読切小説
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恥呆遊戯
「そういう訳で金粉ショウをすることになったの」
 ヴァサンティは、宮本薫にすました顔で言った。
 薫は、呆れながら見ている。何と言ったら良いのか分からない。
 ヴァサンティはキャバクラ嬢であり、ショーとして踊りを披露している。愛の女神に仕える信徒たちは、企業グループを経営している。ヴァサンティが務めるキャバクラは、そのグループ傘下にあるのだ。彼女は、愛の女神に仕える踊り子アプサラスだ。
 愛の女神は性愛を尊ぶ。だから愛の女神の信徒は、風俗産業に従事することが多い。愛の女神の踊り子である魔物娘アプサラスも、風俗産業で働く場合が多いのだ。ヴァサンティは、キャバクラで露出度の高い格好をして、官能的な踊りを披露する。
 だが、だからと言って金粉ショウかよ。薫は呆れるほかない。金粉ショウとは、踊り子が全身に金粉を塗って踊るショーだ。薫は、ヴァサンティをアホの子を見る目で見た。

 薫とヴァサンティは夫婦だ。二人が出会ったのは、ヴァサンティの勤めるキャバクラである。当時、失業していた薫は、気晴らしにキャバクラへ行ったのだ。これから再就職するまで窮乏生活をしなくてはならず、その前に一度だけキャバクラに行こうとしたのだ。
 薫は、市の中心地から少し離れた所にある風俗街へ行った。そこに風変わりなキャバクラがあるのだ。その「チャンドラ」と言う名のキャバクラに入ると、薫は圧倒された。大理石張り天井や壁、床は、インド神話と異世界の物語の登場人物が彫られている。それらの登場人物は、露出度の高い格好をしてなまめかしい姿態をしている。室内装飾はインド風であり、金箔を貼られた物が多い。
 出迎えたキャバクラ嬢は、皆、露出度の高い格好だった。だが、一般的なキャバクラ嬢とは格好が違う。例えば、薫をエスコートしたヴァサンティは、胸と下腹部を隠しただけの下着の様な服をまとっていた。頭や首、腕、腰、足は金の装飾品で飾っている。腰から足にかけては、ピンク色のハート形の物がいくつも連なった装飾品で飾っている。エキゾチックであり、同時に奇矯な格好だった。
 薫は、ヴァサンティにクッションに座る事を勧められる。室内には椅子は無く、絹張のクッションがいくつも敷かれていた。勧められるままに座ると、柔らかい感触が薫を迎える。室内に炊かれた香が薫を包む。
 薫は、ヴァサンティに進められた乳白色の酒を口に付ける。甘いミルクのような味わいだが、さわやかな味わいの物だ。酒の効果はゆっくりと薫の体に広がる。
 薫は、穏やかに話しかけてくるヴァサンティを見た。整っている顔をしているが、きつさは無い。人を安心させるような柔らかい笑みを浮かべている。褐色の肌をしており、豊かな胸と引き締まった腰が官能的な魅力を発している。彼女の体からは、ミルクのような甘い香りが漂ってくる。
 しばらく酒と会話を楽しむと、ヴァサンティはショーが始まると言って席を立った。それからすぐに、中央にあるステージで踊りが始まった。
 ステージの周りは、愛の女神の楽師である魔物娘ガンダルヴァが座って、弦楽器や笛を演奏していた。彼女達の格好は、アプサラス同様に露出度が高くて官能的だ。彼女たちは、演奏をしながら褐色の肌の体をくねらせる。演奏が始まって少ししてから、十人ほどのアプサラスがステージに現れた。ヴァサンティもいる。そうして、アプサラスたちは踊り始める。
 彼女達は、いずれも豊かな胸を持ちながら引き締まった体をしていた。その官能的な体のほとんどを露わにしながら、体をくねらせて踊る。褐色の肌には、虹色の照明が当てられている。彼女達の体の周りには乳白色の膜が広がり、踊りにつられて舞い広がる。
