連載小説
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廃墟の町 下
 広場は喜びに包まれた。
 だが・・・。


「だまれぇーーー!ワシは認めんぞ!我が愛しい娘が、あの憎き男の息子と結婚するなぞ、断じて認めんぞぉぉぉーーー!!!」

 ミットンの全力の叫びが、鳴り響いた拍手を吹き飛ばした。

「お前たちぃぃー!早くあの小僧を殺せぇー!!」
 半狂乱の叫びに押されて、スケルトンと怨霊達が広場に向けて突撃していく。

「兵士!迎撃態勢を!ミハお義母さん、冒険者殿すみません。もう一度お願いします。」
 冒険者は笑いながら剣を掲げ、兵士とミハノアは向かってくる死霊たちに慌てて向き合う。

「奥さん辛そうだが、大丈夫かい?」
 剣を掲げながら冒険者が横のミハノアに声をかける。

「ええ、大丈夫です。この像に触れていると、誰かが隣で励ましてくれてる気がするんです。神さまが見て下さってるんですかね?」
 ふふふと笑うミハノアを見て、冒険者が大丈夫かよと呆れる。

「シノン・・・待っていてくれ!必ず助けるからな!」
「・・・うん」
 ジエフがシノンと視線を交わし。冒険者と兵士たちもいつでも来い!と身構えたその時・・・。

「もう良いでしょう!ランドラ、貴女も満足しましたね?」
 ツイーズの声にジエフが「あ!」っと振り向く。この2人が「なんとかできる」と言っていたのを完全に忘れていたのだ。

「うん! 満足!
 それじゃあ、勇気ある人の子達の願いをお姉さんが叶えて上げましょう!」
 ランドラの言葉にジエフや周りが目を丸くする。

「ランドラさん、願いを叶えるって・・・一体? ミットンさんや魔物達を抑えることですよね??」
 ランドラの正面ではツイーズが魔術の印を結んでいる。
 その横からジエフが問いかけると、ランドラがニッコリと笑った気配が伝わってきた。

「お互いの心も体も使って精一杯愛し合えるようにするって意味・・・よ♡」
 驚き固まるジエフの前で、ツイーズの印が結び終わる。

「スケルトン来ます!」
「怨霊来るぞ!」

 兵士と冒険者の警告が上がる。
 だが、ツイーズは動じない。2本の指を揃えて、切り上げる様にランドラのフードを捲った。

 ドン!

 その途端、ビリビリっと大気が震えた。
 今まで封じ込まれていたランドラの膨大な魔力が大気を震わせたのだ。
 彼女を中心に強風が辺りに吹きつける。
 軽いスケルトン達は風に押し倒され、怨霊たちは木の葉の様に吹き飛ばされていく。

「!?」
 ジエフは吹き付ける強風に半身になり顔を腕で覆って耐えると。
 フードから現れたランドラの顔に目を見張った。

 淀んだ沼の様な緑の肌。色が綺麗に抜け落ちた長髪。そして何よりも目立ち、なによりも異常性を際立たせる深緑の2本角。 

「ランドラさん・・・貴女は・・・!?」
「プハァァァン。ア〜♡ナ〜♡タ〜♡」

 ジエフの驚きなど目もくれず、ランドラは目の前に立つ愛しい夫にしなだれ掛かる。
 その声は甘く、熱い吐息はどんな熟れた果物よりも甘い匂いを辺りに振りまいた。

「済まない。妻は封を解いてしまうとマトモに理性が働かないんだ。だが大丈夫、このまま任せてくチゥッ。」
 ツイーズがジエフに安心させようと声をかけるが、最後まで言わせて貰えずランドラに唇を奪われた。

「チュッチュ、クチュ、クチュ。プハー。ン!クチュ、レロレロレー。」
 ツイーズとランドラの淫らなキスの音と甘い匂いが吹き付ける風に乗って全ての者達に届けられる。

 遠くにいたミットンやシノンですら、届く音と匂いに、2人の痴態がまるで目の前でが繰り広げられている様な錯覚に陥った。

 広場にいる全員が急に始まった痴態に驚き固まってしまう。
 場違いな行動に目をそらそうと考えたり、不快に感じる者も確かにいたが、実際に顔を背ける事が出来た者は誰もいない。
 例えどれだけ清廉な紳士でも、例えどれほど潔癖な淑女でも2人の痴態からは目を逸らすことができなかっただろう。

