読切小説
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We are but falling leaves
 いつもの時間に自然と目を覚ました本多 悠には、誰かに起こされるという経験がここ数年無かった。
 誰にも起こされない人間は必然的に誰かを起こすことになる。手早く身支度し、部屋を出た悠は廊下の向こう、彼の部屋と同じくらいの大きさのもう一つの部屋を訪れた。
 扉を手荒くノックしてみても返事が無いことは分かりきっている。遠慮無しに扉を開けて散らかり放題の部屋へ踏み入ると、足元の布団がもぞもぞ蠢いた。

「ん〜っ……ふぇ、ゆーちゃん……?」
「おはよう、姉さん」

 両眼を半分閉じたまま顔を出したのは悠の実の姉、本多 塔子。
 頭以外の全てを布団にくるまれたまま、隠しようの無いアルコール臭を口から放ちながら、悠の方をじっと見上げる。

「あれぇ、もう……朝ぁ……?」
「そうだよ。早く朝ごはんを食べよう。俺が学校に遅刻しちまう」
「そっかぁ……じゃあ今日も、お願い……」

 ちょっと申し訳なさげに塔子が両腕を伸ばす。悠はそれを掴み、救急隊員が傷病人を運ぶ時のように担ぎ上げ、そのまま部屋着姿の姉を食卓へ連れて行くことになった。
 毎朝のこととはいえ、女性にしては高身長で発育の良い実の姉を運ぶというのは、寝起き直後の高校生にとってそれなりの重労働である。しかし上手い具合にやれば、塔子の年齢不相応な、しかしその身長には相応な巨乳がむぎゅっと押しつけられることになる。
 それだけで、彼としては十分モトを取ったような気分になれた。
 血の繋がった相手に対してこんな、乳を触って喜ぶという性欲絡みの感情を抱いてしまうことに後ろめたさはあるが、嬉しいものは仕方ない。
 床に転がる空き缶や空きペットボトルを踏まないように、虚ろな目つきでうなり続ける姉を担いで、悠は階下の居間を目指した。

 やや二日酔い気味なのか、相変わらずうんうん言っている姉を椅子に座らせ、消費期限が間近に迫った食パンをトースターに放り込む。粉末タイプのインスタントコーヒーを淹れると、その匂いで姉が少し活気付いた。

「いつもありがとね、悠ちゃん」
「随分今更だけど。でも、そう言ってもらえるのは、正直嬉しいな」
「はふふ……ほんと、悠ちゃんはいい子だよ。悠ちゃんがいなきゃ、お姉ちゃん一日も生きてられないよ」

 朝食を摂りはじめながら、その言葉に悠は内心同意した。
 酒瓶や空き缶がそこら中に転がり、昼となく夜となく強いアルコール臭を充満させた部屋に住む塔子は、家事一切が全く出来ない。
 料理や買い物や洗濯は勿論、自分の部屋の掃除もままならないため、彼女よりかなり年下ではあるが人並みの生活力を持って生まれた悠が毎日、面倒を見ているのだ。
 普通ならそれら家のことをこなしてくれるはずの両親はいない。父親は早くに死んでしまったし、母親は仕事が忙しいとかで滅多に帰宅しないのだ。
 親がそんなだから姉の生活がダメになったのか、それとも姉のひどい生き様を嫌って親が帰宅しないのか、真相は分からない。しかし、姉との二人暮らしは彼にとって、そう倦厭すべきものでもなかった。

「……それで、今回の原稿は締め切りに間に合いそうなの?」
「んー、多分、きっと、大丈夫、じゃないかな……? うん、恐らく。
家計のためにお姉ちゃん頑張るから、終わったらまた褒めてね」
「いいよ。でっかい塔子ねえの頭をなでなでしてあげよう」
「でっかいって……もう、気にしてるのに」

 悠が塔子の頭を撫でるには、塔子が座るか悠が背伸びするかしなければならない。いずれにしても男子高校生としては自分の小ささを思い知らされるようであまり面白くないのだが、してあげれば姉が非常にご機嫌になるため、不満を抑えてたまにやってあげていた。

