読切小説
[TOP]
ラミアさんに捕まって夫にされるまで
「なっ…!?魔物共め…!」

吐き捨てながら、剣に手を掛ける。

山岳付近、森林の街道。
予想外の出来事だった。
野営地が騒がしい事に気づき、見回りから帰還した俺達が野営地で目にしたものは、仲間達に襲いかかる魔物の群れ。
魔物の数はおよそ20。種族はまばらで、討伐隊の人数と大差ない数だ。
こちらの隊長の姿は見えず…討伐隊に指揮が行き届いている様子は無い。
連携を断たれ、一人、また一人と魔物に捕らえられていく。
おまけに、魔法の使える相手が混じっているのか、どこからか艶の有る赤色をした球体が飛んできて、討伐隊の中でも手練れだったはずの剣士に襲いかかっていた。
機敏な動きで横に跳び、剣士は球体をかわしたと思いきや、球体はその軌道を直角に変え、剣士に直撃する。
小さな閃光が炸裂し、剣士はばたりとその場に倒れこむ。
加勢に駆けつけるため、脚を動かそうと思ったその時には、既に討伐隊の半数が魔物に捕らえられていた。

「逃げるぜ、あの数相手じゃ勝ち目は無い。そもそも僕達はこれが初陣だって事、分かっているだろう?」

剣にかけた手が掴まれ、野営地とは反対の方向に引っ張られる。

濃いブラウンの髪に、何処か頼りない顔立ち。
だが、この状況でも冷静さを失っていない様子で俺を制止したのは、一緒に見回りをしていた、親友アルフレッドだ。

「くそっ……!」

魔物共に斬りかかりたい思いを抑え込み、剣から手を離し、踵を返す。

アルフレッドの言うように、剣を抜き、奴等に立ち向かっても、勝てる見込みは無いに等しい。
魔物との戦いは、数的有利を確保した上で、味方と連携しつつ行う物だからだ。
魔法を使う相手が居るなら、尚更になる。
多対一に持ち込めず、連携も期待出来ない以上、ただ、無駄に犠牲者を増やすだけの行いにしかならない。

逃亡が最良の選択。
そう自分に言い聞かせて、駆け出す。

「あらあら、折角のいい男…逃がしたりなんかしないわよ?」

駆け出すやいなや、後方から聞こえる、女の声。
脚を動かしながら顔を後ろに向ければ、半人半蛇の魔物、ラミアが地を這いこちらに向かってきている。
その速度は速く、並の人間の脚力しか持たない俺達では、じきに追いつかれてしまうだろう。

「アルフレッド、追ってきたぞ!」

「君が大声を出すから…仕方ない、二手に分かれようか」

落ち着いて言い放つアルフレッド。

確かに、二手に別れれば、どちらかはあのラミアから逃れられるだろう。
どちらを追うか迷ってくれれば、その間に双方が逃れられる可能性もある。
二人掛かりでも、魔物に勝てるか怪しい現状において、合理的な提案のはずだ。
少なくとも、二人で一緒に逃げるよりはマシになる。

「お前が狙われても怨むなよ…!」

そう言って、右に進路を変える。
全力で地を蹴り、樹々の間を突っ切って行く。

「君こそ。それじゃ、また会おうぜ」

何処か余裕を持った口調でアルフレッドは応え、左に進路を変える。




さて、どちらを追うか迷ってくれよ、
片方が犠牲になるつもりで分かれて逃げたわけではないんだ…!

そう願いつつ、息苦しさを抑え込み、懸命に脚を動かす。
稼がれた時間の中で、とにかく、全力で走る。

「あら、気を利かせて二人っきりにしてくれるなんて、良いお友達ね」

だが、目論見は崩れ去る。
どうやら、最初からラミアは俺を狙っていたらしく、迷う素振りすら見せずにこちらへと向かって来た。
あと十秒もあれば俺に追いつくだろう。

「(っ…………くそっ……!)」

このまま走っても追いつかれるのは明白、むしろ、息切れするまで追い回されて、体力が尽きた所を狙われるだけだ。

「さて…右に逃げる?左に逃げる?それとも、私の胸に飛び込んで来る?」

思考の間にも、余裕に満ちた声は近づいて来ている。

下策だが…戦うしか無い、か…

覚悟を決め、速度をゆっくりと落とし、気づかれないように、剣の握りに手を近づける。
息切れしたかのように、体勢を崩し、呼吸を荒げる。
無様で哀れな逃走者、そう見えるように。

正攻法で勝ち目は無い…なら、不意討ちを狙う。

「あら、以外とバテるのが早かったわね」

俺が速度を緩めたのを見てか、悠長な言葉が後ろから聞こえる。

騙されてくれたか?後は…

「っ…はぁっ…はぁっ…」

近づいて来るラミアに神経を集中し、一瞬の隙を狙う。
振り向きながら剣を抜き、素早く突き刺す…そのビジョンを頭に浮かべる。

「ふふふ…捕まえちゃうわよ…」

余裕綽々な声が背後から聞こえる。
蛇体の這う音も、すぐそこだ。

「……!」

握りを掴み、身体を反転させながら視界にラミアを捉えつつ、剣を抜く。
そして、即座に身体を前に倒し、踏み込み、心臓を狙い、渾身の力で突きを繰り出す!

「きゃっ…!」

手を交差させ、咄嗟に身を守ろうとするラミア。

無理矢理な、技巧も何も無い一撃であったが、それは確実に不意をついた。

しかし、剣の切っ先が喉に迫る直前。

「っ…!?」

何かが剣の側面を強打し、剣を吹き飛ばし、俺の両手を痺れさせる。

それが咄嗟に振るわれた尻尾だと気づいた時には、既にラミアは懐に潜り込んでいた。

「捕まえた…!もう、不意討ちなんて酷いじゃない」

咄嗟に身を引こうとするが、剣を弾かれて体勢が崩れた状態ではそれも適わず、あっという間に蛇体に絡みつかれ、四肢の自由を奪われてしまう。

「は、離せっ…!」

もがこうとも、絡みついた蛇体はビクともせず、闇雲に体力を消費するだけだった。

「ほら、暴れないの…」

身動きの取れない俺の背後に回ったラミアは腕を回し、頭を抱き込み、拘束してきた。
後頭部が柔らかい物に押し付けられ、包まれる。

「くっ…」

腕も、脚も、蛇体に確実に捕らえられている。
ギリギリと締め付けられているわけではなく、苦しくも無いが、俺が力を込めれば即座に応じて、それを押し留める。
そして、頭を固定されているせいで、頭突きすら出来ない。
せいぜい動かせるのは指先ぐらいのものだが、蛇体に爪を立てようとも、鱗に阻まれるだろう。
もがく意味が無い事を悟り、一度力を抜く。

「……」

そして、息を吸う。
息切れ気味だった身体が落ち着いていく。

魔物に人がさらわれたという話を聞くだけで、攫われた後どうなったか…それを実際に見たという話は聞いた事が無い。
討伐隊の面々の話を聞くに、今まで、魔物に人が殺される所を見た事も無いらしい。
労働力にされているというのが概ね纏まった意見だが…そもそも魔物達の身体能力なら人間を捕まえる手間よりも、普通に労働した方が効率が良いという説も有る。

つまり、捕まえられた俺がこの後どうされるかは分からない、が…
殺しには来ていない、猶予はある。これで良いはずだ。
まずは相手の目的を聞き出そう。

「ん、良い子、良い子…さ、一緒に私の家に行きましょう?」

俺が力を抜いたのを察して、ラミアは拘束を緩める。
そして、包むように俺に巻きついたまま、俺の頭を撫でてきた。
後頭部には柔らかい乳房が押し付けられ、その形を変えている。
巻きつかれた上で、背後から胸に抱かれているらしい。
落ち着いた上で息を吸うと、他の匂いに例え難い、甘くいい匂いを感じる。
やけに上機嫌なその声は、無邪気で、悪意、敵意を伺わせない。
実際に相対するのはこれが初めてだが、思っていたのとは違う印象を受ける。

「…俺をどうするつもりだ」

それらに緩みそうになる警戒心を引き締め、質問を口にする。
理由はともあれ、魔物が人間を攫うのは事実なんだ。
それは決して真っ当な行いじゃないし、放っておけないし許し難い。

「ふふふ…ヒ・ミ・ツ…。家についたら教えてあげるわね。私はリディ。貴方の名前は?」

耳元で囁かれたのは、質問返し。
艶の有る低めの声が、背筋を擽る。

「………オスカーだ」

目的を隠す事に不審感は覚えるが、だからと言って、この状況でそれを追求してもどうにもならないだろう。
相手には、"実力行使"という絶対的な手段が用意されている。
今はそのような素振りを見せてはいないが、その気になれば俺を絞め殺す事すら出来る。
勿論、俺を家まで引き摺って行く事も、だ。

