連載小説
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反魔物領でお茶会を(後編)
「……………へ?」

静先生の指さしたモノを見て、僕は一瞬思考が固まった。

「そ、そこって……」
「はい。おっぱいです。魔物の動きを止めるツボは、おっぱいの先にあるんです」
「ま、まさか……」
「本当ですよ。それとも先生のこと疑いますか?」
「いえ、そんな! 滅相もありません!」

慌てて首を横に振る僕。呼吸が荒くなっているのが自分で分かる。僕みたいな女性に縁のない男にとっては、静先生や竹子さんのような美人が性的なことを口にしただけで、上がってしまうものなのだ。
いやいや。落ち着け。僕は必死に己の心を鎮めようとした。

魔物の動きを止めるツボがおっぱいにあるのは、単なる事実であって僕の都合とは関係ない。静先生はそれを僕に告げているだけなのだ。何も動じることはない……

「そ、そうだったんですね……そのツボを突けば魔物を止められるんですね……」

ティーカップを手に取り、残っていた紅茶を口にしようとしたが、手が小刻みに動いてうまく飲めない。まだ気持ちが落ち着いていないのだ。

「大丈夫ですか? 今からツボの刺激を実習してもらいますよ?」
「は、はい……」

落ち着け。落ち着け。別に静先生の胸を触るわけじゃない。きっと模型か何かを魔物の胸に見立てて練習するはずだ……
だが、そんな僕の予想は、あっさりと崩壊した。

「では、習うより慣れろです。はい、どうぞ」
「……………へ?」

差し出された2つの大きな膨らみを前にして、僕はまた思考が固まった。これは現実か? 何か夢でも見てるんじゃ……

「どうしました? 早くしてください」
「あ……」

僕は静先生の顔を見た。静先生は、あたかもそうするのが当然と言わんばかりに、はち切れそうなバストを僕に向けている。

「ちょ、ちょっと待ってください……」
「何を待つんですか?」
「それはちょっと、まずいんじゃ……」
「何がまずいんですか? 先生の言うこと、全部実行するって高遠くんはさっき言いましたよね?」
「で、で、でも、付き合ってもいない男女が、こんな……」
「高遠くん、先生のおっぱい触るの嫌ですか? 先生のおっぱい、見ていて気持ち悪いですか?」
「と、とんでもないです! でも……」

悲しそうな表情を見せた静先生に、僕は大慌てで取り繕った。しかし、一体どうしたら……
そのとき、それまで黙って聞いていた竹子さんが口を挟んできた。

「高遠くん。黙って聞いていれば、静先生に余りにも失礼ではないかな?」
「竹子さん……」
「静先生は我が身の危険を顧みずに、S県で魔物を研究し、今回も無償でT市の防衛に協力してくださっている。それだけに止まらず、大事な胸まで提供して君に秘伝を伝授しようとしているんだ。それに対する君の解答が拒絶なのかな?」
「きょ、拒絶なんてことは……」
「それなら、静先生の言う通りにして教えを受けたまえ。それとも、たかが倫理や常識を気にして、魔物と戦う方法に習得できないほど、T市防衛にかける君の気持はいい加減なものなのかな?」
「う……」

正論だった。魔物と戦うためにどんなことでもすると言ったばかりなのに、人間世界の常識を気にして逃げようとする僕は、情けない限りだ……

「「…………」」

竹子さんと静先生がじっと僕の目を見つめてくる。ここに至って、僕の心は決まった。

「す、すみませんでした……実習させてください」
「「高遠くん……」」

2人の顔がほころんだ。静先生は両手を軽く広げ、僕の方に迫ってきた。

「がおー。さあ、魔物が襲ってきました。ツボを刺激して反撃してください」
「し、失礼します……」

生まれて初めて、自分から女性の胸に手を伸ばす。それだけで汗が滝のように出た。自分の体内に、こんなに水分があったのかと思うほどだ。
が、僕の手が2つの膨らみに触れようとしたとき、静先生はそれを制して言った。

「高遠くん、服の上からなんて横着は駄目ですよ。ちゃんと出してください」
「え……? じ、直に、ですか……?」
「当然です。魔物との戦いは命懸けなんです。服の上からじゃ刺激が弱くなって魔物の動きを止められませんよ?」
「は、は、はい……」

脱がせてから触るということなのか……緊張がさらに高まり、震える指先で静先生のブラウスのボタンを外そうとした。
が、そのやり方も、静先生の御眼鏡には叶わなかった。

「1つずつボタンを外すのを、黙って魔物が待っていてくれると思いますか? 一気に破るんです」
「え? で、でも、そんなことしたら静先生の着るものが……」
「着替えくらい用意しています。さあ、遠慮しないで……」
「はいい……」

もう、静先生の言葉に従うしかなかった。ブラウスの生地を両手で掴み、力任せに左右に広げた。ピリッという音がして、思ったより簡単に先生の胸元が露わになる。

「あんっ! いいですね……さあ、その下も剥ぎ取ってください……」
「し、下って……」

ブラウスの下には、淡い緑色のブラジャーがあった。乳房を包む部分はハンドボールくらい入りそうで、女性の下着には詳しくないものの、その辺のお店で買えるサイズなんだろうかと思った。もしかしたら特注かも知れない。

「あ、あの、今度こそ破れたら勿体なさそうですし、静先生の方で脱いでいただくわけには……」
「駄目です。魔物は自分から弱点を晒してはくれませんよ」
「…………」

選択肢は残されていなかった。僕は意を決して静先生のブラジャーを掴むと、強めに引っ張った。ブチッという音がして破れるのと同時にブラジャーは外れ、静先生の生のおっぱいが、勢いよく飛び出してぶるぶると揺れた。

