読切小説
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BEAUTY SORCERESS




ゴゴゴゴゴゴ・・・


・・・ ヅ ン 。



・・・ゴゴゴゴゴゴ



 ヅ シ ン。



ふふっ。 精が出るわね、今日も。
          メイガス
王立災害対策本部の魔術師くん。

・・・皮肉の通じない子ねえ。



だからその、「岬の魔女さん」っていうのをやめてくれって言ってるのよ。
・ ・
さんをつければいいってものじゃないでしょう。


                      ウィッチ
わたしは岬の魔女だなんて名前じゃないし、そもそも 魔 女 でもない。
    ダークメイジ
わたしは暗黒導師のメイヴ。 わかった? ダグくん。



・・・ようやくわかったみたいね。 二度と魔女なんて言わないで。

この町の人たちがそう言ってるのは知ってるけど。

同じ魔術師であるあなたにそう言われるのは許せない。



わたしは魔女みたいに悪魔に魂を売って力をめぐんでもらったんじゃない。

わたしは闇の知識の探求者。 快楽の極みを追い求めるもの。



人の心の奥底の闇。 原初の闇へとつながる扉。

その扉を人の意志の源泉たる快楽という力でこじあけて、

さらにその向こう側の底の底まで突き進む。



そうしてついには始原の闇へとたどり着く。 わたしはまだ、かいま見た程度だけれど。

それでもその力をもって人を越え、魔そのものになった暗黒の使徒。 それがわたし。

わたしの力は全部、自分の手で得たものなの。 ただの魔女たちとは違うのよ。



・・・わかればいいのよ。 次からは少し気を付けなさい。

そうやって石と土ばっかりいじってるから、口のきき方も忘れるのよ。

まあ、なかなかの腕だっていうのはわかるけどね。



わかるのかって、いちいちしゃくにさわる口をきく子ね。

これでもあなたが産まれる前から魔術師やってるのよ。



あなたの魔法、地面から石を出してるんじゃない。

大地のマグマを持ちあげているんでしょう?

ただ石をすえるのとは、比べ物にならない強度になる。



「ずっと研究だけはしてたんです。 実際やるのは初めてだけど」



ふうん。 それで、ここに防波堤をつくってるわけね。

ずいぶんゆっくりやってるみたいだけど。 ・・・急いでるの?

一気にやると寿命が縮まるからって、まあ、そりゃそうでしょうね。

だからこのひと月くらい、ずーっとここでちょこちょこやってたのね。



・・・別に。 なにかおかしなことやってる子がいるなって思っただけ。

来る日も来る日も、砂浜の上で防波堤をつくるばっかりなんて。



あなたくらい若いんだったら、もっと楽しいことなんていくらでもあるでしょう。

・・・気持ちいいことだって、いっぱいあるのよ? ふふっ。



「ぼくだって、楽しくて気持ちいいからやってるんです」



はあ? ・・・かわいくない子ねえ。

せっかくお姉さんが楽しくて気持ちいいこと、教えてあげようとおもったのに。

わかってるのよ、あなたがさっきから、どこを見てるのか。



ふふふ、顔がますます真っ赤っ赤になった。 かわいいダグくん。







 ・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・






今日は何やってるの? ダグくん。

地震? ええ、さっき来たわね。

お皿が割れてまいっちゃったわ。



・・・津波? そういえば、だいぶ潮が引いてるわね。

海の底まで見えちゃってるわ。 それであなた、なにやってるのよ。

そんな泣きそうな顔して。 目から鼻から口から、いろんなもの垂れ流しちゃって。



手伝ってくれ? いやよ。

わたし今、ちょっと疲れちゃってるから。

別にあなただって、そんなに頑張ることないじゃない。




ヅシン! ヅシン! ヅシン!




・・・ますます精が出てるわね。 もう間に合わないでしょ、いくらなんでも。

町の人を避難させる余裕がない? そうでしょうね。

あと5分くらいかしら。 あなたも逃げたら?




ヅシン! ヅシン! ヅシン!




