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エロ毛玉
「ヨシキよ、我の毛づくろいをせよ」

 ある土曜日。穏やかな日差しが窓から差し込む午後のひと時。
 陽光を浴びながらリビングでくつろぐ秋田芳樹の耳に、同居人であるケット・シーの命令が飛んできた。
 
「我は退屈である。なので暇潰しもかねて、我の面倒を見るのだ。嫌とは言わせぬぞ」
 
 彼女は元は芳樹の飼い猫であり、彼とは長い付き合いであった。そしてある日、仕事を終えた芳樹が家に帰ってくると、その猫は何の前触れも無しに「彼女」へと変貌を遂げていたのだ。彼女――元飼い猫の「べに子」曰く、ご主人様が好きすぎて、気づいたらこうなっていたとのことである。
 以来、べに子はケット・シーとして、いつもと変わらず芳樹の家でゴロゴロしていた。芳樹もそんな彼女を拒絶せず、これまでと同じようにべに子と同棲を続けた。
 
「今あ? ちょっとめんどくさいから後にしてよべに子ー」
「べに子と言うでない。今の我は高貴なる猫の魔物であるぞ。故にそれに相応しい名前、女帝クリムゾンと呼ぶのだ」

 そうして魔物化したべに子であったが、ケット・シーとなった彼女は若干面倒くさい性格になっていた。元からそんな性格だっただけで、こちらがそれに気付かなかっただけかもしれない。
 とにかく、今の彼女はまさしく「我が儘な女帝」であった。飼い主と飼い猫という立場を無視し、事あるごとに芳樹を顎で使うようになったのだ。
 
「――まあ、そなたがかつての呼び名に愛着を持っているなら、好きなだけべに子と呼ぶがよい。我は気に食わんが、そなたがどうしてもと言うなら、許可しないでもないぞ?」

 しかし何だかんだ言って愛嬌はあった。べに子にはツンデレの素質があった。当然芳樹もそこに気づいていた。だから芳樹はべに子の言動に目くじらを立てず、良好な関係を築くことが出来ていた。
 当時捨て猫だった幼いべに子を拾い一緒に過ごすようになって、もう五年になる。これだけ一緒にいれば、お互い何を考えているのか手に取るようにわかるというものだ。
 だから二人は上手くいっていた。まさに最良のパートナーであった。
 
「だからやるのだ。やれヨシキ。我を退屈から解放するのだー」

 ケット・シーのべに子が腹ばいのまま芳樹の元に近づき、胡坐をかいた彼の太腿に顎を載せる。その反動で王冠が外れて転がっていく。言葉遣いはどこまでも尊大だったが、行動には可愛らしさが溢れていた。
 芳樹もそれを痛感した。そして可愛さのあまり自然と手が動き、べに子の頭を優しく撫で始めた。
 
「こらっ。頭を撫でるでない。毛づくろいをせよと言ったのだっ」

 最初べに子はそう言って反発した。しかし愛する主の手の感触には逆らえず、数秒で白旗を挙げた。
 
「ふにゃあ……」

 目を細め、耳を垂れ下げ、口から気持ちよさげな言葉を吐き出す。その様子が可愛らしくて、芳樹はもっとべに子を撫でていく。
 くうん、くうん。二人きりのリビングに、猫の甘える声が響く。
 
「……はっ」
 
 しかしある程度撫でたところで、べに子がようやく我に返る。
 
「やめい! やめぬか! 我は毛づくろいをせよと言ったのだ!」

 べに子が大声をあげて頭を動かし、芳樹の手を振り払う。一方で手を払われた芳樹は嫌がる素振りを見せず、ただ苦笑するだけであった。
 先方の注文を無視し、こちらが勝手に撫でたのだ。悪いのはこちらである。
 
「はいはい。毛づくろいな」

 なでなでを中断された芳樹は笑いながら、近くの棚の上にあった猫用ブラシに手を伸ばした。対するべに子は「まったくそなたは……」と頬を膨らませつつ、しかし芳樹がブラシを取る様子を期待に満ちた眼差しで見つめていた。芳樹の腿にも顎を載せたままである。
 口では拒否していたが、本当は彼とスキンシップを取るのは好きであった。平時は素直になれないだけだった。
 