「あふ……それでいいんです。さあ、ツボを攻撃してください……」
「う……」

初めて見る、女性の生のバスト。汗だくになった両手を伸ばし、先端の突起にそっと指で触れてみた。

「こ、こ、こうでしょうか……?」
「ん……もう少し刺激を……」
「し、刺激って……」
「もっと、つついたり、つまんだりしてください。遠慮はいりませんから……」
「は、はい……」

事ここに至っては、腹を決めるしかない。僕は静先生の乳首を指で強めにつついた。柔らかい突起が、巨大な肉の塊にめり込む。

「あんっ! いいです。もっと……」

さらにつまんでみる。

「ああっ! そのまま指でしごいてください!」
「し、しごく……」

言われるままに両手の指でそれぞれしごき始めると、だんだん乳首が固くなってくるのが分かった。これで効果があるんだろうか?

「ど、どうですか静先生?」
「いいっ! 素敵です高遠くん!」
「あの、そうじゃなくて、魔物の動き止まりそうでしょうか……?」
「んんん……まだ駄目、です……」
「そんな、どうしたら……」
「あっあん……それじゃあツボだけじゃなくて、全体を攻めてみましょう……」
「全体……?」
「おっぱいを揉みしだいてください。下から上にこね上げるように……」
「はっはい」

命を預ける技術の練習だ。妥協は許されない。僕は静先生のおっぱいを持ち上げようとしたが、片手では到底収まり切らないサイズなので、なかなかうまくいかない。

「焦らなくていいですよ。いろいろ試してみて……」

慌てる僕に、静先生は優しく言った。僕は何度か手の角度を調節しながら、先生の小山のようなおっぱいの形を変えていった。
そのとき、突然、竹子さんが後ろから、がおーと声を上げて抱き付いてきた。

「たっ、竹子さん!?」
「何を驚いているのかな、高遠くん? 魔物が1体だけだと誰が言った? 1体と戦っている間にもう1体に襲われることなんて、普通にあり得るぞ」
「そっ、そんな。先生、一体どうしたら……」

魔物1体と戦う技術さえ満足に習得できていない僕が、複数と戦う方法なんて分からない。アドバイスを求める僕に、静先生は言った。

「あんっ……簡単です……先生のおっぱいを口でしゃぶりながら、空いた手で竹子さんのおっぱいを出して揉みましょう……」
「そういうことだ、高遠くん。さあ私の服も遠慮せずに破りたまえ」
「く、口で……」

仕方なく僕は、赤ん坊のように、静先生の固くなった乳首を口に咥えた。そして無理やり体を竹子さんの方に向けると、両手でワイシャツを破った。

「あああっ……おっぱいチュウチュウされるのもいいです……」
「いいぞ高遠くん。早くブラジャーも剥ぎ取って、胸を刺激したまえ」
「ひ……」

僕は無我夢中で竹子さんの紫色のブラを引きちぎり、静先生に引けを取らない大きさのおっぱいを片手で揉み始めた。

「あっ……素晴らしい手つきだな、高遠くん。これなら魔物も参るかもしれないぞ……」

そこから先は、僕は左右の手で静先生と竹子さんのおっぱいを同時に揉みながら、空いているおっぱいを交互にしゃぶった。2人の固くなった乳首に僕の唾液が付着し、腹部へと垂れていく。

「ん……どうした高遠くん。腰が引けているぞ?」
「うっ……」

竹子さんに指摘され、僕は焦った。当たり前の話であるが、僕みたいに女性に縁のない男が、美女2人の胸を揉んだり吸ったりしているのだ。股間が反応しない方がおかしい。

「どうやら、ペニスが勃起したようだな。正常な反応だよ」

当たり前のように竹子さんが僕の股間に手を伸ばし、膨張したものを握ってしまった。もちろんズボン越しなのだが、一瞬快感を覚えてしまい、さらに腰が引けた。

「たっ、竹子さん。止めてください……」
「ん……高遠くん。それじゃ次のステップに進みましょうか……」
「つ、次のステップ……?」

僕は、2人のおっぱいを刺激するのを忘れ、静先生の顔を見つめた。先生は上気した顔で、僕に頷く。

「最初に言った通り、おっぱいのツボを刺激するのは、あくまでも魔物の動きを止めるためのものなんです。魔物を倒すには、次のステップに移らないといけません」
「そ、そう言えば確かに……で、魔物を倒すにはどうしたら……?」
「魔物が男性の精を苦手にしているのは、もう知っていますよね?」
「はい……講習で教わりました」
「魔物に精をかけることで、失神はさせることができます。でも、完全に倒すには、魔物の体内に精を注がないといけないんですよ」
「? 注ぐって、一体どこから……?」

そう尋ねると、静先生は、自分の下腹部をそっと押さえた。

「そ、そ、そこって……」
「はい。おまんこです。魔物を退治するには、勃起したおちんちんをおまんこに差し込んで、精を注がないといけないんです」
「……そ、そこに、直接入れないと駄目なんですか? あらかじめ採取しておいた精液をスポイトとかで……」
「駄目です。魔物に対して有効なのはおちんちんから出したての精だけなんです。一度出して保存した精では、効き目がゼロであることがS大学の研究で分かっているんです」
「そ、そんな……他に方法は……?」
「ありません」

僕は目まいがしそうになった。おっぱいをいじくるだけならともかく、凶暴な魔物とセックスまがいのことをしなければならないなんて、恐ろしくて身震いがする。
だが、T市を護るためだ。僕は覚悟を決めた。

