読切小説
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胸の中の安らぎ
 ラーフラは、夜の街を一人でさ迷い歩いていた。行く当てはない。家から追い出されてさ迷い歩いているのだ。
 酒場から漏れる明かりが、ラーフラの顔を照らす。顔中が青黒く染まり、腫れ上がっている。仕事場の監督者と母親から殴られたのだ。
 酒場から出てきた男が、歌いながら出てくる。男からは酒とニンニクの臭いがする。ラーフラとぶつかり、ラーフラを地面に突き倒す。
「邪魔なんだよ、このガキ!」
 男は、ラーフラを繰り返し蹴り上げた。痩せた子供を、執念深く力を込めて蹴り上げる。ラーフラは、塵で汚れた地面を転がる。
 ようやく気が済んだ男が去ると、ラーフラはふらつきながら立ち上がる。鼻からは血が流れ、服には塵が付いている。ラーフラは、再びあてどなく歩き始めた。

 ラーフラは、体中の痛みによろめきながら歩い続ける。いつも殴られているが、今日は一段と酷かった。監督も母親も、殴り収めとして徹底的に殴ったのだろう。その上に、酔っ払いに散々蹴られたのだ。
 腹もすいている。身にまとっている襤褸は、夜気の冷えを防ぐことは出来ない。ただ、ラーフラにとっては、生まれた時から慣れている事だ。
 道行くラーフラを、二人の女が呼び止めた。その女達が持つ灯火が、女達の姿を照らす。露出度が高く派手な格好をしている。彼女達は芸人らしい。
 ラーフラは、何も答えずに走り出す。ラーフラは、今まで芸を楽しんだ事はほとんど無い。子供ながら働いているラーフラには、芸を見ている暇はない。時間がある時に一度路上で見た事があるが、ラーフラに金が無いと知ると、その芸人達はラーフラを殴った。それ以来、芸人には近寄らないようにしている。
 女達を振り切ったラーフラは、一軒の建物の前に止まった。豊かな人の住む家らしく、立派な造りの建物だ。窓から家の中が見える。暖かそうな家の中には、自分と同じ年頃の子供がいる。両親と一緒においしそうな料理を食べていた。その子供は、きれいで清潔そうな服を着ている。両親は、やさしそうな態度で子供に笑いかけている。
 ラーフラの中で、何かが渦巻く。ラーフラは、人々が寝静まるのをじっと待つ。そしてその家の納屋の前に忍び込んだ。
 草と木の枝を集めて小山を作る。そして、道中でくすねて来た火打石を、懐から取り出す。傷んだ体では、火を起こす事は苦労する。だが、やがて火が燃え始める。ラーフラは、燃える枝を一本取りだして、納屋に付けた。家は石造りであり、火を付ける事は出来ない。だが、家に隣接している納屋は木で出来ており、火を付ける事は出来る。
 納屋に付けた火は、次第に大きくなってゆく。ラーフラは、炎を見ながら気分が高揚してくる。炎を見ていると、体の奥から快楽が湧き上がって来る。そして、自分の痛みと苦しさが薄れていく。ラーフラは、炎を見ながら低く笑う。
 こんな家も、こんな街も燃えればいいんだ。ラーフラは笑う。何もかも燃えればいいんだ!ラーフラの瞳は、炎を反射して赤く染まる。
 激しい音と共に蒸気がたち、炎が小さくなる。水のような物が炎にかけられていた。ラーフラが振り返ると、二人の女が立っている。ラーフラに声をかけた芸人達だ。水のような物は、左側の女から放たれている。
 ラーフラは、女達とは逆の方向へ走り出す。闇に紛れて逃げようとする。だが、傷んだ体は上手く動かない。
 ラーフラは、羽毛のような物で体を包まれた。同時にジャスミンのような香りがラーフラを包む。ラーフラは、羽毛に包まれて動けなくなる。翼を生やした女が、ラーフラを翼で捕えているのだ。水を放っていた女の隣にいた女だ。ラーフラはもがくが、逃れられない。
