読切小説
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百合蜘蛛幻戯
 特にスポーツに力を入れているわけでもなく、熱心な指導者も、飛び抜けて優秀な選手も在籍していない公立高校運動部の熱心さなど、たかが知れている。
 とは言ってもやはり体力の有り余る世代、やる気のある奇特な学生というのはぽつぽつ居るもの。
 放課後、部員があらかた帰ったあとも一人残って走り高跳びの自主練に励む陸上部部長、比良 尋嗣も、そんなスポーツマンの一人だった。
 通常の活動を終え、更にバーを跳び続ける。運動部所属と言ってもやはり弱小、全国を舞台に戦えるような身体レベルには到底及ばない。位置に着き、横棒を目指して助走する両脚には疲労が見え、踏み切りのタイミングが明らかにずれた。
 当然それは跳躍の高さに響く。背中を反らせてなんとかバーを越そうとするも、靴の踵が触れ、あえなく棒は落下し軽い音を立てる。マットに身を投げ、軽く溜息を吐くと、そこへ歩み寄る者があった。
 そっとバーを手に取り、元へ戻す女子生徒に、尋嗣は苦笑いと共に言った。

「ありがとう、曽根崎さん。もうそろそろ、終わるつもりだから」
「……分かりました」

 答えたのは曽根崎 結衣。今年で高校一年生の筈だが、中学の一年と言っても十分通りそうな小柄で線の細い身体と、それとは対照的に大きく膨らみその存在を主張する胸が印象的な、陸上部女子マネージャーの一人である。
 顔を俯け、小さな声で如何にも恥ずかしげに答えた結衣は、しかし自主練の終わりと聞いて微かに残念そうな顔をした。

「ごめんね、いつも遅くまで付きあわせちゃって」
「……いえ、これも、マネの仕事ですから……」
「いやいや、それでも、だよ。曽根崎さんが準備とか手伝ってくれるおかげで、僕もギリギリまで練習してられるんだ」

 汗を全身から流しながらも、曇りの無い笑顔でそんなことをいう尋嗣。裏表のない、純粋な感謝の言葉を聞いて、結衣はますます恥ずかしげに顔を紅潮させた。

「さて、じゃあちゃっちゃと片付けようか。あんまり遅くなっちゃいけない」

 年下の女性ををさり気無く気遣う言葉に、乙女の顔は更に赤く染まり、心拍数が急上昇する。緊張と興奮の余り物も言えず、無言で道具類を運ぶ結衣と、それに気づきもしないちょっと鈍感な尋嗣。
 初々しく、どこか危なっかしい二人の交流だった。








 魔物と魔界は、本来切っても切れない関係にある。
 魔界の瘴気は魔性の者たちを育み、また魔物たちが男を貪り栄えるほどに魔界はその面積を広げる。魔界には魔物が集まり、また魔物が集まるところが魔界となる。それがかつて居た世界の理だった。
 ならば、魔界も、魔法も存在しない世界で生まれた魔物娘は、一体如何なる生態を示すのか。
 魔界が無いなら無いなりに、世界に適応して生きるのか。
 それとも、集団の力でもって世界に干渉し、より住みよい場所を作ろうとするのか。
 テーブルの向こうに座る、恋の悩みを抱えた処女、曽根崎 結衣の、その初々しい様をひどく嬉しげに眺めながら、異世界よりこの世界を侵略にやってきた、魔界の王女の一、リリムのルリコはなんとなく世界の行く末を案じていた。

「なるほどね。憧れの部長さんとお付き合いしたいと」
「はい……でも、私、どうすればいいかわからなくて……」

 十五歳の少女の、淡く純な恋心の存在を察知したルリコは、すぐに狩りの準備を始めた。
 ターゲットに近づき、甘言を用いて魔力空間に誘いこむ。堕落の宴、その準備は完全に整っていた。

「あなた、結構可愛いし、スタイルもなかなかなんだから……普通に告白してみたら? 案外、あっさり行けるかもよ」
「そんな……私なんか、ダメです。尋嗣先輩は、あの人が気づいてないだけで、結構もてるんです。私なんかじゃ……」