「……分かりました。魔物に襲われたら、今みたいにおっぱいのツボを刺激して動きを止めてから、精を注げばいいんですね?」
「そうです。では、早速実習しましょう」
「え……?」

おっぱい丸出しのまま、僕にお尻を向けて、床に四つん這いになってしまった静先生を見て、僕は言葉を失った。まさか、静先生を魔物に見立てて、実際にするということなのだろうか。

「あの……まさかとは思いますけど、今ここで、先生の中に注ぐんでしょうか……?」
「そのまさかですけど……何か不満ですか?」
「いえそんな。でも、未婚の男女でそれをやっちゃうと、取り返しが付かないっていうか……」
「高遠くん!」
「!」

振り向くと、竹子さんが怖い目で僕を睨んでいた。言いたいことは分かる。静先生の気持ちに応えろ、ということだろう。もう逆らえなかった。
僕は静先生の方を、もう一度見た。むっちりした、大きなヒップが妙にいやらしく揺れながら突き出されている。

「し、し、し、失礼します……」

静先生の後ろに膝立ちになり、タイトスカートに手をかけてめくろうとした。もちろんこんなことをするのは初めてだ。先程おっぱいを出したとき以上に緊張し、手が震えた。

「落ち着いて静先生の女性器を露出させるんだ、高遠くん。これは練習なんだから、少しくらい失敗したって構わないぞ」
「は、は、はい……」

竹子さんに励まされ、僕はようやく先生のスカートをまくり上げた。さらにストッキングと、その下のショーツを下ろす。先生の、剥き出しのお尻と股間が僕の前に現れた。

「う……」

インターネットの画像でしか見たことのない、女性の生の下半身に圧倒される。実物は画像より遙かに卑猥だ。特にお尻の奥にある割れ目はヒクヒクと蠢きながら液体を垂れ流しており、僕の股間はますますズボンを押し上げ……ているかと思いきや、いつの間にかチャックが開いていて、外に突出していた。

「うん。高遠くんの方も準備万端だな」
「たっ、竹子さん。何を……?」

いつの間にか、竹子さんは僕のズボンからペニスを引っ張り出していた。そして固く膨張したそれをしごきながら、竹子さんは言う。

「ぐずぐずしていたら、魔物を退治するどころか反撃されてしまうぞ。早く静先生の女性器に挿入したまえ。入れる場所は分かるか?」
「はっはい」

僕は慌てて腰を進め、先生の入り口に先端をあてがった。「んっ……」と先生の声が短く漏れる。
そのまま徐々に挿入しようとした。だが角度がおかしいのか、うまくいかない。僕は焦った。

「あれっ、えっと……」

焦れば焦るほどうまくいかない。入り口をこねるたびに、静先生は声を漏らした。

「あっ……ん……」
「初めてで苦戦しているようだな。私が導いてあげよう」

そう言うと、竹子さんは僕のペニスを握り直し、くいっ、と引っ張った。静先生の中に入っていく、と思った瞬間、僕は射精していた。

「あぐっ!」
「あひゃん! 中で出てる……」

情けないことに、僕は静先生に挿入してから1秒も持たなかった。それぐらい先生の中は気持ちがよく、オナニーとは比較にならない快感だった。ペニスが先生から抜け、僕はどっと尻もちをつく。

「あ、あ、ご、ごめんなさ……」

魔物の体内に精を注ぎ込む練習だから、短い時間で出て悪いことはないかも知れない。とは言え、奥に届いたか届いていないかの段階で出てしまったのは問題だろう。僕は落ち込んだ。

「大丈夫ですよ。高遠くん」

そんな僕を、立ち上がった静先生が、そっと抱き締めてくれた。

「まだ時間はありますから。いっぱい先生や竹子さんと練習しましょう。何度も先生達のおまんこにおちんちんをじゅぽじゅぽすれば、我慢できるようになりますよ」
「た、竹子さんも……?」
「もちろんだ。私も高遠くんの修行のために膣を提供する。私達を交互に使うといい。何度でもな」

見ると、下半身裸になった竹子さんが、僕の方にのしかかってくるところだった。

「竹子さん!?」
「何を驚いているんだ? いつも魔物の動きを封じた、有利な体勢になれるわけではあるまい? 魔物に押し倒されたとき、膣に精を注ぐ練習もしておかないとな」

仰向けに倒れた僕の股間に、竹子さんがゆっくりと腰を下ろす。硬さを失っていなかった僕のペニスは、竹子さんの中に吸い込まれていった。包み込んでくる、温かく濡れた肉の感触に僕は……

「あぐうっ!」
「ん……出ているな。この痙攣が素晴らしい……」
「うう……」

マンションに来たのは夕方だったが、窓の外を見ると、既に暗くなっていた。今日はもう、帰れないのかも知れないと思った。

…………………………………………
………………………………
……………………
…………

ベッドの中で、僕は意識を取り戻した。未だ頭の中はぼんやりとしており、体も疲労が抜け切っておらず動かしにくい。
と言っても、不快感はなかった。全身に心地よさが漂う。ずっとこのまま横たわっていたい気持ちだ。
両脇には、竹子さんと静先生が寝そべっている。2人とも、そして僕も全く衣類を着用していない状態であり、4つのおっぱいが僕の体を包んでいた。

結局あの後、僕は先生と竹子さんに、それぞれ20回近くも挿入して射精した。正直、自分にそんなスタミナがあったとは思えないのだが、どうしてあれだけの回数できたのか疑問だ。
しかし、おかげで多少成長することができた。挿入してもすぐに射精することなく、しばらく動くことができるようになったのである。静先生によると、すぐに精を注ぐより、何度か子宮を刺激してからの方が、魔物へのダメージが大きいらしい。