 こうして放火をした少年は、魔物娘に捕えられた。

 ラーフラの取り調べは、役所の治安部門と愛の女神の信徒が合同で行った。ラーフラを捕えたのは、愛の女神に仕える踊り子アプサラスと楽師ガンダルヴァだ。アプサラスは水の精霊であり、ガンダルヴァは神鳥である。二人の手で捕えた事に加えて、ラーフラの住む地域では愛の女神が勢力を持っている。それでアプサラスとガンダルヴァは、取り調べに同席出来たのだ。
 ラーフラは火を付けた事は認めたが、動機については話そうとしなかった。苛立った取り調べの役人は怒鳴ったが、アプサラス達がなだめる。そして彼女たちは、ラーフラの体を調べる事を主張した。ラーフラの顔が腫れ上がっている事から、体の他の所にも怪我があると見なしたからだ。
 ラーフラの服を脱がすと、体中にあざがあった。仕事場の監督と母親、通りすがりの酔っ払いに暴力をふるわれた跡だ。アプサラス達は、すぐにラーフラの治療を行う。そして、役所と合同でラーフラの身辺調査を行った。
 調査の結果、ラーフラが職場や家庭で虐待を行われ、家から追い出された事が分かった。ラーフラの職場の監督と、ラーフラの母親は捕えられた。ラーフラは、愛の神殿が引き取って更生させる事となった。更生は、ラーフラを捕えたアプサラスであるシャンティが担当する。

 すべてが憎い。ラーフラは、据わった眼で辺りを見回す。白い花崗岩と大理石でできた神殿は、繊細で緻密な装飾を施されている。壁や天井には、様々な愛の姿が彫られている。男女の交歓を艶麗に描いていた。その愛の描写は、ラーフラを苛立たせる。
 ラーフラは、愛の神殿に引き取られて教育を受け、労働を課せられていた。きちんと食事と休息を与えられた。住む場所や与えられた衣服は、清潔である。今までのラーフラの環境に比べると、格段に良い。だが、憎しみは消えない。
 ラーフラには、貧困と虐待の記憶が積み重なっている。その記憶は、ラーフラを執拗に責め苛む。貧困と虐待が、ラーフラを育てて来た。ラーフラの心を育んできたのだ。
 ラーフラは、炎の事を思い出す。捕えられる原因となった放火した時の炎だ。あの炎は、ラーフラが見た物の中で最も美しいものだ。自分の痛みと苦しみを癒してくれた。あの時、自分が何を望んでいるのか、何をすべきか分かったような気がした。
 ラーフラは目をつぶる。自分の手で家が、人が燃えていく。街が、国が、世界が燃えていく。世界が赤に飲み込まれていく。世界を焼き尽くす炎、それこそが心から望んでいるものだ。ラーフラは恍惚とする。
 だが、ラーフラの炎は取り上げられた。愛の女神の名のもとに、シャンティ達が取り上げた。ラーフラを癒してくれるものを取り上げたのだ。ラーフラの中で、過去の痛みと苦痛が癒される事無く渦巻く。憎悪が湧き上がる。
 ラーフラは、普段はおとなしかった。だが、ラーフラの憎悪は噴出するきっかけを求めている。ラーフラと同じく、愛の神殿で更生を受けている少年がいた。その少年は、ラーフラを弱者と見なして嫌がらせを始めた。それは、ラーフラが闇討ちをしてその少年に重傷を負わせるまで続いた。後ろから農具で頭を殴られた少年は、危うく頭蓋骨が陥没するところだったのだ。
 ラーフラは、懲罰房に入れられた。石造りの殺風景な部屋だ。その中でラーフラは、憎悪に満ちた目で闇を見つめていた。