 可愛らしい童顔と、それとは裏腹に破壊力抜群な乳房という二物を与えられていながら、結衣の自己評価は低い。アンバランスな身体というものは、はたから見る分には良くても、本人はその不整合さをコンプレックスに思ったりするものなのだろうか。
 問い掛けながら、ルリコは結衣の本心を引き出そうとする。
 敢えて口を割らせなくとも、読心術程度軽くこなせるルリコだが、今回はどちらかというと「自覚を促し」「本心を意識させる」のが狙いだ。
 
「まずは、はっきりさせましょうか。結衣さん、あなたは尋嗣さんとお付き合いしたいといったけれど……それはどっちの意味かしら。あなたは、尋嗣さんのものになりたいの?それとも、尋嗣さんを自分のものにしたいの?」 
「……?」

 予想外の質問に、結衣は少し鼻白む。恋愛というのはお互いを尊重し合う関係であって、どちらかがどちらかを所有するとかいうのは違うのではないか、と思いかけた瞬間。

「まあ、一般的にはそうなんだけれどね。私が聞きたいのは、もっと根本的な部分。
 あなたは、尋嗣さんとお付き合いして、それで『ナニを』『どう』したいの?
 あなたは、上に乗りたいの? それとも、乗られたいの?」

 ルリコの、総毛立つ程の美貌が好色そうに歪んだ。高校一年生という歳に応じた性知識を持つ結衣は、その意味するところを察すると、ぱっと顔を赤く染める。
 その一瞬の所作、表情で、ルリコの方針は決まった。

「そう。そうよね、やっぱり。
 ……ねえ結衣さん。あなた、魔物になってみる気はないかしら?」

 魔物、という非現実的な単語は、確かに結衣に不審を抱かせたが、しかしその言葉は意外な程すんなり彼女の脳に溶け込んだ。
 彼女の眼前の、銀髪紅眼の女性は、あまりに美しすぎて見る者の現実感を失わせるのか。普段なら笑い飛ばすであろうファンタジーな言葉を、結衣は思わず問い返していた。

「……魔物?」
「ええ。好きな人を捕まえて、独占できる、魔物の身体。素敵でしょう?」

 事も無げに言って見せるルリコ。独占、という単語に結衣の心の一部が反応したが、しかし気弱で控えめな少女はおいそれと首を縦に振れない。

「それって、何ですか……? もしかして、人間辞めるって……」
「そうよ。怖いかしら?」
「ええと、は、はい……」

 一から十まで予想通りの反応に、知らず知らずルリコの口角が上がる。殊更に平静を装い、堕落の道へと誘う甘言を紡ぐ。

「でも、あなたは今のままではいけないと思っているんでしょう?
 尋嗣さんに告白して、恋人同士になれるような、そんな存在になりたいんでしょう?」

 挑発するような言葉に、結衣は下唇を噛んで俯いた。膝の上に置かれた手が、制服のスカートをきゅっと掴む。

「魔物になると言っても、あなたがあなたでなくなるわけではないのよ。
 芋虫という自分を否定して、蝶が成虫へと羽化するように。
 つぼみという自分を否定して、花が咲くように。
 あなたという存在を取り込みつつ、古い段階を否定して、一つ上の次元へ登る。それが魔物化なのよ」

 優しい言葉が、無垢なる少女の心を解きほぐす。いつの間にか、結衣は顔を上げ、ルリコの顔を真正面から見つめていた。

「どう? 魔物に、なってみる?」
「……はい」

 意識せず、承諾の言葉が口を突いて出た。恐れは不思議と消え去り、魔物の、新たな身体への期待が代わって彼女の心を占めていた。
 異界の王女にとってみれば、人間の意志などあろうとなかろうと大して違わないのだ。

「ふふ。そうよね。いい子よ、結衣。それじゃあ……」

 含み笑いのルリコは、やにわに席を立ち結衣の背中に回った。背後から両腕で、椅子ごと彼女を抱きしめ耳元に真っ赤な唇を寄せる。

「……早速、始めましょうか。暴れちゃだめよ」

 セーラー服の右手を差し込み、臍の辺りを撫でると、結衣は身を硬くした。恐怖と不安を湛えた眼で、背後のルリコを見る。優しげな表情は崩さず、手は緩めず、陵辱者は囁いた。