「ほら、ブラッシングするから、座り直して」
「今度はちゃんと頼むぞ」

 ブラシを持った芳樹が声をかける。そのお願いを聞き入れたべに子が腿から顎を離し、芳樹の胡坐の真ん中に腰を降ろす。芳樹の体躯の中に直立した猫がすっぽり収まり、そこでべに子がおもむろにマントとリボンと下衣を外す。毛づくろいの時に邪魔だからだ。
 
「では頼む。優しく、しっかり整えるのだぞ」
「仰せの通りに」

 ほぼ生まれたままの姿になったべに子が、期待に胸膨らませながら命を出す。芳樹もそれに頷き、ブラシを使ってべに子を撫で始める。
 最初は頭。自慢のヘアスタイルを崩さぬよう、芳樹が慎重にブラシを動かす。櫛の先端が頭皮を刺激し、頭髪が整えられていく。べに子はその感触に喜びを感じ、だらしなく口を開けて鳴き声を発した。
 次に背中。毛並みにそって、優しく動かしていく。小さくなだらかな背中をブラシが上下する度に、べに子の唇から気持ちよさそうな声が漏れ出ていく。こちらもこちらで至福の心地である。
 
「腕行くぞ。力抜いて」
「うむ」

 宣言通り、芳樹が次は腕をブラッシングする。初めに右。次に左。芳樹がだらりと垂れ下がったべに子の腕を持ち上げ、肩から手にかけて丁寧にブラシ掛けする。べに子は抵抗せず、目を閉じリラックスした状態でそれを受け入れた。
 大好きな主が大切に自分をケアしてくれる。最高の瞬間である。
 
「べに子」

 そんな夢心地のべに子に、芳樹が声をかける。両手のブラシ掛けを終え、彼女の手を解放しつつ、芳樹が続けてべに子に言う。
 
「こっち向いて」

 前面のブラッシング。芳樹はそれを行おうとしていた。直接は言わなかったが、彼の意思はしっかり伝わっていた。
 
「よかろう」
 
 相手の意図を察したべに子は、しかし全く躊躇しなかった。言われるままに体を器用に動かし、その場で回れ右をした。
 べに子が再度腰を降ろす。ケット・シーとその主人が至近距離で向き合う。初めの頃は互いに赤面していたが今ではもう慣れたもので、視線が重なり合っても互いに全く動じなくなった。
 何も感じなくなったわけではない。伴侶の顔を間近で見られて、二人の心拍数は鰻登りだった。
 
「では、頼むぞ」

 芳樹の優しい瞳を見つめながら、べに子が芳樹に声をかける。べに子のつぶらな瞳を見つめながら、芳樹が無言で頷く。
 直後、べに子の首筋にブラシが当てられる。そこからまっすぐ、下方に向かって櫛が毛の中を進んでいく。
 
「ふっ……」
 
 ブラシが丘を越え、少し下り、腹を滑って股関節に到達する。そのままブラシが脚に向かい、毛並みを整えながらゆっくり進んでいく。
 
「うっ、ひうっ、ふんっ……」

 その最中、べに子の口から声が漏れる。それまでの物とは違う、艶っぽい雌の喘ぎだった。ブラシが自身の体を往復するごとに、その喘ぎが段々大きくなっていく。
 
「あッ、あッ、ふぅンっ、にゃあン……!」
 
 芳樹と愛を交わす中で、彼女の前面は後ろよりも敏感になっていった。首筋も、ほんの僅か盛り上がった乳房も、体毛に覆われたお腹も、芳樹に触れられるだけで簡単に感じてしまうようになったのだ。
 全ては主人のため。芳樹をより強く発情させるための、べに子の定向進化だった。
 
「あッ、ヨシ、キ……ィっ」

 体を小刻みに跳ねさせながら、べに子が愛する男の名を呼ぶ。芳樹はそれに応えず、一心不乱にブラシ掛けを続行する。
 自分が撫でる度に、愛猫がちゃんと反応してくれる。それが嬉しくて、芳樹はもっと彼女を悦ばせようと必死になった。それ以外考えられなくなっていた。
 
