読切小説
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抜けない棘
人間という生き物はなぜこうも愚かで愛おしいのだろうか。
傷つけ合い、殺し合い、愛しあうという行為にすら裏切りという物が側に有る。
だから・・・変えてあげなければ、私達と同じように。





「ヒッ・・・・ヒィィィ!」

目の前の女の子はなぜ恐れるのだろうか?
私はただ剣を折り、鎧を砕き、話を聞いてもらえるようにしただけなのに。

「怖がらなくていいわ...人間をやめて私達と一緒になりましょう...?」

立てないのかズリズリと腕力だけで後ろに下がり、背中が木にぶつかった所でいやいやと呟くながら首を振って拒否する。

「いやだ・・・ま、魔物なんかに・・・な、ななな、なりたく・・・ない・・・」

「人間の世界なんて苦しいだけじゃない、ほら・・・」

同じ目線の高さになるように目の前でしゃがみ、女の子の頬を指先でつぅぅとなぞる。
それだけで女の子は背を仰け反らせ、ビクンビクンと可愛らしい反応を見せてくれる。
これだから女の子を魔物娘にしてあげるのはやめられない。

「さぁ、まどろっこしいのは止めにして・・・いらっしゃい、愛と淫楽の世界へ」

私は掌から魔力の塊で作った液体の玉を作り、女の子の口へ近づける。
逃げられないように片手は顎に添えて。

「おかぁ...さ...ん...たすけ」

どぷん





「ミリィを離せこの野郎!!」

尻尾に魔力を込め、迫り来る槍を細切れにして若い男を拘束する。

「シンッ!?やめて!私はどうしてもいいからシンは助けて!」

影の魔法ですでに拘束している女の子が私に悲願する、だから殺す気なんて無いのに。

「殺したりしないわよ...二人共こっち側に来させるだけ、家柄や殺し合いなんて関係ない愛する人とずっと暮らしていける世界に」

その後二人が嘘だとかデタラメ言うなとかお決まりの台詞を言ってきたので1から10まで魔物娘の暮らし方や私達の主張を教えてあげた。
途中で女の子の方が過去に魔物娘を殺した事に潰されそうになったのですかさずフォローしておいた。
あたたた、納得させるためとはいえ鋼のナイフと魔界銀のナイフで自分の手を斬るのはちと無謀だったかしら、回復魔法っと。

「...もう、好きにしてくれ。このまま帰った所で魔物娘を殺す戦士は続けられない、そうなると生活が出来ない」

「それじゃ来る?」

両手に魔力の玉を出して二人の目の前に浮かばせ、二人の拘束を解く。
二人は顔を見合わせた後、目の前の玉を掴んだ。

どぷん、どぷん





どぷん





どぷん





どぷん、どぷん、どぷん





どぷん





どぷん、どぷん





どぷん





どぷん














「デルエラ姉様っ♪レスカティエ攻略おめでとうございます、これお祝い品です♪」

「ありがとう、クラン」

姉様が私の頭を撫でてくれる。
その全身に刻み込まれたルーン、漆黒の眼、何処までも覗きこまれそうな深紅の眼の装飾。
妹の私も欲情してしまいそうになるその身体。

「姉様、私多くの人間を魔物娘にしてさし上げたんですよ!」

「流石私の妹ね...その調子でがんばりなさい」

「はいっ!」

やはりデルエラ姉様が一番、他の姉様や妹達のようにまどろっこしく取り込む必要なんて無いわ、どーんとがつーんと魔界に変えてしまえばいいのよ!
さて、今月は何人魔物娘に出来るかしら♪






どぷん





どぷん





どぷん





どぷん





どぷん





どぷん





「すごいわね、ここまで私の魔力に抗えたのは貴女が初めてよ」

剣を根本から折ってもそれでもなお私に牙を向いてくる女の子。
ワーウルフがいいかしら?

「黙れ...死ぬわけにはいかねぇんだよ」

「だから、さっきも言ったけど死なないわよ」

「人間としてだよッ!」

「ん?、それがどうかした?・・・ってちょっと!?」

女の子は折れた剣の刃を掴み私に向ける。
ぽたぽたと血が腕を伝い肘から地面へと落ちて、地面に吸われていく。

「弟の...結婚式があんだよッ!魔物になっちまったら祝えねぇだろ!」

「なら皆魔物娘になればいいじゃない♪あぁ...新婦と新郎が身を重ねるのを見ながら参加者も新しい番となる...見てみたいわぁ」

「狂ってやがる・・・」

玉砕覚悟の突進を拘束魔法で抑え、刃を離させて傷に回復魔法をかける。
呻くようなエッチな声を女の子は口の端から漏らす。

「ねぇ、どうして人間であることに拘るの?ついこの前も戦争していたし、貴女も居たわよね?」

「ッ!?てめぇ見てやがったのか!」

つぅっと魔力を限界まで込めないで右腕をなぞる。
それだけで女の子の口の端から涎と声が漏れ出す。

「魔物娘は殺しあいなんてしないし、愛する人を見つけたら死ぬまでずぅぅっと一緒よ?浮気なんてしないし、奴隷なんていう差別や区別だってまず無い、幸せになれることは保証するわよ?」