 それは生きている者達だけでは無い。
 吹き飛ばされたスケルトンや怨霊達、勿論シノンやミットン含めた死者達でさえ、異型の女と人間の男の愛の交感から目が離せなかった。
 いや、その視線は生きているもの達よりもさらに熱く、遠慮なく、強い憧れが込められていて・・・。

「ん・・・」
 ツイーズがキスを続けながらマントの肩口を広げる。

 ストン

 ランドラの全身を隠していたマントが滑り落ちた。

「!?」
 現れたその姿にジエフは息を飲む。
 いや、息を飲んだのは2人を見つめる全員がそうだっただろう。

 一番に目に飛び込んで来るのは、肌よりも濃い深緑の翼と骨が浮き出た尻尾。
 どちらもとても大きい。
 腰から生えた翼はランドラとツイーズをまとめて包み込めるほど、尻尾はランドラとツイーズの体に幾重にも巻きつくほどだ。

 そして両の腕や脚にはゴツゴツとした白い骨が手甲や脛当の様に生えており、手足の先は大きな鉤爪となっている。

「ドラ・・・ゴン・・・?」
 ジエフの中でお伽話のドラゴンの姿が連想された。
 見上げるほどの巨体を自由に飛び回らせたという大きな翼。財宝をくすねようとする身の程しらずを一撃でペシャンコにする太い尻尾。鉄の鎧でも易々切り裂く鋭利な鉤爪。
 そして・・・王冠の様に天を衝く立派な角。

 母に読んで貰った絵本のドラゴンとランドラの姿が重なって見える。
 だが、ドラゴンは大きなトカゲだ。いくら特徴が似ていてもランドラは人型・・・それもとびっきりの美人だ・・・。

 その緑の肌は程よい肉付きで、人肌とは思えぬほどに柔らかそうだ。体の随所、特に体の脇から生える多くの爪が要所要所を隠しているが、本当に大事な所しか隠せていない 。
 特に熟れすぎた果実のように垂れ下がった胸は、爪が食い込みその柔らかさを生々しく伝えてくる。
 そしてもっとも大事な筈の女の秘所。そこを隠す僅かばかりの爪の間からはポタリポタリと淫らな雫が滴っている。

 つい貪りたくなるような美人だ。


 だが、こんな不道徳な姿は娼婦だってしないだろう。
 そして衆人の見つめる中でさえ男を求める、その破廉恥さ。

 ジエフの中で、自分を救い導いてくれたクールなお姉さんのイメージが、またしてもガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
 だが、本来なら失望し背を向けてしまうような光景なのに、どうしても目が離せない。
 それどころか、昨夜と同じだ。自分のチンコがいきり勃つのを抑えることができない。さらに直接姿を見たせいか、痴態と分かっていても目を離せられない。

 ジエフのすぐ目の前で、2つの果実がツイーズの胸板に押し付けられ、柔らかそうに形を変える。大事な先端が見えてしまいそうだ。

「ゴクッ」
 生唾が出てきた。
 だが・・・。

「「プハァ・・・」」
 長く重なっていた唇が離された。寂しげに蠢く舌と糸を引く唾液が見るものの視線釘付けにする。
 周りの困惑と劣情の視線を気にもとめず、ランドラは体を解す様に両手を伸ばし背中を思いっきりそらした。

「ん〜〜〜・・・・・・」
 キスによって眠りから目覚めたといように、気持ちよさそうに体を解すランドラ。

「ツイーズさん・・・彼女は・・・」
 その様子を横目に、ランドラから一歩離れたツイーズにジエフが恐る恐る訪ねる。
「ええ、彼女はドラゴンゾンビ。魔物が現魔王陛下の影響によって姿を変えた魔物娘の1人です」
「魔物・・・娘?」
 見たことも聞いたことも無い呼び名だが、広場の周りを囲むスケルトンや怨霊達とは根本的に違う事は分かる。

「今から巣作りが始まるのでちょっと待ってて下さいね。」
「巣作り?」

 ジエフの混乱が続くなか、ランドラの巨大な翼がバサバサと羽ばたく。
 羽ばたく風に乗って甘く濃厚な汗の匂いが辺りに放たれた。
 その匂いを嗅いだ女性達はウットリするように頬を赤らめ、男達の目が欲望に染まり、天に突き出された巨乳にギラついた視線を向ける。
 ジエフも、勢いよく口や鼻から入ってくる甘い汗に唾が止まらなくなる。