それらを弁え、大人しく質問に答える。

「オスカーね、素敵な名前…ほら、歩いて。あっちよ、あっち」

再び頭を撫でられるのと同時に、巻きついていた蛇体が解かれる。
しかし、今度は細い腕が背後から腹辺りの高さに回され、その華奢さに見合わない強さで俺を腕ごと拘束するように抱き締める。
俺が振り解こうとしないのを確認すると、拘束は緩まるが、いつ暴れようとしても即座に抑え込まれるだろう。


「………」

背後から抱きつかれ拘束されたまま、自由になった脚を動かし、指示される方に進む。
先程まで後頭部に当てられていた胸は、今度は背中に当てられていて、ラミアが身じろぎする度に、むにゅむにゅと形を変えている。
拘束される体勢からして仕方ないのだが、どうにも、意図的に胸を当てているようにも思えてならない、が…
魔物に欲情する程、俺は堕ちていない。
それに、誰彼構わず身体を押し付けるような女は御免だ。

「ん…イイ匂い…」

首筋に人肌が触れ、吐息が吹きかけられる。
恐らくは首筋に顔を埋められているのだろう。

「っ…やめろ」

羞恥心に身を捩るが、即座に腕に捕らえられる。

いくら魔物が相手とは言え、身体の匂いを嗅がれて恥ずかしくないわけがない。
それに、見張りから野営地に駆けつける時に走り、逃げる時に走り、今の俺は汗だくなので、尚更だ。
その上で良い匂いなどと言われても、どうすればいいんだ…

「恥ずかしがり屋さんなのね…凄く好みよ、ふふふっ…。
そうね、恥ずかしいのが嫌ならもっと速く歩きましょう?」

首筋を柔らかく濡れた細い物が滑る。
ぞくりと、反射的に身体が震えてしまう。
軽く触れる程度だったが、舌で舐められたのだ。

「…っ」

からかわれている。弄ばれている。
恐らくきっと、面白い反応を返すオモチャみたいな物だと思われているんだろう。
胸を押し当ててくるのも、匂いを嗅ぐのも、背筋を舐めるのも、そう言う事だ。

だが、此処で逆らったり、余計な反応をすれば、さらに奴の行動はエスカレートするだろうし、奴を楽しませる事になる。
それは凄く癪だ。
大人しく従うのも情けない話で有るが、これが最善だと言い聞かせて、歩幅を広げ、早足に歩く。

「ふふ…良い子、良い子」

結局、ラミアは上機嫌に俺を抱いている。
やはり癪でならないが、どうする事も出来なかった。




「ふふふ…此処がこれから私達の住む所よ、オスカー…」

幾刻か森の中を歩かされた末、連れて来られたのは、ラミア達が暮らす集落と思われる場所。
正確な位置は分からないが山の麓にあり、小さな湖が隣接している。

ラミア達が何やら取引をしていたり、狩りの用意をしていたり。小さな広場で談笑している様子も見られる。

「それで、あれが私達の…私とオスカーの家。
ふふふっ…二人の家よ」

そして、此処まで来たら必要が無いと考えたらしく、後ろから拘束するのをやめ、横から身を寄せて来て、建物のうちの一つを指差す。
木造のしっかりした…少なくとも俺が住んでいた家よりはよほど良い造りの家だ。


「…ペットにでもする気か?」

どうやら、このラミアというのは、中々余裕のある暮らしをしているらしい。
そして二人の家 などと言うのだから、恐らくはあの家に住まされる事になるのだろうが…
生活に困ってもなさそうであるし、娯楽の一環として俺を連れてきたのだろう。
わざわざ傷をつけずに連れて来られた辺り、広い意味で「愛玩動物」にされる、というのが有り得る線だ。
もっとも、魔物のペットなど、屈辱以外の何物でも無いが。

「…不正解。なんでそうなるのかしら…もっと素敵な物よ」

心外だ、と言いたげな声が耳元に帰ってくる。

「…召使か何かか」

ペットじゃないなら、その辺りが妥当だろう。
召使いとは言ったが、実質魔物の奴隷など、勿論御免だ。

「…意地悪で言ってるの?」

少し呆れたような声。
僅かに拗ねたような含みが有るような気がしたが…きっと演技だろう。

「ああもう、じゃあ、なんなんだ」

さっさと本当の事を言ってくれ、と願いつつ、無愛想に返す。
くっつかれているのも不愉快なので、すっと横に一歩動いて、身体を離す。

「ふふ…貴方と素敵な夫婦生活を送るため、よ…オスカー」

離した距離はすぐに詰められ、再び、右腕に柔らかい物が押し当てられる。
その感触に距離を取り直そうとした時には、既に腕が回されていて、逃げられなくなっていた。
そして、右耳に唇が近づいてきて、触れるか触れないかの位置で、言葉が紡がれる。
先ほどまでとは質の違う、甘ったるく、ねっとりと絡みつくような声。
それは熱を持って耳から頭の中に入り込んできて、くらくらと陶酔しそうな感覚と共に、反響を繰り返す。

「…っ…ふざけているのか、魔物と夫婦だと?」

心地良い。もっと聞いていたい。
そんな情念が湧き上がり、一瞬、身体の力が抜けるが、すぐに振り払う。
気がつけば、心臓の脈動は驚くほど早くなっている。

今のはまずかった…誘惑の魔法か何かだったのだろう。
一瞬、納得しそうになった。身を任せそうになった。魔物と夫婦になる、などという妄言に。
無警戒な時にこれを聞いていたら、間違いなく魅了されていただろう。


「むぅ…ふざけてなんかいないわよ…ほら、その辺りに仲睦まじい夫婦が居るでしょう?」

さっきの様子とは打って変わり、わざとらしくむくれてみせているのが、視界の隅で分かる。
声にも、くらつくような甘い響きは無い。
だが、胸が当たっているのが、伝わる体温が、柔らかさがやけに気になり、気恥ずかしい。
「女」として見てしまっている。
認めたくは無いが、事実だった。

「…何処にも居ないが」

ラミアから気を逸らすためにも辺りを見回してみる。
見た所、俺の他に人間は見当たらない。夫婦など、影も形もない。

やはり、嘘だったか。

「あら…皆、家の中みたい。
仕方無いわね、私も二人っきりの方が好きだもの。
さて、ただいま…良い家でしょう?」

慌ても悪びれもせず、平然と言ってのける。
夫にするために俺を連れてきたと言い張るつもりらしい。
そして、歩いているうちに、家の扉は目の前まで近づいていた。
ラミアは扉を開けて、今度は腕に抱きついて来て、俺を家の中に引き込み、尻尾で扉を閉める。

「よくもまあ…次から次へと」

腕に当てられている胸を意識しないため、そしてそれをラミアに気取られないために、周りを見回す。
一人で住むには少し広すぎるであろう家の中は、小綺麗に片付いていて、家具も、一人で住むにしては大きい物であったり、数が揃えられていたりする。
仮に二人で暮らすとしたならば、丁度良い、といった具合に。

用意周到…というべきなんだろうか。
しかし、茶番を演じるためだけに、わざわざご丁寧に家具まで揃えるものなんだろうか…
一緒に暮らす、という所までは信じてやっても良さそう、か。

そう考えている間にも腕は引かれていて、大人しくついていくと、そこは脱衣所らしき場所だった。

「ともかく…
綺麗サッパリ、汗を流しなさい。
汗だくなのは嫌なんでしょう?私は構わないけど」

再び首筋に顔を埋めて、ラミアは言う。

「…ああ、嫌だ」

…汗だくなのも、そうやってくっつかれるのも、あまつさえ匂いを嗅がれるのも。
やめてくれ、本当に。恥ずかしい。

嘆願は心の中だけに留めておいて、付け込まれる隙をこれ以上増やさないように、落ち着き払った返事をする。


「ふふ…ルーンに触れれば水が出るようになっていて、石鹸も有るから、よーく洗うと良いわ。
 お洋服と下着はそこに置いて…
 それじゃ、ごゆっくり。あ…逃げようなんて思わないでね?
 私以外の子に捕まったりしたら、許さないんだから…」

意味有りげに笑って、置いてある籠を指差すラミア。
密着状態が解除されると、身体が幾分も軽くなったような解放感を覚える。

やっと解放された…
ルーンを使った水道なんて、俺の村では全然普及してないというのに、まさか魔物の家で見る事になるとはな。
魔物の方が快適な暮らしをしているとなると、なんだか複雑な気分たが…
ともかく、これでしばらく一人っきりになれる。
出来るだけ長風呂にさせてもらうとしよう。

