連載小説
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act12・伝説聖人フレイヤ そして愛
「ダ、ダオラなのか!?」
モニターの中に現れた白銀のお面ライダーにロウガたちは驚愕していた。
ちなみにロウガは無理に起き上がろうとして、腰に会心の一撃を喰らい、佐々源流による出張治療を受けている最中。
「あー、動くな。動くと……、ガッカリする場所に針を打ち込んじまう。」
「あ、わりい。」
「旦那、あんたも自分の歳を考えろよ。美人の奥さんがいるんだから、張り切るのもわからんでもないけどさ…。それにしても本当に50の身体じゃねえな。30代でも十分通るくらい引き締まってる。」
真顔で涎を垂らしながら凝視しているアヌビス。
尻尾がパタパタと揺れる彼女に気が付いていた佐々であったが、あえて気が付かない振りをする紳士振りでロウガの治療に専念していた。
もちろん、彼の心の日記にはそんな彼女の姿が克明に記されていくのである。
『お義父様、遅れて申し訳ない。』
通信機からダオラの声が入る。
「いや、遅れるのは構わないが…、良かったのか?サクラを娘と一緒に滅茶苦茶のドロドロのエロエロにしていたんじゃないのか?」
『ふふふ…、お義父様も水臭い。如何に我とてこのような状況で、静観出来る程冷血漢ではないぞ。もっともそこのダンボールのうつけ者が、無遠慮にブースターを噴かすものであるから……、ルゥ殿の娼館の窓が割れるわ、ガラスの破片が飛び散ってサクラが我らを庇って背中に大怪我をしてサクラの調教どころではなくなるわ、近隣の子供たちが被害に遭って涙を流すわ……。もはや生きて帰す訳にはいかぬでな。という訳である、お義父様。映像も音声も切るが良い。ここから先は……、R指定である!』

ブチッ

同時に音声と映像が途切れる。
全員成人を迎えているのでR指定の映像は見れるのだが、誰もがここから先に起こることを予想した。
相手はダンボールの人形だが…、
このギャグSSで初めて死人が出る、と…。


――――――――――――――――――――


「お、お前もお面ライダー…、なのか!」
空を飛ぶ白銀のドラゴンに私は叫んだ。
よく似たお面を付けた彼女は私を見下ろすと予想に反してやわらかい声で答えた。
「そう…、そなたの味方。そなたと違い改造人間ではないが、我もまたお面ライダー。そなたと生きて顔を合わせるのは初めてであるな。だが、そなたの遺骸を抱きかかえ、手厚くその首に化粧を施し美しく整えたのは我である。戦士よ、よくぞ生き返ってくれた。我が龍姫、ダオラである。」
「………!お前が…!?」
圧倒的な強さのオーラに気圧されそうになる。
それが味方だとわかっていても、思わず後退りしそうになった。
『貴様、よくも私の可愛い兄弟機たちを…!』
「黙れ、耳障りである。機械…、いや廃品回収に出されるダンボールの分際で我に話しかける資格があると思うておるのか?それならば、何とも酷い思い上がりであるぞ。貴様は高々ダンボールのリサイクル品のクセに、調子に乗りすぎた。ここから先は罰だ…。貴様は我の目の前で子供を泣かせ、あまつさえ我の子作りを邪魔し、我の愛しき男を傷付けた。ぶち殺すぞ、ジャンク品!」
『お、おのれ…。だが、たった二人で何が出来る!私の兄弟機はまだ半数残っているのだぞ!囲め、兄弟たち。わざわざ出て来なければ、やられもしなかったのに…、愚か者め!これでチェックメイトだ!』
破壊を免れた量産型が再び集結し、股間の砲門をダオラに向ける。
絶体絶命、だがダオラは肩を震わせて笑っていた。
「はっはっはっはっは!やはり、ポンコツはポンコツ。我に興奮し股座をいきり立たせるとは、我もなかなか罪作りな女である…。だが、貴様らに興奮されて喜ぶ程、我は安い女ではないぞ。むしろ高く付いたな。その砲門、我に向けねば原型くらいは残してやっても良かったが、最早それも叶わぬなぁ…。お前らはそのたった二人に滅ぼされる!ダンボール如きに明日があると思うな、粗大ゴミども!!!」
ダオラの力強い翼が空を翔る。
銀色の閃光が矢のように鋭く量産型の群れを貫いた。
その光景に私は心が震えていた。
お面ライダーの力に。
私も使えるであろうその力に。
彼女の言葉の裏側にある熱い魂に心が震えている。