(貪りたい。舐め回したい。)

知らず自分の唇を舐めとり、その甘みを味わってしまう・・・だが。

「はいはい、君が見るべき人はあちらだよ」
ランドラの色香に惑わされていたジエフを、ツイーズの手が優しく背後へ振り向かせた。
 そこには・・・プクーと頬を膨らませたシノンの姿が・・・。

(あ、ヤバイ)

 ・・・ジエフの頬を冷たい汗が伝う。


「く・・・、人を誑かす魔物め!私の町にそのような汚れをばら撒くな!」
 ディープキスに目が離せずにいたミットンだが、ジエフの顔を見て正気を取り戻したのか、叫び声を上げて自らランドラへ向けて飛翔する。

 だが、ランドラは気にしない。
 お腹に溜まった力を解放するように大きく口を開けると、地面に向けて緑色の霧を吐き出した。

 ゴオォォォー!

 『腐敗のブレス』ドラゴンゾンビが放つ、全ての相手の理性を腐り溶かす魔性の霧。
 濃密な魔物の魔力を秘めた霧が、瀑布となって広場を呑み込む。
 ジエフが、兵士たちが、住民たちが、少し高いところにいたミハノアや冒険者が霧の中に姿を消した。
 だが、魔物の中でも最強の一角を占めるドラゴンの魔力がその程度で尽きるわけはない。
 緑の瀑布は一瞬で広場を超え、町の全土へと広がり埋め尽くしていく。
 スケルトン達も逃れる術なく全てが霧の中に姿を消した。

「く! なんだこれは!?」

 異様な霧に危険を感じたミットンは、急制動をかけて、何とか霧の外に踏みとどまる。
 この霧は重いのか、地上から数mの高さまでしか上がって来ない。
 どうして良いか分からず町を飲み込んだ霧をみつめるミットン。

 腹部の窓からは、シノンも心配そうにジエフが立っていた方に目を向けている。
 
 その時、霧の中を巨大な赤い光がよぎった。

「「!」」

 2人がビクリと身が竦ませる。
 そして・・・。

 ソレはフワリと、静かに霧から浮かび上がった。

 静謐な沼の水で形作ったような新緑の巨体。
 トカゲのような体に巨大なつばさ、おとぎ話に出てくる凶悪なドラゴンの姿がそこにあった。
 だが、全身の鱗には生気が感じられず、いくつも腐り落ちボロボロとなっている。
 ヌメリとした巨大な翼も一部が破れてしまっていた。
 すぐにでもバラバラに崩れてしまいそうな体だ。

 だが、その体には異様な活力が漲っている。
 ゴツゴツした骨を鎧の如く身に纏い、あらゆる外敵を悉く粉砕するであろう力強さ。
 武骨な見た目に反し、その振る舞いには女性らしく、しなやかで艶やかだ。
 生ている者よりも活きている死者。

 ミットンは今にも崩れそうな死の気配、その余りの恐怖に震え上がる。
 シノンは凛々しく瑞々しささえ讃える死の気配、その余りの美しさに目を見開き感嘆する。

「う・・・うわあああああーーー!」
 ミットンは余りの恐怖に叫ぶと、璧を指揮棒のごとく振るってに怨霊達をランドラに撃ち放つ。

 キエエエエエエエ!

 璧から魔力を注がれた怨霊達が業火を上げて突撃する。

 だが、そんなのは無意味な抵抗とばかりにランドラが軽く腐敗のブレスを吹き付ける。

 ギエエエ!・・・あああああん♡
 ギエエエ!・・・うおおおおお!
 腐敗のブレスを浴びた怨霊達は最初は踠き苦しむがそれも一瞬のこと、女性の怨霊は艶やかな声を上げて魔物娘に変わり、出来たばかりの初々しい肢体をくねらせる。
 男の怨霊は欲望の火を燃え上がらせ、ゴーストやウィル・オ・ウィスプに生まれ変わった近くの女性に飛びつく。