「人の幸せ勝手に決めてんじゃねぇ...」

普通の子なら反応できないはずなのにまだしっかりと反論してくる。
楽しい。

「私はなぁ...薪割って、飯作って家族と喰って、身体を鍛えてたまにある戦争に出て生き残って、その喜びを家族や仲間と分かち合って生きるのが幸せなんだよ!てめぇらみたいにエロやって気ままに暮らすなんざ私の幸せじゃねぇ!!!押し付けんなアホ野郎!」

「ま、いいわ。魔物娘にしちゃえば価値観とかもろもろ変わるし、よいしょ」

いつものように掌に魔力の玉を作り出す。

「私はお前を呪ってやる、憎んでやる、何処までも何処までもッ!!」

「だから、そう思わなくなるんだってば」

「『魔物』の私はそう思わないだろうなぁ・・・だが、『人間』の私が呪う!此処で死ぬ『人間』の私がな!!!」

血走った眼で私の目を睨みつける、私の目を見るせいで股はぐじょぐじょになってるのに。
噛み切ったのか唇からは血が一筋、血が出てるから止めればいいのに。

「・・・」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!人間の幸せを奪うお前は死んでしまえ!!!」

「・・・貴女、今の気分は?」

今までで一番いい笑顔を私に向けながら女の子は言う。

「今終る人生の中でいっっっっちばんッ最悪だよ、白髪女!」

どぷん、どぷん、どぷん・・・・どぷどぷどぷどぷどぷどぷどぷどぷ・・・・



















「どうしたの、クラン」

「デルエラ姉様・・・」

紅茶を飲んでいたらデルエラ姉様に声を掛けられた。
私の向かいの席に座って魔女が持ってきたお茶を飲まれている。
そういえば、デルエラ姉様と会うのはあの時以来・・・ね。

「此処数年、あなたが魔物娘にしていないって聞いたから何かあったかと思って・・・髪、伸ばしたのね」

「あ、はい...」

以前会った時は肩口までだった髪は今ではデルエラ姉様と同じくらい長くなった。

「姉として、女として相談に乗るわよ?」

「・・・」

私は、あの時のことを話した。
全てが魔物娘になれば皆が幸せになれると信じていた。
けれど、それは幸せだった者の幸せを別の幸せで塗り替えているんじゃないかって。
自分があの人間と同じ境遇だとしたら・・・そう考えると怖くなってしまったと。

「・・・なによ、そんなことで悩んでいたの?」

「そんなことっ!?」

まるで子供の戯言を聞き流す親の様にクッキーをぱりっと齧りながらデルエラ姉様は私を言葉で叩き切る。

「そうよ、私だったらその娘の言葉なんて聞き流してその後もそれまで通りヤっちゃうわ」

「うぅ・・・」

「けれども貴女は違う、相手の立場に立つ事を知った。やり方を変えなさい...幸せを上書きするのが嫌なら幸せでないものを幸せにしなさい」

「あ...」

「貴女が私を尊敬してくれているのは知っているし嬉しいわ、でも貴女は私じゃない。貴女は貴女の方法で幸せにしなさい」

立ち去ろうとする姉様を思わず呼び止めてしまう。
なぜそこまで強く在れるのですかと。

「私は女王陛下、王配殿下の四女デルエラ!何人たりとも私が好きな人が喜ぶ顔を見るための道を邪魔させはしないわ、過激派だ何だと言われようと!・・・同じことは二度言わせないで、貴女は貴女の方法で人を幸せにしなさい」

「...ハイッ!」

生まれ変わった気がした、蛹が羽化し蝶となった瞬間のように。








私は一人の少女の前に立っている。
ボロボロの布を巻いているだけの女の子。
私を見るその眼は濁っている、この世界に興味がないと言いたそうに。

「お姉ちゃん...天使?」

「いいえ、とーっても悪い悪魔よ」

「...連れて行ってくれるの?」

「貴女が望むなら、何処へでも」

あれから私は望む者のみ魔物娘にすることにした。
望むならば適正も関係あるけれどサキュバス以外の魔物娘にしたり、とにかく不満を持たれないように行動した。
幸せにするなら、相手に納得して欲しい。