 音楽が激しくなるにつれて、踊り子たちは、胸を弾ませて腰を激しく振りながら踊り始めた。激しくなるにつれて体に汗が浮かび、照明の光を浴びて輝く。舞台からは、官能に彩られた熱気が発散されている。
 アプサラスたちは、ステージから降りて客席の方へ踊りながらやってきた。客たちの間で、その体を見せつける様に踊る。ヴァサンティは、薫の前にやってきた。汗で濡れた体を照明で輝かせ、薫の目に胸や腋、腰を見せつける。ヴァサンティからは、甘い匂いが漂ってくる。踊るように動く黒髪が、薫の頬をくすぐる。
 気が付くと、薫はヴァサンティに触っていた。彼女の張りのある腰から尻にかけて愛撫していたのだ。なめらかな感触と弾けるような弾力が薫の手にある。
 ヴァサンティは、薫を見下ろしながら微笑んでいた。薫の腕をつかむと、クッションから引き上げて引きずっていく。周りにいた踊り子たちは薫を取り囲み、ヴァサンティと共に引きずっていく。薫は抵抗しようとしたが、うまく力が入らない。そうして薫は、客室の奥へある従業員用の部屋へ連れ込まれた。

 薫は、怖いお兄さんたちに囲まれて正座をする羽目になると思っていた。そうして高額な違約金を払わされる羽目になると震えていた。
 ところが、怖いお兄さんたちは出てこない。連れ込まれた場所は、ダブルベッドが置かれた部屋だ。部屋の天井や壁には、男女の交わりを描いた絵が描かれている。部屋の中には香がたかれており、香りをかいでいると理性が薄れそうになる。
 部屋にいるのは、薫とヴァサンティだけだ。ヴァサンティは、両手で薫の手を握りながら上目遣いに見ている。明るい緑色の目が、期待に輝いている。
 ヴァサンティは体をすり寄せると、薫の口を自分の口でふさいだ。薫の口は、柔らかい感触で包まれる。ヴァサンティの口からは、甘い香りがする。思わず陶然とすると、ヴァサンティは舌を絡ませながら唾液を流し込んできた。時間をかけて舌を絡ませ合うと、ヴァサンティは離れる。二人の口の間には、透明な粘液の橋がつながる。
 ヴァサンティは、胸の谷間に薫の顔を引き寄せた。薫の顔は、汗で濡れたなめらかな感触でおおわれる。汗とミルクが混ざり合ったような甘い香りが、薫の顔を包む。耐えきれなくなった薫は、舌を這わせて胸を味わう。踊り子は、胸をわずかに隠す衣装をずらして乳首を露出させる。
 しばらくの間、ヴァサンティは自分の胸で薫の顔を愛撫していた。そしてゆっくりと離れると、薫の服を脱がせていく。スーツとシャツを脱がし、股間を愛撫しながらスラックスを脱がす。トランクスの上からペニスに頬ずりをし、口でトランクスを引き下ろす。そして弾け出たペニスを胸の谷間にはさみ込んだ。
 踊り子の豊かな胸は、形を変えながらペニスをもみほぐす。あふれ出る先走り汁を、胸に塗り付けて汗と混ぜ合わせる。さらに、ペニスの先端を舌で愛撫しながら唾液を垂らす。そうして滑りを良くすると、乳首をこすり付けながら勢いよくパイズリ奉仕をした。
 薫は、目の前の光景とペニスの快楽に興奮を抑えられない。荒い鼻息をついて、弾む胸を凝視する。たちまち薫は登り詰める。出そうだと呻くと、踊り子はさらに胸の動きを激しくした。
 薫のペニスは弾けた。白濁液の塊が飛び出し、踊り子のあごや首にぶち当たり、胸を白く染めていく。踊り子は、胸の動きを緩くする。そして射精し続けるペニスを、ゆったりともみほぐし続ける。
 精液を出し終えると、薫はぼんやりと踊り子を見た。薫を魅了する褐色の胸が、所々白く染まっている。その胸からは、汗とミルクと精液が混ざり合ったような臭いが立ち上っている。踊り子は、白く汚れた胸をゆすりながら上目づかいに微笑んでいる。そして舌を出すと、胸とペニスに付いている白濁液をなめ取っていった。