「ひゃぁん♡」
 女性達は飛びかかる男に驚くが、嫌がるどころか逆に嬉しそうな様子で迎え入れてしまう。

「な!?な・・・?な・・・??」
 ミットンは余りの出来事に言葉にならず、ただ呆然とみつめるばかり。
 シノンも驚いたがそれと同時に、心の奥で期待がムクムクと膨らんでいく。
 そんな彼女の視界の端、巨大なドラゴンの上に誰かが立ち上がったのに気づいた。

「今です!璧を奪って!」
 その声にシノンはハッとした。呆然と垂れ下がったミットンの手が、シノンの覗く窓のすぐ側にあったのだ。

「!」

 何を言っているのか理解できないでいるミットンの隙をつき、窓から手を伸ばし璧を掴み取る。

「な!」
 これにはミットンも危機を感じた。力の根源である璧を無くすわけにはいかないと手を伸ばす。
だが、シノンの手が一歩早く窓の内側に逃げ込んだ。

バチン!

「くそう!」

ミットンの手だけが、お札に弾かれ虚空を彷徨う。

「さて、これで貴方がシノンさんの体に憑依し続けるのは難しいでしょう」
 ツイーズの言葉に、ミットンが慌てて顔を上げた。
 実は死体に憑依するのも簡単では無い。
 止まった心臓の代わりに魔力の血潮を流して全身を潤さねばならない。
 今回はさらに、シノンの心を閉じ込めるためにも魔力を消費していた。
 そんなエネルギー、ミットン1人の恨みの力ではとても足りない。
 璧の力あっての憑依だったのだ。

「お!お前は一体なんなん・・・!」
「あなたには、あなたの帰るべき懐がある。そこへ帰りなさい!」

 驚愕しかないミットンをツイーズが厳しく突き放す。

 ヴォオオ・・・

 ツイーズの声に引かれるようにドラゴンゾンビの口が開かれる。
 その中にはブレスを圧縮した腐敗の砲弾。

 ドン!

 放たれた砲弾は凄まじい勢いでミットンにぶつかると霧の大爆発を巻き起こした。
 その衝撃にミットンの怨霊はシノンの体から弾き出され、吹き飛ばされていく。
 周りにいた怨霊の半分も霧を浴びて魔物娘や魔物娘を求める雄へとなっていく。 


「ジエフ君にはこっそり護符を貼ってあります。妻の霧の中でも理性が残っているでしょう・・・。きっと、あなたが来るのを怖々と待ってますよ。」
 霧が未だ渦を巻く中へ、ツイーズは優しく、最後は可笑しそうに語りかけた。
 渦の中からは、何かが頷く気配が伝わってくる。
 その気配は直ぐに、流れ落ちる霧に乗って広場へと向かっていった。

「さ、巣作りも最後の仕上げです。」
 気配を見送ったツイーズは更に上を仰ぐ。
 腐敗の砲弾から難を逃れた怨霊達が暗雲に逃げ込んでいく。
 それに伴い暗雲はより活発にウネリを上げ、内部を稲光が駆け回る。

 キュ〜〜

 そんな時、ランドラから物悲しい声が上がった。
 厳つく恐ろしいドラゴンの姿で、モジモジと切なそうにお股を擦り合わせながらツイーズをみつめる。

「もう・・・。ブレスを使いすぎましたか?仕方ない、もう少しの辛抱です。今はこれだけで我慢してください。」
 ツイーズはそう言うと、ランドラの鼻先に屈み込んだ。鱗をしっかりと握って体を支えると、巨大なドラゴンの唇を捲り、自分の口からタップリの唾液を垂らし入れた。

 フゥオオォォ〜〜ン!

 ドラゴンの巨体が喜びにふるえ、全身から瘴気が吹き出す。
 力強さを取り戻した翼が一つ羽ばたくと、グンッ!と上昇を始めた。


 バリバリバリ!

 上昇するランドラを撃ち墜とそうとするように暗雲から稲妻が放たれる。
 だが、吹き出す瘴気が稲妻を受け止め、散らし無効化する。

 あっという間に、ランドラは暗雲の少し下まで位置まで来ると、そこで止まった。
 グッと体に力が入り今日一番のブレスが喉を膨らませる。
 暗雲からは無数の目が覗き。ツイーズとランドラを見つめる。こちらを恐れているが、生者への憎しみもいまだ根強い。

 だが、ジエフはそんな視線気にも留めない。それどころか、愛する者と共に戦う興奮に子供のようにキャッキャと声を上げる。

「ハハハ!あなたと一緒に暴れるなんて子供の頃の夢でした。すごい楽しくてあの頃に戻ったようです!・・・はい!おばあちゃん!やっちゃえー!」

 ヴゥオオオオオオオーーーーーー!!!
 
