連載小説
[TOP][目次]
ローラン・ダラン
ギィ……ガチャンッ!
金属的な大きな音を聞いて、僕は目を覚ました。
いったい、なんなんだ……
周りは薄暗くてなかなか状況が判断できない。
たしか、さっきまで学校にいて、誰かが襲ってきて、姉さんが助けてくれて、それで……そうだ、光に包まれて、そのまま意識を失ったんだ……と、思う。正直、光に包まれてからの記憶がないから、正確なことはわからない。
手足は……なにか枷のようなものを嵌められてて動かせない……

「おや、目を覚ましましたか」

今の状況を理解しようと情報収集していると、扉から入ってきたであろう男の声が僕に向かってはなたれた。

「あなたは、いったい誰ですか?」
「おや、覚えてないのですか?あれでここに来たということは力も使えてないですし、まだ自覚はない、と……ま、その方が都合がいいですがね」
「……?」

気になったが、なんでもないですよ。と男ははぐらかす。
それにしても、この匂いはなんなのだろう……
おおよそ生き物がいることがないような……腐臭よりも酷い……そう、言うなら、無機質な匂い。
とても、嫌な匂い……

「っ……!?」

匂いを意識した途端、不意に、たまに夢に見る、あの赤と黒の光景を幻視した。体が、熱く感じる。さらに、妙に聞き覚えのある声が聞こえてくる。

『よかった!まだ無事な子がいた!大丈夫!?』

頭に残る映像が、赤から闇に変わる。
それから声の主は、よかった、と安堵の言葉を漏らし、そしてひたすら、ごめんね、ごめんね……と、謝る。
そうか、これは……
思い……だした……
赤は炎、黒は人、闇は人の胸の中、声はあの人の、あの人は……

「あ、ああ……」
「おや、思い出しましたか。まぁ、関係はないですがね」

不意に、闇の向こうから、別の声が聞こえた。

「あの時の生き残り……」
『やっと見つけましたよ』

今聞こえる声と、記憶の声は、まったく同じ。
言葉も、完全に一致する。

「『あなたには、教団のために死ぬまで頑張ってもらいますよ」』

今、僕の目の前にいるこの人は、僕の住んでいた村を潰した、教団側の人間だった。


××××××××××××××××××××××××××××××


テベルナイト邸執務室、そこのソファで、私はおとなしく座らされていた。

「……ライカ、さっさとあいつらの場所を教えなさい。すぐに潰してローランを取り戻すから」
「ダメだ、今教えたら、死人が大量にでるからね。……まぁ、少し待っててくれ。いろいろと調べてるんだから」

調べてる、と言いつつも、ライカの体勢はそうしているとは思わせない。私の向かいにあるソファに寝転がって、調べている、と言われても、普通の人であったらまず嘘を言っているようにしかならないだろう。
しかし、こいつの場合は、本当に調べ物をしているのだから困る。が、調べているとわかっていても、その体勢にイラつきを覚えるのは仕方ないだろう。
そんなことを考えていると、ライカが、一段落したし、いろいろと確認でもしよう、と寝そべっていた身体を起こし、私と向かい合う。

「まず、ローラン君についての情報をまとめよう」
「……ローランは、私が教団から抜け出した時に連れてきた、ある村の唯一の生き残りよ。詳細は……調べてるんでしょうね」
「うん、もちろん。あの件は酷いものだね。表面上は抵抗していた村の自警団たちの活動が過激化したため、それを制圧するという理由。しかし実際には、人の上位存在である天使を魔術で支配下に置けるかどうかの実験……特殊な薬を飲んで純正になった天使が司祭や主神の命令に逆らえなくなったという偶然の例が始まりだったようだね。……たかがそのためだけに、村一つ壊滅……なんとも酷い……と、君が知ってるのはそんなところかな?あとは、生存者が一人いたこと。もちろん、それがローラン君」
「ええ、その通りよ。言い訳をするなら、ローランを守るためにすぐにその場から離脱したからね。だから私はそれ以上の情報はわからないわ」
「うん。じゃあ今度は僕が手に入れた情報を。別に、君たちを魔術で支配する、という実験を行わなかったとしても、どうやら教団側はあの村を襲撃するつもりだったみたいだよ」
「……どういうことかしら?」
「さすが主神を信仰する組織、というべきか、この村に彼らの望むある資源があることを、教団側は知って、その村を襲撃したんだよ」
「ある資源……?」
「デューナ君、君は教団側が主に勇者たちに支給している特殊な装備のことを知っているかい?」
「ええまぁ。たしか、魔力に干渉する武器、防具よね?もしかして、それの材料がその資源ってやつ?でもそれだったらなんでローランが……?」
「察しはいいけど、教えがいがないね……まぁ、重要なことは気づいてないようだからいいけど……まぁ、それであってるよ。じゃあ、その素材がなにか。僕もさっき知って久しぶりに教団を潰そうか真剣に考えたよ」

ライカが真剣に教団を潰そうか考えるほどのこと……?
一旦情報を整理しよう。
私が教団を抜け、ここに住むきっかけとなった任務、それがローランの住んでいた村の自警団たち抵抗勢力の制圧だ。
しかし、その任務の本当の目的が、人間の上位存在である天使の魔術による支配が可能かどうかを調べる実験だった。
詳しく言うなら、その実験の立案、実行をしたのが、研究開発が主な活動であり、ジンに傀儡輪を施し、ローランをさらったであろう教団師団第四部隊。村は一人の生き残りを除いて全員死亡、そして壊滅。その生き残りが、私の弟、ローラン・ダランだ。
と、そこまでが私の知る情報。
そして、ライカからの情報はこうだ。
あの任務、あれにはさらに裏があり、ローランのいた村、あそこには、教団が作っている特殊な装備の素材があったらしい。そして、それを入手するためにも、あの村を襲撃した、と……