「はは、ごめんごめん。……でも、感謝はちゃんとしてるんだよ。俺らが割りと余裕持って暮らせてるのは、姉さんの稼ぎのおかげだからな」
「え、えへへ……そんな、照れるよ悠ちゃん、もう!」

 日光にあたるだけでも疲弊する虚弱な塔子は、小説を書いて小金を稼いでいる。
 小説といっても万人向けの、いわゆる一般小説ではない。触手、陵辱、和姦、ハーレム、更には同性愛と、極めて多くのジャンルをこなす官能小説家なのだ。
 雑務の大半を弟に任せて部屋に引き篭っているせいか筆が早く、一度に複数の書下ろしをこなしたりもするため、出版社からは重宝されているらしい。それでいて中身もなかなか熱が入っていて、特に背徳感の描写や男女のどろどろした情念なんかをエロに絡めて書く技術が優れていると、読者からの評判も上々。
 実際、悠も一冊、比較的ライト向けな本を読んだことがあったが、身内の贔屓目を覗いても大変実用的かつ印象に残るものだった。
大体、この手のものの評価は身内補正がむしろマイナスに働くものだが、悠はそれが姉の著作であるということも忘れて、読んで、「使って」しまったのだ。
 その小説内で性行為をするのが、頼りない姉としっかり者の弟という何か自分たちに重なるようなシチュエイションだったのもあって、読んでいる時としている時の罪悪感は並々ならぬものがあったが、文章から直に伝わってくるような情欲に当てられて、夢中になってしまったのだ。
 そんなわけで、姉の本の売上は悪くない。家に入ってくる収入もちょっとしたもので、家事全般を担うことになったとしても悠に余り不満は無かった。
 むしろ、自分に似ず、美人で高身長でスタイルも良い塔子にべったり頼られることに、ある種の満足感を覚えていたのだ。

「じゃあ塔子ねえ、俺はそろそろ学校行くから」
「そっかー。いってらっしゃい……今日も早く帰ってきてね……」
「うん。洗濯をしなきゃならんからな。塔子ねえも仕事がんばって」
「あふ〜……」

 もそもそと朝食を食べ終わり、また身体を揺らしてうつらうつらし始めた姉に肩を貸し、上の階へ向かう。薄いTシャツ越しに大きなおっぱいの柔らかい感触を楽しみながら階段を登っていると、不意に塔子が言った。

「……いつもありがとね、悠ちゃん。大好きだよ……」
「なんだよいきなり。まったく、まだお酒が残ってるのか」
「そんなじゃ、そんなじゃないのよう、もう……」

 耳元で熱っぽく囁かれた愛の言葉。実の姉弟同士なんだから好きという言葉に変な意味は籠もっていない筈なのだが、担いだ姉に好きだと言われるシチュが、いつか呼んだ姉のエロ小説にもあったような気がしてちょっと興奮した。
こんな風に昂ることが出来るなら、毎日もっと早く帰宅してもいいとすら思えた。