ドドドドドドドドドド

動力部を貫かれ、股間のキャノン砲のエネルギーが暴発し大爆発を起こす量産型の群れ。
バラバラと部品が降ってくる。
メカ=フレイヤは表情のないダンボールの顔で、信じられないと言わんばかりに空を見詰め続けていた。

ズシャッ

ダオラが私の目の前に降り立つ。
「良くぞ、一人で頑張ったな。生き返ったばかりのそなたには荷が重かろう。後は任せるが良い。今はその身体を休めるのだ。」
「…断る。強制的に生き返させられたこの身でも、私を必要とする誰かがいる限り…、戦い続ける!それが教会騎士団として生き、お面ライダーとして生まれ変わった私の……、変わらない正義なんだ!!!」
ダオラはお面を外し、目を伏せ、礼を取った。
「…すまぬ。そなたを少々見誤っておった。では頼りにさせてもらうぞ。」
私もお面を外し、素顔を晒す。
「ああ、頼ってくれ。私たちはアレが言う通りにたった2人。だが、お面ライダーが2人もいるのだ。これ以上に頼もしい戦力なんてない。」
「その通りだ。征こう、フレイヤ。確かに数は多いが、如何に数で我らに勝るとも……、今宵はそなたと我のダブルライダーなのだ!!」
「「勝ったも同然!!!」」
私たちは再びお面を装着する。
さぁ、行こう。
反撃の時だ!








(画面のみんなも一緒に叫んでみよう!)
『嵐のダブルライダーのテーマ』(元ネタJAM Projectのアレ)



(ダオラ)穏やか日々が
     爆音で引き裂かれ 悲鳴が上がる
(ヴァル)黒煙の空で
     ダンボールが嘲笑う 普通にキレる

(ダオラ)怯え惑う人々の中を
(ヴァル)掻き分け
(二人) 我らは変身 許せない敵を砕く

(二人) 熱き怒りの嵐を胸に
     大地を駆けろ 叫ぶぜ『ライダー!!』
(ダオラ)白い流星と
(ヴァル)正義の騎士が
(二人) 悪の野望 すべて蹴り砕く

(二人) 『ダブル!ライダァァァッ!!!』







――――――――――――――――――――



『スゴク、カタクテ…、オオキイデス…。』
最後の量産型がフレイヤの釘バットでその頭部を砕かれる。
メカ=フレイヤただ一体残った学園屋上。
戦場に残ったのは砕け散った量産型の破片と力強く起立する町の最後の希望、フレイヤとダオラの二人のお面ライダー。
「……さぁ、私の紛い物。」
「待たせたな。これで、終わりにしようか。」
フレイヤとダオラが構える。
メカ=フレイヤは自らの武装を確認した。
熱々のイチゴジャムは冷えてしまって、背中のキャノン砲は発射出来ない。
それどころか砲門にこびり付いたイチゴジャムが固まって、詰まってしまっている。
二連装ダンボール砲のドングリ弾は拾っている最中に子供たちに集団で襲われて、逃げ回っているうちにボトボト落としてしまったのでほとんど残っていない。
シールドの裏に付けているイガグリは痛くて触れない。
頼るべきは近接武器の新聞紙を固めたサーベル(?)のみ。
だが、メカ=フレイヤは恐れなかった。
まだ、奥の手が残っていたのである。
『ふっふっふ。なまじ武装に頼ろうと思うから、私に隙が出来るのだ。ありがとう、教えてくれて。これで私の勝ちだぁぁぁぁ!』
「「な、何だ!?」」
メカ=フレイヤの関節部分やダンボールの隙間から光が漏れる。
『はっはっはっはっは!!回れ、我がツインサークルエンジン!!!出力を、身体に流れる魔力を限界のさらに向こう側まで上げるのだぁぁぁ!!!』

カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ……

「「ちゅーっ!!」」

カラカラカラカラカラ……

「ば、馬鹿なこいつの動力は…、ネズミ…、だと!?」
「さ、作者も忘れかけていたと一発ネタだというに…!だが、フレイヤ!あの泣き声はネズミではない…。ハムスターだ!あのダンボールの悪魔を動かしているのは2匹のハムスターだ!!」
「ええい、この町の科学者は化け物か!!」
ハムスターエンジンという無限のエネルギーに二人は恐れおののく。
『そうだ、恐怖しろ…、人間ども!
 だが、この無限の力を活用するためにこのフルアーマーではあまりに重い!
 キャスト・オフ!!!』
メカ=フレイヤを覆う追加装甲が弾け飛ぶ。
装甲の嵐を二人は防ぎ続ける。
だが、所詮ダンボールなので痛くも痒くもない。
そして砂埃が消え去って、二人が目にしたものはダンボールの追加装甲がなくなって細いシルエットになったメカ=フレイヤだった。
『これで運動性能が上がった…。我が無限の力思い知るが…!!!』