そんな風にやっていたら、いつの間にか魔物娘たちから『カウンセラー』なんて二つ名というかあだ名というか、とにかく呼ばれるようになってしまった。
それを不快に思ったりはしない、むしろ嬉しい。
私の行動で嫌がる人がまず居ないって事なんだから。
少なくても家族が出来るまではこの事を続けていきたいと思う。

全ては愛する人と魔物娘のために。






〜おまけ〜

「クラン、新しい魔具が出来たんじゃが試してくれんかのぉ?」

「あら?何か道具かと思ったけど・・・これは魔宝石かしら?」

サバト通信支部兼開発支部。
特殊な装置を使うことで遠方同士で書類を渡しあうことが出来る。
それのついでに非番の魔女達とバフォメットがいろんな道具を作っている・・・まぁどのサバトの会合場所でも作るのは同じだけど。
バフォ様から渡されたのは一つの宝石。
無色透明で向こう側が綺麗に透けている。

「ちっちっち、今回は真面目な物じゃよ。名付けるなら魔集石・・・かのぉ」

「へぇ、どんな効果が有るのかしら」

「むふふ、付いてくるのじゃ」

バフォ様はもふもふな手で手招きしながら側の部屋へ入っていった。
私も入るがそこは何も無いただの空き部屋だった。

「ちょいと見ておれ」

そう言うとバフォ様は魔力を部屋の中へ高濃度で撒く。
ただ普通の魔力と違って霧がかっている。
その状態でバフォ様は懐からもう一つ魔集石を取り出し、指先に力を込めた。
すると周囲の魔力が渦に吸い込まれていくかの様に魔集石の中へ吸い込まれていった。
部屋は魔力が一切無い人間界と同じような状態になる。
・・・ちょっと居心地が悪い。

「と、まぁこんな感じで周囲にある魔力を許容量までなら幾らでも吸い込んでくれるものじゃ。元々は魔王様達がぱこぱこやってる時に急な伝令とか連絡が有っても寝室の扉から漏れだす魔力だけで伝令役が発情しての・・・とりあえず伝える間だけでも正気でいられるようにしたものなのじゃ」

「ふむふむ、確かにパパとママの魔力を浴びてしまうと魔女たちじゃただで済まないわね」

「というわけで、どれくらい吸い込めるかテストして欲しいんじゃ。リリムのお主の魔力を吸っても大丈夫なら実用的じゃろう」

なるほど、いきなりパパとママの前で試すのも邪魔しちゃうからね。
・・・と言ってもままなら見られながら突かれるのも喜びそうだけど。
なんて考えながら私は魔集石に魔力を流し込み始めた。



そして、この実験に使った魔集石が後々とある魔物娘の人生を動かすことになるとはこの時の私は思いもしませんでした。







ひゅ〜〜〜、こつん。

「ぉぅ!?・・・あめ玉?.....ん〜〜、甘い〜」

ころころ...ころころ...ごっくん

「また、あめ玉お空から降ってこないかなぁ...そろそろ帰ろ、お母さん心配するかも」


〜どこかに続く〜
15/04/05 21:56更新 / ホシニク

■作者メッセージ
【クラン】
元過激派のリリム、デルエラなど姉たちに比べると魔力量は少なめだが城から離れている村などをこっそりと、幾つも魔物娘達の住処に変えていた。
だがある時を境に方針を変更、望む者のみ魔物娘化させるようになった。
(言ってしまえば人間に絶望したり、魔物娘に誘っても断らなさそうな人間ばかりと接触していると言える、絶望するように仕向けたりは決してしていない)
リリムの中でも珍しい過激派から穏健派へ移行した人物である。

気に入った人物が魔物化を求めるまで待ったり、人を探す以外だと魔物娘から相談を受けたり過激派と穏健派の仲を取り持つなどの事をしている。

※旦那は未だ居らず。
※『そのミルク、超特濃』にて登場した魔物娘と同一個体。


【魔集石】
サバトが開発した魔石の一種で、豆を指先で潰すような動作をすると周囲の魔力を根こそぎ吸い付くす。
本来は魔王夫婦との会談時に使用する予定だったが、リリム夫婦達やサキュバス夫婦達が『どっちの夫婦が先に部屋の中に魔力を充満させるか』『魔集石を飽和させたほうが勝ち』等という魔物娘らしい遊びに使用されている。

・・・ちなみに容量は魔王夫妻の中出し数回分の発生魔力で吸い込めなくなる。
飽和した魔集石一つを砕いた時に数キロ圏内の人間界がもれなく魔界化してしまう事にサバトメンバーは気づいていない。

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