読切小説
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もうろく聖職者の午睡
 昼下がりの中庭は、穏やかな陽気に包まれていた。花壇には赤、青、黄、白の花が咲いている。赤い服と帽子をかぶった老人たちが、花を眺めながらくつろいでいた。服装から、彼らは枢機卿だと分かる。
 本来ならば、教団幹部である枢機卿は教団の実務を取り仕切らなければならない。この大聖堂の執務室で事務仕事に励むか、長く退屈な会議に耐えなくてはならない。それにもかかわらず、彼らは中庭でのんびりと日向ぼっこをしていた。
「おーい、飯はまだかのう」
 昼寝から目覚めた枢機卿は、芝生から体を起こして弛緩した声を上げる。
「先ほど昼食を召し上がったではありませんか」
 そばで書類に目を通している、聖職者の白服を着た男が答える。
「そうかのう?」
 ファルネーゼ枢機卿は首を傾げる。
 ピッコロ―ミニ司教は軽くため息をつく。いつものことだ。

 柔らかそうな茶色の毛で体中がおおわれた者が、枢機卿たる老人の下へやってきた。枢機卿のそばに座り込み、人懐っこそうな表情で見上げる。
「おお、カリーナは元気じゃのう」
 ファルネーゼ枢機卿は、目を細めて子犬のような少女を撫でる。少女は、明るい茶色の毛でおおわれた尻尾を嬉しそうに振っている。
 彼女はコボルドだ。犬の魔物娘であり、人間に対して友好的かつ従順であることで知られる。反魔物国家の一部では、魔物の中では例外的に彼女達を飼う事が許されている。さすがに主神教団の本部である大聖堂では良い顔をされないが、このように黙認されることもあるのだ。
 ピッコロ―ミニ司教は、この大聖堂でもうろく枢機卿たちの世話をしている。その世話を手伝っているのがカリーナだ。枢機卿たちは、カリーナを気に入り可愛がっている。
 三人の耳に、老人の演説する声が聞こえて来た。枢機卿の服を着たその老人は、中庭の広がりに向かって声を張り上げている。身振り手振りを交えて、声を張り上げている。
「以上の事から貴下らの論の前提は、類推と拡大解釈によって成り立っている事が明らかとなった!貴下らが真実に対して謙虚であるのならば、己の依って立つものを今一度見直すべきだ!」
 フロリス枢機卿は、論争の練習に励んでいた。ピッコロ―ミニ司教は、その演説に耳を傾ける。さすが教団きっての理論家にして論客と言われた者の論述だ。彼の怜悧な論は、傾聴に値するだろう。二十年前ならば。
 彼も、もうろくしていた。すでに現実を認識する能力は無い。現状に合わない前提に立ち、論を組み立てるばかりだ。いくら論理能力が優れていようが、どれだけ巧みな修辞がなされていようが、現実には役に立たない。
 ただ、フロリス枢機卿は手間がかからない。こうして中庭や空き室に連れてきて、演説の練習に励ませれば良いだけだ。幸いなことに、空いている場所は大聖堂にはいくつもある。他の手がかかる枢機卿に比べればマシだ。
 噴水の水音に混ざって、小走りにやってくる足音が聞こえて来た。枢機卿の赤い服を着た老人がやって来る。
「おい、ジョバンニ!父さんは帰ってきたぞ!お土産を持ってきてやったぞ!」
 辺りに響き渡る大声で叫ぶ。
 ピッコロ―ミニ司教は、うめき声を上げる。スフォルツァ枢機卿は、自分の醜聞を大声で広言している。とても目を離しておく訳にはいかない者だ。
 スフォルツァ枢機卿は、前教皇の側近中の側近と言われた人だ。その大物枢機卿は、聖職者でありながら隠し子を持っている。もうろくしたスフォルツァ枢機卿は、隠し子の事を隠そうとしない。だから教団本部のある聖都から出す訳にはいかないのだ。
「おかえりなさい、お父さん!お土産は何なの?」
 カリーナは、尻尾を振りながらスフォルツァ枢機卿の所へ駆け寄っていく。スフォルツァ枢機卿は、カリーナを自分の息子であるジョバンニだと思い込んでいる。だから、カリーナは息子を演じているのだ。
「リンゴのパイを買ってきてやったぞ。腕の良い菓子職人を見つけたんだ。お前が喜ぶと思ってな」