ドックン…

『は?』

ドックン…

ドックン…

ドックン…

限界を超えた力を解放したはずのメカ=フレイヤの動きが止まる。
『ば、馬鹿な…!身体が動か…、な…い……!?』
キャスト・オフし、身軽になったメカ=フレイヤだったが、電子頭脳の冴えに反し、身体が動くことを拒否していた。

バリッ

バリッ

『な、何が!?』
メカ=フレイヤの胴体を小さな4本の手が突き破った。
「な、何だ!?」
「わからぬ、だが油断するな!」
小さな手がウニウニと動く。
手探りするように外に出ようと少しずつ、少しずつダンボールを破っていく。
そして穴が大きくなり、子供二人くらいの通れる穴が出来たかと思うと、それは飛び出した。
「「ちゅーっす!!………って、あ、あれ?」」

べち

「「あうち。」」
出てきたのは2人の子供のラージマウス。
どうやら急激に膨れ上がった魔力にハムスターが反応して、色々な進化の過程をぶっ飛ばして魔物娘に進化してしまったらしい。
小さな2人がメカ=フレイヤの身体から転げ落ちて、ペタンと座る少女たちをダオラとフレイヤは、訳もわからず見詰めていた。
「ねー、よくわかんないけど、はらへったー。」
「だめだよ、こういうときははらへったーっていわないんだよ。とりっくおあとりーと、っていうのがとれんでぃーなんだよ?そんなわけでとりあえず、ちーずちょうだい。おねーちゃんたち。」
突然の出来事にフレイヤもダオラも呆然としていたが、すぐに我を取り戻す。
「あ……、ああ、わかった。後であげるから、危ないから、ちょっと向こうに行って待っててくれないかな?」
「うむ、良い子にしていたら、我がたくさん飴ちゃんをあげよう。」
「「はぁーい。」」

とてとてとてとて…

「「……………。」」
『……………。』
無言で向き合う3人。
それぞれに微妙な空気が漂っていた。
「さて……、あまり気が進まないが…。私の紛い物よ、覚悟しろ。」
「そうよな。本編並みにバリバリのバトルシーンを我は期待しておったのだが…。まぁ、所詮ギャグはギャグか…。」
『ま、待て!私は動けないんだぞ!!ここで決め技を出す気か!?それこそ孔明の罠だと何故気が付かない…、ええい!!サークルエンジンが…!!!』
「「とう!!」」

しゅぱーん

フレイヤとダオラが天高く飛び跳ねる。
『メ、メカの話を最後まで聞けぇぇぇ!!!』
「騎士の怒りと!!」
「龍の怒り!!」
「「必殺、ツインライダァァァァッ、キィィーック!!!」」

めこっ♪

2人のキックがメカ=フレイヤの顔面を捉える。
遥か後方へ受身も取れないままメカ=フレイヤは転がっていく。
『こ、こんなやられ方……、嫌だぁぁぁー!!!」
だって…、ギャグSSだし…。
ちゃんと台詞を残すだけの時間を残して、メカ=フレイヤは爆発した。
「……勝つにはかったが、これで良いのだろうか。」
「フレイヤ、あまり気にするな。勝てば官軍、ギャグSSにカッコ良さを求めてはならぬのだ。では……、我は帰る。これから我が夫に子種を貰わねばならぬのでな。……………くそ…、今頃、怪我が治ってマイアに何度も精を放っておるのであろうなぁ……。我にも溢れる程出してもらわねば…。」