「…………」

窓から光が差している。夜は明けているようだ。今日が日曜日でよかったと思った。とても学校に行ける状態ではない。

「目が覚めたかな? 高遠くん」

僕より先に起きていたのか、竹子さんがささやいた。頷くと、竹子さんは目を閉じて僕の口に唇を合わせてきた。さらに舌が入り込んでくるので、反射的に僕も舌で迎えてしまった。

ジュル……ジュプッ……

数秒間お互いの唾液をすすり合い、ようやく離れていく。僕は竹子さんに尋ねた。

「……これも、修行ですか……?」
「ん? ああ、キスにも魔物を止める効果があるんだ。これからは私と静先生が毎日君に絶えず稽古を付けるから、そのつもりでいることだな」
「はい……」
「私は朝食の準備をしてこよう。高遠くんはそのまま休んでいたまえ」

竹子さんはベッドを抜け出し、帽子をかぶってキッチンへと向かった。ちなみに首から下は裸だ。裸エプロンというのは耳にしたことがあるが、裸シルクハットというのもあるんだろうか。
僕はすぐには起きられず、ベッドに体を埋めた。竹子さんが朝食を作ってくれるから、二度寝しないようにしないと……

「おはようございます。高遠くん」

静先生が僕の耳元で囁く。先生も起きていたのだ。

「お、おはようございます。先生……」
「昨日は頑張りましたね。テレビでも付けますか?」
「はい……」

全裸に眼鏡をかけただけの静先生が、ベッドから抜け出してテーブルの上のリモコンを操作した。大画面のテレビに電源が入る。
やっていたのは、K県のローカル局がやっている、地元紹介の番組だった。毎週レポーターがK県の物産や話題の場所を取り上げて紹介する、のどかなご当地番組だ。以前はK県全域から取材対象を選んでいたのだが、現在では親魔物領になったY市、N町のものが取り上げられることはない。レポーターの身の安全が保証されないのだから当然だ。
ぼんやりと画面を眺めていると、CMになった。

『魔物と人間は友達です。手を取り合って暮らしましょう』

「…………へ?」

不意に画面に現れたテロップに、僕は違和感を覚えた。まだ頭がはっきり覚醒していないのであやふやだが、何かおかしくないだろうか。

『反魔物宣伝に騙されないで。魔物と人間はこんなに仲良しです』

「は……?」

下半身が白い蛇である異形の少女と、小さい人間の男の子が手をつないで和やかに歩いている映像を見て、僕の眠気と疲労感は一気に吹き飛んだ。これは魔物が人間を騙すためのプロパガンダ映像だ。何故K県のローカル局で、こんなふざけたものを流すのか。
場面が変わった。どこかのスタジオだろうか。マイクの前に大柄な女性が映っている。人間ではない。青い肌をして、頭部には一対の角、背中には蝙蝠の羽を生やしている。魔物だ。
僕は思わず叫んでいた。

「た、竹子さん! テレビに魔物が!」
「なんだって!?」

竹子さんは、すぐにキッチンから戻ってきた。改めて3人で画面を見る。魔物が話し始めた。

『K県の皆様。おはようございます。わたくしはK県N町魔物自治委員会会長のアスラベラと申します。種族はデーモンですわ。しばしの間、皆様の電波をお借りさせてくださいませ』

ぞっとするほど美しい笑顔を見せるデーモン。いわゆる電波ジャックというわけか。デーモンは話を続けた。

『皆様も御存じの通り、先日、N町の皆様はとても賢明な判断をなさいました。すなわち、旧態依然とした、化石のような反魔物政策を改め、わたくし共魔物と共に生きる道を選択してくださったのです』

力ずくで侵略しておいて、よく言う。僕は胸が悪くなった。しかも、もしかしたら、このデーモンが駒川さんを殺したのかも知れないのだ。

『しかし……このK県にはまだ、愚かしい反魔物宣伝に踊らされ、わたくし共との共存を拒否なさっている方々がおられます。例えば、お隣のT市の皆様のように……』
「!?」

突然T市を名指しされ、僕の鼓動は早くなった。こいつ、T市に何か仕掛ける腹なんじゃ……

『わたくし共N町魔物自治委員会は考えました。皆様が魔物を拒絶なさるのは、わたくし共のことをよく知らないからではないかと。そこで本日、まずT市にお邪魔させていただきます。本日15時から、魔物によるデモ行進をいたしますわ』
「なっ!?」

何か仕掛けるどころではない。侵略予告だ。血の気が引くのが分かった。

『国道○○号線に沿っての、平和的な行進でございますわ。T市の皆様にとりまして、魔物と触れ合うよい機会かと思います。興味のある方は是非わたくし共にコンタクトをお取りください。写真撮影も歓迎いたしますわ。では、ご機嫌よう』

デーモンの話が終わり、画面は元の御当地番組に戻った。
僕ははっと我に返り、壁にかかった時計を見た。朝の8時過ぎだ。魔物が攻めてくるまで、後7時間しかない。
デーモンは平和的な行進だと言っていたが、魔物の言うことなど信用できるはずがない。T市の人達が殺されないために、今こそ静先生に教わった技術を使って撃退するときだ。
僕は、順を追って対応することにした。

「竹子さん」
「うん」
「T市の市役所と警察に連絡を取ってください。市が魔物達にどう対応するのか、確認したいんです」
「分かった」
「僕は静先生の講習に来てくれた人達に連絡を取って、防衛に参加してくれる人を募ります」