 カリーナは今すぐ食べようとねだり、皿と小刀を用意する。ファルネーゼ枢機卿は物欲しそうに見ている。
「あんたにはやらんぞ」
 スフォルツァ枢機卿は、ファルネーゼ枢機卿にそっけなく言う。
「お前さんが司教だった頃、誰が面倒を見てやったと思っているのだ。祭典の祝辞の言葉を忘れた時、わしが後ろから教えてやったことを忘れたのか」
「その後で、あんたは大司教に口利きすることを、私に強要したではないか」
 二人とも肝心なことは忘れているが、下らないことは良く覚えている。カリーナが二人をなだめて、一緒に食べる事を承諾させる。ピッコロ―ミニ司教も相伴することが出来た。
 ピッコロ―ミニ司教は、焼けたリンゴの甘い味わいを楽しみながら、彼の部下というべきコボルドを見る。カリーナは、演説の練習を小休止しているフロリス枢機卿に、リンゴパイと果汁の飲み物を持って行っている。フロリス枢機卿は、笑顔で受け取っていた。気難しいことで知られるフロリス枢機卿も、カリーナを気にいっているのだ。
 ピッコロ―ミニ司教は、日に明るく照らされた中庭を見渡す。今日は、大して問題は起こらずに済みそうだ。スフォルツァ枢機卿の妄言にはあせったが、中庭にとどめておけば問題は無い。
 だが、残念ながらピッコロ―ミニ司教の期待は裏切られた。突然、金属を激しく打ち鳴らす音が中庭に響き渡った。彼は、驚いて音が鳴る方を見る。甲冑で身を固め、抜身の剣を振りかざした者が走って来る。
「邪悪な魔物どもめ!異教徒どもめ!神の力を見せてくれる!」
 老人の喚き声が響きわたった。
 ピッコロ―ミニ司教はすぐさま立ち上がり、警護兵を呼ぶ。そして自分のそばにあるこん棒を取って身構える。
 甲冑姿の老人は、ローヴェレ枢機卿だ。かつては聖職者でありながら武装し、教団軍を指揮して魔物や異教徒と戦った者だ。「軍人枢機卿」の呼び名で知られていた。だが、今はもうろくしている。普段はおとなしいのだが、突然、自分が戦場にいると勘違いし、武器を振り回すのだ。
 ピッコロ―ミニ司教は貴族として生まれ育ち、武術を教え込まれていた。ローヴェレ枢機卿を抑えようと、こん棒を手に構える。
 カリーナが前に出た。そしてローヴェレ枢機卿に言葉をかける。
「猊下、僕もお供します!」
 カリーナを見ると、ローヴェレ枢機卿は破顔する。
「おお、カリーナよ、よく来た!よし、共に敵を打ち倒そうぞ!」
 二人は中庭を走り回り始めた。カリーナは、巧みにローヴェレ枢機卿を誘導する。そしてピッコロ―ミニ司教に合図する。
 ピッコロ―ミニ司教は、その合図を理解する。警護兵に命じて、中庭周辺の人々を避難させる。そして中庭を封鎖させた。
 ローヴェレ枢機卿は、カリーナと共に走り回っている。いずれ疲れ果てて大人しくなるだろう。ピッコロ―ミニ司教は、深いため息をつく。
「飯はまだかのう」
 状況を全く理解していないらしいファルネーゼ枢機卿の声が聞こえた。

「ご苦労だった。ローヴェレ枢機卿には困ったものだ」
 カエターニ枢機卿は、感情のうかがえない調子で話した。彼は、ピッコロ―ミニ司教の上司であり、教団内の実務の中心にいる者だ。ピッコロ―ミニ司教は、彼に報告する義務がある。
 清潔だが飾り気のない部屋で、二人は事務的に話を進めた。カエターニ枢機卿は事務屋であり、無駄な事を話さず感情を出さない話し方をする。ピッコロ―ミニ司教も、上司に合わせて話す。
 カエターニ枢機卿は、もうろくした枢機卿たちの面倒を見ている。彼は、次の教皇になる野心を持っており、もうろく枢機卿たちとその支持者の票が欲しいのだ。
 カエターニ枢機卿は、自分の分をわきまえ無くなってしまったのだな。ピッコロ―ミニ司教は、内心そう思う。カエターニ枢機卿は、実務に関しては有能だ。だからこそ教団内で大きな力を持っている。だが、指導力は無い。教皇になるよりも、教皇の懐刀になる方が向いているのだ。以前のカエターニ枢機卿ならばその事をわきまえていたが、どうやら欲に目がくらんでしまったらしい。
