連載小説
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転校初日@
おかしいだろ…!

声に出したい衝動を必死で抑える。

今は朝のホームルーム。
とは言えその雰囲気はいつもとは大きく異なっている。

自分のツッコミたい衝動とホームルームの異常な雰囲気、二つの原因であるはずの転校生は、涼しく微笑んでいる。

『…以上です。これから宜しくお願いしますね』

自己紹介を終え、一礼して顔を上げた彼女は、自分を除くクラス全員からの盛大な拍手に包まれた。

…確かに、その容姿は拍手に値する。
どの角度から見ても美しく、一度見れば忘れることが決してないであろうほど整った顔立ち。
…やけに耳が尖っている気はするが。
そして、とても高校生とは思えないほど妖艶な肉体は、均整が取れていながらパーツの一つ一つが凶暴な破壊力を振りまいている。
…そんな体から生えた尻尾がフリフリ動く。
そう、尻尾である。
先端がハート形の黒く細長いそれは彼女の腰の辺りから生えていた。
それだけではない。百歩譲って白い髪と真紅の眼はコスプレだとして、頭から伸びた光沢のある立派な角。明らかに異常を示す二つの存在に、クラスメートは、ツッコむどころか誰も気に留めていない様子だ。

何だこれは…ひょっとしてドッキリか!?

周りを見回すが自分が観察されている様子はない。皆、コスプレ転校生に釘付けとなりなおも手を叩き続けている。

ナゼだ…どうして皆スルーなんだ!?

何度目とも知れない嘆きに頭を抱える。先生さえも気に掛けた様子はなく、「仲良くするように」などと呼びかけている。

そうだ…ただのちょっとしたコスプレじゃないか…問題なんか無いんだ…

柔軟性の高すぎるクラスメートを見習おうと違和感を押さえつけ、改めて転校生に目を向ける。

不意に紅い目とこの短時間で疲れ切った目があった。

数秒間こちらを見つめ続けていたかと思うと、紅い目をした少女は口を開いてこう言った。

『先生…彼、どうにも体調が優れないようです。保健室に連れて行ってあげてもよろしいでしょうか?』

『え…だが、もう授業が』

『よろしいでしょうか?』

有無を言わせぬ強引さで了解を得ると、転校生は自分の手を取り立ち上がらせた。
大半の困惑の視線と、一部の嫉妬羨望の眼差しを受けて、自分はなされるがままに教室を出た。



廊下を折れ曲がり、保健室前へと続く階段を降りる。

掴まれた手は未だ繋がれたままだ。

転校初日でありながら、保健室までの道順に間違いはなく、どことなく嬉しそうな足取りをしている。

…尻尾超揺れてるし。


保健室に来ると、転校生は躊躇いなくそのドアを開けて中に入った。手は繋がれたままなので、つられて自分も中に入る。

中を見渡すと人の気配はなく、空の椅子が目に入った。

『保健の先生ならいないわよ』

ガチャリ、と後ろ手でドアの鍵を閉めると同時に転校生は自分の思考を読んだみたいなことを言い出した。

…改めて状況確認。

…突如現れたコスプレ転校生。
…何故か連れ去られた自分。
…そして連れて来られた密室無人の保健室。

さようなら、平穏な学園生活。
16/03/19 08:03更新 / 島眠
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■作者メッセージ
さて、ここで問題。
主人公とヒロインの名前は何でしょう?
そうです、考えてませんでした。

2016/3/15追記
キャラクターの名前を募集したわけではありません。
誤解を生む表現をしてしまい、申し訳ありませんでした。
ドリルモールさんに名前をいただける運びとなりましたので、名前の件はそれで終わりにしようと思います。

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