「怖がらないで。これは、必要なことなの。……それに、すぐによくなるわ」
「……!?」

 すとん、と胸部に生まれた解放感。思わず自分の下半身を見下ろした結衣は、白くて簡素な、清純そのものといった感じのブラジャーが膝の上に乗っているのを見た。

「え、いつの間に……?」
「こんなに大きいおっぱい、ずっとブラに押し込めたまんまじゃ窮屈よ。こうしてちゃんと、直に可愛がってあげなきゃあね」

 反応する間を与えず、ルリコは制服の下、下着に抑えつけられていた結衣の巨乳に手を伸ばした。
 大きすぎる乳へのコンプレックスか、あるいは単にサイズの合うものが少なかったのか、適正サイズよりもだいぶ小さなブラで絞めつけられていた胸は、素晴らしい弾力で触れる指を跳ね返し、揺れる。
 おっぱいの頂点、恐怖と期待と興奮で可愛くしこりたった乳首をルリコが人差指と親指でひとつまみすると、まるで電流を流されたように結衣の身体が跳ねた。

「え、嘘、なにこれ……」
「大丈夫。女の子なんだから、乳首触られて気持ちよくなっちゃうのは、普通。だから、もっと感じていいのよ……?」
 
 言って、処女を犯す愉悦に我知らず微笑むルリコは、更に手を服の奥まで差し入れ、結衣の左乳房を右手に収めてしまった。
 とはいっても、結衣の巨乳はルリコの細く長い五指をもってしても完全には補足しきれず、乳首に指を二本添え残り三指と手のひらでおっぱい全体を支えるようにしても、まだ指と指の間や手のひらの端から余った肉が零れ出る。
 先程よりも少し、乳首を摘んだ指の力を強め、薄桃色で清純なそれをコリコリといじめてやると、結衣は強すぎる、異質すぎる快感に叫び声を上げた。早くもその目に涙を浮かべ、生まれて初めての感覚にただ惑い狂う。

「いやあぁっ! ルリコさ、これ、い……」
「いいの? もっと乱暴に、してほしいの?」
「ち、違……ひいィ、やめ、やめて、こんな、おかし……!!」

 乳腺を揉みほぐすように手のひらに力を加え、牛の乳搾りか何かのように、今や完全に勃起しきった乳首を荒々しく刺激する。ミルクを出せないのが不思議なくらい発達した乳房は、同性からの愛撫を躊躇いもなく受け入れ、性の歓びにしっとりと汗ばんですらいた。
 胸の柔らかさを堪能しながらも、ルリコは犠牲者の様子をつぶさに観察していた。
 右手に力を入れ、おっぱい全体を揉み撫で始めて以来、微かに開き気味だった結衣の両脚が強く閉じられていることに気づく。
 はっきりと拒絶を表明しながらも、不規則に震える膝頭に淫靡なものを感じ取ったルリコは、左腕を結衣の左脇の下から伸ばし、きっちりとひざ丈を守ったプリーツスカートの中を侵略しようとする。這いよる手の目標を悟った結衣が、乳愛撫に喘ぎながらも拒絶の声をあげようとする。

「や、めて……そこは……!」
「こっちももう、我慢出来ないんでしょう? いっぱいいじめてあげるから、可愛い声、聞かせてね?」

 スカートの裾を押さえる手の力はあまりに弱々しく、あっさりとルリコの侵入を許してしまう。内側からスカートを捲り上げ、やはり白の、飾り気の少ないパンティーを顕にする。折り目正しかった筈のプリーツスカートが、こうなってしまうとかえって卑猥に見える。 
 外気に曝された下着は、粘り気のある液体で濡れそぼっていた。レズエッチの快楽に戸惑い、手指での秘唇愛撫を拒むようにぴったりと閉じられた股関節の、太ももすら粘ついた汗に濡れているのを見て、ルリコは「堕とす」楽しみを存分に知った。
 固く食いしばった唇の端から熱い吐息を漏らす結衣の胸を更に揉みほぐしながら、ルリコはいよいよ本丸を攻め始めた。
 処女らしくぴったり閉じられているであろう陰唇を、布地の上からそっと人差し指でなぞると、腕の中の少女は息を飲んだ。
 一瞬、全身を硬直させ、呼吸も忘れたかと思うと、その後には四肢の筋肉を弛緩させ、当惑と快楽でぐちゃぐちゃに濁っていた両の瞳は焦点を失い、ぼんやりと幻影のみを写す。虚脱から抜けきらない結衣に、ルリコは優しく語りかけた。

