読切小説
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(株)セクシーカンパニー・エロゲ開発中
東京

新宿区のビル

(株)セクシーカンパニーの本社ビルである

社長室で、向かい合った本皮張りの高級ソファのそれぞれに、男性と女性が座っている

「よし、来てくれたな、レニー」

社長、鈴木

スポーツ刈りの、細身の男性、日本人らしい顔をしている

「なんだよ話って?」

鈴木の幼馴染みであり、副社長、レニー

体は大きく、スポーツジムで鍛えているため、アスリート体型である、スーツが着れない

赤い髪はボッサボサであり、化粧もしていない、身だしなみには気を使わない方である

美形だが、牛耳についているピアスをからかわれるとキレる

「その前に、わが社の業績は知っているな?」

「ん?前年度の決算は黒字で、年商4000億、資本金…」

「そうだ、よく知ってるな」

「上見てみ、私のポスト副社長だから」

「役職はどうあれ、説明がいらないのは助かる、本題に入ろう」

「本題?前置きなかったのに?」

レニーの言葉は無視して、鈴木は、こほん、と咳払いをした

「わが社の現状は黒字だ…この状態を保つのも悪くはないが…ここらで新事業に着手するのも手だ」

「…うーん…金のある内に新しいことを、か」

ふむ、とレニーが顎を押さえる

別段、間違ってはいない、もし失敗しても、フォローは出来る

会社の拡大にも、反対ではない

この男の向上心というか、野心というか、なんだか期待できるのだ

「で、何をやるんだ?」

「エロゲを作る」

「病院へ行こう、脳外科医へ」

レニーが立ち上がったが、鈴木が諌める

「まあまあ、話を聞け、俺だってやぶれかぶれなわけじゃない」

「レストランなどの飲食店を全国にチェーン展開している会社がエロゲ作る時点でやぶれかぶれだよ」

「そうだな、表の顔はそうだ」

「裏の顔なんか作るな」

ブラック企業には気を付けましょう

「そもそも、半年前から、小5の息子が性に目覚めてな、エロゲが欲しいとか言い出したんだ、さすがに買ってやるのは気が引けるから、作ってやろうということだ」

「どうしてそこまで行っちゃうんだ」

「だが、考えてもみてくれ、今や性の商品化…殊に二次元においてはバカにならない商売だ」

「いや、そりゃそうだけど」

そこを大いに否定することは出来ない

アニメ、漫画などの特殊な文化を持つ日本では、性的なゲームやアニメのグッズなど、メインのみならずメディア展開も成功している事例が多い

たしかに、彼の言う通り悪いビジネスではない

(でも、それを副社長とはいえ女に言うか…?)