 家での献身的な様は学校では鳴りを潜める。通っている高校で、悠はごく目立たない地味な男子生徒の一人に過ぎない。
 別に苛められているとか避けられているとか言うわけではない。ただ、人付き合いに積極的でないだけだ。
 その高校の、自由と自主性を尊ぶ気風もあって彼に友人付き合いを強制するものはいない。部活にも入らない彼は昼の間、学生生活に支障をきたさない程度に友達と触れ合い、授業が終わればそそくさと家路につく。
 どこかへ遊びに行こうと画策しているグループが一つならず校内に残っており、それらのうちのどれかにちょっとの勇気を持って話しかければ、恐らく遊びの輪には入れるだろうが、家に姉を待たせていることを考えるととてもそんな気分にはなれない。
 結局、姉のためということで悠は迷わず学校を後にするのだ。
 もともと社交的な方ではなく、自分から誰かに話しかけるのが好きというわけでもない。
 そんな彼にとっては、手のかかる姉の存在は結構ありがたかった。姉のために家のことをしなければならない、ということで、友達付き合いを疎かにしても許されるような、独りでいても自分に言い訳が立つような、そんな気分だったのだ。
 姉の存在を内向的な自分からの逃げ場にしているという自覚は朧気ながらにあったが、だからといってどうすることも出来ない。自分一人では食事もろくにできない姉を一日以上放っておくことは、殺人と大差無い。
 そんな風に考えながら帰宅し、少し休憩して夕飯を作り始めるともう七時。
 やはり部屋でうんうん唸っていた姉を、床に転がった焼酎のペットボトルに蹴躓きながら抱え上げ、朝と同じく階下へ下ろす。
 寝起きというわけでもないのに、立派な成人女性である塔子をこうして、まるで介助するように運んでやっていることに何か不自然なものを感じなくもなかったが、最近ではむしろ、こうして姉に頼られることに普段の生活よりもずっと張り合いを感じていた。

「うふふ。悠ちゃんの身体、あったかいねぇ」
「塔子ねえが冷たいんだよ。クーラーかけすぎなんじゃない」
「熱いと集中できないのよー」

 安心しきったような表情の塔子はすっかり悠に体を預けている。大きな胸が二人の間でムギュッと潰れ、その柔らかい感触に彼の心臓は早鐘を打った。

「……ごめんね、ダメなお姉ちゃんで。歩くくらい自分でやらなきゃってわかってはいるんだけど……悠ちゃんが優しいから、つい頼っちゃうんだよねぇ」
「気にしないでよ。塔子ねえはちゃんと仕事して、お金稼いでくれてるだろ。それでいいんだ」
「ありがとね、悠ちゃん。悠ちゃんきっと、イイお嫁さんになるよ」
「塔子ねえを放って、結婚なんか出来ないよ」
「……優しいねえ、悠ちゃんは……お姉ちゃんにはもったいないくらい、いい子だよ……」

 嬉しそうな悲しそうな、なんとも言えない雰囲気を塔子はまとっていた。

 背の高さや胸の大きさの割に軽い姉を二階まで降ろし、二人は食卓につく。
 毎日家事をこなしているとはいえ、悠の料理スキルは一般的な青年のそれと大差なく、レパートリーも同年代の女子などと比べれば随分少ない。今日のメニューは、その少ない料理のうちの一つ、カレーだった。

「じゃあ、食べようか」
「はぁい、頂きます……ねえ、悠ちゃん」

 スプーンをつまみ上げて食べ始めるかとおもいきや、塔子は動きを止めた。そのまま、テーブルの向かい側に座った悠をじっと見つめる。小さめな口を可愛らしく開いて、言った。

「ね、悠ちゃん。私、自分じゃこれ、食べられない気がするの。だから……食べさせて、くれる?」

 食事にまで介助を要求されて、悠はかなり驚いた。
 しかし、家の中の移動にまで手を貸しておいて、食べる時だけは自分でやれなどというのも今更な話である。反対側、姉の隣の席へ移動し、スプーンにカレーを適量掬って差し出してやると、満面の笑みで答えてくれた。

「ありがと。……はぁむっ。……ん、おいし。悠ちゃんのお料理、大好きよ」
「ありがとうな」

 姉が咀嚼している間、悠も自分の分の食事を摂る。姉の口の中に突っ込んで姉の唾液に塗れさせたスプーンでカレーを掬い、そのまま自分の口へ運ぶ。間接キスよりもっと生々しい行為にも、彼は嫌悪を覚えなかった。
 一本のスプーンで二皿分のカレーを食べ切るには、普通よりもかなり時間が掛かった。
 食べ終えて、もとい食べさせられ終えて、塔子の機嫌は目に見えて良くなった。にこにこと、しかしどこか目元の暗い笑みを浮かべながら、悠に言う。