「ニャンっ! ニャ、フニャン! にゃああッ!」

 性感帯を優しくなぞられる。甘い電流が全身を走り、脳味噌が悦びで蕩かされていく。快楽の波に呑まれたべに子がおとがいを上げ、脇目も振らず、あられもない声を上げる。体中から汗が噴き出し、漏れ始めた魔力とそれが絡みあって、強力な催淫剤へと変化する。
 恋人だけを狂わせる魔の芳香。芳樹はそれを間近で浴びた。
 
「――べに子ッ!」

 耐えられるわけがなかった。完全に中てられた芳樹がブラッシングを中断し、正面からべに子を抱き締めた。
 芳樹の体温を直に感じる。芳樹の匂いを零距離で嗅ぐ。
 今度はケット・シーが高みに昇る番だった。
 
「ふにゃああああっ……!」

 抱きしめられた直後、べに子が口を開け盛大に吼える。彼女は絶頂した。体がそれまでの中で一番強く痙攣し、しかし抱擁は拒絶することなく、ありのままを全身で受け入れる。
 
「ああ、ああ、ああああっ……」

 その後昂る精神を落ち着かせようと、ケット・シーが芳樹に抱かれたまま息を整える。芳樹も何も言わず、べに子の頭をそっと撫でる。
 べに子が平静を取り戻すまで数分かかった。そして数分後、べに子はようやっと落ち着きを取り戻し、自然と笑みを浮かべることが出来るまでに回復した。
 
「……我慢できなかったのか? 忍耐のない奴め」

 直後、芳樹の肩に顎を載せ、笑みを浮かべながら放った第一声がこれである。上から目線の物言い。それがべに子が快癒したことを明確に示していた。
 芳樹はそれを聞いて、まず安堵した。我慢できなかったのはそっちも同じだろう、と無粋な突っ込みを入れることはしなかった。
 代わりに彼は素直に首を縦に振り、べに子を抱いたまま彼女に言った。
 
「ああ。我慢出来なかった」
「まったく。我は毛づくろいだけ頼んだのだぞ。我の許可なく勝手に発情するでない」

 偉大なるケット・シーが釘を刺す。芳樹は動じず、「仰る通りで」と受け入れる。
 間髪入れずにべに子の言葉が飛んでくる。
 
「だがまあ、我もちょっと興奮してしまった。だから今回はおあいこだ。そなたの無礼は不問とする」

 偉大なるケット・シーは寛大であった。芳樹の「無礼」をこれまでべに子が咎めたことは一度もないのだが、それをここで指摘するのは無粋である。
 実際芳樹もそこを突っ込まなかった。代わりに彼は空いた手をべに子の背中に添え、彼女のモフモフの背筋を優しく撫でていった。
 
「ふみゃあ……」

 直後、べに子が気持ちよさげに声を上げる。芳樹がそのままナデナデを続行する。
 
「よいぞ。王が許す。好きなだけモフるがよい……」
「御意に」

 リラックスし、だらけきった表情で、べに子が続きを催促する。芳樹も素直に応じ、べに子の体をほんの少し強く抱きしめる。
 柔らかな体毛と暖かな体温のダブルパンチ。おまけに汗の匂いの混じったべに子の魔力。もふもふでぬくぬくなケット・シーの前に、芳樹の心がどんどん癒されていく。そして角が取れ、穏やかに丸くなっていく心の中で、それとは別の感情が芽生えだす。
 
「夢心地であるか」
「最高だよ」
「そうか。我も抱きしめられて最高である。もっとモフモフせよ」
「うん」
 
 もっともふもふしたい。もっとぬくぬくしたい。
 もっとべに子を体で感じたい。
 
「べに子」

 その小さな体をきゅっと抱き留めながら、芳樹が小さい声で話しかける。彼は自分の欲望に抗うことを止めていた。
 芳樹が続ける。
 
「もっとしたい」

 簡潔な要求。耳元でそれを囁かれたべに子が、顎に乗せた頭を小さく上下に動かす。
 
「我もだ。体がムズムズして止まらんのだ」

 べに子の口から熱い吐息が漏れる。ケット・シーの両手が持ち上がり、芳樹の背中に回され、男の体を抱き返す。
 二人の体がさらに密着する。べに子が肩から顎を離し、至近距離で芳樹と向かい合う。
 