「………分かったから、いつまでそこに居るんだ」

説明も終えたし、ごゆっくりと言ったにも関わらず、ラミアは笑みを浮かべてこちらを見ている。

まさか…風呂まで監視付きじゃあないだろうな。

「あら…裸、見られるの嫌だった?」

相変わらず余裕の笑みを浮かべたまま、からかうようにラミアは言う。

「当たり前だろう…!」

その様子につい、気恥ずかしさと苛立たしさとともに言葉をぶつけてしまう。

「うふふ…ウブね…やっぱり可愛いわ、オスカー…。それじゃ、一時退散するわね」

からかった手応えアリ、と見られたのか、何処か意地の悪い、しかし、楽しそうな表情。
手を振りながら、脱衣所から出て行く。

また思うツボじゃないか…くそっ。




「………ふぅ、とりあえずこれは脱いでおくか」

現在着ている、胴の前面だけを保護する簡易な防具。
革で作られたそれを外すため、思っていたより堅く結ばれている紐を解こうとする。

「っ…くそ…」

躍起になりながら10分程を費やして、やっとの事で防具を外すと、簡易な軽鎧とはいえ、肩が軽くなる。
脱いだ防具は、とりあえず籠の横に置いておく。

…何をムキになって時間を無駄にしているんだ俺は。
先に、この場から逃げられるかどうかを調べるべきじゃないのか…

「まぁいい…ともかく…」

とりあえず、辺りを見回してみる。
脱衣所の窓は小さめで、男一人通るには厳しい。此処からは逃げられない。
脱衣所を出て素直に玄関から逃げるか…?
…そもそも脱衣所を出た時点で鉢合わせになりそうだ。

「浴室は…」

仕方無いので風呂場の扉を開け、中を見渡してみる。
浴槽は木で出来ているようだが、見た目の質感がどうもツヤツヤしている。
魔術で防水加工されているのだろうか。

蛇口の横には青いルーンが書いてあり、触れれば水がでるのだろう。

肝心の浴室の窓は、何とか出入り出来そうな大きさだった。
窓を開けてみた上で、顔を出して外を見回してみる。

「……」

遠くの方を眺めれば、茂る森、遠くまで広がる湖、そびえる山…それらの自然。
俺が住んでいる村より、明らかに自然も豊かだ。

魚も取れるし、作物も良く育つだろうな…なんて良い土地に住んでいるんだ…羨ましい。
いや、注目する所はそこじゃない。
逃げられる場所、方向…

気を取り直して近辺を見回していると、
遠巻きに他のラミアが、俺に訝しげな視線を向けてくる。

「っ…」

おっと…まずい。

顔を引っ込めて、窓を閉める。

これは、脱走しても他のラミアに捕まりそうか。

「………いや、そもそも帰り路の地図すらないんだよな」

ふと気づいた事実。
嫌な予感に改めて自分の置かれている状況を整理し直す。

武器も持っていない。
食糧も無い。

運良く集落から逃げられたとしても、野垂れ死ぬか他の魔物の餌食になるしかない。
討伐隊が壊滅してしまった以上、救援など有り得る筈もない。

「どうすれば…」

逃げ帰る手段が思い浮かばない。
絶望感にへたり込みそうになるが、それを押し留め、何とか立ったままでいる。

このまま一生、あのラミアの所有物で暮らすのか…?
いや、それは御免だ。
何とかして逃げ帰る。逃げ帰るんだ。
諦めてはならない、今すぐには無理でも何か方法が…

「仕方無い、まずは気分転換……」

少なくとも、今の俺の状態は逃げ帰る妙案が浮かぶようなものではない。汗を流して一度リフレッシュしてから考えよう。それが最善のはずだ。

そう考え、脱衣所に向かおうと振り向いたその時。

ガラリ。

音を立てて、浴室の扉が開かれる。

「うふふ…身体、洗いに来たわよ、オスカー…」

手入れの行き届いた朱色の髪、尖った耳に、妖しい光を湛えた碧の眼、血色の良く、見るからに柔らかそうな唇。

重力に逆らいその形を保つ、豊満な双乳、綺麗な桜色の突起。
腰はうねるような堪らないラインを描き…
その下の人と蛇との境界には、毛一本すら生えていない割れ目が晒されている。

シミ一つ無い美しい肌、一糸纏わぬ姿のラミアが、目の前に居た。

「ーッ!?」

完全な不意打ちで見せつけられる裸体。
一瞬、思考が硬直し、目を逸らす事もせずに唖然と、しかしじっくりと裸体を見てしまっていた。

「な、なんで裸なんだ…!」

我に帰り、顔を背ける。
声は上擦って情けない事この上ない。

女性の裸体など、碌に見た経験も、触れた経験も無い俺にとっては、幾ら魔物のそれとはいえ、体裁を取り繕えなくなる程度には刺激が強過ぎた。

「オスカーこそ、なんで裸じゃないのかしら。
此処はお風呂場よ?」

「っ…よ…寄るなっ…」

顔を背けたまま後退ろうとするが、それよりも早くラミアは這い寄って来て、再び俺を絡め取る。
蛇体に四肢を拘束され、上半身に背後を取られる状態だ。

そして、後頭部に柔らかいものが押し当てられる。
首筋では肌と肌が直に触れていた。
すべすべとしているのに、吸い付くような肌触りで、身動ぎすれば形を変えて、俺の首筋を包み込み続ける。
あの豊満な胸が、布一枚すら介さず、直に押し当てられている。
それを意識するだけで、否応無しに下半身に血液が集まっていくのを感じた。

「ほぅら、お風呂場ではちゃんと服を脱ぎましょうねぇ…?」

子供に言い聞かせるような口調、しかし、女らしさをたっぷりと含んだ甘ったるい声。

「やめろっ…」

服の裾に手が掛けられて、ずりずりとたくし上げられていくが、腕はがっちりと蛇体に捕らえられていて、抵抗のしようがない。
背中側がたくし上げられていくと、そちらでも肌と肌が触れて、やり場の無い状態だ。

「はい、バンザイして…?」

腕を蛇体で拘束したままでは、服が引っかかって脱がせないため、拘束を解かれ、脱がせやすい体勢になる事を促される。

「自分で脱ぐ、一人で汗を流す、それでいいだろうッ!」

脱がされてたまるか、とその一心で服の裾を掴み、引き下げて、露出していた胸板、腹、背中を隠す。

「最初からそうしないオスカーが悪いんじゃない…
脱がないなら、私にも手段があるんだから」

再び蛇体が腕を拘束し、身動きが取れない状態にされる。
そして、先程と同じように、ずりずりと服をたくし上げていくが…それだけだ。
この状態では服をたくし上げる事は出来ても脱がせる事は出来ない。

このままラミアが根負けするまで粘れば…!

「ほぅら…大人しくしない子にはオシオキよ…?」

そう思った矢先、蛇体の締め付けが強まり、完全に身動きを封じられる。
そして、露出した脇腹を、つぅっ…と撫でる感触。

「ひぁっ……」

性感帯、というわけではないが、何故か人並み以上に敏感な脇腹を刺激され、思わず甲高い声が口から漏れる。
反射的に身を捩ろうとするが、蛇体はがっちりと身体を拘束して、それを許さない。

そして、両脇腹に指先が添えられて…一斉に這い回り始めた。

「っ…!はっ…ひぁ、ひっ、ははははは!
やっ―、やめっ、やめろっ!やめろぉっ!」

擽ったさに笑いが止まらなくなる。
身体は跳ねようとするが、蛇体がそれを阻む。
肺から空気が抜けていき、必死に息を吸い込もうとするが、それもままならない。

「降参かしら?」

勝ち誇ったような声でラミアはそう言い、脇腹を責め続ける。

「こうさ―ッ、こうさんっ!」

服を脱がそうとされていた事などは既に意識の隅に追いやられていて、今はとにかく、この擽り責めから解放されたい一心で。
俺は呆気なく、ラミアに屈してしまう。
実力行使には勝てない。そう思い知らされていた。

「さ、改めて、脱がせてあげる…」

降参の言葉を聞くなり、擽るのをやめ、服の裾に手をかけ、引き上げるラミア。

「っ…はぁっ…はぁ……ひきょう…だぞぉ…」

再び擽られては堪らないため、大人しく力を抜いて、ずるずると服を引き脱がされるがままになるしかない。
息も絶え絶えの状態の中、せめてもの抵抗として、ラミアを罵るが、声にも力が入らず、なんとも情けない状態だ。

「うふふ、鍛えてるのね…素敵な身体…。
さて、下も脱ぎましょうね…」

裸に剥かれた俺の上半身に、ラミアの手が這う。
腕の筋肉を確かめるように揉んできたり、胸板をぺたぺたと触ってきたり、腹筋を撫で回したり…
さらに、背中には、ラミアの上半身が密着し、直に胸が押し当てられていて、肌触り、温もり、乳首の感触までがはっきりと感じられて、悩ましい事この上無い。
そのせいで、肉棒はズボンの下で痛いぐらいに張りつめ、テントを張っている。
そして、ラミアはそれに構わず、ベルトを外していく。

「そっちはっ…やめろっ…!」

いつの間にか四肢は蛇体に絡め取られていて、それを止める事は出来ない。

「あらあら…こんなに元気にしちゃって…
無理矢理脱がすのは可哀想ね、ちゃんと先に、ズボンから出してあげないと…」

ズボンの中にラミアの手が入り込む。

「っ…さ、触るなっ…あっ…」

そう言った時には、既に勃起した肉棒はラミアの手におさまっていて。

「此処も綺麗に洗ってあげるから、ね?」

肉棒をズボンからとりだすと、ラミアは拘束の上から器用にズボンとパンツをずり下げていく。
ラミアの顔は、相変わらず俺の股間に向いたままで、
さらけ出された肉棒に、絡みつくような視線を感じる。