「実は今手がけてるお仕事が、もうすぐ終わりそうなんだよー」
「それは良かった。頑張ってくれよ」
「ふふふ、しっかりやるよ。お姉ちゃんだからね。
 で、担当してくれてる人がすっごく良い人でね、時々私のお話も聞いてくれるんだよ」
「へぇ、どんな人?」

 自分以外に姉と会話する人間がいるという事実に軽い驚きと嫉妬を覚えた悠だったが、そんなことはおくびにも出さない。

「リリウム出版の、白百合って女の人なんだけどね、すごく親切にしてくれるんだよー。アドバイスも色々くれるし」
「何だ、女の人なのか」
「最初、『魔物と男の子がエッチする小説を書いてくれ』なんて仕事が来た時にはびっくりしたけど、でも受けてよかったよ」
「魔物……? そういうジャンルが、今流行ってるのか?」
「らしーねー。ここからもっとプッシュして、日本全土を魔物娘に染め上げるんだーって、白百合さん言ってたよ」
「ふぅん。よくわからないけど、売れたらいいな。塔子ねえの本」
「そうだねぇ。お金が入ったら、またお酒が飲めるし……悠ちゃんも、ラクできるもんね」
「金が無いことにはどうにもならんからな、俺達」
「大丈夫、心配しないで。バイトなんてしなくていいから、お姉ちゃんとずっと一緒にいてよね……」

 悠としても、出来れば余計な労働はしたくない。魔物娘というのはよく分からないが、塔子たちの収入になるのならそれはきっと悪いものでないだろうくらいに思っていた。

 数週間後。
 いつもの如く姉を起こし、手ずからご飯を食べさせ、学校へ行く。
 行ったところで別段大して変わったことは無く、いつも通り無味乾燥な数時間を過ごして家へ還る。
 今日は塔子ねえ、例の、リリウム出版の白百合さんとかいう人と打ち合わせがあるとか言っていたな。また新しい本を書き始めるのかな。前に書きあげた本の印税もまだなのに、やっぱり塔子ねえは書くのが好きなんだな、などと考えつつ家の戸を開く。
 静まり返った我が家の階段を登り、自分の部屋に荷物を置いた時、塔子の部屋から声が聞こえた。
 甘えるような脅すような、なんとも形容しがたい感じだったが、たしかに姉の声だ。呼ばれたように思った悠は扉を開けて、塔子の部屋へ踏み入る。

「……はぁ、はぁ……悠ちゃん、やっぱり、来ちゃったんだね……」

 そこには、まるで姉でないような姉がいた。
 敷き布団の上、散らかったゴミや空きペットボトルをどけたスペースに、塔子が這いつくばっている。生白い肌を紅潮させ、潤んだ瞳でこちらを見上げている。
 それだけなら何も問題は無かった。パジャマ代わりの薄手のTシャツが透けて素肌が見えて、ブラジャーをしていないことが分かるのも大した問題ではない。
 しかし塔子の下半身、腰から下に異変が起きていた。
 本来脚が二本生えているはずの部位は、人間の持つものとは似ても似つかない茶褐色の甲殻に覆われ、そこから大きく太い節足が四対伸びている。
 何より目を惹くのは、両脚の間に在る長大な尾だ。その先端は尖っており、何か透明な液体を滴らせている。
 殻、脚、針、液。
 図鑑などで見た、サソリそのもの。

「ひっ……な、なんだこれ!?」
「ごめん……ごめんね……!」

 思わず後退りした悠の右手を、かつて見たことがないほどの機敏さで塔子が捕らえる。そのまま布団へ優しく引き倒し、仰向けに寝かせて組み伏せる。
 脇の下に両手を置かれ、腰から足を節足で捕捉され、もはやこれまでかと思った悠だったが、そこで彼は自分を見下ろす塔子が今にも泣き出しそうな、辛そうな顔をしていることに気づいた。
 生まれてはじめて眼にした異形の姿に混乱させられていたが、姉への愛情が彼の正気を取り戻す縁となった。唾を飲み込み、絞りだすような声で問いかける。