「我が許す。してくれ、ヨシキ」

 その体勢のまま、発情した雌が許可を出す。同じく理性を蒸発させ、股間をいきりたたせた雄がそれに頷く。

「ああ」

 頷いて後、芳樹が顔を前に動かす。べに子も同様に顔を動かし、互いの顔が近づいていく。
 雌雄の唇の先がそっと触れ合う。触れ合った唇がゆっくり重なり、隙間なく密着する。
 
「ん……」

 合体後、二人揃って口を開ける。舌を相手の口内に突き入れ、合体によって生まれた空間の中で互いのそれを絡ませ合う。
 
「ん、んちゅ、ちゅっ……くちゅ、じゅるっ」

 二人の唾液が混ざり合い、出来たそれを二人して躊躇うことなく嚥下する。粘り気のある液体がどろりと喉を通り、愛する人の濃厚な匂いが食道を駆け上って鼻腔を犯す。それを知覚する度に心臓が大きく跳ね上がり、ディープキスをより情熱的なものにする。
 
「はあ、はあ、くちゅ、じゅ、ぶじゅるっ、じゅぽっ、ぐちゃっ……」

 ケット・シーが口を窄め、相手の舌を強く吸引する。すると今度は人間の男が相手の頬を両手で挟み、逃げ場を無くした上で深々と舌を突き刺す。ケット・シーも負けじと攻め込んできた舌に自分の舌を巻きつけ、そこに付着した涎を一滴残らず舐め取っていく。男は自分の舌の上で這いずり回る軟体動物の感触に背筋を震わせ、さらに舌を伸ばして巻き付かれる面積を増やし、されるがままにする。ケット・シーもそれに応え、より深く口を密着させ、男の伸ばしてきた舌を精一杯舐めしゃぶる。
 発情した雄と雌の下品な口づけは、この後たっぷり一分続いた。
 
「ぷはっ」

 一分後、二人がようやく口を離す。互いの舌は伸び切って口の外へ突き出され、そこから伸びた唾液が名残惜しそうに千切れていく。
 唾液の残滓を口の周りにつけたまま、べに子と芳樹が近距離で見つめ合う。二人の顔は揃って真っ赤だった。興奮と羞恥と歓喜が、彼らの心を激しく揺さぶっていた。べに子の方は目に涙すら溜めていた。
 
「ヨシキ、気持ちよかったか?」

 確認を取るようにべに子が問う。首を縦に振りながら芳樹が答える。
 
「ああ、良かったよ」

 本心からの言葉。べに子もそれ以上は追及せず、ただ「そうか」とのみ返す。
 続けてべに子が芳樹に言い放つ。
 
「そなたのために、我が全力を出したのだ。そうなるのも当然であるな」

 言いながら無い胸を張り、自慢げな態度を取る。ケット・シーなりの照れ隠しである。芳樹もそこはわかっているので、特別不快には思わなかった。
 不快に思う代わりに、芳樹は得意満面なべに子に頬に優しく手を添えた。
 
「でも、もっと気持ちよくなりたいな」

 そのまま芳樹がリクエストする。完全なる奇襲である。
 直後、べに子は面食らった。それまで見せていた得意げな表情を驚愕のそれに変え、芳樹の顔をじっと見つめた。効果てき面だった。
 
「う、うむっ。よいぞ。そなたが望むなら、それをしようではないか」
 
 しかしそこはケット・シー。すぐ我に返り、平静を取り戻すことに成功した。若干言葉の頭が上ずっていたが、そこは芳樹は見ないことにした。
 べに子から許可が下りた。今大切なのはそれだ。ケット・シーを力任せに襲ってはいけない。それは猫に関わる者達の間で厳守されるべき大原則であった。
 もっとも、そんなルールがあろうと無かろうと、芳樹に嫌がるべに子を組み伏せる気は毛ほども無かったのだが。
 