 ラーフラは、自分の部屋へ戻ろうとしていた。一日の教育と労働が終わり、食事をとった後だ。懲罰房を出た後、ラーフラは一人部屋を与えられた。更生を受ける子供たちは相部屋が普通だが、ラーフラは危険だということで一人部屋になったのだ。ラーフラは、一人部屋を歓迎した。誰とも一緒になりたくなど無かった。
 部屋には人がいた。肉感的な体形と褐色の肌を持った踊り子であるシャンティだ。胸と下腹部をわずかに覆った踊り子の服を着ている。明るい緑青色の瞳で少年を見つめ、温厚そうな顔に微笑みを浮かべている。
 ラーフラは無表情に見つめ返す。仮面の下では怒りが渦巻く。一人になれる時間を奪われたくは無い。自分から炎を奪い取った者など、見たくは無い。
 シャンティは、寝台に腰を掛けている。そしてラーフラを手招く。笑みを浮かべる口が開く。
「さあ、一緒に寝ましょう。疲れているでしょう」
 ラーフラは、怪訝そうにシャンティを見返す。何を考えているんだと、声に出さずに呟く。
 シャンティは立ち上がり、ラーフラを引き寄せた。ラーフラは、柔らかい感触と乳のような甘い匂いに包まれる。シャンティは、ラーフラを抱きしめるとそのまま寝台へと引き込む。ラーフラはもがくが、振りほどくことが出来ずにシャンティと共に寝台に横たわる。
 ラーフラは、シャンティの胸に顔を包まれた。シャンティの胸は、薄い生地で出来た面積の少ない服で少しばかり覆われている。豊かな胸のほとんどの部分がむき出しだ。温かく柔らかい胸が、ラーフラの顔を愛撫する。胸の甘い匂いが鼻を覆う。
 ラーフラは、怒りが湧き上がりはね除けようとする。だが、シャンティの胸から逃れられない。シャンティは、なだめるようにラーフラの頭を愛撫する。ラーフラは歯軋りする。
 ラーフラは低く笑う。シャンティがそのつもりなら、ラーフラはやってみたい事があった。ラーフラは、自分の股間をシャンティの体に擦り付ける。ラーフラの股間は、次第に固くなっていく。最近になり、ラーフラは性に目覚めていた。股間を始めとする体がうずくのだ。特に、神のために踊るシャンティ達アプサラスを見ていると、股間が抑えよう無くなる。ラーフラは、自分を抱きしめるシャンティに欲望を伝えた。
 シャンティの右手がラーフラの腰に伸びる。なめらかな手は、ラーフラの腰と尻をゆっくりと愛撫した。シャンティの体は、ラーフラに応える。ラーフラの股間を、むき出しの腹や太もも、わずかに服で覆われた下腹部で愛撫する。
 ラーフラは、シャンティの顔を見上げた。シャンティの顔は整っているが、整った容貌に有りがちな冷たさは無い。シャンティは、柔らかい笑みを浮かべて見つめている。そして左手で頭を、胸で顔を愛撫し続ける。シャンティはラーフラのズボンを脱がせ、下履きを脱がせていく。むき出しとなったラーフラの男根をゆっくりと愛撫する。
 ラーフラは体を震わせる。男根から快楽が体中に走り抜けたのだ。ラーフラは性に目覚めたばかりであり、その快楽を御する方法を知らない。顔を充血させながら体を震わせ続ける。
 シャンティは、胸をわずかに覆う服をずらす。硬くなった乳首が露わとなる。シャンティは、乳首をラーフラの口に押し当てた。ラーフラは充血した顔で見上げるが、そのまま乳首を口に含み、すがるように吸い付く。シャンティはラーフラに胸を含ませ、手で男根をなで回し続ける。
 ラーフラの口の中に甘い味が広がる。シャンティの乳首から甘い液が出ていた。
「さあ、私の乳を飲みなさい。私達アプサラスは、乳を出す事が出来るのよ。おいしいからね」
 ラーフラの男根は絶え間なく愛撫されている。快楽に耐える事は出来ない。ラーフラは、シャンティの胸を夢中で吸う。ラーフラの口の中に、甘く、濃く、それでいて爽やかな味が広がっていく。男根の快楽と口の中の甘さが、ラーフラの頭と体を支配する。
