連載小説
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act10・伝説聖人フレイヤ・接触編
「………よし、起動実験を開始する。総員、持ち場に就け!」
「アーッ!」
セラエノ学園科学実験室に集結したサクリスト科学班。
計器をチェックし、ケーブルが間違いなく接続されたことを各員が確認する。
パソコン画面にはエネルギー供給状況がリアルタイムで掲示されている。
「サークルエンジン、異常なし!」
「エネルギー充電率…60…、70…、80……、すごい……!通常の5倍以上のエネルギーゲインだ…。」
「ゲージが付いたぞ!」
「ニューロ加速器……、発信源!」
何かが色々と間違っているが、彼らは至って本気である。
そして彼らの視線の先にある、カプセルの中にダンボール箱を再利用して造られた赤いカツラを被った人型の何か。
ボディパーツの前面に『メカ=フレイヤ』と油性マジックで書かれたそれは、数え切れないコードに繋がれて、その目覚めを待っている。
「……班長、せめてもう少し予算があったら良かったですよね?」
「…言うな。予算が500円しかいただけなかったのだ。」
「せめて3000円でもあれば、顔くらいなら美少女に出来たのに……。」
「だが、学園長さんのご好意がなければ……、完成は出来なかった……。彼の協力なくては、このフレームすら組めなかったところだ。」
メカ=フレイヤのスペック。
ダンボール箱を切ったり張ったりした装甲。
学園食堂から譲ってもらった使用済み割り箸を丹念に洗い再利用された、地球にやさしいエコなフレーム。
サクリスト大首領、稲荷の宗近所有の最新型ゲーム機、プレイスポット3を本人には無断だが、ロウガの許可を得て分解、改造して使用されたメインコンピューター。

カラカラカラカラカラ……

「ちゅー!」
そして胸部メイン動力炉に野良ハムスター2匹が車輪を回し続ける。
「エネルギー充填100%、起動出来ます。」
「よし、メカ=フレイヤ…、起動せよ!!」
「アーッ!」

ガコン

昔の特撮ものによく出てくる無駄に大きいレバーを戦闘員が動かす。
…………………………あれ?
戦闘員が何度レバーを動かしてみても何も起こらない。
「……おかしいな。接触不良か?」
班長はデータをすべてチェックさせたが、すべて正常、異常なし。
「………やはり割り箸とダンボールでは駄目なのか!」
「やっぱ無理があったんですよ。どう考えてもタイトルからして無理でしょ。死んだシリアス向けのヴァル=フレイヤをこのSSで登場させるなんて、地上でジオングを動かすぐらい無茶な話ですよ…。結局、このタイトルだって口からでまかせで次回予告やっちゃった作者の無駄な足掻き………はっ!?待ってください!エネルギーの充電は終わったはずなのに…、まだエネルギーがメカ=フレイヤに流れ続けています!」
「な、何だと!?危険だ、今すぐシステムを強制切断しろ!!!」
「駄目です、こちらのアクセスを一切受け付けません!!」
「こちら側のシステムに異常…!?まさか、ヤツめ……、こちらのデータを喰っているのか!」
「学園中の電力供給、低下!まもなく学園中が停電します!!」

バチン…

あたりが真っ暗になり、科学班のパソコンの光が消える。
「あ、ブレーカーが落ちた…。」
「だが、助かった。これでメカ=フレイヤは安全だ…。」
「でも……、絶対パソコンの中身が飛びましたよね?」
「……………復旧作業は徹夜だな。」

ブゥン………

「何だ!?」
ケーブルに繋がれたメカ=フレイヤのダンボールに穴を開けただけの目に禍々しい光が灯る。
ゆっくりと、鉄の部品を使っていないというのに金属の擦れる音と共に首が持ち上がる。
『ワ、ワレ……、メ、メカ=フレイヤ…。』
「い、いきなり喋った!?」
「馬鹿な…、言語機能なんて付けてないぞ!!」
『ジンルイマッサツ、ジンルイマッサツ。』
「しかも危険だ!」
ダンボールの隙間から光が漏れる。
プレイスポット3のCPUを使われた悪魔がダンボールの顔を横一文字に引き裂き、凶悪なその口を開く。
「こ、こんなギミック付けていないのに!?」
『セッカクダカラ、ロボットラシイコトデモハジメヨウ……。』
背中が裂け、悪魔のような生々しい蝙蝠の翼が生える。
「な、何をする気なんだ!」
『フッフッフ…、モチロン……、セカイセイフク!!シハイシテヤルゾ、ニンゲンドモォォォーッ!!!ウリィィィィィィィィーッ!!!!!』
今、人類(フンドシ科学班)は自らの行いに恐怖した。