 ジエフの掛け声に合わせて、膨大な腐敗のブレスが解き放たれた。
 ドラゴンの顎門から濃霧の濁流となって暗雲とぶつかった。

 濃霧と暗雲は混ざり合い攪拌しながら、互いを飲み込もうと鎬を削る。
人々を愛せよと囁く魔物の魔力、憎き者達を滅ぼさんとする怨霊達の妄執。
 両者の間で激しい火花が散る。

 だが、それもわずかな間のことだった。人々を守らんとする魔物の魔力が、怨霊達の最期の力を飲み込んでいき・・・最後には優しく包み込んだ。

 怒りでしか霊としての形を残せなかった者達へ、その怒りをほぐし、愛を思い出させるために。
 優しく優しく、深緑の霧が全てを包み込んで行くのだった。



 ◆



 ジエフの体は霧の瀑布が包み込まれた。
 霧の勢いはかなり強い、また毒々しい色をしている。
だが不快感は感じられなかった。

 ただ、周りが何も見えない。近くにいた筈のツイーズとランドラの姿も霧の中だ。
 その時、霧が大きくうねった。

「ちょっと行ってきます。ここでお待ちを」
 それはツイーズの声だ。
 ジエフが口を開く前に、何か大きな物が直ぐそばを通りすぎた気配だけが伝わってくる。

「お待ちを・・・て言われても」
 先程見たシノンのふくれっ面を思い出し頭を抱える。

「不味いよな〜。スッゲー不味いよな〜。」
 結婚してくださいと告白したそばから、他の女性に目を奪われるなんて・・・。
 昨夜も2人の痴態には強く意識させられたが、何とか目は離すことができた。
 だが、先程はマジマジと見てしまっていた。しかも、ジエフの股間で未だにチンコがキリリと伸び上がっている。
 申し開きのしようがない・・・。

「軽蔑・・・されたかな」
 周りには兵士や住人がいる筈だが、霧が音を吸収するのか、彼らの音はさざ波程度にしか聞こえてこない。

 急に静かな環境で1人待たされるジエフは、不安を募らせていく。

「シノン・・・」
 不安に耐えかねたように力無い呟きが漏れる。
 それに・・・。

「はい?」
 返事が返ってきた。

「!」
 ジエフが驚いて顔をあげる。いつの間にかコツコツと足音が近づいてきていた。
 そして、霧の中からユラリと少女が現れる。シノンだ。

「!?、???」
 いや、確かにシノンなのだが先程まで顔を見合わせていた少女とは雰囲気が変わっている。

 顔は病的に白いが、少し大人びて女性らしさが増している。背丈は10cm以上伸び、スラリとした足が動くたびに、ランドラさんと同じ綺麗な白髪のポニーテールがフワリと揺れる。
 そして最も目を引く、タワワに実った2つの果実・・・。
 身に纏う衣装も変わっている。少女らしい長袖のワンピースだったのが、パーティーで着るような大人向けのナイトドレスとなっている。
 いや、これほど胸を開いて見せびらかす様なドレスは王のパーティでも早々みないだろう。

 ・・・シノンは15歳のはずだ、胸も身長もはまだまだ発育途上だった筈だし、こんな・・・色々と大人びた衣装は見た事がない。
 だが、今のシノンの姿は18歳ぐらいか・・・、色香のある衣装でもバッチリと着こなし、溢れる程の女性の魅力を放っている。

「シ、シノン!? その姿は?」
 動揺するジエフにシノンは薄っすらと笑いかけた。

「ランドラお姉様が導いて下さったんです。ジエフ様に見てもらえるように。私以外の女の子に目移りなんてさせないように・・・」
 シノンが微笑みながら近づいてくる。
 口調は穏やか、動きも静かで上品。
 だが、怖い。

 ジエフの背にブワッと汗が吹き出し、ベットリと服が張り付く。
 まるで、凶暴なトラかオオカミに睨みつけられたかのようだ。

「シ、シノン。ちょっと待って?」
「ランドラお姉様を見てしまうのは分かります。あんな魅力的な女性がすぐ目の前でエッチしてるんです。しかも私たちが一番綺麗になる瞬間、大好きな旦那様の腕の中にいる姿を真近に見たんですもの。普通の人間、しかもまだ子供っぽい私が叶うわけないんですよね。」
 シノンが近づいてくる。