ミジンコ以下のデリカシーにうんざり

「でも、こっちの本業にマイナスイメージがつかないか?結果として会社が傾いたらシャレにならないぞ」

「安心しろ、その時はエロゲブランドをメインにする」

「安心できるかぁぁぁぁ!」

すっぱこーん、とスリッパではたいた

「…って、エロゲブランド?」

「そうだ、まさかレストラン親会社の名前で発表するとでも思ったか」

「そ、そうか、子会社を設立するんだな」

それならうやむやに出来るかもしれない

「もうブランド名も決定している、セクシーカンパニー(株)だ」

「そんな丸見えな仮面見たことねーよ!」

「ん?よく見ろ、前株と後株が違うだろ」

「だから何だ!」

ポケモンのナンバリングタイトルくらいの違いだ

「隠しきれてねーよ!隠す気がないと思えるくらいに!」

「ん、よくわかったな、記念すべき第一作は露出調教ものだ」

「すごい、話が絶妙に噛み合ってない」

というか、もう第一作の構成は出来ているのか

「ちなみに、もうパワポで企画主旨からイベントシーンの説明まで出来る」

「頼むからおまえ個人でやってくんないかな?」

「無理だ、おまえがツッコミを入れてくれないと話が進まない」

「私のツッコミありきの企画説明なの?」

なんでそんな不確かな他力本願なんだ

そして、プロジェクターのスイッチをオン、パソコンのパワポが表示された

一枚目のスライドはタイトル名らしい

『ポテトチップシンドローム』

「…エロ…ゲ…?…露出…調…教…?」

これ何の企画説明だっけ、と頭を抱える

「まず、この名が体を表すタイトルだが…」

「何が表せてる?じゃがいもしか表せてねーよ」

「最後まで聞けって、まずコンセプトはさっき言った通り露出調教だな」

「露出調教とポテトチップのどこが関連してる?」

「全裸なとこかな」

「言い切った…」

この迷いの無さで飲食店の方は大成功だったのだが

と、次のスライドへ移った

すると、三人の美少女のイラストが

「ん?なんだこれ?」

「知らないのか、○ガ○氏だ」

「…?知らないけど、まさかもう依頼してあったのか?キャラクターデザイン」

「四ヶ月前にな」

「おまえの中で着実に計画は進行してたんだな」

「そうだな、レニーが最初の見届け人だな」

「そこまで巻き込まないでくれるか」

さりげなく最後まで付き合えよ、と言われた

「さて、この三人だが、ヒロインというか被害者だ、左からアキ、ミユ、セイコだ」

「ああ…なるほど、露出のな」

「いや、痴漢のだ」

「どっちだよ!露出調教じゃなかったのかよ!女の子の弱味握って云々だろ!」

「だから、弱味を痴漢の際に見つけるんだよ」

「ぬ、ぬう…」

それは違和感はない

「痴漢した時、ヒロインのケータイや定期入れに恥ずかしい秘密があって、バラされたくなかったら付き合ってもらおうか、という流れだ」

ぐぬう、とレニーが顎を引く

筋は通るし、意外とまともだ

さすが四ヶ月前…いや、あるいはもっとか、以前から計画していただけはある

「ちなみに、この時の三択でヒロインが誰か決定する」

「うん、どんなのだ?」

次のスライドにあるらしく、鈴木がパソコンを操作する



『少女のポケットからポテトチップを掠め取る』

『少女の定期入れからポテトチップを掠め取る』

『少女の携帯電話からポテトチップを掠め取る』



「ここかー!ポテトチップシンドロームここかー!」

まさかのポテトチップ中毒少女だった

「しかも剥き身だ」

「誰だ!剥き身のポテトチップを携帯電話にしまうバカは!」

「セイコだな」

「あっ、いや、ごめん、剥き身のポテトチップだったら全員バカだ」

そんな少女は嫌だ

「まあ、それがきっかけでゲームは始まる」

「主人公も、よくもまあ、そんな女をどうにかしてくれよう、って思えたな」

自分だったら猛烈に距離を置きたい人種だ

と、次のスライドへ移った

「ゲームの進行はターン制だ、一週間に1コマンドを選択し、その内容のイベントが展開される」

上記の説明がスクリーンショット付きでわかりやすく表記されている

「エンディングは三ヶ月後、ヒロイン毎に異なるコマンドの相性や、イベント中の選択肢によってエンディングは変わる、まあ俗に言うマルチエンディングだな」

「なるほどな、よく考えてるじゃないか」

かなり本格的なアドベンチャーゲームだ

しかも、スクリーンショットを見る限り、アクションやシューティングのミニゲームもあるらしい

成人向けゲームのクオリティにしては、相当てんこもりだ

これはひょっとして売れるんじゃないか?とレニーの中ではビジネス的にも好感触だ

「ありがとう、では次にイベントシーンをいくつか見せよう」

ここだ

立ち絵ではない、エロゲのメインであるイベントCG

これが最終的に評価を二分すると言っても過言ではない

「まずは最初、セイコとの本番シーンだ」

「そうか、まだ調教は始まってないもんな」

そして、パッと次のスライド

