連載小説
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IFルート:ある一つの可能性
※注意。
 
 この話は、前話:『伝わる想いに帳は下りる』のIFルートです。本編とはまるで関係がありません。
 基本的にネタであり、パロディです。読まなくても本編にはまるで影響はありません。
 また、若干の世紀末要素を含みます。
 もしご覧になられる方がいらっしゃる場合、必ず上記の項目をご確認頂いた上でご判断頂く事を切に願います。
 
 愛ゆえに苦しむかも知れません。
 愛ゆえに哀しむかも知れません。

 海よりも広い心や、『俺に愛など要らぬ!』と豪語出来る漢の表情が出来る方のみご覧頂ければと存じます。
 尚、TOUGH BOY等お掛け頂いてお読み頂くと光景を想像し易いかもしれません。

 













 声が聞こえる。
 自分を呼ぶ、微かな声。
 低い男性の声に呼ばれて目を開ける。
 
 とても顔の濃い男がこちらを無表情に覗き込んでいた。

 「―――誰だお前っ!!??」

 思わず後ずさって距離をとる。
 思いの他筋肉質で、長身な男のようだ。
 特徴的な太い眉毛に青いズボン。
 袖無しの上着からは自分の胴回りはあろうかという太さの上腕と厚い胸板が覗いている。
 ……どっかで見た事があるような気がするな。

 「気付いたか。なら聞け」

 やたら低い声で声を掛けられる。絶対コイツ堅気じゃない。

 「―――だから誰だお前っ!ここは何処だ!?」

 「俺はお前の息子。そしてここはお前の精神世界だ」

 は?と間の抜けた声で返答してしまう。俺の息子?精神世界?夢じゃないのコレ?

 「え?ちょっと待って。整理させてくれ」
 「まず、アンタはどっかで見た事あるような気がするけど俺の息子?なのか?」
 
 「あぁ」

 嘘だとしか思えない。
 親に似ない子供も居るだろうが、俺の遺伝的要素が完全に排除されている。
 相手は一体どれだけ遺伝的に剛の者なのか。

 「…何か、そっくりな所が目と鼻と口の位置しかないんだが。アンタ未来から来たんだよな?」
 「?」

 質問の意図が分からないと言いたげに僅かに眉を顰める大男。
 
 「いや、アンタ俺の息子だろ?聞きたいんだが母親、つまり俺の奥さんってどんな人なんだ?」

 この場合人間でない可能性もあるのだが。
 俺の発言が漸く理解できたのか、大男が続ける。

 「俺はお前の息子ではない」

 意味が分からない。
 だが、大男はその太い腕に相応しい巌のような指先でこちらの股間を指差した。

 「俺はお前のムスコ♂だ」

 「そっちかよ!」

 つい大声で突っ込んでしまう。
 天は何処までも高く、地は果てない荒野。
 荒涼としたこの世界に空しく木霊する俺の声。
 このイカレた時間は何なのか。
 
 「でも、言っちゃなんだが俺って平均位の大きさしかないぞ?お前俺のショートソードにしては明らかにおかしいだろ」

 「確かに。俺はこうなる前は粗末なショートソードだった」
 
 「粗末ではない。勝手に粗末付けるな」

 「しかし、お前が寝ている間に粗末なモノに劇的な変化があった」

 「粗末ではない。つうかそれお前の事だろ」

 「周りを見ろ」

 (無視しやがった・・・)

 言われるがまま周囲を眺める。
 見渡す限り荒野だった景色が、徐々に緑に覆いつくされていく。
 先程まで吹いていた熱い乾いた風は適度な湿度を持ち、過度に熱を持った肌から余計な熱さを取り除いていってくれる。
 草木が伸び、花が咲き始め荒れていた大地は潤いを取り戻していく。
 空にも変化があった。
 徹夜をした時に見るような黄白色の空が、今は澄み渡る青空へと変わっていた。
 降り注ぐ日差しも地を焦さんとする強さではなく、まるで初夏の爽やかな光で照らしていた。

 「ここはお前の心の中。今映るのはお前の心象風景だ」

 あの荒れた大地が自分の心だったと。
 確かに友人や職場環境がストレスではあったが、そこまで自分の心は酷かったのか。
 上司も心配する筈である。
 それが現在進行形で生命力溢れる大地へと作り変えられている。
 