「っ……うぅ……この変態女っ…」

子供のように服を脱がされ、裸で密着され、勃起した肉棒を視姦され…
さらには、身体を無理矢理洗われる。
出会ったばかりの女にそれをされて、恥ずかしくない訳が無い。

「あら、ちゃんと女として見てくれてるのね…
欲情しちゃう?」

俺が何を言おうとも、ラミアは機嫌良く、そして余裕に満ちた声で応えて。

「っ…」

図星を突かれて、何も言えなくなる。
咄嗟に否定出来ればいいのだが、そういった事は苦手でならない。
事実、魔物でさえ無ければ、このラミアはこれ以上を望むべくも無い美人で、身体つき、声、仕草に女としての魅力を漂わせているのだ。
俺が男である以上、それに興奮するな、というのは無理な話で。

「本当はベッドの上が良いのだけれど…
オスカーがシたいなら、今すぐ此処で…」

ラミアは、まるで恋人に対するかのような調子で、俺に語りかけてくる。
巧妙に隠しているのかは知らないが、その様子から悪意は感じられない。
強引ではあるが、ただ純粋に、俺の反応を見るのを楽しんでいる…そんな様子だ。

「しなくていい!」

手っ取り早く俺を従わせるのに一番であるはずなのに、一切、痛みを伴うような事をされていない事もあり、出会った当初の敵対心はじわじわと薄れてしまっている。
気がつけば、その不自然に好意的過ぎる行動、言動に抱いていた敵対心、警戒心は、羞恥心に塗り替えられていて。
ラミアに反発する言葉も、気勢が削がれてしまっていた。

「あ、やっぱりオスカーもベッドの方が良かった?
そうよね、新婚初夜だもの…」

「っ…俺を犯すのか」

"新婚初夜"、つまりはそういう事なんだろう。
仮に好意が本当だったとしても、見ず知らずの相手が初めて、というのはゴメンだ。
いや、知っている相手でも駄目だ。
一生を添い遂げると決心してから、誓い合ってからするものだろう、そういうのは…!

「もう…犯すんじゃなくて、愛してあげるのよ。
 それで、お風呂じゃないなら何処でシたいの?」

「………ベッド」

やはり初めてはベッドで…
…いや、俺は何を考えているんだ?
落ち着け。状況が異常すぎる、そのせいで冷静さを欠いているんだ。
明らかに流されていた。
重要なのはそこじゃない。
犯すのだろうが、愛するのだろうが、無理矢理連れてこられて貞操を奪われるのに変わりないじゃないか。
場所がベッドかどうかという問題じゃない。
いや、選べるならせめてベッドで…

取り留めの無い思考を巡らせたうち、恥ずかしさに耐えながら、ぼそりと答える。

「ああもう、可愛いわね…!
 ベッドでシたいなら素直にそう言えばいいのに、照れ屋さんなんだから…」

そう言うや否や、ラミアは俺に巻きつけている蛇体の締め付けを、ぎゅっと強める。
それは俺を拘束する時のものとは違って、抱き締められているかのようだ。

「ちがっ…?」

したいんじゃなくて、するならせめて、ベッドが良いってだけで…!

俺がそう思い、言い返そうとしたその時、背後から冷たい物が降ってきた。
突然の出来事に言葉が止まってしまう。

「早く身体を洗って、ベッドインしましょう?
 さ、まずは背中から洗ってあげようかしら…
この石鹸はよく泡立つわよ…ほぅら、ごしごし…」

降ってきたものが水だと気づいた時には、降り注ぐ水は止まっていた。
背中にとろりと、何かが垂らされる。
俺の胸に、液体の石鹸のようなものに塗れた手が添えられる。
そして、ラミアは胸を押し付け、身体を摺り寄せてきて…

「っ…せめてちゃんと洗え…!」

柔らかな胸が、背中に沿って形を変えながら、何度も、何度も往復する。
柔らかさが石鹸のすべすべした感触で引き立てられ、背筋を滑る乳首の感触まで、はっきりと感じられる。
普通に洗われるかと思いきや、胸を擦りつけられて、背中を洗われる。
胸板を洗う手は、石鹸を泡立てながら、まるで愛撫するかのように這いまわる。
ひとしきり胸板を洗われた後は、泡まみれの手が腹を撫ではじめ、臍を優しく、しかし念入りに指でほじられる。
勿論、こんな事は経験した事が無いし、想像したことも無い。
恥ずかしくて仕方が無いが、ラミアから与えられる感触は魅力的で気持ち良く、俺の欲望を刺激する。
興奮に心臓の鼓動が早まっていくのがわかる。

「うふふ…んっ…はぁっ…これで良い…?」

"ちゃんと洗う"の意味を勘違いしたのか、せめて手で洗って欲しいというのに、胸の擦りつけを激しくするラミア。
しかも、耳元で気持ちよさそうな声を出して、その上、背中に鮮明に感じる乳首の感触が、どんどん硬くなっていく。
それがまた、俺の平常心と、理性をどうにかしてしまいそうだった。

「だ、だから、それをやめろとっ…!」

「だーめ…次は腕も脚も…」

そして、胸板を洗い終えると、今度は小瓶から蛇体に石鹸を垂らし始めて…
俺に巻きつけた蛇体をしごくように動かし始める。

「っ…………」

緩急と強弱をつけて行われるそれは、まるで全身をマッサージされているみたいで、脱力を誘う気持ち良さがあった。
両脚の間や、脇には、それぞれ尻尾の先とラミアの手が入り込んできて、何度も上下する。
擽ったさを伴った、じんわりとした快感が、俺を蝕む。
もちろんその間も、背中を擦る胸の感触は途絶えない。

何を言っても無駄だ、耐えろ…耐えろ…
この辱めに耐えるんだ…

身体に力を込め、必死に意識を逸らし、一刻も早く、ラミアが身体を洗い終えてくれるのを待つ事にした。

「あら、また黙っちゃった…ほっぺた真っ赤にして、本当可愛いんだから」

脇の下から抜かれた手は、肩、首と順に這い上がっていき、丁寧に垢を落としていく。

「………」

やはり、頬は真っ赤なのだろうか。可愛らしいのだろうか。
そう思うとまた恥ずかしさが加速して、何も言わないのではなく、何も言え無くなる。

「さ、大事な所もしっかり洗わないと、ね…
うふふ、どろどろ…綺麗にしないと…」

そして、首が洗い終わると、残る場所は当然、一つで…
視界の隅で、股間に向かって両手が伸びていく。
洗われている光景から出来るだけ目を逸らしていたというのに、視線が手の方に向かってしまう。

視線の先には、いつもより一回り大きく張り詰め、脈打つ肉棒。
直接触られてもいないというのに、亀頭は先走りに塗れている。
それに、手が添えられる。

自分が興奮しているのだという証拠を見せつけられながら、そして見られながら…
ラミアの右手が肉棒を、左手が玉袋を、それぞれ洗い始める。

「っ…ふっ…ぅ…ぁ……」

左手が、玉袋を包み込みながら、優しく、丁寧に、揉みたてるように洗っていく。
少し力加減を間違えれば苦痛を伴うというのに、決してそのような事はない。
むしろ、苦痛どころか快感に腰が抜けてしまい、ラミアに身体を預ける形になってしまう。
そして、右手は親指と人差し指で輪を作り、それで逆手に竿の根元を締め付け、捻じるように擦りながら、ゆっくりと先端へ近づいていく。
敏感な亀頭も裏筋も触られていないというのに、ただ洗われているだけというのに、声が漏れ出てしまう程に気持ち良く、喋る事すらままならない。

「先っぽもちゃあんと洗ってあげないと…」

そして、指の輪はカリ首にまで辿り着く。
指の輪はさらに締め付けを強くして、その上でカリを抜けようとしていく。
当然、カリが引っかかり…強引に抜けて、亀頭を滑って、先端まで、輪を窄めながら辿り着く。
そして、再びカリで輪を作り直し、同じようにして、何回もカリから亀頭の先までを洗っていく。


「あっ…!ひぁ…あ、あぁ…」

強烈な締め付け、すべすべとしながらも吸い付くような手の感触、潤滑油となる石鹸の泡。
カリを抜ける時は、腰が跳ねてしまう程に鮮烈な快感に襲われ、思わず甲高い声をあげてしまう。
敏感な亀頭と裏筋は同時に擦られていき、快感とともに、腰に熱いものが急速にこみ上げていくのが分かる。

「うふふ、汚れが溜まりやすい所は念入りに…」

再び、カリを指の輪っかで締め付けられ、今度はそのまま、右に回り、左に回り。
往復する回転を、カリに与えてくる。

「あ、あ、あっ…っ…」

先程のような鮮烈さは無いが、断続的に与えられる刺激は、確実に俺を限界へと追い詰めていく。
あっという間に、腰に溜まった熱く痺れる感覚は高まっていって…
それが最高潮に達しようとした時。