その日、静先生の4回目の講習会が予定されていたのはラッキーだった。講習会会場だった公民館の大会議室を、そのまま集合場所とすることができる。僕は今日の講習参加予定者、そして今までの参加者に一斉にメールを送信し、今日の講習会を中止にすること、そして、防衛隊に参加するなら同じ場所に来てほしいと伝えた。

送信を終えたとき、竹子さんが戻ってきた。

「駄目だな。市当局の奴らも警察も、まるでやる気がない」
「えっ?」
「平和的な行進だと言っているんだから、別にいいじゃないですか、と言っていたよ」
「そんな馬鹿な……」

反魔物領の役所とは思えない警戒心の低さだった。だが、嘆いていても始まらない。僕は、竹子さんと静先生に言った。

「ひとまず、講習会の参加者の人達に防衛隊への参加を呼びかけました。後は、どこで魔物を迎え撃つかなんですが……竹子さん。K県の地図はありますか?」
「ああ。今持って来よう」

テーブルの上にK県の地図を置いてもらい、T市の部分を広げる。僕は地図上の一本の道路を指でなぞった。

「この道が国道○○号線ですね」

魔物がやって来る時刻も、ルートも分かっている
問題はどこで魔物を迎え撃つかだ。
市街地で魔物を追い散らしたら、バラバラに逃げた魔物が一般市民に被害をもたらすかも知れない。できるだけN町に近い場所で食い止めたい。

「ここはどうだ?」

そう言って竹子さんが指さしたのは、N町に程近い旧Tトンネルだった。現在は新Tトンネルが作られているので、人や車の往来はない。

「トンネル、ですか……?」
「静先生に教わった通り、魔物に向かって精を放つんだろう? トンネルなら臭いが逃げなくていいんじゃないか?」
「なるほど……」

僕は頷いた。細長いトンネルの中では大人数が自由に動けないが、別に魔物を包囲したりするわけではなく、ただ追い返せばいいので問題はないだろう。今は使っていないトンネルなので、自動車の往来を気にせず防衛に専念できるのも好都合だ。

「分かりました。そこにしましょう。後は、魔物をどうやってそこに誘い込むかですが……」

先述の通り、旧Tトンネルは現在使われていないので、魔物達がそこを通過することはない。何らかの手を打って、誘き寄せる必要があった。
すると、静先生が言った。

「それなら大丈夫ですよ。魔物が人間の血が大好きですから、誰かが怪我をしたふりをして魔物の前に姿を見せてから、トンネルまで逃げれば、魔物は付いてくるはずです」
「なるほど……」

こうして、作戦は決まった。携帯を見てみると、かなりの着信がある。いずれも防衛隊に参加するという内容だ。心強い。
すると、また携帯が鳴った。メールでなく電話だ。昨日の講習会に来ていたK市の助役、郡堂(ぐんどう)さんからだった。

「九字です」
『郡堂です。テレビ見たかい?』
「見ました。旧Tトンネルで魔物を迎え撃ちます。100人以上の童貞が、一斉に魔物に向かってオナニーをする予定です」

厳密には、僕は既に童貞でなくなっているのだが、まあ1人ぐらい大丈夫だろう。

『分かった。うちからも応援を出す』
「えっ? K市からも参加してもらえるんですか?」
『100人以上の防衛隊を九字君1人で指揮するのは大変だろう。K市の職員を何人か派遣するから、九字君のスタッフとして存分に使ってもらいたい』
「あ、ありがとうございます!」
『それと、集合場所の公民館から旧Tトンネルまではどうやって移動する予定なのかな?』
「それは……皆さんの車で各自と思っていますけど……」
『旧Tトンネルの近くに、車を何十台も停められるような駐車スペースはないよ。うちからバスを出すから、それに乗っていきなさい』
「な、何から何まで、すみません」
『何を言っているんだ。T市が魔物の手に落ちたら次はK市だ。全面協力して当たり前だろう。他に何か、必要なものはないか?』
「……トンネルの中が暗いと思うので、何か照明器具があれば……」
『分かった。それも手配しよう。昼過ぎにはT市の公民館に着くようにする』

通話を終えて、ため息をついた。やはり僕はまだまだ未熟だ。竹子さんや静先生、郡堂さんにいろいろ助けてもらわなくては、防衛戦などとてもおぼつかない。
いや、へこんでいる場合ではなかった。魔物を防ぐために必要な、全ての条件はそろったのである。むしろ喜ばなくては。

…………

竹子さんが作ってくれた朝食を摂り、さらに少し仮眠を取った僕は、一旦実家に寄って身支度を整えてからT市公民館に向かうことにした。
竹子さんと静先生には、そのままマンションで待機してもらうことにする。女性である2人は魔物に精を放てないため、危険と判断したからだ。
昼前にT市公民館に到着すると、既に大会議室は大勢の男で埋まっていた。メールに返信せずに来た人もいるようで、合わせて200人近くいる。N町のときの2倍だ。

「皆さん」

僕は壇上に立ち、呼びかけた。

「白澤先生に教わった技で、このT市を護るときが来ました! 魔物を退け、T市に平和を取り戻しましょう!」
「「「ウオー!!」」」

沸き上がる歓声。みんなやる気だ。勝てる。これなら魔物に勝てると僕は思った。

…………

そして、僕達は運命の15時を迎えようとしていた。
ここは旧Tトンネル内。郡堂さんの手配してくれたバスに分乗した僕達は、K市職員の皆さんの誘導のおかげもあって、特に混乱をきたすこともなく、予定通りにトンネルの中ほどで待機していた。照明もつき、暗くて見えないということもない。
後は、囮役の人が魔物をこのトンネルに連れてくるのを待つだけだ。囮役は、本当は僕がやろうと思っていたのだが、大将が囮をやってどうするとみんなから怒られ、断念していた。