「シノン!ちょっと待って!落ち着いて!」
「でも、このように私は生まれ変わったんです。ランドラお姉様はそのブレスの中に沢山の言葉を込めて私たちを導いて下さいました。」
 シノンが目の前まで迫ってもジエフの足は縫い付けられたかのように動かない。

「私たちがどんな種族に生まれ変わったのか。私たちが何をすればいいのか。全部教えてくださいました。このように・・・」
 そう言うと、シノンのタワワな胸がジエフの体に押し付けられる。

「あ・・・き、きもちぃ〜」
 ジエフの顔が驚きに目を見張り、放心したように言葉が出る。


 張りのある双乳がマッサージするように、モミモミと体に押し付けられる。
 フヨフヨとした感触は今まで触れてきたどんなものよりも心地よくジエフの心を魅了する。

「気持ちいいですか? これはどう?」
「あ!ああ・・・、おぅ!」
 胸を押し付けるたびに声を上げるジエフに、いたずらを思いついたようにニヤリと笑うシノン。

 胸の下に手を回して持ち上げると、ドレスを押し上げるほど硬くなった乳首を際立たせる。そして、見せつけるように乳首の先っぽでジエフを摩る。
服越しに擦り付けられる乳首は直接の刺激としては弱いものだ。だが、視覚効果は高い。

 乳首の動きを必死で追うジエフの目は欲望に光り、その興奮の度合いを如実にあらわしている。
 その様子が可愛らしく、シノンはクスリと笑う。

「あらあら、まだ私、服も脱いでないんですよ?それなのにこんなにしちゃって♪」
「うっ!」
 シノンの手がジエフの股間をさすり上げる。
 待たされる間にしぼんでいたチンコだが、シノンに触られる度にグッ!グッ!と太く、硬くなっていく。

「ハッ・・・!ハァ!」
 ジエフの顔がみるみる赤らむ。シノンの手から逃れるように自然とお尻が下がり、前屈みになる。
 だが、身を守る様に縮こまるその姿に、シノンは男を犯す魔物娘てしての本能を刺激された。

 シノンが1つ舌舐めずりする。

「うお!」
 片手でジエフにムギュと抱きつく、片手でも魔物娘の腕力から逃れることはできない。
 そして、空いた片手で、ズボンのチャックを開けていく。

「まあ♡!」
「うう・・・」
 解きはなたれたチンコが高々と天を向く。そしてシノンの鼻に堪らない匂いが届けられた。汗とカウパー、そして愛しい男の・・・精の匂い♡

「ああ♡!」

もはや辛抱たまらないとばかりに、シノンは素早くしゃがみ込むと、パクリッ♡

「んんん!んふぁぁぁ♡ んんん♡ンンンーン♡」

 シノン自身は知らないが、アンデットの魔物娘になりたての体は魔力不足を起こしていた。
 愛しい男の精を求め、僅かな先走りにも歓喜の声を上げる。
 精を味わったシノンは余裕を無くした。情熱的に舐め回して感じさせようとか、テクニックで焦らして楽しもう・・・などということは、とても出来無い。
 圧倒的な精への食欲がシノンの全身を支配する。
 この雄を貪り尽くせ!吸い尽くせと本能ががなりたてる。

「ン!ン!ン!ン!ン!ン!」

 シノンの頭が激しくストロークを刻む。
 ただストロークを刻むだけではない。
 普通の舌よりも長くなったそれを逸物に絡ませ、締め上げ、ストロークとはまた別の刺激を同時に与えている。
 そんな刺激に童貞が耐えられるはずもなく・・・。

「出る!でるよおおおおーーー!」
「ん!ンン♡ん!ンー〜♡♡♡」
 喉の奥へ激しい精を迸らせた。

 愛する者の体に始めて精を放った体が、脱力し崩れ落ちる
 愛する者の精を始めて受け止めた体が歓喜に震え上がり。大量の愛液で地面を濡らす。

 力の抜けたジエフは大地に背中をつけ「はぁはぁ・・・」と体を休めている。
 その上にユラリと影がさした。
 ジエフの精を飲み込み、絶頂に震えていたシノンだが、またすぐに精を狙って動き出したのだ。