「はい、綺麗になりました…
…まだ洗ってほしい?それとも、もう流しちゃう?」

右手の輪が解かれ、玉袋を洗い続けていた左手も一緒に、股間を離れていく。
後に残されたのは、今にも限界を迎えてしまいそうな程に張り詰めた、泡まみれの肉棒と、強烈な物足りなさ。

「っ…はぁ…ぁっ……………流せっ…」

再び肉棒を洗われては、絶対に射精させられてしまう。
それを選ぶのは、ラミアへの屈服と等しく、己のプライドのためにも、それは避けたい。
だが、抵抗を忘れてしまう程、肉棒を洗われているのは気持ち良かったのは事実で…
先程の快感を味わい、射精寸前で刺激を止められたこの物足りなさから解放されて、さらなる快感、射精の快感を味わいたいという欲望に、心が揺らぎかける。

数秒の逡巡を経て、やっと俺は、誘惑を振り切る事が出来た。

「そうね、早く流してベッドに行きましょうね…
んっ…冷たくて気持ち良いっ…」

ラミアの手が後ろに伸ばされると、再び、後ろから水が降り注いでくる。

「っ………」

泡まみれだった全身を、冷たい水が洗い流す。
それは良いのだが、降り注ぐ水が寸止め状態だった肉棒にも当たり、決して絶頂には届かないが、もどかしい快感を与えて、そのせいで、腰に溜まった熱い痺れは中々引いてくれない。

プライドをかなぐり捨てれば、この生殺しから解放されて、気持ち良く…
ああもう、何を考えているんだ、俺は…!

「ふぅ…さっぱりしたわね…さ、あがりましょうか。
ちゃんと着替えは有るから、お洋服はそこに置いておくわよ、後で洗っておくから」

言われて気づいたが、無造作に床に置かれた俺の服は、びしょ濡れになっていて、とても着れたものでは無い。

「服の替えはあるんだろうな…」

蛇体の拘束が解かれ、代わりに背後から抱きすくめられる。
そして、ラミアに促されるままに、浴室から出る。

もしかしたら、このまましばらく裸で過ごす事になるかもしれない。
それは流石に勘弁だ。
ラミアに視姦され続けるのを想像しただけで、背筋がぞくりとする。

「大丈夫よ、ちゃんと用意してあげたから。
さて、身体を拭いてあげましょう…」

脱衣所の籠の中には、バスローブらしきものが入っていた。

ラミアは再び俺を蛇体で拘束する…のかと思ったが、今度は、大きくとぐろを巻いて俺を囲むだけで、身体の自由を奪うような事はしない。
そして、壁にかけてあるタオルを取って、俺の身体を、腕、肩、首、胴の順で拭いていく。

「だから、拭かなくて良い…」

裸を見られている事は勿論だが、身体を拭かれるのは子供のようで恥ずかしい。
抵抗しても結局、蛇体で拘束されて無理矢理に身体を拭かれるのが分かっているので、大人しく拭かれるがままになる。
拘束されると、胸が当たったり身体が密着したりで、余計に恥ずかしい事になるからだ。

「私が拭きたいのよ」

そう言ってラミアは、脚をタオルで包み、しっかりと水を拭って行く。
残る場所は、股間のみ。

「拭かれたくないんだよ…」

半ば諦め半分で返すと、タオルは俺の身体から離れていき、背後でごそごそと音が立つ。
どうやら、ラミアが身体を拭いているようだ。
目の前に横たわるラミアの蛇体が、床に敷かれたタオルの上でごろりと半回転し、水気をタオルに吸わせていく。

股間を拭かれずに済んで良かった…また寸止めされたら本当に堪らない。
と、内心安堵する。

「もう、恥ずかしがり屋さんね…」

「煩い…」

たしかに元々女性が苦手な俺だが、このラミアのする事は度が過ぎている。
恥ずかしがるなという方が無理だ。

「でも…本当は嬉しいくせに」

不意に抱きすくめられ、その上、タオルを持った両手が股間を覆い、唯一拭かれていなかった玉袋と肉棒を包み、丁寧に水気を吸わせる。
そして、タオルの上から肉棒に両手が添えられ、わしゃわしゃと肉棒を揉みくちゃにされてしまう。

「嬉しくなんかっ、あっ…うぁ…ひっ…」

水を吸ったタオル生地は、肉棒を洗われた時よりも激しく擦れて、強烈な快感を腰に叩き込む。

数秒だったというのに、またもや射精寸前まで追いやられてしまい…

「ふふ…そう?気持ち良かったんでしょう?洗われた時も…」

やはり、そこで刺激は中断されてしまう。
後に残るのは、不完全燃焼感と、もどかしさと、さらに膨れ上がる欲望。
イきたい。気持ち良くなりたい。
恥もプライドも倫理観も捨てて、ラミアにおねだり出来るならばどんなに楽だろうか。

そんな俺の心を見透かすようにラミアは笑う。

「…………」

気持ち良くなかったと言えば嘘になるので否定する事も出来ず、かといって肯定する訳にもいかず、ただただ黙り込むしか無い。

「うふふ、正直でよろしい。
はい、バスローブよ…ええ、勿論私が着せてあげる」

そんな俺の様子を見て、嬉しそうな声で言いながら、
ラミアはバスローブを取る。
そして、背後から、上着を着せるような形で、俺にバスローブを着せようとしてくる。

「………」

黙って腕を差し出して、着せられておく。
生地は上質の物を使っているようで、心地良い肌触りだ。
しかし、やっと身体を覆うものを纏えたのは良いが、先程刺激されたばかりの肉棒は、バスローブには収まる事はなく、前屈みになってなんとかしようとするが、それでも、バスローブにテントを張ってしまう。

「さ、行きましょう?オスカー」

前屈みになった俺に、再びラミアは後ろから抱きついてくる。
しかし、今度は俺の腕を拘束するのではなく、胴体にのみ腕を回して。
バスローブの布越しには、やはり柔らかな胸が押し当てられて。

「…うるさい」

拘束を伴わない抱きつき。
それがどうにも、純粋に俺にくっついていたいだけのように思えてしまう。
あまりにも都合が良過ぎるにも関わらず、だ。
それでも、離れろと言う気になれず、苦し紛れに言葉を口にする。
そして、促されるがままに、脱衣所を後にした。





脱衣所を出た俺は、思考を巡らせていた。
現状、逃げられないのは分かり切っている事だ。
さらに、ラミアの言う事は相変わらず信じ難い事ではあるが…それが嘘だったとして、俺に何が出来る?
何もできやしないだろう。
あのラミアが悪意を秘め隠していて、それに気づいた上で逃れる力があれば、そもそもこんな事にはなっていない。
つまり、手詰まりだ。
だから…もう、素直にラミアの言う事を信じてしまえば、それで良いんだ。
感じたままに、それでいい。嘘をついていないように見えるんだから。

思考の末、心が折れたのを自覚したが、それと同時に、確実に、気持ちは楽になった。

「それじゃ、早速…と言いたいのだけれど…お腹、減ってるのでしょう?」

そんな最中、連れて来られたのは、ラミアの寝室。
部屋の中心には、蛇の身体を横たえることが出来る、大きなベッドが置かれている。
ベッドには、律儀に枕が二つ、その横には木編みの籠が置いてある。
その中にあるのは、見たことも無い形をした、桃色の大きな果実。
それは、遠目に見ても、食欲をそそる瑞々しさを持っていた。

「………それは、まあ」

昼に粗末な食事をして以来、何も食べていない。
腹は空いているし、喉も多少乾いている。
痩せ我慢をしてもどうにもならない事ぐらいは分かっているので、正直に答えた。

そして、バスローブを纏ったラミアは、ベッドにごろりと横たわり、ぽんぽんとその傍を叩く。
一緒に寝転がれ、という事なのだろうが、ベッドに腰掛けて、背を向ける。
未だに熱が冷めきらず、バスローブ越しにはっきりと形の見える肉棒を、ラミアから隠したい。
相手がその気になればどうとでもなる以上、焼け石に水でしかないが…それでもマシだ。

「というわけで、これを食べましょう…一番大きな物を買ってきたのよ」

ベッドに座る俺の目の前に、果実を手にしたラミアが現れる。
ベッドに蛇体を横たえたまま、上半身をこちらに回り込ませたらしい。
思えば、まともに向かい合ったのは、浴室に乱入された時ぐらいでしかなく。