「さあ善は急げだ。寝室に往くぞヨシキよ。我を担ぐがよい」

 完全回復したべに子が芳樹に告げる。芳樹も嫌な顔一つせず、べに子をお姫様抱っこの格好で持ち上げ、仲良く寝室へ向かった。
 件の寝室には布団が敷きっぱなしになっていた。いつ「こういうこと」が始まってもいいように、洗濯やクリーニングの時以外は常にこの状態が保たれていた。言うまでもないことだが、寝室に敷かれていたのはシングルサイズの直置きタイプ一組だけである。
 
「到着である。我を降ろすがよい」

 布団を目視したべに子が促す。言われた通りに芳樹がべに子を布団の上に降ろす。そして仰向けに降ろされたべに子は、自身の背中と布団がくっつくや否や、その場で芳樹を誘惑した。
 
「ヨシキよ、大儀であったぞ。その働きの対価として、我を犯す権利をやろう」

 両足を持ち上げてM字に開き、恥じらうことなく股間を堂々と晒しながら、べに子が上から目線で芳樹に告げる。ケット・シーの股の中央、瑞々しくピンク色に光る割れ目からは、既に透明の体液がしとどに溢れ始めていた。
 強気に接して来ていたが、要はそういうことである。
 
「何をしておる。早く来い。我をこれ以上焦らすでないわ……っ」

 さらに瞳を潤ませ、荒く息を吐きながら催促する。もう我慢の限界だった。
 芳樹も我慢の限界だった。
 
「べに子……ッ!」

 低い声で唸り、上からべに子に覆い被さる。小さくもふもふな体を両手で抱きしめ、既に硬くそそり立っていた怒張をべに子の割れ目に突き立てる。
 亀頭と陰唇が触れ合う。
 ずにゅり。熟した肉が裂け、肉棒をどんどん飲み込んでいく。
 小さな膣に男のペニスがすっぽり収まり、膣内に生え揃った襞がペニスをやわやわと包み込む。
 
「はうっ!」
「くうう……っ!」

 べに子と芳樹が同時に声を上げる。雌のそれは貫かれた衝撃から来る短い叫びであり、雄のそれは挿入と共にやって来た射精欲求を抑える呻きであった。
 それから暫く、二人は動くことが出来なかった。理由は違えど、共に息を整える時間が必要だった。
 
「……くっ、くふふふっ……」

 やがて体を硬直させたまま、べに子がおもむろに笑いだす。芳樹もつられて笑みを浮かべ、片手を動かしてべに子の頬を撫でる。
 
「幸せだ」

 芳樹の手に自分から頬を擦りつけつつ、うっとりした顔でべに子が呟く。芳樹は応えず、ただべに子の頬を撫で続ける。
 べに子が再び言う。
 
「そなたのモノが、我の中に奥まで入っておる。性器同士を結合させて、そなたと一つになっている」
「ああ」
「たまらぬ。至福だ。何度味わっても全く飽きぬ」

 べに子の口から次から次に賛辞が飛び出す。立て板に水を流すかのような饒舌ぶりだった。
 当然である。それらは全て本心であり、べに子は己の心を曝け出すことに躊躇しなかったからだ。
 
「好きだ、ヨシキ。これからも我だけに愛を向けてくれ。我だけのモノになっておくれ」

 そしてケット・シーが本音をこぼす。べに子の心の底からの願い。芳樹は何も言わず、肉棒を膣に挿し込んだまま、べに子を強く抱きしめた。
 
「動かすよ」

 その体勢のまま、芳樹が小さい声で告げる。
 べに子が頷く。お返しとばかりに小声で返す。
 
「めちゃくちゃにして」
 
 任せろ。芳樹が応え、抱き締める腕に力を込める。
 もふもふの矮躯を上半身で抱き締めたまま、芳樹が腰を上下に動かし肉棒を打ち付け始める。
 
「うっ、ふうっ……あッ、あッ、はあッ……!」
 
 完全に発情したケット・シーの膣内は燃え盛り潤っていた。びっしり生えた襞が剛直に吸い付いて体温を流し込み、べに子の熱を芳樹に伝える。溢れる愛液が潤滑油となり、燃え盛る襞と皮を濡らしてスムーズに擦らせていく。
 肉棒が往復する度に、結合部からぐちゃぐちゃと卑猥な音が漏れ出す。一突きごとに二人の脳味噌に電流が迸り、雄と雌を咆哮させる。
 