「あれ……?」

ちょっと待って。私たち、さっきまでローランの話をしていたわよね?それなのに、いつから教団の話に……

「あ……」

……違う。
そうか、そういうことか……
話が変わった、というのは、私の勘違いだった。ライカは、ずっとローランについて話していたんだ。
要するに……

「教団は、ローランを使って特殊な装備を作ろうとしている。つまり、教団の求めていた特殊な装備の素材は……ローランなのね」
「そういうことだよ。正確には、自身の血液を媒介として魔術に干渉する魔法、“トカール”の魔法使いの血液が素材だね。……もっと正確に言うなら、ローラン君は自分が魔法使いだと自覚してないし、使ってもいないから、魔法使いではないんだけどね」
「そんなことはどうでもいいわ。すぐにでもあいつらを潰してローランを取り戻す必要性が出てきた。早くあいつらの居場所を教えなさい」
「もうちょっと待って欲しい。まだ準備が終わってない。それに、時間もよくないからね」
「準備に、時間?」
「さすがに、今回は日のあるところでやりたいことじゃないからね」
「あなた〜連れてきたわよ〜」

私が疑問符を浮かべるのとほぼ同時に、彼の妻である神奈さんが誰かを連れ部屋に入り、声をかけてきた。

「ああ、ありがとう。あっちと話は?」
「そっちの大丈夫!ちゃんと話はつけたわ〜まぁ、ちょっと厄介な話を持ち込まれたから、そこはあなたにお願いするわね」
「了解」
「……んで、なんで僕が呼ばれたのかな?」
「……ライカ、準備って、こいつのこと?」

神奈さんが連れて来たのは、この街の喫茶店の従業員、星村空理。
彼は、なにをするのかも知らないのに、なんとも面倒くさそうな顔をしていた。まぁ仕方が無い。ライカの頼みごとは、いつも面倒なものばかりだしね。

「まぁ、そうだよ。神奈と星村、さらに言うなら、ナイトフィア家の協力も仰いだ。なにやら特殊な兵力を持つそうだからね。念には念の入れておくよ」
「まったく、なんというか……国潰しじゃないんだから、あんたとナイトフィア家ならともかく、神奈さんや星村は必要ないでしょ……」
「いや、僕は残念だけど参加しない」
「どういうことかしら?」
「まぁ、いろいろとあってね。ちょっと“向こう”と交渉してくる。時間がかかるから、4、5日は帰ってこないかな」
「そう……」
「あのさ、話が見えないんだけど?」
「ああ、説明してないもんね。じゃあ、とりあえず四人いるし、作戦、話し合おうか」

なんでもないようにライカは言うが、その瞳には、久しぶりのライカの本気が見て取れた。
……これきっと、そうとうエグい交渉になるんだろうな……
ともかく私たちは、やっとローランの救出プランを話し合うのだった。


××××××××××××××××××××××××××××××


「……で、あの男がそうなの?」
「ま、そういうことだね」

月の映える雲一つない夜、月明かりが照らすのは、一人道を歩く男と、それを見下ろす私たち。

「じゃあ、目的地には運んだし、僕はもう行くよ」
「ええ、ありがとうね」
「ん、じゃあね」

そう言って、ライカは音もなくその場から消える。
なんというか、本当に便利な魔法だ、あいつの“ヘルメス”は。
“ヘルメス”
伝令を担っていた神の名を関しているらしいその魔法の能力は、時視と移動。
過去現在未来、この世界のことを時間に関係なく本人の意思でみることができ、さらにはどんなに離れた場所であろうと一瞬で移動することを、その魔法は可能にする。
その代わり、相当に中毒性の高い魔法でもあるらしいが……まぁ、今はそんなことはどうでもいい。

「じゃあ、4人とも、頼むわよ?」

そう言いながら、私は後ろを振り向く。
そこにいるのは、星村に神奈さん、そしてナイトフィア家の令嬢、ルゥ・ナイトフィアちゃんに、そのお付きのメイド、サラさんの4人。
よろしくー。はいはい。なるべく……頑張ります。よろしくお願いしますね。と、それぞれが返事をする。
待っててね、ローラン。すぐに、助けにいくから。

「じゃあ、行くわよっ!」

その声を合図に、私たちはその場から飛び降りるのだった。
12/05/13 21:02更新 / 星村 空理
戻る 次へ

■作者メッセージ
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
今回は準備期間とフラグ回収、そして開戦間際のお話でした。
本来ローラン君はデューナさんを怒らせるためだけの役割だったんですが、ちょっと感想でとても使えるいい案をいただいたので、急遽修正を加え、ローラン君を魔法使いにしてしまいました!w
……はい、急展開乙、ですね。
さてさて、次回は第四部隊対ラインチーム!ぶっちゃけ力量の差がありありと見える話になりそうですが、そこはスルーする方向にしましょうw
では、次回も楽しみにしていただけたら幸いです。
今回はここで。
星村でした。

余談ですが、この作品はある作品と時間軸を同じくしています。
そしてライカの話にあった天使とは、それとは別のあの作品に出ていた彼女のことです。
わかった人がいたら嬉しいのですけど……

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33