「……」

改めて見ると、やはり、これ以上無く美人で…
バスローブで覆いきれない豊満な胸の谷間にも、つい目がいってしまう。

「はい、あーん…」

ふと我に帰れば、ラミアが満面の笑みを浮かべて、俺の口元に果実を差し出していた。

「……………」

断ろうにも気が引けてしまう程、楽しそうな表情。
演技では無い、嘘はついていないと…そうとしか思えない程に、魅力的だ。
さらに胸が高鳴っていくのを感じる。

腹が減っているのは事実で、喉の渇きも潤したい。

黙って、果実に手を添え、かぶりつく。
ぷるぷるとした果肉が口の中で、どろりとした果汁を滴らせる。
その味は、今までに食べた事のあるどんな果物よりも蕩けるように甘く濃厚で、それなのに、くどさという物は無く、幾らでも食べられそうだ。
そして、口、鼻腔、そして頭の中までを、果物特有の爽やかな甘酸っぱい香りと、この果実独特の、何とも表現し難い良い香りが一杯にする。
恍惚としてしまいそうな程に、味覚を、嗅覚を刺激される。
これ程までに美味しい物を食べた事は無い。
そう断言していい程に、この果実は美味しかった。

「はむっ…んっ…美味しいっ…もっと食べていいのよ…?」

果実を持った俺の手に、さらに手を被せてくるラミア。
そのまま、俺がかぶりついたのとは逆側に、かぷりと果実を口にし、幸せそうに目を細める。
成熟した女性の、何処か小動物じみたその仕草に、アンバランスな魅力を感じてしまう。

「…んっ、んぐっ…はぁっ…はむっ…」

促されるがままに、もう一口。
ぷるぷるとした果肉の感触が心地良い。
果汁の甘さで舌が蕩けそうだ。
喉を鳴らして果肉と果汁を飲み込むと、空腹が満たされ、喉が潤っていくのが分かる。

美味い…もう一口…

夢中で、果実を口にしていく。


「…ふふっ、美味しそう」

眼前で、ラミアが優しく微笑む。

「……」

それに気づき、ふと我に帰る。
息がかかりそうな距離で、一つの果実を二人で食べている。まるで恋人のように。
その事実に気づき、ぱっと口を果実から離す。

…食べるのに夢中で気づかなかった。

「あら、要らないの?」

小首を傾げて、ラミアが俺の顔を覗き込んでくる。

「…顔が近い」

顔を背けて答える。

要らないとは言わない。
こんなに美味しい物を食べないわけがない。
そう、仕方ないんだ。

「もう、照れ屋さんなんだから…仕方ないわね、はい、あーん…」

双方から齧られて、形が細長くなってしまった果実。
顔を引いた俺に、それの端っこが差し出される。

「……」

食べさせられる、というのは恥ずかしいが…
それ以上にこの果実は美味しい。
黙って、端っこから口にしていく。

「…間接キス」

長さが半分、残り二口程になった頃合いに、ラミアが悪戯っぽく言う。

「っ……」

言われてみれば、確かに、ラミアが食べていた方の断面も口にしていたわけで。
それに気づかされると、またなんとも言えない恥ずかしさが込み上げて来てしまう。

「ふふふ…本当、可愛いわ…
私も間接キスしちゃおうかしら…んっ…れるっ…あむっ…
それじゃ、最後の一口…えいっ」

妖しく笑みを浮かべたラミアは、俺が齧った跡の部分を、見せつけるように舌で舐めて、残った果実の半分を口にする。

そして、残ったもう半分を、唐突に俺の口に押し込んで来た。

「んむっ…んっ…」

無理矢理突っ込まれた果実。
それでも、美味しい物は美味しく、最後の一切れを、味わって食べる。


「ご馳走様でした…
さて、準備も済んだし…」

胸の前で両手を合わせ、舌舐めずり。
その様子にまた、胸の鼓動が早くなる。
蛇体が俺の脚を巻き込み、そのままベッドの上に強引に引き上げる。


「うぉ………」

身体が尻を基点に90度回転し、脚が蛇体に巻きつかれたまま、ベッドで上半身を起こしているような格好になってしまう。
上半身を寝かせれば、普通にベッドに寝転がっている形になるだろう。
そして、ラミアは俺の方に、身体を倒してくる。
脚を巻かれているせいで逃げ場は無く、押し倒されるわけにも行かないので、仕方なく、手を後ろについて受け止める。
むにゅりと、胸が押し当てられ、胴に腕が回され、しっかりと抱きつかれる。


「愛を育みましょう…?オスカー…」

じぃっ…と俺の目を見つめて、ラミアは俺の名を呼ぶ。
その瞳の妖しい輝きに、吹きかけられる甘い吐息に、顔も、視線も逸らす事が出来なくなってしまう。

「っ…だ、駄目だ…それは…」

ついに、この時が来てしまった。
無力な俺に出来る事はただ、ラミアを言葉で制止する事だけだ。

「どうしてダメなの…?」

「お、俺は…添い遂げると決めた相手以外とは…
それに…初めてなんだ…だから…」

このままラミアに身体を委ねれば、きっと、想像もした事の無いような、極上の快感が待っているだろう。
身体を洗われた時、拭かれた時よりも、熱く、蕩けそうで、膨れ上がる欲望を満たすような快感が。

しかし、愛し合う女性に貞操を捧げ、家庭を持って幸せに過ごすという、ありふれた夢が、俺にはある。
そして、それは矜恃でもある。
そのために、やはり犯されるわけにはいかないのだ。

「大丈夫よ、添い遂げてあげるから」

だが、寸分の躊躇も無く、嬉しそうにラミアは微笑みながら…一生を共にすると、断言した。
嘘だと疑いたくなるような台詞だが…微塵も嘘であるような素振りは無い。

その言葉の響きは、あまりにも甘く…このままラミアを、この女性を受け入れてしまいたくなる。

「っ…じゃあ…なんで…俺なんだ…?」

俺と添い遂げる。
何故、何故俺と。
ただの気まぐれで俺は選ばれたのか?
気まぐれだけで選ばれて、そのまま一生を共にする…
そんなのは嫌だ。

「ふふふ…一目惚れ。貴方を見た時、貴方しか居ないって、そう確信したわ。
ただ貴方が好きなの、オスカー…
貴方だけを愛してあげる…」

恥ずかしげも無く、堂々と、彼女は俺への想いを語っていく。
その顔には笑みこそ浮かんではいるが、瞳は真剣そのものに俺を見つめて。

「……」

眼前の女性からは、溢れんばかりに放たれる好意。
俺である事が理由だと…彼女はそう言った。
全肯定。
今置かれて居るのは、不本意な状態ではあったが…ただ純粋に、それが嬉しくて…二の句が継げなくなってしまう。

「それに、私も…添い遂げると決めた相手としかしないって…そう決めてるの」

そう言いながら、彼女は、俺の身体から離れて、身体を起こす。
布越しの温もりが、柔らかさが、俺の肌から失われていくのが、名残惜しく感じる。

「あっ………」

彼女は、そんな俺の顎に手を添えて、くい、と下を向かせる。
俺の顔が向けられた先は、バスローブに覆われた、蛇体との境目。
風呂に乱入された時に目に焼き付けられた、あの美しい秘所を思い出す。
バスローブがそれを隠しているであろう位置は、じっとりと濡れ染みて、色濃くなっていて…
目を逸らさなければ、と思うのに、そこから目を逸らす事は叶わず、瞼も縛り付けられたかのように動かない。

「ほら…証拠よ…?」

ゆっくりと、バスローブがたくし上げられていく。
心臓が早鐘を打つ。息が少しずつ荒くなっていくのが分かる。
期待している。そんな自分がいるせいで、身体を動かす事が出来ない。
そして、ついに、秘所が露わになる。

ぴっちりと閉じたそこからは、だらだらと透明な露が溢れ出していて…
顔を近づけずとも、甘酸っぱい匂いが漂ってくる。
そして、すっ…と彼女の指が添えられて…
にちゅ…と淫らな水音を立てながら、秘裂が、左右に押し広げられる。
広げられたその先は、鮮やかなピンク色をしていて…
環状の処女膜の隙間から、とろりと、愛液が零れ出していた。

「はぁっ………はぁっ………」

その光景に激しく心臓が暴れ出し、全身に血が巡っていくのが、その脈動がはっきりと分かる。
そして、股間の物には一際強く血が流れ込んでいて…
まるで、それだけで達してしまうのではないかと思う程、びくん、びくん、と跳ねている。
否が応にも、息を荒げてしまう。

「…処女だったでしょう?」

再び、くい、と、顔の向きを変えられる。
眼前には、誇らし気で、誘うような表情。

「安心して…幸せにしてあげる」

するりと衣擦れの音が響き、目の前の女性は、バスローブを脱ぎ捨てる。
裸体が露わになったと思いきや、それに見惚れる暇も無いまま、彼女は身体を押しつけてきた。
ぐい、と俺の上半身が一押しされて、そのまま後ろに倒れてしまう。
身体にかかる、女体の重み。
それは決して苦しい物では無く、心地よささえ感じてしまうものだった。