「あッ、あッ、ふうっ、あンっ、にゃッ、やぁンッ!」
「べに子、ああッ、べに子おっ!」

 歓喜の電撃が脳を焼き、頭の中を快楽物質でいっぱいにしていく。思考が桃色に染まり、快感を貪ること以外何も考えられなくなる。
 気持ちいい。気持ちいい。
 もっとしたい。もっと犯されたい。
 
「ヨシキっ、よし――ご主人様っ! もっとっ! もっと我を突いてッ! ご主人様ので我を壊してッ!」

 欲望を隠すことなくべに子が叫ぶ。芳樹は応答する代わりに腰のスピードを速めていく。声をかける余裕もなかった。
 直後、肉同士のぶつかる音が大きく変わる。尻に連続して平手打ちを食らわせたような鋭い音が、挿入の度に轟くようになる。
 暴力的な音が響けば響くほど、べに子の口から甘い声が漏れていく。それを聞く芳樹も眉間に皺を寄せ、限界が近いことを表情で報せる。
 
「出すぞ! イクぞ! べに子の中にぶちまけるぞっ!」
「うんっ……うんッ! 出してッ! 我の中にっ、ご主人様のみるく、いっぱいはきだしてっ!」

 両目から期待と歓喜と興奮の涙を滝のように流しながら、べに子が芳樹に力いっぱい懇願する。射精の許可を得た芳樹がさらに腰に力を込め、力任せに肉棒を打ちつけラストスパートをかける。
 セックスに狂った二匹の獣が、等しく淫獄へ堕ちていく。結合部から泡立った汁を垂れ流し、潤んだ瞳で見つめ合い、熱い吐息を相手の顔に遠慮なくぶちまけ合う。
 そしてついにその時が来る。まず芳樹が叫ぶ。
 
「イクッ――!」

 そして深々と肉棒を突き刺す。亀頭の先が子宮口と激突し、鈴口から勢いよく白濁液が噴出する。
 体の奥深くで二重の衝撃を味わったべに子が、魂を吐き出す勢いで絶叫する。
 
「――はにゃあああああああッ!?」

 子宮に直接精液が注がれる。その熱量と重量がべに子を狂わせ、何度も何度も嬌声を上げさせる。
 
「ひっ、ひッ、ひい――にゃあン! にゃ、ああああああッ!」
 
 心が快楽に狂う一方、べに子の肉体は冷静に貪欲になった。もっと欲しい。全部欲しい。己を汚す最愛の汁を一滴残さず飲み干そうと膣をうねらせ、剛直を根元から搾り上げる。
 襞が蠢き、表面をなぞる。膣のうねりを感じ取った芳樹の体は正直に反応し、玉袋にあった残りの汚濁を全て先端の肉穴から噴き出していく。愛の証を全て主に捧げようと、保持する全てを主に叩き付ける。
 
「飲め! 全部飲め!」
「のむッ! 全部飲むッ! ご主人様の孕み汁、全部飲みましゅうううっ!」

 けだものが狂い叫ぶ。猫が幾度目かわからない絶頂を迎え、辺り構わず潮を噴き出す。男が残りの精液を吐き出し、愛猫のケモノまんこを真っ白に汚す。
 嬉しい。嬉しい。愛するご主人様とずっと一緒に生きてきた猫が、ご主人様の愛を受け取り恍惚の表情を浮かべる。
 
「はあああああっ……!」

 べに子が芳樹にしがみつき、甘い吐息を漏らす。芳樹もべに子にしがみつき、射精の余韻に浸る。
 二匹の獣が互いの温もりに酔いしれる。やがて快楽の波が引き、理性を取り戻していく。
 
「好きです……ずっと好きでした……」

 その中でべに子が、うわ言のように芳樹に告げる。芳樹はそんなべに子の頭を撫で、彼女の汗まみれの額に己の頬をくっつけながら言葉を返す。
 
「俺も好きだよ、べに子」
「えへへ……っ、やったあ……♪」

 芳樹の返事を聞いたべに子が、顔をくしゃりと綻ばせる。芳樹もそれを見て心を弾ませ、穏やかな面持ちで彼女を撫で続ける。
 二人の抱擁は、その後しばらく続いた。
 
 
 