「…………」

魔物は、まだ来ないのだろうか。
緊張の中で、静かに時間が流れる。トンネルの中からは外の様子が分かりにくい。出口(トンネルのN町側)付近にはもう1人見張りを配置しているのだが、まだ報告はなかった。
バスの中では、まだ多少雑談する余裕のあった防衛隊員達だが、今は魔物との衝突を控え、全員が沈黙している。
そのとき、出口近くにいる見張りがサインを送ってきた。『囮が戻ってきた』という意味だ。続いて大きな声がトンネル内に響く。

「魔物だーっ!!」

血まみれの囮役(もちろん血は偽物)、そして見張りが息を切らして走ってくる。
そしてその後ろには、おびただしい数の異形が迫ってくるのが見えた。
全員が美しい女性の部分を持っているのは共通だが、下半身が巨大な蜘蛛や昆虫になっているもの、動物の耳や足を持つもの、蛇のように長大な胴体を持つもの、翼を持って空を飛翔するもの……

「ぐっ……」

僕は一瞬気圧されそうになったが、すぐに立て直した。このときのために、静先生から対魔物必勝法を学んできたのだ。何も恐れることはない。

「先鋒、前進してください!」
「「「おう!」」」

僕の号令で、十数人の防衛隊員が前に出た。皆、普段は1日に5回以上のオナニーをしていながら、この日のために完全禁欲していたという強者達だ。

「魔物ども! 溜りに溜まった俺達のザーメンを喰らえ!」

颯爽とズボンとパンツを脱ぎ捨て、股間をしごき始める隊員達。魔物達はそのまま突っ込んでくる。

「おらあっ!」

隊員の股間から、相次いで液体が迸った。その一部は魔物の顔にかかる。これで退治はできなくとも、失神はさせられるはずだ。

「やった!」

僕を含めた何人かが喝采する。が、なんとしたことか、魔物はそのまま迫ってきて、今射精した隊員達を押し倒した。

「いい匂いじゃねえか! お前はアタシの獲物だ!」
「うまそうだ! 貴様は俺が喰ってやる!」
「ひいい!!」
「た、助けてくれーっ!!」

魔物の怒号と、隊員の悲鳴がトンネル内に響く。僕は混乱していた。確かに精液が魔物の顔にかかったはずなのに、どうして効かないんだ。魔物は人間の男性の精が苦手じゃなかったのか。

「「「ウオオーッ!!」」」

茫然とする僕を尻目に、次鋒の隊員達が雄叫びを上げ、ズボンとパンツをかなぐり捨てて新たに現れた魔物に向かっていった。

「ま、待って!」

僕は慌てて止めようとしたが、遅かった。彼らは先鋒と同じように魔物の顔に精液をかけたものの、何の効果もなく、次々に組み伏せられていく。

「おほほほほ! 捕まえたわ!」
「もう逃げられないわよ。観念なさい!」
「ギャアアアアア!!」
「や、やめろーっ!!」

駄目だ。
僕は、魔物の阻止が不可能になったことを悟った。魔物達が何か対策をしていたのか、静先生に教わった方法が通用しなくなっている。
素早く頭を切り替える。僕は無線機を使い、応援に来ていたK市の職員さん達に呼びかけた。

「作戦は失敗です。後ろの方から、順に退却させてください!」

残念だが、こうなっては無事な隊員を1人でも多く逃がすしかなかった。そして、狭いトンネルの中で全員が一斉に逃げようとしたら、将棋倒しになってしまう。入り口に近い順に退避させようとした。
後は、N町側から侵入してきた魔物を1秒でも長く足止めすることだが……

「若!」

1人の和装の男性が僕を呼んだ。僕はその男性に頷き、手を振り上げて叫んだ。

「かかれーっ!!」

僕の声に応じて、十数人の男達が躍り出た。静先生の教えを信じていなかったわけではないが、実戦は何が起こるか分からない。こんなこともあろうかと、実家である九字流柔術の門弟達を前の方に配置していたのである。
柔術は素手の武道と思われがちだが、実際には武器術もある。刀や槍、薙刀、六尺棒と言った武器を手挟んだ門弟達は、一斉に魔物に打ちかかっていった。

「でやあっ!」
「覚悟!」
「おのれっ!」

門弟達が、魔物と渡り合う声が響く。しばらくはもつだろう。
ここはトンネルの中だ。回り込まれる心配はない。僕達が魔物を足止めしている間に、他の人達は全員逃げられる。
僕達はここで魔物に殺されるだろうが、生き残った人達が再起を図ってくれれば……
そう思ったとき、後ろの方で悲鳴が上がった。

「うわああああ!!」
「助けてくれえ!」
「お前達は袋のネズミだ! 諦めろ!」
「!?」

何が起きた? 僕は慌てて無線機を手にした。

「どうしました!?」
『入口(T市側)を魔物がふさいでいます! 外に出られません!』
「何ですって!?」

僕は愕然とした。入口もふさがれたということは、このトンネルに閉じ込められたということだ。魔物達は一体いつ回り込んだのか。もしかして、僕達がこのトンネルで待ち伏せしていることを知っていたのか。
いや、考えても無意味だな。僕は悟った。
既に、僕達防衛隊全員の死亡は確定した。考えたとしても、答えを出すまでの猶予はないだろう。
見ると、トンネルの入口側で、悲惨な状況が繰り広げられているのが見えた。隊員が次々と魔物に薙ぎ倒されている。体力のある隊員が何人か、素手で立ち向かっているのが見えるが、まるで歯が立っていない。
こちら側でも、九字流の門弟が1人、また1人と魔物に打ち倒されていた。これまでか。