「私…キスも初めてなんだから…」

すかさず、俺の両頬にしなやかな手が添えられ、優しく挟み込まれて…
ゆっくりと、彼女の顔が、近づいてくる。

「ぁ………」

碧の瞳に、視線が吸い込まれる。
その眼差しは、妖しく男を誘う物でありながら、慈愛に満ちていて…

「んっ……んぅ…ちゅぅっ…」

見つめあったまま、唇と唇が触れる。
そして、触れるだけでは満足せずに、ついばむように唇を動かし、押しつけ、その感触を味わわせてきて、さらには、吸い付いてくる。

「んむっ…っ……」

弾力に富みながらも柔らかい彼女の唇は、例えようが無く魅惑的で。
ファーストキスを奪われた事に対して湧き上がるのは、負の感情では無く、期待と興奮、そして、満たされるような感覚。
もう、彼女を拒む事は出来なくなっていた。

「ちゅうっ…れるっ…んっ…ふぅ…」

吸い付かれるがままになっていると、何か、柔らかく、熱い物が、甘くぬめった液とともに、口内に侵入してきた。
細長いそれが、ちろりと舌の表面を撫でる。
先端が二股に分かれているそれは、彼女の舌だった。

「っ…んぅ…ふぁ…ぁ…はぁ…」

そのまま彼女の舌は、きゅっと抱き締めるように、俺の舌に巻きついて、優しく撫でるように、にゅるり、にゅるりと、擦りあげる。
その優しい快感が、唾液の味が、口から直に送り込まれる吐息の香りが…このキスの全てが俺を甘く蕩けさせる。
夢見心地の中、視界に映るのは…幸せそうに、とろん、とした目をしている女性。

「ぷはっ…んっ…ふふ…素敵っ…」

夢見心地の快感に浸っているその最中、いきなりに、唇のみが離れる。
俺の舌に巻きつく彼女の舌は、巻き付き、擦り付きをやめないまま、するすると元の場所に戻ろうとしていく。

「ぁっ…ふぁ…はぁ…っ…ぁ…」

舌を扱かれながら、引き出されていく。
先程とは趣きの違う快感に、また夢中になってしまう。
彼女の舌全てが元の場所に収められた時には、俺は名残惜し気に、舌先を突き出していた。

「ふふふ……」

再び、彼女の身体が離れていく。
視界に映るのは、彼女の裸体。
それは前に見た時よりも、遥かに俺を惹きつける。
さらさらと流れる朱色の髪からは、どことなく甘い良い匂いがして、首筋に顔を埋めたくなってしまう。
とろん、とした碧の目、唾液でぬらつき、妖しく光を反射する唇、朱の差した頬…それらが、至福の笑みを形作っている。
そして…その表情を引き出したのは自分だ。
そう思うだけで、一人の女性を悦ばせるという、代え難い充実感が得られるのが分かった。
視線を落とせば、上気し、微かに汗ばんだ艶かしい肌。
豊かな双丘は、彼女が身動ぎするたびに揺れ、弾む。
その先端の、桜色の突起は、ぷくりと膨れ上がっている。
今すぐにでも吸い付きたい。収まり切らない大きさのそれを無理矢理にでも手に収めて、心ゆくまで揉みしだきたい。
顔を埋め、谷間の甘く優しい匂いに包まれながら、その柔らかい感触に甘えたい。
一瞬のうちに、様々な欲望が俺の中に渦巻く。

「ぁ………」

そして、頬に添えられていた両手が、俺の身体を覆っていたバスローブに手をかける。
抵抗はしない。逆に、彼女がバスローブを脱がしやすいように、軽く背を浮かせ、手を万歳の格好にする。
そうすると、いとも容易く、真裸にされてしまう。
それが恥ずかしく無いわけでは無い。
だが、それ以上に、快感、温もり、充足感を俺に与えてくれて、欲望を掻き立てる、そんな彼女を拒もうという気にはなれなかった。

「もう我慢出来ない…今まで焦らしてごめんね?
今、気持ち良くしてあげるから…」

「あ……」

脱がしたバスローブは、無造作に横に置かれる。
蜜の溢れる秘裂を指で広げて、惜しげも無く俺に見せつけ、視線を下に落とす彼女。
その先には、はち切れんばかりに膨らみ、先端を透明な汁でどろどろにした、俺の肉棒。
狙いを定めるように、腰を動かして、彼女は、秘裂を肉棒の真上、触れるか触れないかの所に位置させる。
秘裂を広げていないほうの手が、肉棒に添えられる。
それだけで、じわりと快感が走り、肉棒はぴくりと震えてしまう。
そして、ゆっくりと彼女は腰を降ろして…

「んっ、あぁんっ…!は、ぁぁっ…、」

肉棒が秘裂に触れた瞬間、吸い付くような陰唇の感触、零れ出る愛液の熱に、またもや肉棒が跳ねそうになるが、それを彼女の指が抑え込む。
そのまま、肉棒は、彼女の中に呑み込まれていく。
聞こえるのは、彼女の嬌声。
秘裂と肉棒に添えられていた手が、俺の首に回される。

「あっ、あぁっ…!ひぃ、ぁっ…!」

呑み込まれた瞬間に感じたのは、僅かな引っかかり。
結合部から溢れる愛液に、一筋、赤が混じっている事に気づく。
破瓜の血を見て、急に彼女の事が心配になってしまう。
だが、それを気遣う暇は無かった。
処女であった彼女の狭い膣は、予想に反してすんなりと俺の肉棒を受け入れ、その上で、さらにぎゅうぎゅうに締め付けて、さらには、別の生き物のように、膣全体が蠢き、うねっていて。
中には、無数の肉襞がひしめいていて、肉棒が進む度に、その一つ一つが擦れる。
二度の寸止めと、彼女の裸体を見せつけられた興奮、キスの感触で、これ以上無く張りつめていた肉棒は、とても敏感になってしまっていて…
彼女の腰が完全に降ろしきられるまで、肉棒は擦り続けられて、あまりの快感に、腰はビクビクと跳ね続け、口からは絶え間なく、情けない声が出てしまう。

「あぁんっ…!はぁっ…奥に、当たってっ…」

そして、彼女の腰が降ろしきられたその時。
肉棒の先端が、こつん、と最奥にぶつかる。
弾力に満ちたそこは、優しく肉棒を受け止めて、ぴっちりと亀頭の先端を包み込む。

「ひぁ、ぁ…だ、だいじょっ…ぁぁっ…」

包み込まれる、それだけだというのに、挿入の時の、肉襞に擦られる快感とは別の甘い快感が亀頭に与えられて、またもや、情けなく声を漏らしてしまう。
なんとかして、破瓜の血を流す彼女を気遣う言葉を発そうとするが、膣内がうねるたびに、快感が襲いかかり、中途半端にしか伝えられない。

「大丈夫だからっ、ぎゅってしてあげるからっ、一杯っ、出してっ…!」

息を荒げながら、抱き締めてくる彼女。
淫らだというのに、愛情に満ちたその笑顔から、痛みは微塵も感じられない。
そのまま彼女は、俺の胴、脚に蛇体を巻きつけながら、ごろりと半回転して、俺の下に回り込む。
瞬く間に、俺の全身に余す事無く蛇体が巻きつく。
そして、愛おしげに俺を見つめた彼女はその両腕と蛇体で、優しく包み込むように、しかし、強く、しっかりと、俺を抱き締める。
腰はより密着する事となり、さらに深く、彼女に肉棒が突き挿さる。
肉棒が子宮口を、ぐい、と押すと、今度は包み込んだ亀頭を優しく撫でるように、子宮口は膣内と共に蠢く。
そして、抱き締めると言った彼女の言葉に呼応して、締め付けが一気にキツくなっていって…

「えぁ、はぁ、ぁあっ…で、でるぅっ…!」

肉襞が肉棒を擦る度に、身体の芯までを、電流が駆け巡る。
未知の領域に達した快感は、あまりの鮮烈さにおかしくなってしまいそうな程で、普通なら、恐怖すら感じていてもおかしくないものだった。
しかし、子宮口の愛撫は、蕩けるように甘く、優しい快感をもたらして…
裸で抱き締められ、蛇体で包み込まれ、全身を優しく、熱烈に抱かれる事の、温もり、匂い、肌の感触、それらによる心地良さ、充足感、そして安心感。
それらに、恐れを優しく溶かされた俺は、両腕を彼女の首に回し、腰に込み上げる熱い迸りに身を任せる。

「あっ、あぁっ…オスカーっ…!リディって呼んでぇっ…!」

彼女も達しそうになっているのか切なげな声をあげ、身体を震わせながら俺を見据えて、名前を呼んで欲しいと、そう言う。

「ぅあっ…、あっ、あぁっ…!リ、リディッ…!」

込み上げる迸りは、未だかつて味わった事が無い程に高まっていって…
ついに、絶頂を迎える。
溜まり溜まって、破裂しそうな程の熱い快感は、肉棒の根元が弛緩するのと同時に、一気に解き放たれる。
どくん、どくん、と、膣の中から音が聞こえてきそうな程に、肉棒は激しく脈動し、その中を精液が駆け抜けていく。
その最中、堪らずリディに抱きついて、望まれた通りに、その名前を呼ぶ。
名前を呼んだ、ただそれだけなのに、俺を見つめる目の前の女性が、途端に愛おしく思えてしまう。