 
「至福であった」

 数分後。いつもの調子に戻ったべに子が、芳樹に対し労いの言葉をかける。この時二人は結合を解き、ぐしゃぐしゃに濡れた布団の上で仲良く横並びに寝転がっていた。二人して全裸で汗だくなのは言うまでもない。
 
「我を悦ばせたこと、まっこと大儀である。褒めてつかわすぞ」

 顔をいまだ僅かに紅潮させながら、しかし威厳は損なうことなくべに子が言葉を放つ。芳樹もしれっとそれに答える。
 
「王直々に褒めてくださって恐縮の至りでございます」
「そうであろう、そうであろう。やや棒読みな気もするが、そこは不問としよう」

 上機嫌にべに子が返す。いつものやりとりなので、どちらも不快に思うことはなかった。
 言葉の上ではこうでも、心は繋がっていた。
 
「ヨシキ、我を抱き寄せよ」

 べに子が続けて命令を飛ばす。芳樹はそれに頷き、手を伸ばしてべに子を抱き寄せる。
 汗と体液でびしょびしょになったべに子の毛並みは、それはもう悲惨なことになっていた。整えたはずの体毛は軒並み萎れ、伸びたまま皮膚に張り付いてすっかり大人しくなってしまっていた。もふもふな手触りはもはやどこにもない。
 
「こりゃ乾かさないと駄目そうだな」

 べに子の毛並みの惨状を脇腹越しに感じ取りながら、芳樹が苦笑交じりに言い放つ。べに子も「うむ」と首を縦に振り、そして自分から芳樹に引っ付いて彼に言った。

「我ながらよくもここまでべたべたになれたものよ。自慢の毛ツヤが台無しだ」
「ちゃんと手入れすれば元に戻るよ。俺も手伝うから」
「うむ、そうであるな。だがその前に、一度入浴せねばならぬ。綺麗さっぱり生まれ変わって、それから仕切り直しと行こうぞ」
「そうだな」

 べに子の言葉に芳樹が反応する。同時にこの時、芳樹はべに子がこの次に何を言い放つのか既に予想をつけていた。
 
「ヨシキよ、我の体を洗うことを許そう。浴場にて我の相手をするが良い」
「了解」

 案の定、予想通りの言葉が来た。そうなることを予想していた芳樹は、驚くことなくそれを承諾した。
 しかし芳樹が早速「王の命令」を実行しようと身を起こしかけたその時、べに子が芳樹の腕を掴んだ。
 
「ん?」

 引き留められた芳樹がべに子の方を見る。べに子は芳樹の顔をじっと見つめて来ていた。尊大なケット・シーの顔は真っ赤に染まり、若干バツの悪そうに苦い表情を浮かべていた。
 
「どうした?」

 違和感に気づいた芳樹がべに子に問う。べに子は芳樹を見つめたまま何度か口を開きかけて言葉を濁し、その後意を決して口を開いた。
 
「よ、ヨシキよ。この後の入浴なのだが」
「それが?」
「その……我を満足させられたのなら、褒美をやらんでもない……ぞ?」

 もじもじしながら、上目遣いでべに子がすり寄って来る。びしょ濡れの体を申し訳なさそうに引っ付け、頭から煙が出そうな程に顔を真っ赤にして芳樹に問う。
 芳樹が言葉を失う。
 
「おま」
「いつも、そなたは我に尽くしてくれているからな」

 それを遮ってべに子が続ける。
 
「ご、ご褒美だ。これは我を愛してくれることへの、ささやかなご褒美である」
「――」
「受け取るがよい……受け取って、ください……」

 最後の言葉は尻すぼみになり、芳樹の耳には届かなかった。
 しかし気持ちは伝わった。主を愛する猫の想いは、しっかり彼の胸に届いた。
 
 
 
 
 風呂場で第二回戦を始めたのは言うまでもない。
18/05/12 22:02更新 / 黒尻尾

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