「おっ、…お、おぉ…」

一瞬目を背けた

あまりに直接的で、しっかりエロい

バックで挿入していて、ヒロインのセイコをやや斜め前から見たアングルだ

さすがエロゲを称するだけはある

「…ちょっと待った」

何かに気づいた

「ポテトチップくわえてるぞ!?」

はむっ、と二枚くわえている

「そうだな、ポテトチップシンドロームだしな」

「本番中にポテトチップくわえてなきゃならんほど中毒なのか…」

「職業病みたいなもんだな」

「おまえ職業病の意味知ってるか?」

ツッコミでイベントCGのインパクトがどっか行った

「ん、おまえ、ポテトチップのせいでドッチラケになっていると思っているな」

「まあな」

返事も素っ気ない

「なめるなよ、このCGは…動く!」

「なっ…、アニメーション搭載!?」

CG差分ではなく、アニメーションが最初とは、ちょっとずれているが

「あぁ、見てみろ、クリック」

動いた

ポテトチップが

「それかよぉぉぉぉ!なんでポテトチップが動くんだよ!」

「新鮮だろ?」

「いくら新鮮でも動くわけねーだろ!」

「いや、新鮮だろ?」

「あっ、………新鮮すぎるだろ!」

新鮮=フレッシュ×、斬新○

「タイトルとのつじつまが一ヶ所だけで、しかも動かないとか詐欺だろう」

「おまえ…努力の方向が斜め上だよ…」

「真っ直ぐ言ったって他のタイトルに埋もれてしまうだろ?一風変わった作品でなければ売れん」

「ああ…そうだな…ポテトチップ我慢出来ればいい作品だよな…」

なんか否定するのもめんどくさい

「で、この行為もまた弱味になって、どんどん露出調教のるつぼにはまっていくことになる」

「あ、あぁ…そうなんだ…」

そういえば露出調教だったんだっけ、と思い出す

「まあ、露出調教もそうだが、単なる調教というのもかなりマニアックでな」

「うん」

「条件を満たせば、なんとヒロインと動物を交尾させられる」

「…何がマニアックなんだ?」

この世界では、それは普通だ

雄雌の違いはあれど、たいていデフォルトなはずだが

「俺の世代にはマニアックなんだ」

「そういうもんか?」

「そういうもんだ」

まあ、そう理解しておく

「それで、まずは馬とのシーンだな」

「ケンタウロスに失礼だぞ」

ケンタウロスを『馬』と呼ぶとキレられる

ただ、ちょっと勘違いしてるレニー

「馬だよ」

「……あ、上半身が気持ち悪いやつか」

「馬に失礼だぞ」

馬にはちょっとわからないかもしれないが

「つったって、馬となんて、人間と変わらないじゃないか」

「いやいや、差異をつけるためのあえぎ声も何パターンかあるぞ」

「へえ」

「いくつか聞いてみよう」

ふと、クリックしようとした鈴木の手を止める

「ち、ちょっと待って、さすがにそれは…」

女性としては引いてしまう

「まあまあ、聞くだけだ」

と、ぱち、と押してしまった



『ぶひひーん』

『ひひーん』

『ぶしゅるるるっ』




腹の底から響くような

とても人間には発声できないような声…

「馬のほうかよ!」

「まだ声優さんには頼んでない」

「ってことは、まさか…この鳴き声も入れるのか…」

「臨場感が湧くな」

「ドキドキするな!」

胸が高鳴る

………その後も、ヒロイン別の同じパターンを見せられた

馬にポテトチップ食わすな!というのが一番こだわったツッコミだった

「…さて」

と、鈴木が居住まいを正した

「…ん、なんだよ改まって」

急に雰囲気が変わったので、警戒する

「以上で説明は終わりだが…どうだった?」

「…どう、って…マジでやるのか、って感じ…」

「やる」

「…そうか…、…頑張れよ、面会には行くから」

「おまえ、通報する気か」

「さすがに…会社のためにならないから…」

「何故だ、俺としては、ニーズに合わせてちゃんとやったつもりだ、一人でも、かなり力を入れた…いったい何が…おまえの首を縦に振るのを妨げる?」

「うーん、私はショタ専だしな…」

「…え」

「…ん?どうかしたか?」

「おまえが…我が家に一泊したことがあったな」

「あったな」

「…その日からだったんだが…もしかして、息子が性に目覚めたのって…」

「…………」

「…………」

二人は同時に携帯電話を取りだし、110番をプッシュした


(おしまい)
(フルジフォンの次回ギャグ作品をおたのしみに)
13/10/06 02:24更新 / フルジフォン

■作者メッセージ
台詞ばっかりですいませんwww

それに、魔物娘である必要ありませんでしたが、ここでしか出来ない危ないギャグをやりたかったんです

ちなみに、何故ミノタウロスだったかと言うと、ツッコミに力強さと勢いがあって違和感無いキャラクターが良かったので、ゴツそうな魔物娘にしました

ポテトチップシンドロームって何だよ、マジで、と、書いていてずっと思ってました

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