 踊り子は、ペニスに唾液をたっぷりと塗り付ける。右腋をさらけ出すと、腋にペニスをこすり付けた。腋を濡らす汗と唾液が混ざり合い、再びあふれてきた先走り汁が重ね合わさる。そうしてぬめり光る腋でペニスをはさみ込み、滑らかな動きで愛撫した。
「お客様は腋が好きなんですよね。ずっと私の腋を見ていましたから」
 薫は反論出来ず、たちまちペニスが回復していく。
 踊り子は、腋からペニスを解放した。そうして薫をベッドの上に押し倒す。薫の上にまたがると、愛液で濡れそぼった下腹部を覆う衣装をずらす。そうして熱い泉の中に薫の物を飲み込んでいく。
「さあ、私の踊りはここからが本番ですよ。たっぷりと味わって下さいね」
 そう笑いながら言うと、踊り子は薫の上で踊り始めた。初めはゆっくりと、次第に早く体をくねらせる。体がくねるたびに、薫を飲み込んでいる泉は渦を巻いて愛撫する。快楽に喘ぐ薫の目に、上気した踊り子が汗を光らせながら踊っているのが見える。
 彼女の言う通り、踊りはここからが本番だった。

 この後で薫は、踊り子と快楽の踊りを続けた。繰り返し交わり合い、精液をほとばしらせる。互いの体を激しく重ね、唾液や汗、精液や愛液を相手に擦り付けた。相手の体の隅々まで舌で味わい、匂いを楽しみ、感触を堪能したのだ。
 すべてを出し尽くした薫は、踊り子に抱きしめられながら眠りへと落ちていく。今の自分の状況を理解することは出来ない。ただ、快楽の踊りの後の疲労があった。
 薫が目を覚ました時、ヴァサンティは薫を愛撫しながら抱きしめていた。彼女は、愛おし気に頬をすり寄せてくる。そうして、爽やかな味わいの飲み物を口移しで飲ませてくれた。
 薫がきちんと目を覚ました頃を見図ると、ヴァサンティは一枚の紙を差し出した。薫は、その紙をまじまじと見る。ヴァサンティの顔を見た後、また紙を見る。書いている事が上手く頭に入らない。その紙は婚姻届けだった。既にヴァサンティのサインがあり、印が押されている。ヴァサンティは、ペンを薫に押し付けた。
 薫は、状況を理解できずに呆然とする。キャバクラ嬢と本番をやったら、婚姻届けを書くことを要求されている。薫は、無言のままヴァサンティを見続ける。
 ヴァサンティは鈴を鳴らした。たちまち部屋の中に、怖いお兄さんならぬ、怖いお姉さんたちがなだれ込んでくる。店長であるキューピットを筆頭に、アプサラス、ガンダルヴァ、フーリーと言った従業員たちが薫を取り囲む。そして微笑みながら、偃月刀、やっとこ、釘バッド、ハンマー、チェーンソを突き付けてきた。
 薫は、震えながら意味不明のことを口走り始める。落ち着こうにも落ち着けない。そうして、やっと意味のあることを口に出来た。自分は失業中であり、結婚なんか出来ないと。
 愛の天使であるキューピッド店長は、軽くあごに手を当てて考え込む様子だ。そして部屋から出て、少しすると戻ってきた。手には一枚の紙がある。彼女は、その紙を薫に突き出す。紙は雇用契約書だ。薫を、店の従業員として雇うというのだ。
 薫は唖然とする。監禁されて、婚姻と就業を強要されている。最早、並の状況では無い。訳の分からないブラック企業に捕まえられたようなものだ。
 薫を取り囲む踊り子アプサラスは、薫の首に偃月刀を突き付けている。愛の天使フーリーは、薫の腹をやっとこで撫でる。楽師ガンダルヴァは、薫の後ろでチェーンソを鳴らす。そんな中で、ヴァサンティは薫の手を握りしめている。彼女達は、皆が明るい笑顔だ。
 薫は、脂汗を流しながら婚姻と就業を承諾した。その場で、婚姻届けと雇用契約書にサインする。薫は、体を洗った後で、彼の自宅へ連行される。「チャンドラ」の従業員たちは、薫の自宅の住所を知っていた。自宅で、二枚の書類に印を押すことを強要される。キューピッド店長は雇用契約書をバッグにしまい込むと、薫を市役所に連行する事を命じる。