「ん」

まだ戦っていない門弟の1人に、僕は手を出した。一振りの刀が手渡される。僕は抜刀し、鞘を地面に叩き付けて砕いた。
抜いたのは銘刀、鷹影(たかかげ)丸。九字一門に伝わる、刃渡り120センチの大太刀だ。
事ここに至った以上は、一体でも多くの魔物に斬り付けるのみ。敵将の首が取れれば最高だが、それは高望みが過ぎるか。
鷹影丸を中段に構え、僕は大声で呼ばわった。

「我こそはT市防衛隊隊長、九字高遠! この世の名残に一戦仕る! 人殺しの魔物ども! この太刀受けて……」
「ずいぶん大きな包丁だね。何を料理するのかな?」
「!?」

名乗りの途中で場違いにのどかな声をかけられ、思わずそちらを見た僕は、到底現実とは思えない光景を見た。
緊迫した戦場に忽然と現れた木製のテーブル。清潔感溢れる白いレースのテーブルクロスの上には、当たり前のようにティーセット一式が揃っていた。
そして、優雅な姿勢で椅子に腰かけ、ティーカップを手に上品に微笑む、2人の絶世の美女。

「竹子さん……静先生……」

何故ここへ? いつの間に? どうやって? いやそもそも、これは現実の光景なのか。
複数の疑問が頭を駆け回る。
いや違う。今は2人を守らないと……

「た、竹子さん、静先生、早く逃げてください!」
「何故逃げる必要があるのかな?」
「だって、魔物が……」
「魔物がどうかしたのかな?」
「魔物が、みんなを殺して……」
「誰が殺されたって?」
「だから、そこに……」

魔物に組み伏せられている隊員の1人を指さした僕は、様子がおかしいことに気付いた。
角の生えた鬼のような魔物に馬乗りになられている隊員は、どこも怪我をした様子はなく、むしろ快感でも覚えているかのように表情が蕩けている。魔物と隊員はお互いの股間を密着させた状態で、魔物の方は腰を前後左右に揺り動かしている。これは……セックス?

周囲を見渡すと、皆、同じだった。巨大な蛇体に巻き付かれている者も、蜘蛛の魔物に押さえ付けられている者も、数十の触手に絡み付かれている者も、一様に魔物と股間を合わせて表情を緩ませている。あっちもセックス、こっちもセックス。いやもう、トンネルの端から端まで、全部セックスだった。
一瞬、僕が静先生に教わったように、隊員達が魔物をやっつけるためにおまんこに精液を注ごうとしているのかと思った。だが違う。どの組も、明らかに魔物の方が主導権を握っている。

「これは、一体……?」

状況が理解できない。既に、セックスの輪に加わっていないのは、僕の他には竹子さんと静先生だけだ。僕は救いを求めるように、2人を見て言った。

「みんな、なんでセックスしてるんですか……?」
「それは、魔物はみんな人間が大好きだからですよ」
「へ……?」

静先生の答えは、僕の頭にすんなりとは入ってこなかった。魔物はみんな人間が大好き? 今までにK県で聞いていた話と全然違うじゃないか。
だが、現に、隊員達は誰も魔物に傷付けられていない。僕が今までに聞いた、魔物が人を殺傷するという話の方が間違いだったのか……?

「……あれ?」

ふと、僕は違和感を覚えた。静先生の頭の両側に、牛のような角が生えている。それだけではなく、両足に毛が生えていて、牛のような蹄があるのが分かる。

「静先生がどうかしたのかな? 高遠くん」

竹子さんの方は、容姿はいつもと変わりない。でも、トレードマークであるシルクハットのつばから漂っているように見える、光り輝く粉のようなものはなんだろうか。

「あの、お二人はまさか……ま、ま、まも……」
「うふふ。高遠くん」

静先生が、いたずらっぽく笑って言った。

「先生と竹子さんの魔物まんこ、気持ちよかったですか?」

ガッシャアアアアアンン!

死を覚悟した先程の心境から一転、今までの常識をことごこく覆され、僕は思わず鷹影丸を取り落としていた。地面が地面でなくなったような心持がして、立っていられなくなり、その場にすとんと腰が落ちる。

「どうしたんだい? 高遠くん。静先生の質問に答えたまえ。まあ、答えを聞くまでもないか。あれだけ私達に膣内射精していてはな」

竹子さんと静先生が席を立ち、僕の方に歩み寄ってきた。僕は後ろに下がろうとしたが、なぜか体が動かない。

「ひ……ちょっと待って、来ないで……」
「そう言いながら、立ち上がって逃げないのはどうしてかな? 高遠くん」
「うふふ……高遠くんは期待しちゃってるんですよね。これから先生と竹子さんがしてあげることに」
「そ、そんなことは……」
「ほう……ここをこんなにしているのに?」

僕の側で腰を下ろした竹子さんが、ズボン越しに股間をまさぐってきた。いつのまにか勃起していたことに気付き、僕はまた熱い汗を噴き出す。
まさか。
2人が魔物と分かった今になっても、僕は夕べのことを思い出して、期待しているのか……
いや、でも待てよ。
魔物が本当に人間に害のない存在なら、別に今まで通りに好意を持ち続けてもいいのか。でもまだ、分からないことが……

「あ、あの、1つ、教えてください……」

僕は2人の顔を、交互に見ながら言った。

「魔物が人間を食べないなら、最初からそう言えばよかったんじゃ……なんでわざわざみんなを騙して、ここに誘き寄せるようなことを……?」
「皆さん、口で言っても信じないでしょう? だからこうやって、本当の魔物を教えてあげることにしたんですよ」
「あっ……」

