海の彼方へと沈む夕日を望む砂浜。押しては返す波が一定のリズムを刻んでいた。
　辺りに音を発する物は、波と海岸線の並木の木の葉たちだけ。風は無く、海は凪いでいて辺りは静かだった。

　その砂浜に足跡を残す二人の人影。
　一人は茶髪の男のようだ。ズボンのポケットに左手の親指を引っかけて、もう一人の人影の少し後について歩いていた。
　そのもう一人は長い髪の女。ウェーブのかかったブロンドの髪が柔く吹いたそよ風に靡いた。右手に靴を揃えて持って、長いスカートを少し持ち上げたまま目を俯けてゆっくり歩いていた。

「ねぇ…サヴァ」

「ん？なんだ、イリア」

「海…綺麗ね」

「そうだな。綺麗だ…」
　イリアは立ち止まって海を見つめた。
「イリアは…海みたいだな」

「海？…私が？」

「ああ。
　イリアは…この海みたいに綺麗で、この海みたいに澄んでる。それに僕を優しく包み込んでくれる…」

「ふふ、ありがと。
　…そろそろ帰ろっか」

「そうだな」

　二人は砂浜から道へ戻り、イリアは道脇の草原の上で靴を履いた。二人が町へ帰っていき、やがて日は暮れた。



　その日は雨上がりで天気の良い日だった。しかし、まだ道は若干の湿り気を帯びていた。
　イリアは海岸沿いの道を歩いていた。別の町へ用事に行った帰りで、手荷物は無かった。いつものようにそよ風が道を横切っていき、彼女の髪が靡いた。

　道の左手は砂浜から崖に変わり、このまま歩いていけばやがてまた砂浜に変わる。
　崖と行ってもそれほど高いわけでもないが、決して低いわけではなかった。落ちてしまえば這い上がるのは限りなく不可能に近かった。

　イリアはふと海を見た。目線は少し遠くに向けられていて、そこにあるのは紺碧の海だった。
　この海はとても水が透き通っていて、水深が人の丈の二、三倍かもう少し深いところでも海底は肉眼で確認できる。珊瑚が生え、魚たちが多く住む良い海域だ。
　だが深くなれば当然海底は見えず、その水色に透き通った水は紺碧へと変わっている。イリアはその紺碧の海に吸い寄せられるようにその崖へ、崖へと向かっていた。

「っ…きゃっ―！」
　気付いた時にはイリアの足下は崩れていた。イリアの身体はあっと言う間に水の中へ、深淵へと落ちていった。
　別に生きるのが嫌になっていた訳じゃない、悩み事も人並み程度の物しかない、愛する男性もいる。
　イリアはただ海に誘われてしまったのだ。

「ごぼっ…たすっ―がぼっ…ごぽっかぽっ………」
　服がどんどんと水を吸い、身体がどんどん沈んでいく。
（やだ…死ぬの？
　私死んじゃうの…？………だめ、苦しい。サヴァぁ………）

　彼女の意識はだんだんと遠くなっていった。苦しみも薄れてきてしまって、頭の中にはサヴァの顔が浮かんでいた。しかしそれもぼやけていった。

（っ！）
　そのとき彼女の意識が一気に覚醒する出来事が起きた。
　彼女の身体に突如刺激が駆けめぐった。そしてその刺激は紛れもない性的快感。
（な、何で？あンッ…何…何かが体中から…入ってくる…？！）
　身体全体から何かが徐々に染み込むような感覚。その全てが快感になった。しかし最も強い快感はやはり秘部から感じている。
　イリアを快感が襲い、身体は水中で藻掻きくねっていた。

　いつの間にか苦しみも恐怖も消え失せ、残ったのはこの事態への驚き、そして快楽への困惑だった。
　体中が性感帯へなったようだった。身体は仰け反り、乳首は固く立って、愛液があふれ出している。
　海中で一転も二転もし、彼女は快感の波に襲われ続け、悶え続けた。

　いつからか自らもその秘部や胸に手をやり、胸を揉みほぐし、秘部を指でいじくり続けて、快感によって頭の中の奥に押しやられたしがらみや多くの抑圧、悩みが消えていった。残っているのは快楽に対する『もっと欲しい』という欲求と幸福感だけ。

　やがて彼女は快感に悶える中で服を脱ぎ捨てて、完全な裸体へなっていた。重くなっていた服という抑圧さえも脱ぎ捨て、全てに於いて素へとなった。
　服を脱いだことによって解放感も生まれ、彼女は一層感じるようになった。
（あアッ…こんなのぉ…アッ…ンッ…もう…イッちゃうッ、イクぅぅッ！）
「ああぁぁァンッ―！」

　イリアの身体は絶頂に達し、快感が身体を駆けめぐって痙攣した。すると彼女の身体の外見にも変化がおとずれた。
　肌と髪は徐々に青みを帯び、耳は尖り、頭には四本の角のような物が生え、足は片方ずつ鰭のように変わり、やがては尾鰭までもが出現した。蒼い肌は一部が鱗に覆われ、模様も入り、それは完全に人ではなかった。

　変化したのは何も身体表面だけではない。いつの間にか水の中で呼吸が出来ている上に、水のせいでぼやけていた視界もはっきりとしてきた。
　何より彼女はこの解放感と幸福感に包まれていた。
（ああ…なんて気持ちイイ…悩みも何もかも全部嫌なことが無くなったみたい…）