「どう、気持ちよかったでしょ?
 イくのって、頭がぼうっとして、何も考えられなくなって……とっても楽しいでしょ?」
「あ……? うそ、私……」
「もっともっと、気持ちよくしてあげる。イきかたを、じっくり教えてあげるんだから」

 エクスタシーに緩み、僅かに開かれた股へとルリコは左手を強引に挿し入れる。
 熱い淫液に浸され、下着としての役目を完全に失い、薄い恥毛や見知らぬ快楽にひくつく陰唇を顕にしたパンティーをずらし、充血しきった陰核を捉える。
 少し痛むくらい、右手で強く乳房を掴み、同時にクリトリスと膣口を左手で撫で擦ると、先程の絶頂からまだ回復しきっていない結衣は再びイき狂った。

「いい、いい、いやぁっ!! こんな、凄くて、わたし、や、いいっ!!」
「嫌なの? 止めて欲しいの? ……そんなはずないわよね。お股、開いちゃってるもんねえ」
「うそ、うそ、私、こんなの……! なんで……!」

 立て続けに与えられる快楽に、肉体は従順に反応していた。大腿の筋肉が知らないうちに緩み、股関節がだらしなく開き、まるでもっともっとと愛撫をねだっているかのようだ。
 男、どころか他人にもほとんど触れさせたことのない肉体をこうまで自由にされ、結衣は確かに恐怖を感じた。その恐怖すら、新たな快楽に飲み込まれ、肉体に続いて精神の自由すらも奪われつつあることを確信する。
 被食者の歓びと苦しみを同時に負わされた結衣を見て、ルリコはちょっと眼を細めた。今までの、殊更に恐怖を煽るような猫撫で声のトーンを少し落とし、耳元でそっと呟く。

「……今の、この感覚が重要なのよ、結衣。今度はあなたが、こうしなきゃいけないんだから。
 あなたには、『糸』をあげる。しっかり使って、例の男、絡めとるのよ」

 言い終わると同時に、クリトリスの皮を剥き、敏感すぎる珠を親指の腹でぎゅっと押しつぶす。
結衣が大きく背中を反らせたその動きに合わせて、未踏地たる膣、その入口に中指の先端1センチほどを挿し込み、えぐる。女性器の内部に、指先から魔物の魔力を注入すると、今までにない衝撃が結衣の人間性そのものを揺さぶり、粉砕した。

「……!!!」
「ふふふ……」

 声も出せず、目も耳も機能しないほどの激しい感覚に硬直する結衣。その下半身に、リリム謹製の濃厚な魔力が浸透し、組織を侵し新生させる。紺色のハイソックスに包まれた両脚が変色し、うねり、肉が枝分かれていく光景を見て、ルリコは成功を確信した。



 


 ふと気づくと、結衣は自分の教室に居た。
 ホームルーム中に居眠りでもしてしまったのだろうか。時刻はちょうど放課後、運動部の面々は準備に向かい、暇な者たちは遊びの計画を相談している。引っ込み思案な性格ゆえ、親しい友人も少ない結衣は、たまたま誰にも起こしてもらえなかったのだろうか。

「……尋嗣先輩」

 なにか、結衣の心を強く突き動かすものがあった。密かに憧れているだけだった、陸上部の先輩。こんな性格だから、と諦め、ますます口数が減る自分を嫌うでもなく、笑いかけてくれる先輩。