「ああ、こんなに美味しいなんて♡・・・ こんなに美味しいなんて♡!」
「シノン・・・」
「幾らでも搾り取ってあげます。何度枯れ果ててもいいですよ、その度に私の愛を飲めばたちどころに立派に復活しますから♡
そしたら・・・、また搾り取ってあげます♡。他の人に目移りなんてさせません。そんな余裕は与えませんから。」

 すり寄るシノンはジエフの体を跨いで膝立ちになる。
 こぼれ落ちる愛液がジエフの萎えたチンコを濡らすと、その度にチンコが焼かれるようにビクンッ!と跳ね、太さと硬さを取り戻していく。

「シノン・・・これを・・・」
「・・・え?」
 だが、ジエフは何とか正気をつなぎとめた。
 そして小箱を取り出し蓋を開いた。中にあるのは・・・。

「さっきは、貰っても着けれないって悲しんでたけど・・・。今なら着けてくれるよね?」
 赤い宝石のあしらわれた指輪。

「あ!・・・あ、あぁ・・・」
 シノンの顔が欲望とは別の意味で赤くなる。
 それは喜び。欲望にも勝る喜びの種火。
 だが・・・改めて見る息を切らせた恋人の有様にシノンも息を飲む。

「あ・・・。ああ!ご、ごめんなさい・・・わたし・・・わたし・・・」
 嫉妬と欲望、魔物娘としての本能が合わさり、愛する人を無理やり犯してしまった。
 幽霊となり、父に閉じ込められるだけだった自分を救ってくれた恋人に、自分は一体何をしているのだろうか・・・。
 申し訳なさと後悔でジエフの顔がみられない。

「・・・手を出して」
「・・・え?」
 俯くシノンの耳に優しい声が聞こえてくる。

 顔を上げると、ジエフが困ったような、どこか可笑しそうな表情でシノンを見つめていた。
 その手には箱から取り出された指輪が・・・。
 知らず手を出していた。

「そう、左手ね。冷たくてスベスベ、でも・・・柔らかい」
 ジエフは手を取ると、愛おしそうに親指から人差し指と順に触れていく。

「ん♡・・・ん♡・・・」
 シノンが見てられない、というように顔をそらす。
 だが、目だけはジエフの手を見逃すまいとするように、うっすらと横目で見つめている。

 その可愛らしい様子にジエフの頬も綻ぶ。
 そして、薬指に触れた。

「あ・・・」
 ため息のような僅かな声。
 シノンは怖がるように、期待するように。今か今かと、薬指に触れる恋人の指を見つめ続ける。

 シノンの期待の眼差しを感じながら、ジエフはゆっくりと、何もつけていない薬指の感触を楽しんだ。
 そして、十分堪能すると、ソッと指輪を構える。
 シノンの目が見開く。

 ・・・スッ

 指輪はすんなりと、シノンの薬指に収まった。

「さて、もう一度告白からした方がよろしいでしょうか?我が愛しい人よ」
 呆然と指輪を見つめるシノンにジエフが可笑しそうに語りかける。

「〜〜〜! もう!なんど言われても返事は同じです!」
 カッと頬を赤らめたシノンは。言わせるかというようにジエフの唇を奪う。

 そのキスは、先程チンコを頬張った時の嫉妬と欲望に塗れたものとは違い、大好きな人の存在を確かめるような儚く初々しいキス。
 それに、ジエフも応える。

 最初は互いの唇の柔らかさを味わう。徐々に舌で相手の唇を湿らせる。
 互いの舌先が触れ合ったときはビクン!とお互いに距離をとったが、恐る恐る近づいていき・・・、再び触れ合うと今度は貪る様に絡ませあう。

 舌を絡ませる内、ジエフの手が徐々にドレスの裾を持ち上げていく。
 グジュグジュのお股は霧に晒され更に熱を増し、お臍は硬くなった逸物にツンツンと小突かれくすぐったそうにくねらせる。

 後はタワワな胸を捲りあげられるだけだ。
 シノンの瞳が期待に濡れてジエフを見下ろす。
 ジエフは期待の視線に嬉しそう受け止めると、ドレスを引っ張りながら体勢を入れ替えた。