　その時、サヴァの顔が頭に浮かび、イリアは今まで悶えながら沈んできた海中をしなやかな泳ぎで海面へと浮上した。
「サヴァ…」
　彼女はそう言って再び海中へ潜った。



　コンコンッ、コンコンッ
「サヴァ、居る？」

「…ん」
　サヴァは家のソファーで寝ていた。仕事から帰ってきてそのまま眠ってしまっていたのだ。
　窓の外を見ればもう夜になっていて暗く、フクロウの声がどこからか聞こえてきた。
　サヴァはソファーから起きあがってドアに向かう。
「イリア？」

「ええ、そうよ」

「どうしたの、こんな時間に。
　…鍵は開けたから入って来なよ」
　サヴァはそう言って振り返り、机の上に置いてあったコップを持ち水道へ向かった。
　ドアがゆっくりと開き、イリアが家の中が入って来たのを背中に感じたサヴァは手に持った水を飲みながら振り返った。

　イリアは茶色い布を纏っていた。
「どうしたんだ、そんな格好で…」

「ねぇサヴァ…私ね、海になったのよ…」

「え…どういう事、それ？」　

「それはね…」
　イリアの髪の毛は毛先から青く変わっていき、肌も羽織っている茶色の布の中の方から青く変わっていった。
　サヴァは信じられないという様子でソファーの上に崩れる様に腰をかけた。
「嘘だ…イリア…どうして君が魔物に…？」

「そう、魔物になったの…けど、悲しくなんか無い」

「え？」

「とても解放感があるの………とっても幸せなのよ」

「何で…」

「サヴァ、魔物だろうが人だろうがもうどうでも良いのよ、そんなこと」
　イリアは纏っていた布を足下へ落とした。豊満な胸が姿を現し、秘部は全く隠されていない。

「あ…」
　一糸まとわぬ身体はサヴァを魅了し誘惑した。イリアは確かに人の時も綺麗な身体をしていた、だが魔物になった今はそれ以上に魅惑的になっていた。
「ねぇサヴァ…」

　イリアは座り込んでいるサヴァに近寄って、その両足に跨るように向かい合って座った。
「イ、イリア…？」

「分けてあげる…」

「…何を…？」

「…快感♪」
　イリアは魔物になって大胆で積極的になっていた。まずサヴァの手を握り、その手を豊満な胸に自ら押し当てた。
「あっ…ちょっ」

「んふふ…」
　次にサヴァのズボンの上から股間を撫で、指でなぞった。
「うあっ…イリア…！」
　やがて勃起したのを確認すると、それをズボンから取り出し露わにして己の秘部と彼の下腹部で挟み、イリアが腰を前後に動かした。
「うっ…」

「あッ…♪
　サヴァの…おっきい」

「イリア…んっ」
　イリアは首に手を回し、サヴァの唇を奪った。
（なんどもキスしたのに…今のは何か違う…）
　そう思いながらサヴァは無意識のうちにイリアの胸を両手で揉みほぐしていた。
「ンッ…ンフゥ…んンッ…」
　イリアもキスしながら声を漏らして感じていた。そして不意に唇を離したかと思うと素股していたサヴァの男根を手で掴み、自分の秘部の穴へ挿入し始めた。
「あぁンッ―」

「うっ…きつッ」
　人の時にも二人は幾度か交わっていたが、その時よりもイリアの『締まり』がキツくなっていたのサヴァは感じた。そしてそこから送られる快感は堪らないものだった。
　イリアは腰を上下させた。とうとう自分が我慢できなくなっていた。
「あンッ、あッ、やンッ、ンあッ―」

「…うあっ…うっ…ぐっ―」

「ねぇ…気持ちいいでしょ…？」

「すごい…！こんなの…」

　ソファーが軋む。イリアの秘部がサヴァの男根に吸い付き、膣壁が刺激し快感を更にかき立てる。イリアは激しく腰を下ろし、男根が彼女を突き上げた。

「イリアッ…イキそうだッ！」

「私もッ…イクぅぅッ、ああぁぁぁンッ―！」

「うあぁッ―！」
　二人は絶頂に達し、サヴァの男根が激しく脈打ち、イリアの身体が痙攣した。二人はとてもとても大きな快楽を得ていた。
　サヴァはまるで海に浮かんで揺られているかのように、快感に満たされながらも晴れやかだった。


　やがてイリアは立ち上がると、サヴァの手を引いて立ち上がらせた。そして抱きしめて熱いキスをし、また手を引いて共に家と町を出ていった。

　夜の浜辺に人影が二人。そこに海の中から別の人影が現れた。
　シー・ビショップ。二人は彼女に儀式を執り行って貰い、その間中激しく交わり続けた。
　人前だとしても、全てのしがらみの無くなった二人には関係のないことだった。思うがままに、求めるがままに交わった。
　儀式は無事終わった。
「…素敵でした…羨ましい」
　シー・ビショップはそう言って頬を赤く染めると海へ帰って行った。
　二人は向かい合うとキスをして幸せそうに笑い、二人も静かに海へ消えていった。


　今日もサヴァはイリアという海に抱かれ、海底で激しく交わっている。

■作者メッセージ
連載の間の息抜きで書いてみました。

今回は自分では初となる『女→男』のいわゆる逆レイプ物に挑戦してみました。

いかがな物か分かりませんが、おもしろく読んで頂けたら幸いです。