げてみると、心配した顔でのぞき込むセラがいた。
今思えば、今日はかなり考え込むことが多いな。
現に何回セラにこうやって声をかけられたか。

「いや、「なんでもない、って言うのだろう」」

セラはため息をつき、話しを続ける。

「なにやら深刻そうな顔をしてばかりだぞ。
そんなのだったら、明日のお祭りが楽しめないぞ」

「お祭り??」

確かに町全体が浮ついた空気をしているとは思っていた。
けれども、一体何のお祭りなのかは全く知らなかった。

「そうだ、明日は現魔王様が即位した由緒正しき日なのだ!!」

バーンッと胸を張り、ドヤ顔でセラは答えた。
胸は最高にすばらしい、いや本当に眼福だ。
ただそのドヤ顔が残念極まりない。

「そうなのか。それで、即位して何年目なんだ??」

「......」

セラは意図的に視線をオレからずらした。
オレに顔を合わせないように、祭りの準備に目を向けている。
その雰囲気からは、焦りのようなものが感じられてくる。

知らないな、絶対に知らないな。

「なっ!!知らないのでは無いぞ、ただ忘れただけだ!!」

ふつうに聞いただけならすごい迫力だが、顔を真っ赤にして言ってもなぁ。
まあ、その胸に免じて追求をやめようか。
追求してもおもしろそうではあるが。

オレは祭りの準備をしている人たちを眺めた。

「お祭りか...」

お祭りに行ったことはほとんど無い。
小さい頃から祖父の修行のおかげで、祭りに行くほどの体力は残されてなかったからな。
それで行こうにも行けなかった。
だからこの町の雰囲気を感じていると、不思議と楽しくなってくる。

けれども、オレにはこのお祭りを楽しむことはできない。



なぜなら...お金を持っていないからだ。


何をするにもお金は付きものだ。
お祭りを楽しもうにも、お金がなければ屋台一つ楽しめない。
それではおもしろくない。
オレはセラにお祭りに行かないことを伝えようとすると...

「ふっ...問題ない。依頼の前金でこんなにもらってきたぞ!!」

セラは懐から巨大な布袋を取り出した。
中にとてつもないぐらいのお金が入っていることが耳だけでもわかる。
これが前金??

それにしては、額が異常では無いだろうか。
少し不安にも感じたが、久しぶりのお祭りに心躍らせていたオレにとって、些細なことだった。

「よっしゃ!!これなら、お祭りも十分に楽しめそうだ!!」

ガッツポーズをとりながら、布袋から金貨を数枚取り出した。
セラはその様子に驚いていた。
驚くというよりも、信じられないという顔をしていた。

「まてまて、こんなにもあるのにそんな少しでいいのか??」

なんだ、そんなことか。

「お金はあれば便利だが、多すぎるのは不幸も一緒に来るものさ。だからほどほどが一番いいんだよ」

「そんなものなのか??」

「そんなもんだよ、お金ってのはな」

金貨を懐に直し、ギルドへと帰っていく。
明日のお祭りに向けて、ゆっくりと休むとしよう。
久々の祭りだ、思う存分満喫するぞ。

仕事は明後日から、と聞いてあるからゆっくり楽しもう。
その時のオレは、お祭りのことで頭がいっぱいだった。

これから先に何があるかも知らないまま...










とある一室の二人の会話

「それで、その男はどんな感じだったのじゃ??」

幼いにしては深刻そうな声で会話していた。

「そうだな、あの二人によく似た男だったな」

もう一人の男は懐かしそうに答える。

「やはりか。それでは...」

なにやら男の耳元で何かをささやいている。

「本気か??あいつにそんな度胸があるとでも??」

「無かったら無かった時じゃ。その時はお前さんの手でやってしまえば良い」

「...」

「しかながなかろう。手段はこれしかないじゃ」

「...それが二人を悲しませることでも、か??」

「...そうじゃ。わしらにも守るべきものがある。そのためにも仕方がないのじゃ」

「......了解した。」

「頼むぞ。約束の時までは残り少ない。やつが全てを取り戻すまでに進めるのだ」

二人は静かにその部屋から出て行った。
13/06/05 18:35更新 / マドレ〜ヌ
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■作者メッセージ
はい、お久しぶりです。マドレ〜ヌです。
なかなかお返事もお返しすることができない状態で申し訳ございません。
毎日アッー!!という間に過ぎてしまっていると、しみじみ感じてくる○○歳です。

更新は不定期ですが、これからもよろしくお願いします。

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