 市役所に着くと、真っすぐに市民課の窓口へと連行された。そうして、ヴァサンティと共に婚姻届けを提出する。市民課の職員は、婚姻届けを受け取ると笑顔で祝福してくれた。薫とヴァサンティの周りでは、「チャンドラ」の従業員たちが拍手で祝福してくれる。
 こうして薫は、ヴァサンティと夫婦となった。後に、この時のことを薫は友人に次のように話している。
「あ…ありのまま起こった事を話すぜ!俺はキャバクラに行ったと思ったら、キャバクラ嬢と結婚させられていた。な…何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった…。頭がどうにかなりそうだった…。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」

 ヴァサンティと結婚した時のことを思い出すと、薫の頭は混乱しそうになる。ただ、結婚生活は上手く行っていた。
 ヴァサンティは優れた容姿をしている。しかもヴァサンティは、性愛の踊りを踊るのだ。全身から官能が発散されているような女だ。その女と、毎日のように濃密なセックスが出来るのだ。
 容姿やセックスだけならば、夫婦としては上手く行かないだろう。ヴァサンティは、それ以外の点でも優れている。ヴァサンティは温和な性格であり、人の緊張をほぐす能力がある。そして思慮深い性格だ。
 思慮深い者が、会ったばかりの者と結婚するのかという疑問が出るかもしれない。愛の女神に仕える魔物娘は、人を測る力があるのだそうだ。ある程度問題がある男が相手でも、その者を更生させる訓練を彼女たちは受けているのだそうだ。彼女たちは出会いを大事にし、その後のことはパートナーとの共同作業として努力するのだそうだ。
 薫は、「チャンドラ」に就職してからは、ヴァサンティの仕事ぶりを見て来た。踊りを初めとする仕事に、自分で課題を見つけて努力をする。後輩に対しては、丁寧に仕事を指導する。そして、自分が休むべき時はきちんと休み、遊ぶ。薫は、ヴァサンティに感嘆した。
 薫は、「チャンドラ」の裏方として働いている。裏方には、愛の女神の信徒である魔物娘と結婚した者ばかりいる。彼らは、元は客だったそうだ。愛の女神の信徒たちは、企業グループ経営をしながら信徒の拡大を図っていた。風俗産業は、信徒拡大のために都合が良いそうだ。
 だからと言って、監禁して恫喝することは問題ありすぎると、薫は思う。薫に突き付けられた武器は魔界銀製であり、殺傷能力は無いそうだ。そうだとしても犯罪だ。
 ただ薫は、「チャンドラ」での仕事を熱心にやっている。初めは混乱する事が多かったが、「チャンドラ」の従業員たちは辛抱強く仕事を教えてくれた。慣れてくると、仕事もやりがいがあるように感じて来た。少なくとも、今まで勤めていた人間の企業よりは、やる気になれる。
 薫とヴァサンティは、夫婦として、職場の同僚としてうまくやっていた。

 薫は、ヴァサンティとのこれまでの事を思い出して感慨に浸っていた。そんな時に、ヴァサンティから金粉ショウのことを話されたのだ。
 ヴァサンティの話によると、最近、愛の女神の信徒は、堕落神の信徒と信者獲得合戦をしているのだそうだ。堕落神側も、信徒獲得のために風俗産業に手を広げている。堕落神側は、ショーとして踊りも導入している。土方巽が創設した暗黒舞踏をアレンジした踊りを踊っているそうだ。これがかなりエキセントリックなもので、受けているらしい。
 そこでヴァサンティは、金粉ショウを踊ることを提案したそうだ。横溝正史の小説「三つ首塔」をテレビドラマ化したものを見て、思いついたそうだ。
「あの踊りは、恥を捨て去ったセンスでエロを表現している!昭和のエロは素晴らしいわ!」
 興奮しながら話すヴァサンティを、薫はアホの子を見る目で見ていた。最低限の恥は捨てるなよと言いたかった。