「……会いたい」

 ふらり、と夢遊病者のような覚束ない足取りで、結衣は席を立った。そのまま荷物も持たず教室を出て、上級生の教室が並ぶ上階へ向かう。

「先輩に会いたい。先輩が欲しい。先輩を……」

 放課後の喧騒の中、曖昧な思考のまま、結衣は愛しい男を求めていった。







 グラウンドの端、部室棟二階の陸上部室。
 放課後、部のことで話がある、とマネージャーの曽根崎 結衣に急に呼び出された比良 尋嗣は、不安な面持ちでいた。
 無口で内気で、なかなか他人に話しかけたがらない結衣が急に自分の教室に現れ、部のことがどうとかいうので、疑いも持たず同行したのだが、高熱患者のようにふらふらと歩む彼女の異様な様子に少なからぬ不審を抱き始めていた。
 結衣が尋嗣を部室に招き入れ、後ろ手にドアを閉め鍵までかけたとき、その不審は最高潮に達した。

「曽根崎さん……? 部の話って、一体……」
「あははッ、部の話、なんて嘘ですよ。
 部なんて、私にとってはどうでもいいの。先輩さえいてくれれば、どうでもいいの」
「!!」

 満面の笑みを浮かべた結衣の両脚が、ドス黒く染まっていく。スカートの奥から漏れでてきた黒い何かが結衣の脚に絡みつき、融け合い膨張する。
 次の瞬間。めりめりという小さな音を立てて、蜘蛛の下半身が現出した。結衣の上半身と、かつて下半身を覆っていた膝丈スカートはそのままだが、スカートの奥から伸び出るものが大きく異なっている。
 膝下までの、紺色で清楚な学校指定ソックスに包まれていた脚は消え失せ、代わりに現れたのは八本の、灰色の節足。
 出糸突起を先端に備えた蜘蛛の腹と、人間の上半身を併せ持った魔物。結衣は蜘蛛女、アラクネと化したのだ。

「ひいっ、ば、化け物……!?」
「化け物なんて、ひどいですよぉ。私、頑張ったのに」
「や、やめろ、来るな……来るなぁ!!」
「もう、そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか。これでも、結構傷つくんですよ?」

 八本の蜘蛛足を自在に操り、結衣は尋嗣ににじり寄る。突然目の前に現れた蜘蛛女と、そしてよく見知っていたはずの後輩が化け物だったという事実に衝撃を受け、足腰の立たない尋嗣は尻餅を付いたまま後ずさるが、大して広くもない部室、すぐに追い詰められてしまう。
 壁と結衣に挟まれ身動きの取れなくなった尋嗣を、結衣は好色さと嗜虐性を隠そうともせず見下ろした。
 すくみ、用を為さなくなった四肢を大量の蜘蛛糸で絡め、白い拘束帯でもって完全に自由を奪う。芋虫のごとく床に転がされた男の衣服を八本の節足で瞬く間に剥ぎ取ると、萎え切った男根が露出した。

「あらら、こんなにしょぼくれちゃって。慰めてあげますから、機嫌直してくださいね?」

 手足を縛られ服を脱がされ、もう生存をほとんど諦めかけていた尋嗣は、急に与えられた甘美な刺激に当惑した。
 見ると、萎れた陰茎に無数の白い、粘ついた細い糸が巻きつき擦れていた。更にその上から結衣が、右手を使って竿全体に糸や、その元となる粘液を塗り込むように上下にしごく。ローション手コキと何ら変わらないぬめりの快楽を与えられ、恐怖に縮んでいた筈の男性器は俄に活気を取り戻す。
 持ち主の戸惑いも知らず勃ち上がり始めたそれを見て、結衣は満足気に笑った。

「どうです、先輩? 私の糸でコキコキされて、気持ちいいですか? おちんちん、勃起しちゃいますか?」
「え……あ、ああ……なんかぬるぬるして、気持ち、良い……」
「それはよかったです♪ じゃあもっと、してあげますね……」

 出糸口から更に大量の蜘蛛糸を吐き出し、結衣は糸手コキのスピードを早めた。
 作られたばかりで外気にあまり触れない糸は、結衣の手で激しく揉まれることで形を失い、元のローション様の液体と化して陰茎にまとわりつく。
 根元から先端までを余さず触れ、感じさせる結衣の手は粘液によって極限まで摩擦力を下げられ、単なる手コキを遥かに超えた快楽を与えた。