 ラーフラのペニスは弾けた。激しい衝撃が男根から体中に爆発的に広がる。ラーフラの目の前が真っ白になる。頭の中で白い光が繰り返し弾ける。
 気が付いた時、ラーフラはシャンティの胸の中に顔を埋めていた。胸は、白い乳と透明な涎と涙で濡れている。ラーフラは、頭がはっきりしない。
 シャンティは、右手を自分の顔の前にかざしていた。その褐色の指と手の平は、所々が白濁液で汚れている。強い臭いがその手から放たれ、ラーフラの鼻に突き刺さる。シャンティは、手を汚す白い液を楽しそうに弄り回していた。そして、ゆっくりとその白濁液をなめ取っていく。刺激臭を放つ液を、おいしそうになめ取っていく。
「気持ち良かったかな。もっと気持ち良くしてあげるからね」
 シャンティは、ラーフラの男根を太ももの間にはさみ込んだ。なめらかだが弾力のある太ももが、ラーフラの男根を愛撫して回復させる。男根を濡らす液が、太ももの滑りを良くする。再び、男根から体中に快楽が放たれた。目の前に白い光が弾け始める。
 シャンティの下腹部をかろうじて隠していた服がずれており、快楽の泉が露わとなっていた。ラーフラの男根は、熱い泉の中に飲み込まれる。その熱い肉と粘液の泉は、渦を巻いて少年のものを奥へと引き込む。
 ラーフラは、体と頭が快楽の渦に巻き込まれる。白い光が繰り返し目の前で、頭の中で弾けた。ラーフラは、夢中になって乳首を吸い上げる。ラーフラの口の中に乳が広がり、甘い匂いと味が口の中を占めていく。
 ラーフラの男根は、再び弾けた。泉の中へ少年の精液が放たれていく。男根と腰が弾けて溶け落ち、液となって放たれているかのようだ。少年は快楽の渦の中で声を上げ続ける。
 気が付くと、やはりシャンティの胸の中でいた。シャンティは、ラーフラを胸に抱きながら愛撫している。穏やかな気持ちの良さがラーフラを包んでいる。ラーフラは、それに抗う気は無い。
 ラーフラの体は、重い疲れが占めていた。その心地良さを感じる疲れは、ラーフラを眠りへと誘う。ラーフラの意識は薄らいでいく。
「さあ、ゆっくりと眠りなさいね」
 穏やかな声が耳を愛撫し、柔らかな感触が顔と頭を愛撫する。ラーフラの瞼は閉じていく。
 ラーフラは、生まれてから感じた事の無い安らかさの中で眠りに落ちて行った。

 この日から、ラーフラとシャンティは共に寝るようになった。二人は、寝る前に性の快楽を貪り合う。
 ラーフラは、知ったばかりの性の快楽にたちまち溺れた。性愛の踊り子であるシャンティの性技に夢中になったのだ。シャンティは、様々な性技を用いてラーフラに快楽を与えた。ラーフラにとって、シャンティは無くてはならない者となったのだ。
 ラーフラの中には、まだ炎がある。人を燃やし、街を燃やし、世界を燃やす炎。ラーフラの痛みと苦しみを癒す炎。ラーフラの炎は、まだ消えていない。
 ただラーフラは、燃やす事は先延ばしにしている。今すぐに炎に陶酔せずとも良いような気がする。それよりも、今は性の快楽に溺れたい。
 そしてラーフラは、シャンティの胸の中で心地の良さを感じるようになっていた。性の交わりの後の充足感のある疲れを感じながら、ラーフラは暖かな胸に顔を寄せる。そうして眠りへと落ちていく。生まれてから感じる事の無かった安らぎが、そこには有る。
 乳海から生まれたと言われる水の精霊は、胸の中の少年を穏やかな眼差しで見つめていた。
16/03/09 23:03更新 / 鬼畜軍曹

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