――――――――――――――――――――――




(画面の前のみんなも歌ってみよう。)
『復活のフレイヤ』

聞こえるか、聞こえるだろう
遥かな溜息

土の中 心揺さぶる
目覚め始まる
大地割り そびえ立つ姿
諦めの証か

伝説の聖人の力
ダンボール切り裂く
雄叫びが電光石火の釘バットを呼ぶ
呆れるな 瞳逸らすな
復活の刻

人よ命よ
始まりを見る
色々ラナウェイ、フレイヤ
フレイヤ
色々ラナウェイ、フレイヤ
フレイヤ





「名もなき町、損傷率60%を超えました!」
メカ=フレイヤが暴れ始めて1時間。
俺は学園長室をメカ=フレイヤ対策室として設け、アヌビスやバフォメットを俺のメカ=フレイヤ撃破作戦参謀、兼避難民を誘導するオペレーターとして指揮を執る。
まったく……、アスティアと綾乃は隣町まで買い物に行っちまったし、
宗近は温泉に浸かりすぎてのぼせたのと、風呂で酒飲みすぎてゲーゲー吐いて寝込んでるし、
バイトのサイガは昨日の晩、激しすぎたらしくて干乾びてるし、
コルトのお嬢ちゃんはお腹に二人目が入っているのと切れ痔で動けないし、
俺はアスティアと綾乃に存分に責められて、ぎっくり腰で動けないし……。
よりによって戦える人間が誰一人いない時に、こんな化け物が…!
…………え?
………サクラとかマイアとかダオラはどうしたのかって?
ああ、あいつらなら……。




「マ、マイアさん!ぼ、僕……、もう…!!」
「うん……、サクラ…!!出して…、いっぱい出して……!!!」
「ふふふ、サクラ…。そなた、すっかり後ろを犯されても気持ち良くなってしまったな。さぁ、我がそなたの後ろを犯してあげるから、マイアに溢れる程、そなたの精を吐き出すが良い。その代わり、マイアに一回出したら、我には二回しておくれ♪」
「は…、はい……。ダオラ…さ……ひゃん!」
「違うであろう?ダオラお姉様が抜けておるぞ♪ふふふふふ…、本当にお尻で感じてしまうなんて、サクラはとんだ変態、であるな。もっと上手におねだりしてごらん……。この、変態君。」
「イく…!イっちゃうよ、サクラ!!」
「ぼ、僕……、お、お尻を…、あなたの尻尾でズボズボされながら好きな人に射精してしまう…へ、変態なんです!!だから、ダ、ダオラさん!!!もっと……、僕を苛めて…!!も、もう駄目……、イきます!!僕、イっちゃいます!!!」