「私の手、気持いいでしょう? そろそろ、イっちゃいそうなんじゃないですか?」
「う、もう、やばいかも……」
「じゃあ、やーめ」

 不意に手を止め、中途半端な快楽に悶える男根を置き去りに、結衣は上体を起こす。
 あと一擦りか二擦りで達せたであろう尋嗣は、ひどく物足りなさげな表情を浮かべ、頭上の制服アラクネを見上げた。その瞳に確かな被虐の悦楽、被食者の恍惚を見た結衣は、いよいよ本番に移る決意を固めた。

「折角の精液、手で出しちゃったら勿体無いじゃないですか。
 先輩の精液は、ちゃんと私のおまんこに、くださいね」

 膝丈のスカートをたくし上げると、とろっとした淫液を大量に分泌した女陰が顕になった。
 魔物と化して初めての搾精、愛しい男の一番搾りを渇望し、欲望の汁を止めどなく垂れ流すそれは、まさしく魔性のもの。

「先輩、童貞ですよね? ……そんな顔しないでください。分かりますよ、魔物なんだから……
 ね、先輩の童貞、下さいね? 代わりに、私のバージンをあげますから」

 答えも聞かず、結衣は腰を下ろし始めた。濡れ濡れの陰唇に、収まりのつかない触れた、と思った瞬間。待ちきれぬ風に結衣の膣が陰茎を根元まで咥えこんだ。
 十分以上に愛液で湿り、生まれて初めての男を狂い貪る魔物の膣。男の手指で単調に刺激する自慰などとは比べものにならない快楽が、締まり、うねり、摩擦する無数のひだによって強制的に注入される。
 散々、性感を高められるだけ高められていた童貞少年は、耐えようと思う間すら無く、濃厚な白濁を狭い膣奥に放ってしまっていた。

「!!」
「ひあっ、せん、ぱ……これ、すご……」

 挿れただけでイったのは、尋嗣だけではなかった。
 人間を辞めるほど恋焦がれた男の一物によって処女膜を破られ、たっぷりと膣内射精させたことで魔物の子宮は至上の歓びを得ていた。体の奥に溢れる子種汁が、結衣の意識までも白く汚していく。
 愛する人と童貞処女を捧げ合いたい、という、一見清純で、アラクネのような凶暴な生物には似つかわしくないような欲望も、彼女は確かに持っていたのだ。

「は、はは……すごい、気持ちいい……魔物のえっち、病みつきになっちゃいます……」
「おい、ちょっと……!」

 エクスタシーに緩みきった表情で、イきながら結衣は腰を上下させる。プリーツスカートの中、陰茎を喰らいしゃぶる肉筒が、じゅぷじゅぷっといやらしい水音を立てる。中出しされた精液が逆流し、性器と性器の間で潤滑油となり、更に強烈な快楽を生み出した。

「結衣、待て、これじゃ……」
「先輩、好きです……! 愛してます……! 私だけのものに、なって、下さい、先輩ぃ!」

 破瓜アクメで忘我状態になった結衣は、愛の言葉を呟きながら、下の口でも尋嗣を愛する。中断など許さない魔物の逆レイプ、先ほど童貞を捨てたばかりの男からもう一発搾ろうと淫膣は竿や粘膜に張り付き、細かな突起で繊細かつ暴力的な肉愛撫を施す。

「先輩、先輩……んちゅっ、ちゅぅぅう」

 下半身で繋がりながら、恋心をこらえ切れなくなった結衣は身体を倒し、初セックスに喘ぐ尋嗣の唇を強引に奪った。初めての口づけを捧げ、まだ足りぬとばかりに舌を差し込み、唾液を啜る。
 胸と胸の間で一対の巨乳がむにぃと潰れ、制服の布地が乳首に当たる感触が、結衣に今自分はノーブラなのだということを思い出させた。