 所謂、騎乗位から正常位へと。
 衣服の守りを失った愛する人を、自分の体で包み込む様に。

「入れるよ・・・」
「はい♡来てください♡」

 ジエフの逸物がゆっくりシノンの中へと入っていく。
 プツンと破瓜の音が響くが、シノンは痛がるどころか「ふぅあぁぁぁ♡♡♡」と気持ち良さそうに声を出す。

 膣内は暖かく、何重もの肉ヒダがチンコをもみくちゃにしていく。

「おおお!!!」
「ああぁぁん♡♡♡」

 初めての交わりに2人の興奮がみるみる高まっていく。

 爆発しそうなチンコに力を抱えながら、それでもジエフはゆっくりと腰を振る。
 貪欲に男を求める膣肉を少しでも楽しませようと、男の意地を見せようと思ったのだ。

 だが、いくら初めてとはいえそこは魔物娘の膣内・・・初めての人間では儚い抵抗というもの。
 腰を少し動かす度に肉ヒダにしごかれたチンコはビクビクと震え・・・。

「で・・・出る〜〜〜!」
「ああ♡!熱いのが♡熱いのがいっぱいぃぃぃ♡♡♡」

 あっという間に精を解き放ってしまった。



 ◆



「なあ・・・」
「なんですか?ジエフ様?」
 初めての交わりの興奮により、ジエフは力の抜けた体を横たえ休ませている。
 魔物娘となったシノンはまだまだ大丈夫そうだが、愛する夫に足並みを合わせていた。

「指輪・・・はめれたな。」
「・・・?はめられましたね」
 シノンは自分の左手を見る。その薬指には先程つけられたばかりの指輪が光っている。
 あまりの嬉しさにニマニマが止められない。

「他にも色々言ってただろう?一緒にご飯が食べれないとか、眠れないとか・・・。」
「ああ・・・」
 結婚してくれというジエフを思い止まらせようとしていった言葉だ。

「クスッ♡ 覚えてたんですね。」
 なんて律儀なんだろうと思わず笑ってしまう。

「そりゃあ、覚えてるさ。大事な人がすごく不安に思ってることだもんな。でも、今だったら体も戻ったし、一つ一つやっていこうかなって。」
「ああ♡そうですね♡一緒にご飯を作って♡一緒にご飯を食べて。一緒にお風呂に入って、一緒に寝る前には・・・たっぷり触れ合って♡旦那様は私を寝かせてくれるのかしら♡♡♡?」
 ジエフがポリポリと頭をかく。もう少しこの話でからかいたいので、インキュバスのことは胸にしまう。


「ああ・・・、まあ。それから・・・」
「・・・それから?」
 ジエフの手がシノンに重ねられた。
 2人が見つめ合う。

「俺の子を産んでくれ!」
 ジエフの言葉は強く、熱く・・・。
「・・・はい♡!」
 シノンの心に大きな火を着けた。



 ◆



 若い夫婦の誓いを聞き届けたかの様に、辺りを満たしていた霧が薄れていく。
 霧に隠された各所では兵士と住民がスケルトンやゴーストに股がられ恍惚とした表情で精を放っている。

 一部の女性達は、グールやゾンビに変わり、夫や想い人と仲睦まじく愛し合う。
 少し離れた位置ではミハノアが黒い修道女のような服を身にまとい、ミットンの亡霊を抱きしめていた。

 初老の冒険者だけは、誰とも交わることなくタバコを吹かせている。だが、彼の銀の剣は妖しい光を放ちある方角を指し示している。
 その方角にあるのはレスカティエ、魔物に乗っ取られし聖なる都。
 冒険者はまだ見ぬ大地と新たな出会いに想いを馳せていた。

 さらに霧が晴れる。

 空には禍々しくも美しい深紅の月が煌々と輝いていた。
 その赤き光の下、巨大な翼を敷物にランドラとツイーズが淫らに体を重ねている。
 その周りではゴーストやナイトウィスプが伴侶の魂と淫らに求め合い、笑いあっている。地上の多くの瞳がそれを捉え・・・。自分たちも負けていられないとばかりに腰を振る。
 
 若い夫婦もまた、恩人に習い。再び肉欲の渦に溺れるのだった。
 子供を作るという、願いを胸に。



19/05/02 14:46更新 / 焚火
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■作者メッセージ
これにて完結です。
ここまでお読み下さり有り難うございました。

やはり、もっと書かないと上手くはならないな〜と実感しました。

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