 「…じゃあ、あの髪の毛がピンク色のモヒカン集団は俺の何なんだ」

 田植えのように物凄くリズミカルに植林をしていくモヒカン集団。
 声が大きいのだろう。
 遠巻きながら『爺さんそいつを貰おうか』と老人から何かの種を受け取って地面に植える姿や『ヒャッハー!水と栄養だーーーっ!!』と草木に水を撒き等間隔でアンプルを差し込んでいく姿が見える。
 
 「お前に劇的な変化を与えているものの具現だ」

 「絶賛侵略中!?」

 劇的リフォーム(強制)を行う匠集団は尚も手を休めず、着々と版図を広げていく。
 
 「お前は人間を捨て、新たな可能性を手にする」
 「そして目覚め、戦わなくてはならない」

 「一体何を想定しての改造だよ!?つーかアンタが戦った方が遥かに良さそうだぞ!」

 このCV:神谷明は何でここまで電波な事言ってくるんだ。
 あれ?でも原作でもあんまり変わらない?これ原作準拠?

 「さぁ、目覚めろ。そして天に帰れ」

 「それ明らかに殺す発言だよな!?無事に帰す気全くないよなっ!?」

 周りのモヒカン達から、同情めいた視線が送られる。
 クソッ!何でテメー等眉毛ねーんだよ!だから簡単に爆発すんだよっ!!(錯乱中)

 「この大地は無意識。つまり天に帰るという事は意識を覚醒させるという事だ」

 何か指をボキボキ鳴らしながら近寄ってくる世紀末救世主。
 
 「『北○斗 有情猛○翔破』っ!」

 アッパー気味に俺の体を拳で持ち上げる人非人。
 しかも―――言語を絶する痛みが体を駆け抜ける。

 「安心しろ。秘孔は外してある」

 「それ、ただぶん殴っただけだ、ろ…」

 有情でも何でもない。ガクリ、と意識が途切れる。
 暗転し、自分という存在が曖昧になっていく感覚を俺は唯受け入れるしかなかった。
 最後にはっきりと思ったのは。
 
 ―――伏せてる意味無ぇ。
 
 それだけだった。

 


 体を妙な振動襲う。
 小さく、一定の間隔で揺らされて名前を呼ばれている。

 「公人さん…公人さん……起きて下さいまし…!」

 悲痛な声だ。一体彼女に何があったのか。
 だがもう大丈夫だ。自分が居る。

 「ミレニア姉さん…(低音)」

 「き、公人?さん、大丈夫ですの?」

 若干震え声で安否を気遣う姉。
 それが嬉しかった。
 自分でも分からないが、久々に他人の優しさに触れた気分だった。
 自分は大丈夫だとアピールする為に、俺は無意識にある技を使う。
 
 「フゥウウウウゥゥゥーーー」
 
 鋭く息を吸い―――

 「ハアアアァァァァァーーーーーーっ!」

 ―――大きく息を吐く独特の呼吸法。
 これを用いると、常人では30%しか引き出せない潜在能力が100%引き出せる。
 大きくパンプアップした身体は見事な逆三角形となり、上半身のTシャツを弾き飛ばした。

 「!?全然大丈夫じゃありません!今救急車を―――」

 すぐその場から立ち上がり、救急車を呼ぼうとする彼女を優しく抑える。
 大した力は込めていないが、どうやら身動きが出来ないと判断したらしい。

 「大丈夫だ、姉さん。何も問題はない(低音)」

 可能な限り優しく、愛しい姉に視線を送る。
 強張っていた彼女の体から抵抗する力が抜けた為、俺は抑えを外す。
 すると、急にそっぽを向いてしまった。
 矢張り強引だったろうか。

 




 (い、いけませんわ。真逆こんな事になるなんて―――)
 
 ちらりと後ろの大男(元 公人)を見る。
 相変わらずホッコリとした笑顔と視線を向けており、まともに顔向け出来ない。
 直視すると顔が紅潮する。
 
 (何て優しい瞳…、なのに何処か深い哀しみを背負ったような光も奥にある…)
 (公人さん。私が知らない間に、貴方に何があったんです?)