「あー、ええと……塔子ねえ、なんだよな……?」
「!? そ、そうだよっ、お姉ちゃんだよ! 分かって、くれたんだね……!」
「やっぱり。でも、なんでそんな……仮装か、特殊メイクか何か?」

 一縷の望みを託して放った問いだったが今彼に密着しているそれの質感がリアルすぎて作り物だとは到底考えられない。果たして、姉は憂鬱そうに返してきた。

「違うの。これが正真正銘、今のお姉ちゃんの姿なの……怖い? 怖いよね、こんなバケモノみたいなの」

 実の姉を悲しませるのは本意ではないが、しかし彼女の言葉は否定し切れない。
姉を恐れているわけではないが、今の異常な状況に脳が着いて行かないのだ。
 何とか話をして、離してもらおうと思った時。ノーブラな姉の巨乳が重力に引かれ、Tシャツに乳首の可愛い突起を浮かべていることに気づいた。
 今まで散々密着してきた姉の、予想外の色っぽさに一瞬思考が止まる。弟が姉を女として見た瞬間、塔子は畳み掛けてきた。

「この姿、ね。実は、あの、リリウム出版の白百合さんにやってもらったんだよ」
「何だって……?」
「今日初めて会ったんだけど、白百合さん何故か私の事良く知ってて……好きな男の子がいるでしょう、とか、好きな子をモデルにしていつもHな小説書いてるんでしょう、とか、次々言い当てられちゃって」
「好きな子、って」

 まさか。
 もしかしたら有り得るかもしれないと思いつつ、でもいくらなんでもそこまでは、と敢えて無視していた可能性。
 自分の人生はそこまで劇的じゃあないと思いつつ、どこかで期待していた可能性。
 今まさに押し倒されているという状況から導き出される可能性。

「そうよ。お姉ちゃん、悠ちゃんのことが大好き。私のこと構って、優しくしてくれる悠ちゃんが大好き。
 ずっと、お姉ちゃんだけのものにしたいって思ってて……でも、やっぱりそんなのダメかなって、悠ちゃんにメーワクかかるかなって思って……それで、えっち小説書いて発散してたの」
「じゃあ、あの、姉と弟が出てくる奴も……」
「そうよ。お姉ちゃんと悠ちゃんがエッチなことできたら、どんな風にしようかなあとか、どんな事してもらおうかなあとか、そんな事考えながら書いたのよ」

 言いながら、塔子はその大きな毒針を持ち上げる。先端から液体を一滴落とし、更に語り続ける。

「それで、白百合さんが……『あなたのしたいことを出来るようにしてあげる』って言ってくれて、気がついたらこうなってて……
 ねえ、お姉ちゃんもう、悠ちゃんのことしか考えられないよ……
 好き、だぁい好き。悠ちゃんのことが世界で一番好き。ね、悠ちゃんは、お姉ちゃんのこと、キライ? 自分一人じゃ何にもできない女はやっぱり、キライ?」
「嫌いだなんて、そ、そんなことないよ。姉さんは美人だし、優しいし……」
「悠ちゃん……!」

 感極まったように、塔子は尾を振りその先端を悠の足の間に挿し込んだ。
 針は内腿の薄い皮膚を突き破り、大腿動脈にまで至る。熱いよう痛いようなじんわりした感覚を得るとともに、悠は自分の体温が急上昇するのを察した。

「白百合さんが、言ってたの。こうすれば欲しい男の子が手に入るって……だから、大丈夫だよ。どんなことになっても、きっとお姉ちゃんが助けてあげられるから……だから、身を任せて、ね?」

 何日もオナニーできなかった後の朝のような、激しい興奮と勃起。下肢から広がる異常な興奮に、悠は動転した。

「なにこれ……!」
「わ、すごい……こんなに大きくなるんだ。お姉ちゃん、ちゃんとできるかな……」

 そんなことを言いながら塔子は体勢を変えて、股間を悠の硬くなったものに擦りつけてくる。ぬめる愛液を垂らして、言った。

「これ、お姉ちゃんがやったんだよ。お姉ちゃんの、せいなんだよ。……だから、気にしないで。姉弟でこんなの、キモチワルイかもしれないけど……でも、悠ちゃんは悪くないんだから」
「塔子ねえ……?」
「ごめんね。こんなふうにしか悠ちゃんを独り占めできない、ダメなお姉ちゃんを……許して、ね」