「「調教、完了(にやり)。」」




邪魔すると後が怖そうだからな…。
俺とアスティアの娘だけあって、惚れた男に邪魔が入ろうものなら、宗近を凌ぐ爆発力を持っているからなぁ…。
正直、万策尽きた。
「ふ……、まったく…。本編で生き延びたかと思ったが、ここで俺の人生は終わりのようだな…。」
「諦めるでない学園長殿。こんなダンボールの敵一匹、倒すなど造作もない!」
「……いえ、今世界に侵食(アクセス)して調べてみたのですが、原材料がダンボールと割り箸のはずなのに、ダンボールがまるで鋼のように進化し、割り箸のフレームがオリハルコンのように丈夫にしなやかに進化しています。学園中の電力とサクリスト科学班の研究データを取り込んで自己増殖、自己進化をしたようです。」
「……………ゲッター線じゃねえんだぞ。」
「しかもデータを見直したところ、あれの身体中に流れる冷却水なんですが…。例の温泉の水を使っているらしいです。しかも私やダオラさんやイチゴ先生、ロウガさんや宗近さんの入った後のもっとも魔力が濃いくなったお湯を冷やして使っているので、魔力と科学とエコの悪魔ですよ、あれ。」
………何てもの作るんだ、あいつらは。
…そうだ、最近町に出没する俺の孫でも捕まえて戦わせれば!
「…駄目ですよ、ロウガさん。彼、基本的にあなたと同時には存在しません。」
「な、何でだ!?」
「………同じ名前なので作者と読者が混乱するかもしれないからです。」
それは作者の技術力がないだけだろ。
万策尽きた…な…。
「ふっふっふ、学園長殿。諦めるなどオヌシらしくない。ワシに妙案がある。」
「ほほぅ、バフォメット先生。どんな案だ?うちのわん娘を出すのかい?」
「そうではない。ほら、アヌビス。オヌシも尻尾を振って期待に満ちた目をしないのじゃ。メカ=フレイヤが相手ならば、こっちもフレイヤをぶつければ良いのじゃ。ワシを誰だと思っておる。超高額医療を施す闇の無免許医、ブリッコ・ジャッコと言えば魔界でも知らぬ者はおらぬ藪医者よ。アヌビスを改造した手腕で、墓の下で眠るヴァル=フレイヤを改造手術で甦らせてみせるわぁー!!!」
お前、そんな二つ名があったのかよ。
だが、俺が戦えない以上…、バフォメットの提案を採用するしかなかった。



―――――――――――――――――――


中央広場、戦没者慰霊碑横にヴァル=フレイヤの墓はある。
地方の騎士団や教会騎士でさえ彼女を騎士の鏡として、また彼女を聖人と見なしている旅人の巡礼の地となっているこの場所は、連日大賑わいのお祭り騒ぎとなっており、屋台や土産屋が立ち並ぶ名もなき町一番の観光名所となっている。
そんな中、アヌビスはドワーフに頼んでヴァル=フレイヤの墓を掘り起こしていた。
そして死後数ヶ月が経っていたこともあり、腐敗が酷いことを見越して、腐乱死体のエキスパート、居酒屋フラン軒の女将、アケミにも来てもらっている。
何事かと観光客はその光景に野次馬の群れとなる。
「おーい、出たぞー。(しゅこー)」
ナチスドイツデザインの防毒マスクを装着したドワーフが手を振った。
「それじゃあ、開けてくださーい!(しゅこー)」
腐乱死体の酷い臭いを警戒して、アヌビスも防毒マスクを着用している。
「開けるぞ〜。(しゅこー)」