 動いていない心臓が高鳴るような感覚。
 ―――これは、まだ幼い頃の彼に会った時のような感覚である。

 (…自分の気持ちに嘘はつけませんわね)

 意を決して振り返る。
 はちきれんばかりの筋肉を誇示し、こちらを眺める不思議生物を前に、まずは確認を取る。

 「…公人さん。昔、何か体を動かす事をされていらっしゃいませんでした?そう、例えば拳法的なものとか」

 「いや、運動は人並みにしか出来なかったな(低音)」
 「それよりも、姉さんに頼みたい事がある(低音)」

 「私に出来る事、でしょうか」

 矢鱈と太い眉が特徴的な、濃い顔で彼はゆっくりと頷いた。
 
 「この世界にも教団のような連中は居る(低音)」
 「魔物娘をこの世界から排斥しろ、というデモめいた事をする連中だ(低音)」
 「今はまだ大きな事件は起きていない(低音)」

 「…全ての方が私達を受け入れて下さる、とは流石に私も考えてはおりませんわ」
 「でもこの世界は、教団のような頑なな方々は少ない。だから、いずれ分かって下さる。そう思っておりますわ」

 「ああ、この世界に心配事はない。心配なのは姉さんの居た世界の方だ(低音)」
 「…まだ、居るんじゃないか?未だに旧態依然の世界にしがみつく輩が…(低音)」

 彼の言葉に、今度こそ驚く。
 確かにその通りだ。
 数少ないとはいえ未だに戦禍は残り、教団領に近付けば近付く程犠牲は出ていると聞く。
 自分は領民をこちらに非難させて、安全を図ろうとしていた。

 「俺を、姉さんの世界に連れていってくれないか(低音)」
 
 「!?」
 「絶対許しませんわ!危険がありすぎ―――」

 そこまで言って、発言を中断する。
 異様にパンプアップする肉体に、最早堅気には絶対に見えないであろう風貌。
 加えて自分が見ても底が見当たらない強さ。
 ―――別に、問題ないかもしれない。

 「いえ、失言でした。今の公人さんなら問題無いのかも知れませんわね」
 「今の貴方は私から見ても、とても強い方だと思います。でも、その前に伺いたいのですわ」
 「―――貴方は、私の居た世界で何をなさるの?その強さで何を成すのかしら?」

 音もなく立ち上がる彼。
 その姿は、圧倒的な力を封入しているにも関わらず影のように周囲に溶け込んでいた。
 その矛盾に殺気など一切向けられていない筈の私でも死を覚悟してしまう。

 「―――俺に野望など無い(低音)」
 「唯、無辜の人々が理不尽な暴力に晒されている世界が有る(低音)」
 「その事実が、時代の叫びとなって俺を呼んでいる(低音)」

 (彼の中で、私達ってどんな扱いを受けているのでしょうか?)
 
 一度小一時間程問い質したいのだが、彼の決意に水を差すのは控えようと考えた。

 「分かりました。貴方を信じますわ。私の公人さんですものね♪」

 その発言に視線を逸らし照れる、大男と化した彼。
 大本は変わっていないようで、そこだけ安心できた。


 

 その日からは怒涛の勢いだった。
 本来休日だった筈の日に、彼は会社に足を運び辞表を提出した。
 社員証を持っているにも関わらず、あまりにも写っている写真とかけ離れた風貌であった為守衛であるミノタウロスやリザードマンに止められたが、掌から桃色の太ビームを放ち大した怪我もさせず戦闘不能にしてしまう。
 余談だがビームを食らった守衛はそのまま同僚の男を押し倒していた。
 
 建物内に入ってからも大変だった。
 急に濃い顔の筋肉質な大男と化した彼が社内の勤務部署に入った事で軽い騒動となってしまったが、結論として辞表は受理されなかった。
 私が着いていって事情を説明し、彼が上司に自身の要望を伝える。
 最初は突拍子も無い話に付いて行けてないようだったが、彼を止められない事が分かると条件を出してきた。
 