・・・いま逃げたら、だれがこの町を、みんなを守るんだ、って。

もう無理でしょ。 わたしはもう行くわよ。

あなただってひとっ飛びで逃げられるでしょう。

だのに、なぜ。




そんな、鼻血出して。 血へど吐いて。 血の涙を流してまで。

なんでこの町で生まれたのでもないあなたが、そこまでして。




「気持ちいいから。 楽しい、から・・・」




ヅシン! ヅシン! ヅシン!




ああ、もう。 仕方ないわね。

前に立つな? いいから。



く に ゅ 。



どこ押しつけてるのかって?

集中なさい。



く に っ 。



こんなときに、どこ触ってるのかって?

いいから集中なさい。



・・・ く ち ゅ 。



うるさいわねえ。 はじめてだからってなんだっていうの。

ほら、海がせりあがってきたわよ。 気を強く持ちなさい。

全開でいく。



ヅ ド ド ド ド ド ド ド ド !!



すごい? そうでしょう。 100年ぶりくらいに使ったわ。
       ゲート
わたしの中の 門 を開いて、闇と魔の力をあなたに直接流しこんでる。

ちゃんと制御しなかったらマグマが噴きだすわよ、集中なさい。



わたしの顔? ・・・集中しなさいってば。

そんなこと気にしてる場合じゃないでしょう。



ヅ ド ド ド ド ド ド ド ド !!



・・・見ないで、お願い。 見られたくない。

前だけ向いてて。 お願いだから。 お願いよ。




ドドドドドドドド・・・




お見舞いに来てくれたの? 別にいいのに。

表彰されたって聞いたわ。 よかったわね。



ありがとう? なにが? ・・・町の人を避難させてくれて?

連中が勝手に岬に上ってきただけよ。

庭先をうろちょろして目障りだったから、中に入れてあげただけ。



・・・ええ。 まだ、力が戻らない。

だからこの顔のまま、からだのまま。



ふふ、みっともないでしょう?

力を失くしたダークメイジなんてこんなものよ。

しぼんで、たるんで、年相応のかおとからだ。



お笑いでしょう。 闇の力を求め、おのれの欲望のまま、

快楽をほしいままにするダークメイジ。

それがこんな、みにくく老い衰えた姿になるなんて。

・・・魔物ならざるものの限界。 わたしはまだ、未熟だってこと。



これじゃどんな男だって、しぼんで萎えちゃうわね。

気にしないでいいのよ、勝手にやったことだから。

放っておいたって10年くらいで元に戻るわ。



・・・きれい? ふざけないで。

こんなしみだらけのかお、しわだらけのからだの、どこが。



ふざけないで、って言ってるでしょう。

そんな歯の浮くような言葉、聞きたくない。

帰って。 帰りなさい。 帰ってよ!!



えっ?  ・・・まあ、確かにそうだけど。

あなたに力をあげた方法で、わたしに力を戻すことはできるわ。

ええ、同じ方法でいいのよ。 たぶん無理だと思うけど。



はじめてがあんなのじゃいやだ?

ちゃんとしてほしいって? なによそれ。

ふふっ。 まあ、やってごらんなさい。






だからさっきから、その歯の浮くようなせりふをやめなさいって言ってるでしょ。

なにが天にのぼったようよ。 雲のようにふわふわしてるよ。

女神さまに抱きとめられて、やさしくつつみこまれるようよ・・・



こ、こら! 調子に乗るなって言ってるでしょ!

人の胸を何に使ってるの! ・・・もう出そう?!

バカ、止めなさい! ここで出したら意味ないでしょ!!

・・・まったくもう。 あなたほんとに、初めてなの?



「ずっと研究だけはしてたんです。 実際やるのは初めてだけど」



このムッツリスケベ。 エロガキ、マセガキ。 女たらし。

まあ、いいわ。 どうせ無理よ。 わたしに力を注ぎたいんだろうけど。

そのためには、真にあなたが高みに達しなければならない。

ほら、来てみなさい・・・ だから、そう、がっつかないの。 まったく。



だから、そうやって、がっつくなって、言ってる、でしょ・・・!

わたしじゃ、なかったら、壊れ、ちゃってる、わよ!