バコンッ、ズドンッ、バキンッ

ドワーフたちが斧で乱暴に棺の蓋を開ける。
そして中に納まったヴァル=フレイヤを見てドワーフたちは固まった。
「…大丈夫ですか?やっぱり腐敗が酷いですかぁ〜?」
「………驚くな、犬耳のお嬢ちゃん!ま、まったく…、腐ってない!!!(しゅこー)」
「ええっ!?」
滑車に棺を結び、地上へと引き上げられたヴァル=フレイヤを見て、アヌビスもアケミも驚きを隠せなかった。
周りで見ていた野次馬たちも奇跡が起きたと思わず跪く。
ゾンビのアケミがヴァル=フレイヤの身体を調べる。
ゾンビの彼女はまさに死体のエキスパート。
彼女が調べれば、どんな科学調査よりも正確な結果が瞬時に出せるのである。
店の常連たちは、そんな彼女に畏敬の念を込めて『ネクロファリア』と呼ぶのであるが、呼んだが最後、ツケの請求書が7割以上も水増しされて請求されるのである。
「間違いないわ、腐敗していない…。あ、ガスマスク取っても良いですよ。腐乱臭もありませんし、彼女の生前に付けていた香水かしら…。その香水の香りがまだ残っているから、すごく良い匂いです。」
「で、でも…、女将さん。どうして腐敗しなかったのですか?」
アヌビスがアケミに聞くと、アケミはふぅと溜息を吐いて言った。
「ここは、元々何があったか覚えている?」
「え、公園…、でしたよね?」
「そうなの、中央広場は人々の憩いの場…。それが本編でクーデターが起こって、それ以来戦没者慰霊碑が作られて、こんな風になっちゃったけど…。ここには昼間は子供たちの楽しく遊んだ思い出の場所という顔の他にも別の顔も持つの…。」
「べ、別の顔…!?まさかここでサクリストの危険な実験が!?」
「いや、夜は恋人たちの愛の巣に変わるの。ネフィーちゃんはすごく健全な生活していたから気が付かなかったと思うけど、ここは夜になるとルゥちゃんの娼館に行けないお金のない若い恋人たちがここで青姦したり、屈折した性の趣味を持った人たちがそれをのぞいて楽しんだり、いつリザードマン自警団に捕まるか考えただけで興奮して身体を晒して楽しむ露出狂の方や、Mっ気たっぷりの娘さんがわんわんみたいに首輪を付けて全裸でお尻に尻尾を差し込んで御主人様の紳士と四足で散歩していたりする聖地に変わるのよ。って処女のネフィーちゃんにはまだ早い話だったかしら?」
「い……いえ………。」
アヌビスは真っ赤になって俯いたまま、声がどんどん小さくなる。
「そんな経緯があって…、この場所には色んな欲望が渦巻いていたんです。そしてこの町には魔物娘がたくさんいますから、彼女たちの卑猥な体液とかプレイの際に出る汗とかブレンドされて……、あなたがこの町に来る前からですから…、約20年くらいそういった魔力が漏れに漏れて土地に染み付いているんですよね。そんなとこに埋めていたんですから…、うちの従業員…、いえ、ゾンビにならない方がおかしいんですけどね♪彼女がゾンビになってくれたら、うちの看板娘になるのは間違いないんですけど♪」
「…………………な……………なって………たま……る…か…!」
「「えっ!?」」
ブルブルと身体を震わせながら、フレイヤが口を開く。
つーか生き返った。
「……………目……覚めたと…思ったら、好き…勝手な…ことを…!首は痛いし……、腕は痛いし……、何より…、あっちで初恋の…………人と楽しん………で…いたのに……、私一人……勝手に…連れ戻して……!しか……も………、そ…………そん………な……エロい………とこに……埋めるな………よ……!仮に…も………、私は…………教会……騎士…だった…んだか……ら…!」

がくっ

「あ、また死んだ。」
「死んでませんよ、ネフィーちゃん。気絶しただけです。数ヶ月振りに外気に触れたから体力を使い果たしたのね。あ、ドワーフのみなさん。学園まで運んでくださいね。早くしないと生きたまま腐っちゃいますから♪」
「え、笑顔で言わないでください!!お願いします!急いでぇぇぇぇ!!!」
デロデロに皮膚の腐り落ちた彼女を想像してしまったアヌビスは叫んだ。
ドワーフたちも同じことを考えたらしく、全速力で棺を抱えて学園へと運ぶ。
後にヴァル=フレイヤの復活は教会非公認の奇跡として、観光客やドワーフたちによって語り継がれることとなるのだが、そんな遠い未来のことなど彼女たちは知ったことではなかった。
今は腐る前に処置を。
メカ=フレイヤの脅威の前に、死者をも担ぎ出す。
彼女たちもロウガもいつだって、罪悪感の前に今日を生きるのに全力投球なだけなのである。



―――――――――――――――――――――――



次回予告


メカ=フレイヤは町を暴れ続ける。
高がダンボールと割り箸の集合体の脅威の前に
人々はなす術もなく悪魔に屈していく。
だが、人々に希望の光が舞い降りる。
白く輝く正義の死者が正しき道を照らすのであった。
次回『風雲!セラエノ学園』第11話。
『お面ライダー2号、その名はフレイヤ』
さぁ、画面の前で、みんなで応援しよう!

「行くぞ、メカ=フレイヤ…。
 これ以上、人々に手を出させはしない!!
 いくぞ、大!変!身!せたーっぷ!!」
10/12/10 23:59更新 / 宿利京祐
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■作者メッセージ
えーーーーーっと、反省してます。
今回は死体で登場です(--;。
そんな訳でヴァル=フレイヤ氏を再登場させました。
ちなみにメカ=フレイヤですが、本人とは似ても似つきません。
ダンボールの箱にそのまま穴を開けただけの顔ですからw
彼女の主題歌は次回で変わります。
次回予告でわかると思いますが…、アレです。
お楽しみに〜。

では最後になりましたが
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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