「あ、ふぁ、あぁっ!オスカー…!」

脈動する肉棒の先端はぴっちりと子宮口が捕まえていて、最奥に押し付けられたままで…
最初の脈動とともに、精液を、リディの子宮の中へと、直接注ぐ。
その瞬間、リディは身体を強張らせて、切なげに声を張り上げる。
同時に、膣内は、射精の脈動に合わせて、まるで、搾り取るように蠕動し、締め付けて…子宮口は、精液を吸い出すかのように、ちゅうちゅうと射精中の肉棒の、その尿道口に吸い付いてきて…

「ひぁ、あ、ぁぁ…リディっ…止まらなっ…」

絶頂の最中、射精中の敏感な肉棒に与えられる、容赦ない快感。
その快感によって、絶頂が引き延ばされる。
まるで、何回も続けて絶頂しているかのような、そんな長い間、脈動が、射精の快感が止まらない。

「あぁんっ…はぁっ…ふぁぁ…美味しいっ…」

精液を注ぎ込む度に、リディの身体がぴくんと跳ねて、膣内がきゅっと締まる。
そして、彼女の表情は淫靡に、美しく、幸せそうに蕩けていって…

「ぁ…はぁ………」

終わらないのではないかと思ってしまう程だった射精も、十数秒程で終わりを迎えてしまう。
しかし、リディの膣、子宮口が、精液の最後の一滴までを搾り出し、吸い出してくれたおかげで、余す事無く射精の快感を味わい尽くす事が出来た。
玉の中の精液は全て吐き出されていて、これ以上の射精は無理だと、身体はそう告げていた。

「あぁ…一杯になっちゃった…素敵…」

そして、リディは、恍惚とした表情で俺を見つめてくる。
快感にこれ以上無く蕩けていて、幸せそうで…満足気だ。
それがなんだか、誇らしく思えてしまう。

「はぁ…………」

射精が終わり、程なくして、急速に疲れが襲いかかる。
快感の反動はいつもより大きかったが、不思議と喪失感は無く、むしろ、満たされたような、そんな感じがした。

ゆっくり息を吐き、身体の力を抜いて、リディに身体を預ける。
首の力も抜き、彼女の肩越しに、ベッドに頭を置いて、横を向く。
そうすると、律儀に彼女は、こちらに顔を向けて。

「ふふ…初めて名前、呼んでくれたわね…
ぎゅって抱きついて来て…ふふふ…可愛かったわ、オスカー…」

俺をぎゅっと抱き締めなおし、記憶を反芻しながら、蕩けた笑みを見せてくれた。
愛おしさに、胸が高鳴る。

「可愛いって………」

少し前までは不愉快だった、可愛いという言葉も、今は嬉しく思えてしまう。

「嬉しそうね…私の事、好きになったかしら?」

そう指摘されて、口元が僅かににやけている事に気づく。
そんな俺に向かってリディは、自信満々に問いを投げかけてくる。

「………おやすみ」

…惚れてしまった。
少し意地悪な所も、自信満々な所も、強引な所も、その顔、体型、蛇の身体、匂い、仕草…
全てが魅力的に映ってしまう。
全身で抱き締められたこの温もり、柔らかさ、安心感。
そして何よりも、惜しみなく注がれる、俺への好意、愛情。求められる事が、嬉しい。
間違い無く、いや、間違いが有ったとしても必ず俺を幸せにしてくれる。
身体を重ねた今、その確信が、俺には有った。
そして、彼女が喜んでいるのを見ると、俺の心まで満たされる。嬉しくなる。愛おしい。
だからもうこれは、惚れてるんだろう、間違い無く。

それでも、正直にそうだと言うのは恥ずかしいので、目を閉じて、おやすみと言い放つ。

…否定はしないぞ、リディ。

「ふふふ…愛してるわ、オスカー」

否定しない俺を見てか、耳元で笑い声が聞こえる。
そして、俺を抱いていた腕が少し動いて、頭の上に乗せられる。
そのまま、優しく、頭が撫で続けられて。

「……」

そういえば、リディと繋がったままで、いまだに肉棒は萎え切っていないが…今から抜いたりするのも面倒だ。
ぎゅっと抱かれているこの体勢を崩したくない。
それに、ゆっくりとうねる彼女の中で、まるで肉棒も抱かれ、撫でられているようで、心地良い。
彼女も何も言わないんだ、それでいいだろう。

「ん…ちゅ…おやすみなさい…うふふ…」

不意に、唇に、柔らかい感触。
触れただけなのに、まるで吸いつくようで。
リディの中に収められた肉棒が、ぴくりと動いてしまう。
それを感じたのか、彼女は耳元で笑う。ぞくりとするような、妖しい響きだった。

…明日の朝は、大変そうだ。
まあでも…それでも良いか。
処女を捧げられてしまったわけだし…男として、責任を取らないといけない。
童貞を奪ったからには、彼女にも責任を取ってもらわないといけないな…
うん、このままちゃんと、愛し続けてくれれば…それで…いいか…

妻に抱かれ、その体温、肌の感触に浸り…幸福感に満たされながら、ゆっくりと眠りの淵に落ちていく。








「ふふふ…さあ、今日も子作りしちゃいましょう?」

何度も愛しあった大きなベッド。
初めて会った日と同じように、枕の横には籠が置いてあって、その中には虜の果実が盛られていて。
そんなベッドに佇み、愛しの妻は、誘うような視線を向けてくる。
蛇体をゆっくりとくねらせて、腕を組み、胸を寄せ上げ、唇を指で撫でて…俺を誘惑する。

「ああ、そうだな…でも…」

そして、俺は誘われるがままにベッドにあがり、彼女の横に寄り添う。
しゅるりと、蛇体が巻き付いていく。

「でも……?」

俺の言葉に、首を傾げて、上目遣いに見つめてくる彼女。

「いや…なんだ…子供が出来たら、子供にリディが取られるんじゃないかって…思って…な…」

初めて会った日からずっと、毎晩欠かす事無く搾り取られているが、中々子供は出来ない
リディが求めるものだから、何とか孕ませてやりたいとは思うのだが、寿命が長い分、魔物は子供が生まれにくいらしい。
仕方ないとはおもうが、やはりなんとかしてやりたい。
それに、アルフレッドの奴は、もう嫁さんに二人目を身篭らせたんだ…これじゃ俺の面子も立たないし、まるで俺達二人が愛し合ってないみたいで、我慢ならない。
子供が出来たら出来たで…世話にそれなりの時間を取られるだろうが…まあ、それは別にいい。リディと俺の娘だ、可愛く無いはずがない。

だが、リディの愛情が、子供の方に向けられて、その分俺がないがしろにされてしまうのではないか…
ふと、そんな事を考えてしまい、少し不安な自分も居て…
どこか申し訳なく、そして、妻離れ出来ない自分を恥ずかしく思いながら、彼女に心情を吐露する。

「もう、可愛いんだから…!ふふふ…取られたくない?」

俺の言葉を聞いた彼女は、嬉しそうにそう言うと、巻きつけた蛇体と両腕で、はだけたその胸に、俺を抱き締める。
顔面が柔らかく包まれて、息を吸えば、彼女の胸の香りが胸いっぱいに広がる。
頭をわしゃわしゃと撫で回されると、色んな角度で、顔を胸に押し当てられて、むにゅむにゅと心地良い。

「…取られたくない」

例え娘相手であろうが、愛しい妻を取られたくない。勿論、他の誰かに取られたく無いというのは大前提だ。
自分でも凄く大人げないとは思うし、恥ずかしいのだが…
正直な想いを口にして、自ら彼女の胸に抱きつく。

「大丈夫よ、子供が出来ても、今まで通り…いいえ、今まで以上に愛してあげるわ………………
 でも、その代わり…今日もたっぷり注いで…ね?」

俺を安心させるように、優しく頭を撫で続けて…しばらくしてリディは、唐突に俺を押し倒す。
視界が流れ、すぐに止まると、眼前には、優しく微笑むリディの顔が。
次の瞬間、艶かしく舌なめずりをした彼女は、服に手をかける。
脱がすのが好きだという彼女は、嬉しそうで、期待に満ちた表情をして、俺の服を脱がしていく。
その顔を見ているだけで、胸が暖かくなる。
もっと喜んでもらいたい、そんな気持ちが湧き上がってくる。

そして、今日も俺は…妻と心行くまで愛し合い…互いに幸せにし合うのだった。
14/03/02 10:34更新 / REID

■作者メッセージ
敵対心を持つ男に好意全開でアタックしていって、そのまま押し切るラミアさん、というコンセプト(?)で書きました。
最初はもっと逆レイプ風味にしようと思っていたのに、何故かほぼ和姦に。
ラミアさんが魅力的だから仕方ないですね。
これでラミアさんSSは4作目。
次はストーカー気味なラミアさんを書く予定です。
まだまだ他にネタはあるんですけどね。
ラミアさん以外にも、エルフさんやヴァンパイアさんやローパーさんやスキュラさんやリリム様や…
ああ、時間が欲しい。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33