――――――――――――――――――――


「で、サクラはどうした?」
「…さっきマイアさんから連絡がありました。ギックリ腰と痔です。」
俺はその報告を聞いて他人事とは思えなかった。
メカ=フレイヤ事件から二週間。
町は平和を取り戻し、穏やかな時間を取り戻した。
アヌビスから報告を聞き、サクラの無事を祈る。
何故なら……。
「尚、本日イチゴ先生はお休みです。サクラ君とコルトちゃんの痔のしゅじゅちゅ…、手術を執刀すると朝から張り切っていました。『ワシ、他人のアナル弄るの結構好きかも。』と言って、朝から陵辱ゲームでイメージトレーニングしていました。」
「……不安だ。激しく不安だ。ああ、そうだ…、バイトのサイガ少年とダオラと娘に伝えておけ。ヤリたい盛りのお年頃なのはわかるが、あまりケツを熱心に責めるな、とな。特にダオラは年長なんだから少しは自制して子作りに励めと付け加えておいてくれ。それとマイアにもたまには家に帰って来いとも言っておいてくれ。」
「わかりました。ところで…。」
アヌビスが不安そうな顔をした。
「フレイヤさん、彼女はどうなったのですか?あの事件の後、すぐに消息不明になって……。もしかしてまた亡くなったのですか?もしそうでしたら……、私たちはあまりに身勝手なことを…。」
「ああ、そのことか。気にするな。彼女、元気にやってるよ。」
「…………………………え?」






















「ままー、ちーず!」
「あたしも、あたしも〜!」
2人のラージマウスを連れた女性。
鋼の義手でその小さな暖かい手を逃さないように慈しむように握っている。
「ああ、もうお昼だね。ではそこのカフェでおやつにしようか、二人とも。」
「やった〜!わたし、ちーずたっぷりのらざにあー♪」
「あたしね、あたしね…、もっちゃれらちーずのぴざ〜♪」
元気に喜ぶ子供たちに思わず彼女は顔が緩む。
「ふふふ…、二人とも。そんな重いもの食べて晩御飯を食べれるかな?」
「ちーずはべつばら♪」
「べつばらなの♪」
その時、工事現場で働いている作業員風の男が息を切らせて走ってくる。
見た目は普通の人間と変わりがないが、その身体は機械で出来ている。
血液の代わりに流れているものは、魔力温泉。
何一つ本物はないけど、彼の魂だけは本物。
「「あ、ぱぱだ〜!」」
「やっぱり、お前たちか。追いかけてみて良かったよ。」
「今日の仕事、もう終わりかい?」
男は子供たちを抱き上げ、顔を緩ませる。
「ああ、今日は上がりだよ。怪獣とか怪人とか暴れてくれるおかげで、仕事が減ることがねぇ。町には迷惑な存在だけど、サクリストの連中のおかげで俺たち工務店の人間は食っていけるよ。」
「……すまなかった。生き返ったばかりだというのに。」
「それはお互い様。それに村育ちの俺が出来る仕事なんて力仕事が向いているしな。俺の身体は残っていなかったけど、この町のバフォメット?あの人のおかげでこの身体を手に入れて現世に戻った。」
男は女の手を握る。
「こうしてお前の手を握れる。お前と話が出来る。そして生き返ったら家族が出来ている。だったらさ、幸せな夢を見続けるためにも頑張らなきゃって思えるんだよ。まだ不完全な身体だけど、お前たちを守るだけの力は持ってるつもりだよ、フレイヤ。」
「…………ディアル。」
「ぱぱとまま、あつあつ〜♪」
「あつあつですわね〜、おくさま〜♪」
第二の人生。
例えここが本編に存在しない時間軸でも、幸せな夢はいつもどこかで繋がっている。

ちゅどーん

町外れで爆発が起こり、煙が上がる。
騒ぎの様子からして、サクリストが暴れているらしい。
もうすぐクリスマス。
アベックどもに聖なる裁きを下さんとバフォメットたちが暴れている。
「……ディアル。」
フレイヤが振り向くと子供たちもディアルも笑顔で頷いた。
「行って来いよ、聖騎士様。」
「馬鹿、もう聖騎士じゃないよ…。私は…………。」
フレイヤは変身ポーズを取る。
「町を、家族を守るために生き返ったお面ライダー。
 お面ライダーフレイヤだ。行くぞ、大!変!身!」







――――――――――――――――――――


次回予告

良い女にも秘密の時間と癒される時が欲しい。
ジャズのレコードが静かに流れるバーで
女は一人、悩ましげに溜息を吐く。
カクテルグラスを傾けるルナは何を思うのか…。
次回『風雲!セラエノ学園』第13話
『時には昔語りを』
君の瞳に乾杯。

「どうぞ、お客様のイメージのカクテル…、メチルアルコールです。」
10/12/16 22:34更新 / 宿利京祐
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■作者メッセージ
更新が遅くなりました。
お久し振りです。
仮面ライダー風のフレイヤ三部作完結です。
如何だったでしょうか?
いてっ、石は!
石は投げないで!!

次回はルナ先生が主役です。
さてさてどんな話になるのか…。
今から考えます(実話)。

では最後になりましたが
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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