 ヴァサンティによると、彼女の提案は承認されたそうだ。既に準備は進められており、来月には店の出し物となるそうだ。
 薫は、好きにしろとしか言えなかった。

 予定通りに、「チャンドラ」では金粉ショウを出すことになった。ヴァサンティを初めとするアプサラスたちは、全身を金粉で塗って踊るのだ。ショーの時間となり、ステージの袖で薫は見守る。
 ガンダルヴァたちが、ステージの周りで笛や弦楽器を奏で始めた。彼女達の格好は、いつものステージ衣装だ。金の装身具と紫の薄物を体にまとっている。神鳥である彼女達は、黄金の翼を持っている。その翼を器用に駆使して、艶麗な音楽を奏でる。
 ステージ上にはスモークが焚かれ、虹色の照明が当てられる。スモークの中から人影が見えてくる。踊り子であるアプサラスたちだ。顔と髪以外の全身に金箔を塗っており、照明を浴びて怪しく輝く。
 アプサラスたちは、音楽に合わせてゆっくりと蛇のような動きで踊る。アプサラスたちは十人いるが、まるで十匹の金色の蛇が身をくねらせているようだ。スモークが蛇を隠し、そうかと思うとスモークから金色の蛇が現れる。
 アプサラスたちは、下腹部をわずかに隠す衣装だけをまとって金粉を塗っていた。むき出しの状態で金粉を塗った胸は、乳首の形がはっきりとわかる。アプサラスたちは、胸をゆすって乳首をひけらかしながら踊る。
 音楽は次第に高く、速くなり、それと共に踊りも激しいものとなってきた。スモークを振り払いながら、金の蛇とも人間ともつかぬ者たちが踊り狂う。虹色の照明が金の乱舞を照らし出す。金色の胸が弾み、腰が振られ、手足が複雑な動きを見せる。
 アプサラスたちは、ステージから降りてきた。同時に、客席の所々からスモークが湧き上がる。スモーク越しに、踊るアプサラスと座りながら見上げる客が見える。照明が、客席そばで踊るアプサラスを輝かせる。
 薫は、感嘆しながら見ていた。この官能と幻想の世界に魅入られる。確かに悪趣味で、けばけばしく、いかがわしいものだ。だが、それにもかかわらず魅入ってしまう。
 アプサラスのうちの一人が、客の手を引いて従業員用の部屋へと連れて行った。客は、アプサラスを触ってしまったのだろう。愛の女神に仕える魔物娘は、独身で恋人のいない男を見分ける能力がある。そういう男を誘惑して体に触るように仕向け、体の関係を結んでしまうのだ。
 ガンダルヴァやフーリーたちも、客を従業員用の部屋へと連れて行っている。妻や恋人がいながら魔物娘に触る者がいると、キューピッド店長が矢を浴びせる。その矢を受けると、彼らはすぐに会計をし、妻や恋人の元へと帰ってしまう。しばらくの間は、妻や恋人を熱烈に愛するだろう。
 薫の目の前にヴァサンティが現れた。スモークを振り払い、照明を浴びながら金色の体を露わとする。豊かな胸が揺れ動き、はっきりと浮き出た乳首が踊る。腰と尻が激しく動き、金色の軌跡を描く。
 金箔を塗っていないヴァサンティの顔が、薫を見下ろしていた。柔らかそうな黒髪が、微笑みを浮かべている顔を彩っている。ヴァサンティは金色の腕を差し出す。
 薫はヴァサンティの手を取り、スモークの陰へと引き込む。そしてヴァサンティと口を重ね合わせた。ヴァサンティの口から、髪から甘い香りがしてくる。ヴァサンティの柔らかい舌に自分の舌を絡ませて、温かい唾液を吸う。
 薫は耐えられなくなり、素早く服を脱ぎ捨てる。そして、怒張しているペニスをはね上がらせた。ヴァサンティは身をかがめ、薫の腰を髪で愛撫する。性愛の踊り子は、金粉でおおわれた胸で赤黒いペニスを包み込む。
 ヴァサンティは薫の弱点を知り尽くしており、巧みな攻め方で薫を追い込む。そして金粉でおおわれた肢体が、薫の目から頭を官能で染める。金粉の踊り子を汚して良いかためらうが、ヴァサンティに促されて絶頂へと突き進む。