 人間と同じ位置にあるらしい女性器を下げてくる。亀頭が何か熱いものに触れたと思うと、そのまま一気に咥え込んできた。
 太股を刺されて異常に発熱していても分かるくらい、体温の高い粘膜に包まれる。彼女とセックスどころか女を買った経験すら無い高校生男子には強すぎる刺激だった。
 セックスしているんだと認識するより早く脳は快感を得ていた。しかもその相手は実の姉、ぐうたらで、甘えん坊で、生活能力が全然無いあの塔子なのだ。悠の混乱は頂点に達した。

「な、なんだよこれ……! どうして、こんな……!」
「あハっ、すごい、すごいよぉ……悠ちゃんのおちんぽ、カタくてゴリゴリ言ってる、素敵……! これが、魔物のカラダ……!」

 普段、励ましてあげた時や料理を食べさせてあげた時や抱っこして一緒に階段を降りてあげた時のような明るい笑顔で、姉が自分を陵辱している。今まで何度も見た表情で、目だけを虚ろに輝かせ、腰を振っている。悪夢とも淫夢ともつかない光景は彼の正気を刈り取っていく。

「塔子、ねえ。どうして……こんな」
「ごめんね、ごめんね悠ちゃん。私なんにもできないから……ダメな子だから、こんな、エッチでしか悠ちゃんを手に入れられないよ……」
「でも、俺は……」
「分かってる。悠ちゃんがお姉ちゃんのこと、大事に思ってくれてたのは、知ってる。
 でも、不安だったの……これから先、お姉ちゃんより可愛い女の子とか、お姉ちゃんより賢い女の子がやってきたら、悠ちゃんそっちへ行っちゃうんじゃないかって……ずっと、怖かったの」
「……」

 それは違うと、悠は言いたかった。塔子が悠に依存していただけじゃない、悠だって塔子を必要としていたんだと。
 しかし、押し倒されて犯されている状況でそんな言葉は意味を持たない。勃起した陰茎を膣で擦られながら、ただ姉の顔から目を逸らさずに居るのが精一杯だった。

「ごめんね、こんなの、レイプだよね……お姉ちゃん、独り善がりだよね……
 でも耐えられなかったの。悠ちゃんがいなきゃお姉ちゃん、きっと死んじゃう。
 だから、だからっ」
「大丈夫だよ」

 ここへ来て悠は奇妙に満ち足りた気分でいた。
 なぜ姉が異形と化したのか疑問は尽きないが、そんなことは重要ではない。どんな姿をしていようと姉は姉なのだから。
 最も重要なのは今、彼が実の姉に求愛されているということだ。
 身長が高くて胸が大きくて美人だけど、気弱で不器用で外出嫌いで自分一人では何にもできないお姉ちゃんに求められているということだ。
 ならば、返すべき言葉は一つしか無い。

「俺も塔子ねえの事、好きだよ。どんな格好になっても、愛してる。
 だから、泣かないでよ」
「……!?」

 両眼を潤ませていた塔子はそれを聞いてはっとした。

「いいの? こんなお姉ちゃんでも、好きって言ってくれるの?」
「うん。ずっと一緒にいようよ、塔子ねえ」

 身体の動きを止めて、塔子は黙りこむ。すると、今までのはなんだったのかと思えるぐらいに激しく腰を振り、陰茎を扱き上げ始めた。

「……嬉しい、嬉しいよ悠ちゃん。ふふふ、ずっといっしょ、いっしょなんだぁ、うふふふ……」
「ちょ、塔子ねえ、激しいよ」

 人間でいう騎乗位の体勢で激しく搾られると、その快感はいよいよ耐え難い。経験不足の男なら挿入した瞬間絶頂していてもおかしくない、そんな熱い蜜壷で竿をこね回されて、まだ何とか持ちこたえられているのはあの針に刺されたおかげだろうか。
 姉の膣道に大量の我慢汁を漏らしながら悠は呻く。できるだけ長く近親相姦を楽しみたいという思いで下唇を噛んでいると、熱に浮かされたような口調で姉が言った。