そう言えばそうだった。今朝見た魔物のCMもそうだが、僕達は頭から捏造だと決めつけて、聞く耳を持とうとしなかった。
2人は、いや、魔物のみんなは、そんな馬鹿な僕達に、身をもって魔物の真実を伝えるために来てくれたんだ。僕は自分の愚かしさを反省した。

「みんな、ごめんなさい……」
「そんなことはどうでもいい。早くお茶会を始めよう。まだ参加していないのは私達だけだからね」
「? ? お茶会ならとっくにしてたんじゃ……?」
「うふふ……高遠くん。魔物のお茶会は、愛する伴侶とのセックスありきなんですよ」
「見たまえ、みんなお茶をたしなみながら、たった今巡り合った伴侶と愛し合っているぞ」
「あ……」

いつしかトンネルの中には、数メートルおきにテーブルが置かれ、その上にはしっかりティーセットがあった。魔物と防衛隊員は、そこから思い思いにカップを取っては、交わっているようだった。

「さあ」
「高遠くん」

立ち上がった竹子さんと静先生が、僕の目をまっすぐに見つめ、手を差し伸べながら言った。

「「反魔物領で、お茶会を」」

重なった2人の言葉。
そして、花のような2人の笑顔。
それを見た僕は。
立ち上がり、首を横に振って言った。

「もう、反魔物領ではありません」

…………

「あぐうっ!」
「いいぞ高遠くん! 私の膣に濃厚な精液が大量に噴出されている!」
「高遠くん、お口がお留守ですよ。先生のおっぱい、赤ちゃんみたいにしっかりおしゃぶりしてください」
「はひいぃ!」

…………

「あっあっ、高遠くん、もう一度先生が教えた通りに言ってください。サンハイ」
「はっはいっ! し、し、静の牝牛まんこ最高だ〜」

…………

「んん……さあ高遠くん、おさらいだ。おはようのあいさつは?」
「おっぱいへのキスですぅ……」
「ペニスが勃起したら?」
「今してるみたいに、竹子さんのおまんこに即挿入です……」
「オナニーは?」
「絶対厳禁。許されざる大罪ですぅ……」

…………

「まだ1人あたり18回か。後10回はいけるな」

……………………………………………………
…………………………………………
……………………
…………

夜半まで続いた“お茶会”が終わり、T市の防衛隊、魔物のデモ隊、双方が解散した。意味を成さなくなったT市防衛隊が解隊するのは当然として、魔物のデモ隊も解散するのは、各々の魔物が伴侶を得たので、これから各自帰って“2次会”に励むためらしい。
僕も含めて、人間はこれだけセックスしたら普通くたくたになると思うのだが、魔物の魔力によるものなのか、意外にみんな元気だった。
魔物と人間のカップルは、魔物側の住処のN町に行く組と、人間の家があるT市に行く組に分かれて、バスに分乗した。(バスの運転手さんも、全員魔物に捕まっていた。)

「……N町に戻る組はいいとして、T市に来る魔物さんは大丈夫ですか? いろいろ反発されると思うんですけど……」
「それなら心配はいらない。T市はついさっき、親魔物領宣言をしたよ」
「え……? どうして……?」

僕は驚いて、竹子さんに尋ねた。確かに僕は先程トンネルの中で、もう反魔物領ではないと言ったが、まさか実際に市が親魔物領宣言をするなんて。

「高遠くん。市長さんも市議会の皆さんも、とっくに親魔物派に鞍替えしていたんですよ」
「だが、君達に魔物の真実を知ってもらってから親魔物領になった方がいいと思ってね。今日まで引っ張っていたんだ」
「そうでしたか……」

道理で、警察や市役所がデモ隊に対応しなかったわけだ。真実を知らないのは僕達だけだった。

…………

翌日、学校は魔物娘受け入れ準備のため臨時休校になった。ふらりと町を散歩してみると、昨日までとは隔世の感どころか別世界のようだった。
昨日までは皆無だった人間と魔物のカップルが、そこら中にいる。今のカップルの男性は、ほとんど防衛隊の元メンバーだろうが、これからそれ以外の男性も増えるに違いない。

実家である九字流の道場に行ってみると、リザードマンやデュラハン、人虎といった魔物達が入門のために列を作っていた。おそらく、昨日トンネルで門弟を捕まえた魔物達だろう。女っ気のなかった道場が、にわかに華やいでいた。

…………

「あっ、あんっ! 高遠くんのおちんぽ気持ちいいですっ!」
「おおっ、高遠くんのペニスが子宮にゴツゴツ当たってるぞ!」

午後、僕は竹子さんのマンションにお邪魔して、“お茶会”を御一緒していた。裸で四つん這いになった竹子さんと静先生を交互に貫き、魔物の大好物である精を注いでいく。
一段落し、2人に抱きかかえられた僕は、両手で2人のおっぱいをいじくりながら言った。

「あの……魔物の真実のことなんですけど……K市の人にも伝えませんか?」
「んっ、K市の人にか?」
「はい……助役の郡堂さんは話の分かる人ですから、きちんとお話しすれば……」
「それは、まだ駄目です。あ、おっぱい気持ちいい……」
「何で、駄目なんですか……?」

思わず手を止めて尋ねると、静先生は言った。

「魔物自治委員会が、K市攻略プロジェクトを、もう発動させているんですよ」
16/07/27 11:10更新 / 水仙鳥
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■作者メッセージ
お待たせしました。後編をお送りします。前編、中編が4000字程度で、後編が17000字というアンバランスはご容赦を。
T市は陥落しましたが、K県壊滅録はまだ終わりではありません。K県のラスボス、郡堂助役の活躍にご期待ください。

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