 薫のペニスは弾け、白濁液を放った。すでに男の淫魔インキュバスとなっているために、大量の精液の塊が踊り子の顔に直撃する。飛び散った白濁液が、褐色の顔中を汚す。さらに白濁液は放出し続け、金色の胸を白く染めていく。
 精液を放出し終えた後、薫はヴァサンティを見下ろす。褐色と金色と白色が混ざり合った踊り子が、笑みを浮かべながら見上げていた。むせ返る様な刺激臭が汗とミルクの香りと混ざり合い、踊り子の体から立ち上っている。踊り子の鼻から口へと白濁液がゆっくりと流れ落ち、彼女は舌を伸ばしてなめとる。
 ヴァサンティは立ち上がり、金色に光る太ももでペニスを挟む。太ももで愛撫しながら腰を下ろし、尻でペニスを嬲る。揺れ動く腰と腹は、金色の波のようだ。
 薫の腰に再び力が入っていく。まだまだ、汚し足りない。

 金粉ショウは成功した。客の反応は上々だった。「チャンドラ」では、金粉ショウをこれからも披露する事となったのだ。愛の女神の信徒が経営する他の風俗店でも、この金粉ショウは行われることとなる。
 薫は、金粉ショウの最中にヴァサンティとやりまくってしまった。ヴァサンティの金粉まみれの体に興奮して、精液で散々汚してしまったのだ。キューピッド店長からは、苦笑交じりに叱られてしまった。
 そんなこともあったが、金粉ショウを提案したヴァサンティは高く評価された。

 薫は、目の前の光景をどう表現したらよいか分からない。店の新しい催しが成功したのだから、喜ぶべきだろう。だが、喜んで良いのか薫には分からない。
 ガンダルヴァたちは、エキセントリックな音楽を演奏していた。ジャズなのだろうか?タブーなのだろうか?あるいは何かの民族音楽なのだろうか?薫には分からない。彼女たちの体は、元からある羽根にさらに羽根が付け加えられ、まるで金色の羽根が全身から爆発しているような有様だ。その格好でトランペットやテナー・サックスを吹いている。
 アプサラスたちは、ステージ上で踊っていた。金粉や銀粉を全身に塗りたくり、体をくねらせている。ステージ上にはピンク色の照明を当てていた。そのピンクの照明は、明滅しながら金粉、銀粉の踊り子を照らす。照明を当てているのは薫だ。
 店の中には、訳の分からない配置をされた照明が明滅していた。店の外も同様だ。その照明は、踊り子たちが絶頂を演じるたびに、けばけばしく明滅する。
 客席には、フーリーたちがいた。彼女たちは、バニーガール姿の者もいれば、光る金属をはめ込んだ服を着ている者もいる。彼女たちは、ビールを客に浴びせている。中には、客のスラックスを広げて股間に流し込んでいる者もいる有様だ。
 キューピッド店長はタキシードを着て、マイクの前にいた。「レディース・アンド・ジェントルマーン!」などと怪しげなことを叫んでいる。
 店は、「昭和プレイ」なるものを打ち出した。キャバレーなどの昭和の風俗店の催しをするのだ。今日やっているのは「高度経済成長時代プレイ」だ。日によっては「バブル経済時代プレイ」もやる。
 店に来た客は、面白がって乗っている。
「貧乏人は麦を食え!」
「大きけりゃいいんだよ!」
「何が規制緩和だ!大日本護送船団帝国をなめるな!」
 客たちは楽しそうに喚いている。
 アホウどもめ。薫は思わずつぶやく。店の従業員もアホならば、客もアホだ。薫は、見ているうちに自分の知能が低くなっていく気がした。
 ヴァサンティは金粉まみれで踊りながら、薫に向かって微笑みかける。彼女は、アホに徹して楽しんでいる。
 よし、だったら俺もアホに徹するか!薫は、ステージに当てるピンク色の照明をけばけばしく明滅させた。
16/02/22 22:31更新 / 鬼畜軍曹

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