「むっ……んぅ……ちゅ、ぴちゅ」
「ん……! ん……!」
「うむぅ……じゅじゅっ……、ん、ぷはぁ、何ですか、先輩、私のおっぱいが気になるんですか? こんなのでよければ、後でいっぱい触らせてあげますよ♪」

 
 快楽に次ぐ快楽で、正常な思考回路を完全に失った尋嗣は虚ろに頷く。その魂の抜けた、人形の様な所作に、結衣の所有欲は大いに満たされた。

「もっと、もっと、いっぱい気持ちよくなりましょうねぇ……私の可愛い、尋嗣先輩……♪」

 二回目の膣内射精を胎の奥に浴びながら、蜘蛛女はうっとりして言った。






 数日後、陸上部の練習が終わった後。欠かさず自主練をしていた真面目な部長の姿は、グラウンドには無かった。

「うっふふふ。今日もいい格好ですよ、先輩♪」
「う……」

 二人が初めてを捧げあった部室。全裸に剥かれた尋嗣と、蜘蛛の姿を顕にした結衣は二人だけの、秘密の自主練を新たに始めたのだった。
 滑らかでかつ強い蜘蛛糸で、尋嗣の両腕両脚は縛られている。魔物に堕とされ、魅了され切った表情の彼は、しかし、時折手や足を動かしては拘束から逃れようと無意味に足掻く。

「だめだめ。私の糸はとっても丈夫なんですから。そんなに暴れたって切れやしないんですよ、分かっているでしょう? ……それとも、誘ってるつもりなんですか?」

 獲物が、蜘蛛の魔手から逃れようと抵抗する様は、結衣の中の獰猛な何かに火をつける。子宮の奥が熱くなって、どうしようもなく衝動的に、嗜虐的になってしまう。

「魔物を誘惑するなんて、いけない子ですねえ。そんなコトしてると、ひどい目に合わされちゃいますよ? ……こうやって、ね」

 身体を拘束されることで条件反射的に硬くなった尋嗣の肉棒を、餓えた膣が飲み込んでいく……と、陰茎の先端付近、敏感な亀頭のみを膣道の収めたところで、結衣は動きを止めてしまった。

「……?」
「ふふ。ふふふ」

 もうすっかり魔物の性状が身についたか、生まれながらのアラクネやジョロウグモと比較しても遜色ない、サディスティックな微笑を浮かべる結衣。
 敏感な亀頭のみを膣口の肉ではみはみしながら、それ以上刺激を与えようとはしない。あまりにもどかしい快楽に、尋嗣はたちまち屈しカウパーを漏らすが、それでも結衣は挿入を再開しようとはしない。
 焦れったいあまり騎乗位セックスの要領で腰を突き、挿入をねだるも、腿まで糸に拘束されていては思うように動けない。
 放置プレイに苦悶する恋人を冷たく見下ろし、結衣は言った。

「じたばたしちゃって、情けないですね……そんなに射精したいなら、自分でしたらどうです?」

 器用にも右手の拘束のみを解き、結衣は自分の目の前でオナニーしてみるよう強要したのだ。
 連日の逆強姦調教で心の奥底まで糸で縛られた尋嗣は、そんな屈辱的極まりない要求にも拒絶する術を持たない。時折躊躇い、動きを止めながらも、ゆるゆると右手を下半身へ伸ばし、お預けをくらって苦しむ竿を自分で扱きだした。
 中途半端に咥え込まれ、激しく手淫してみたところで、魔物娘のもたらす快楽に単なるオナニーが適うはずも無く、如何に乱暴に擦り立てたところでなかなか射精には至れない。
 下唇を噛んで、年下の女生徒に見下されながらする自慰は、僅かに残った尋嗣の人としての心を容赦なく蝕んでいった。

「どうです? やっぱり一人遊びじゃ、あんまり気持ちよくなれませんか。
 ……そんな可愛い顔をしても駄目ですよ。ちゃんと自分で、先輩一人で射精してみて下さい」

 物も言えず、苦痛溢れる自慰を強制される尋嗣の右手首に、結衣は目を遣った。毎日糸で縛られ、拘束される手首には、うっすらと縛めの跡が残っている。

「手首、跡になっちゃってますね……今はまだ目立たないですけど、これからどんどん濃くなっていって……誰かに見つかったらどうします? 『僕、恋人に縛られないとイけないんだ』なんて……ふふっ」