「悠ちゃんのおちんちん、お姉ちゃんの中でぴくぴくしてるねぇ……可愛いなぁ。感じてるんだね……」
「うん。塔子ねえのおまんこ、熱くてぎゅうぎゅうで、もう我慢できないよ」
「いいよ、中でいって……お姉ちゃんも一緒にいくから、ね、お願い」

 姉弟で子作りすることへの嫌悪感は既に無い。そんな道徳心はきっと、姉との二人暮らしの中でゆっくりと摩滅していったのだろう。
 誰より愛しい女が自分の上に跨って、良い感じに締まる膣でしごいてくれている。こんな状況で射精しない訳にはいかなかった。
 限界を訴えるより先に、姉が気づいた。黒い瞳を光らせ、嬉しくて仕方ないような素振りで言う。

「あ、もう出ちゃうんだね。お姉ちゃんのおまんこに搾られて、ぴゅっぴゅしちゃうんだね。
 いいよ、いっぱい出して。お姉ちゃんの子宮は、悠ちゃん専用なんだからね」
「塔子ねえ……!」

 淫語に誘われて悠の性感は一気に高まった。組み敷かれたままで、射精感がせり上がってくる。

「も、もうっ」
「お願い、出して! 悠ちゃんの精液で妊娠したいの、ママになりたいのぉ! だから膣内で、ね……!」

 乞われるままに悠は屈した。ずっと耐えて溜め込んでいた精子が、鈴口から溢れ出る。
 膣の最奥に白濁を撒かれて、塔子の身体が痙攣した。

「うっ……! 悠ちゃんの、こんなに熱い……美味しい……」

 膣内射精で絶頂した塔子の膣肉は激しく締まり、尿道から精液を残らず搾り出そうとしているようだ。激しすぎる愛撫は悠に残った僅かな倫理観すらも消し去り、姉と共に生きる覚悟を固めさせる最後の因子となった。

 それ以来、悠は自分の部屋で目覚めることが無くなった。
 雑然とした姉の部屋で、お互いの体液に塗れて目を覚ます。予定よりもだいぶ遅い時間だが、もういつものことなので大して気にしない。
 起き上がってゴソゴソしていると、同じ布団に寝ていた姉も目覚める。遅くまでセックスしていたせいで眠たげな眼を擦りながら、悠の方へにじり寄ってくる。

「おはよ、悠ちゃん。朝から、元気だよねぇいつも」
「まぁ、そういうもんだからな」

 朝勃ちを見て塔子は舌なめずりをする。唾を飲み込んで喉を鳴らし、情欲に濡れた瞳を向ける。

「えへへぇ、ね、これ、ぺろぺろしていい? いいよね? ……ふふ、お姉ちゃん、悠ちゃんのためになること、何にもできないけど……エッチな事はできるから。頑張って気持ちよくするね」
「もうそろそろいかないと、学校に遅れるんだけどなぁ」
「いいじゃない、そんなのどうでも。朝日を浴びながらエッチするってのも、なかなか楽しいと思うよ」

 勃起したものをぺろりとやられるともう抗う気力が無くなる。
 最近こんな風に、なし崩し的に遅刻したりずる休みしたりしがちだなあ、でも姉さんとのセックスは気持ちいいし、家に居れば姉さんも喜んでくれるし、これでいいのかなあ。そんなふうに考えながら、また悠は姉に溺れていった。
12/08/30 01:34更新 / ナシ・アジフ

■作者メッセージ
某ハイスピード推理アクション2やってて某保健委員があまりに可愛すぎて一ヶ月ほどキエェェって萌えたあと「そうだ。共依存ネタやろう」って思い立って書いたのがこれです。

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