 1・辞表は受理しない。代わりに、長期休暇扱いとする事。
 2・行き来の正確な日付を残す為、必ず会社指定のゲートを使用する事。
 3・ご両親に事情説明をする事。
 
 更に彼の上司はこうも続けた。
 
 「私より役職が上になる事は許さん。必ず帰ってこい」

 その言葉に、彼は涙を滝のように流しながら深く頭を下げた。
 私も倣って頭を下げたが、この会社ってそういうシステムなのだろうか。

 ご両親への理解は頂くのは難航するだろうと思われたが、その実凄く簡単に了承を得られてしまう。
 開口一番に彼が私を結婚を前提にお付き合いしているという事と勤務先が私の居た世界になったと報告したからだ。
 前者は私もそのつもりだったが、後者は良いのだろうか。
 
 「任期は決まってるし、頑張り次第では早く帰れる。さっさと片付けて帰ってくるさ(低音)」

 異様に頼もしいその言葉に、御義父様も御義母様も喜んでいた。
 それと、彼から両親の変わりように驚いたと聞かされた。
 昔は人間だったそうだ。
 
 そして、今。
 私達は元の世界の城に居る。

 この世界に来てからの彼は正に無敵といって差し支えなかった。
 拳一つで戦場に現れ、魔法や魔術をものともせず一方的に相手の軍を蹂躙する。
 元々士気が低い兵士が相手であればその威圧感で相手が逃げ出し、仲間意識の高い集団へは例の桃色太ビームを容赦なく撃ち込む。
 相手が上位の勇者クラスであっても、その拳であらゆる敵を打ち倒しては未婚の魔物娘の番にさせていった。
 その異様としか言いようの無い圧倒的侵攻速度から何時しか魔王側からは敬意を込めて、教団側から畏怖を込めて【拳王】の二つ名で呼ばれ、魔王軍に主神教団戦力の駆逐に多大な功績を齎したとして莫大な領土と権力、超法規的とも取れる福祉制度を賜るに至った。
 
 彼の世界に置いてきたアパートは、かつて先んじて彼の居る世界に渡ったリッチが自分専用の拠点兼研究所として再利用している。
 会社の方は彼が魔王軍に関与する事になってから、魔界産の金属や宝石、その加工品を多く取り扱う窓口として一気に急成長した。
 ご両親にも正式に籍を入れた事を報告し、現在の住まいは私の故郷である不死者の国に根を下ろす事となった。
 
 見渡す限りの常夜の街。
 濃密な不死者の魔力は青空を喰らい尽くした顎のように本来あった空を塞ぎ、閉じ込めている。
 少ない明かりの中、男女の愛し合う様がそこかしこで見えるようでとても満足のいく光景だった。
 これだけの不死者の居る国だ。この影の国はこれからも栄えるだろう。
 
 バルコニーから満足気に眺め、隣にいる最愛の旦那様に問い掛ける。

 「ねぇ、アナタ。今、幸せですか?」

 寄り添う彼の手が私の肩を抱き、優しく引き寄せる。
 手の平から彼の思いが伝わってくるようだった。

 ――――――あぁ、幸せだよ。(低音)

 
13/10/17 10:35更新 / 十目一八
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■作者メッセージ
拙作番外となります。
他の話より短めですが、真面目な話を書いた時に受信した電波が元ですのでご容赦の程を。
それでも何か言われるのは覚悟している次第ですが。

受信したのは『俺はお前のムスコ♂だ』という擬人化部分だけだったのですが、ネタ拡張して下さったのは堕落神様なのでしょうか。それとも名状しがたい類の神様なのでしょうか。

今回は一度に複数話を一気更新するという、慣れない手段を用いました。
自分の長文が原因なので、前編/後編と分ける事となりました。
単独でもそれっぽく書けましたが、元が一話なので両方一気にご覧頂きたいという我侭を通した次第です。

それで止めとけばいいのに、こんな誰得おまけを付けたので余計に時間が掛かるという長文化の悪循環。
理想は矢張り適度な文量で後味良く終わらせる事だと思います。
次回作はリッチにするかゾンビにするかゴーストにするか未定ですが、読切ででも書かせて頂きたいと愚考しております。

ご覧頂き、お付き合い頂いた皆様方有難う御座いました。


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