こんな、顔ににあわない、ごりっぱなもの、そんな、犬みたいに、ふりまわしてっ・・・



・・・はずかしいものだって、思ってた? これのことを?

はずかしくは、ないわ。立派なものよ。 どんな女だって、これなら・・・



いいえ、なんでもないわ。 ほかの女に、こんなもの、使っちゃダメよ。

壊れちゃうからね。 快楽の探求者たる、わたしじゃなかったら。

だから絶対ダメよ、いいわね? ・・・なに笑ってるのよ、このエロガキ!



もう、いきそう? まあ、せいぜい来てみなさい。

心が萎えてれば、力も萎える。 萎えた力なんて、腹の足しにもならない。

いくら口先できれいだとか言ってみせても、これだけはごまかしようが ―




「― あ っ ! 」




― え ?




「 あ! あ、 あっ ・・・ 」




うそ。 うそでしょう?

こんなに、こんなにも・・・




「あ・・・ あ、ああっ! う、ああ・・・」




まだ、出てる・・・ あっ、また・・・

すごい・・・ あっ。 あ・・・




「・・・はあ、はあ、はあ・・・」




・・・おなか、いっぱい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「メイヴ・・・ さん?」



あなたの、みずみずしいいのちが、

わたしのなかにこぼれおちていく。




ああ、きもちいいわ・・・









・・・ありがとう。 もう、すっかり大丈夫。

あなたのほうはどうなの? 平気なの?

若いっていいわね、ふふふふ。



やっぱりこっちの顔と姿のほうが落ち着くわね。 きれいでしょう?

・・・さっきのほうがよかった? 怒るわよ、本当に。

すっぴんのほうがいいって言われて喜ぶ女はいないの!



それで、まだ、何の用? こんな夜更けまでいて。

・・・きれいだって? 知ってる。 え、違う? なによ。



・・・たしかにそうね。 街の灯り。 漁船の灯り。

こうしてみると、この町も悪くないわ。



「あなたが守った町です」



守ったのはあなたよ。 胸を張りなさい、ダグくん。



「やっぱり、気持ちよくて、楽しいんです。この仕事。

あなたも、してみませんか」



はあ? スカウト? あなたのチームにこいって・・・え?

・・・あなたのところに、こいって?



勘違いしないで。 あれはただのきまぐれ。

ちょっと優しくしたからって、浮かれてもらっちゃ困るわよ。



「ダークメイジのあなたが、誰のことでもあんなふうに助けるんですか」?

「あなたは誰にでも、その顔を、その体を、見せてくれるんですか」?

「なぜ、今日、ぼくをこの館に入れてくれたんですか」?

しつっこいわね。



・・・わたしは魔物。 もと人間だったっていうだけ。

闇の探求者、闇の力の使い手。 あなたにふさわしい女じゃない。

輝かしい将来が約束されてるあなたには ―



「あなたは言った。 ぼくに、いろいろなことを教えてくれると」

「ぼくはあなたから、楽しいこと、気持ちいいことを、教わりたい」

「お願いです・・・ お願いだ、メイヴ」



なにもかも喰いつくされるわよ。 闇の魔術師なんかに教わったら。

あなたの若さも、将来も、可能性も。 ・・・もう、やめなさいってば。

男が土下座なんてするもんじゃないの。 はいはい、わかりました。降参。



あなたのものになるかどうかはともかく、

しばらくあなたとお付き合いはしてあげるわ。

泣くんじゃないわよ、いちいちおおげさね。



・・・勘違いしないで、わたしは知恵と快楽の探求者。

あなたから教わりたいことがあるだけよ。

そう。 あなたもわたしに、教えてちょうだい、ダグ。





― 衰えていくこのからだで、楽しく、気持ちよくなれる方法を。

 老いていくこの顔で、素敵な恋ができる方法を、ね。

17/10/10 19:48更新 / 一太郎

■作者メッセージ
このあとふたりは三か月ほどで、無事ラブラブカップルになったようです。
なおタイトルの意味するところわ言わずもがな、「美魔女」です。

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