 憧れていた先輩の醜悪なオナニーショーを楽しみながら、結衣は心底嬉しげに笑む。釣り上がった唇の端、真っ赤な唇の間から長い舌の先をちろりと覗かせると、下の尋嗣がビクリと反応した。

「? 私の口見て、興奮したんですか……? ちょっと、変態っぽいですねえ。
 まあ、女の子に組み伏せられて、無理矢理オナニーさせられておちんちん硬くしてる先輩に言っても、なんかもう手遅れって感じですけれど……
 いいですよ。イきそうならいつでも、そのまま射精して下さい」

 膣口の締りを強め、カリ首周りをひだで締め付けると、尋嗣の手が一気に早くなった。溜め込んだ精を蜘蛛女に捧げるため、哀れな餌食は必死になって肉棒を擦る。

「眼を逸らしちゃ駄目ですよ。出すときは、ちゃんと私の眼を見ててくださいね」

 真正面から見据えられ、言いようのない羞恥を感じるも、手を止めることはできない。
 程なくして、白く濁った魔物の御馳走が、膣道に撒かれた。
 結衣が直接嫐って絞ったときと遜色ない量のザーメンを淫壺に流し込まれ、捕食者はその甘味に陶酔する。しばしその美味に浸り、しかしまだまだ遊び足りない女子高生は、押し黙って眼下の贄を見た。
 酷く自分を辱めておきながら、何も言わない結衣に尋嗣は不安を煽られる。相変わらず全身は右手を除いて縛られたままだし、結衣に乗られていては転がって逃げることもできない。たまらなくなって、尋嗣は言った。

「……なんとか、言ってくれよ」
「……何か、言って欲しいんですか?」

 いやに冷たく、蜘蛛が吐き捨てる。その口振りに、言い様のない色気、官能を感じてしまっているということに、尋嗣は何よりも恐怖した。

「……罵って欲しいんですか? いじめられたいんですか? 犯されたいんですか?
 ……ねえ、教えて下さい。マゾで変態の尋嗣先輩は、どんなエッチな事を私にして欲しいんですか?
 人形みたいに弄ばれて、ぐちゃぐちゃに犯されたいんですか?
 私のことしか考えられなくなるくらい激しく、縛られて、詰られて、レイプされたいんですか?
 ねえ。言ってみて下さいよ……」

 ついこの間まで、内気でおとなしい、真面目なマネージャーだったはずの、結衣の変貌。
 かつてと同じ顔で、かつての彼女からは想像もできない淫らな言動を繰り返すアラクネに、尋嗣は溺れていった。







 拠点としたホテルの一室。ルリコはいつもの如く黒球に跨り、満足気な笑みを浮かべていた。

「やっぱり、良い事した後は気分が晴れるわねえ。……でも、あんまりこっちから干渉しすぎるのも、ちょっとどうかなと思わなくもないのよね……ねえ、どう思う?」

 一人呟き、ルリコは魔力球に手を這わせた。一切の光を吸収する暗黒球が、主の愛撫に脈動し応える。液体とも固体ともつかぬ表面の物質が波打つと、ルリコは愛おしげに眼を細めた。

「ああ、良いわねえ……面白いわ、それ。やってみましょう。
 いい事思いついてくれた子には、ご褒美」

 広げた指を閉じ水泳の貫手のようにした右手を、ずぶりと球体に突き入れる。挿入に、暗黒物質が静かに激しく、歓びの反応を返す。表面の至る所で不規則に漣を打ち、尻尾を振って甘える子犬のような印象を与えた。

「よしよし、いい子、いい子……
 男を可愛がる、この楽しみを知らない子たちに……いっぱい教えてあげましょうね……」

 白く滑らかな太ももとふくらはぎで球をぎゅっと締め付けながら、異界の王女は微笑した。

11/05/20 08:17更新 / ナシ・アジフ

■作者メッセージ
リリムお姉さんのパーフェクト魔物化教室シリーズ・パート2。

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