 ピッコロ―ミニ司教としては、カエターニ枢機卿に失態を犯して欲しくない。ピッコロ―ミニを司教に推薦したのは、カエターニ枢機卿なのだ。だが、どうにもならないだろう。換言しても憎まれるだけだ。カエターニ枢機卿は、恩と恨みを決して忘れない者だ。
 ピッコロ―ミニ司教は、報告をしながら内心ため息をつく。自分には、司教になるだけの力量は無いのではないか。カエターニ枢機卿がいなくては、仕事をすることが出来ない者では無いか。
 ピッコロ―ミニ司教は、名門貴族の長男として生まれ育った。父の勧めで聖職者となったのだ。その後、カエターニ枢機卿に認められて司教になることが出来たのだ。
 ピッコロ―ミニ司教は、父が自分を聖職者にした理由は分かっている。不器用なために、名門貴族一家を率いることが出来ないと見なしたからだ。そうして、要領のよい弟のほうに家督を継がせたのだ。カエターニ枢機卿が、自分を司教に推薦した理由も分かっている。カエターニ枢機卿は、ピッコロ―ミニ家の力を利用しようとしているのだ。そして司教にすると、もうろく枢機卿の世話をあてがったわけだ。
 ピッコロ―ミニ司教は無表情に報告しながら、内心で自分を嗤っていた。

 ピッコロ―ミニ司教は、自室で葡萄酒を飲んでいた。ゴブレットに乱暴に葡萄酒をつぎ、喉を鳴らして飲んでいる。仕事が終わった後は、酒を飲まなくてはやっていられない。
 ドアをノックする音がした。ピッコローミニ司教が入室を許可すると、カリーナが入ってきた。笑顔を浮かべて尻尾を振っている。子犬のようなカリーナの笑顔を見ると、ピッコロ―ミニ司教も思わず笑顔を浮かべてしまう。
 カリーナは、ピッコロ―ミニ司教に抱き付いて体をすり寄せる。獣毛でおおわれた体は柔らかく、温かい。ピッコロ―ミニ司教は、カリーナの頭を撫でる。そのまま頬や肩、背を撫でていく。カリーナは気持ちよさそうな顔をしている。
 ピッコロ―ミニ司教は、カリーナを愛撫していると癒されるような気がした。上手く酔えない葡萄酒を飲むよりも、子犬以上に可愛らしいカリーナを撫でている方が心を満たすことが出来る。
 ピッコロ―ミニ司教は、かがみこんでカリーナを抱き寄せる。カリーナは、ローヴェレ枢機卿と走り回った後に体を洗ったらしい。それにもかかわらず、カリーナからは日向で温められた獣毛の匂いがする。心を穏やかにする甘い匂いだ。
 カリーナは、ピッコロ―ミニ司教の頬をなめ回す。そして自分の体を押し付けながら、ピッコロ―ミニ司教の股間をなで回す。たちまち、ピッコロ―ミニ司教のペニスは固くなる。
 二人は、すでに体を何度も交えていた。聖職者がコボルドと交わることは、禁じられている。だが、ピッコロ―ミニ司教は自分を抑えられない。子犬以上に可愛らしいくせにどこか色気を感じさせる姿は、聖職者としての禁欲生活に苦しんでいたピッコロ―ミニ司教を決壊させたのだ。
 カリーナはしゃがみ込むと、ピッコロ―ミニ司教の股間に顔をうずめる。そして服の上から鼻を押し付けて臭いをかぐ。ピッコロ―ミニ司教はすでに体を洗っていたが、コボルドの優れた嗅覚は彼の臭いを楽しむことが出来るらしい。子犬の魔物娘は嬉しそうに彼のズボンを脱がすと、ペニスに頬をすり寄せながら臭いをかいでいた。
 カリーナは、そそり立つペニスに舌を這わせる。先端やくびれ、裏筋を熱心になめていく。ピッコロ―ミニ司教は、その柔らかい舌の動きにほんろうされる。子犬のような少女が、上目遣いに自分のものをなめていた。その姿を見ると、背筋に快感が走り抜ける。
 ピッコロ―ミニ司教は、長くはもたなかった。出そうだと顔を赤らめながら言う。カリーナはうれしそうな顔をすると、さらに熱心になめ回す。
 ピッコロ―ミニ司教は、子犬の口と顔に白濁液を放った。あどけない顔が白い液で汚れていく。液は勢いよく飛び、茶色い髪や獣毛に覆われた耳まで汚す。あたりに精液特有の生臭さが広がる。
 カリーナは、顔を汚されてもうれしそうな顔をしていた。鼻を鳴らして臭いをかぎ、獣毛でおおわれた指で白い液をすくってなめ取る。その無邪気さと淫猥さの混ざり合った動作は、男の欲情をかき立てる。
 ピッコロ―ミニ司教は、寝台にカリーナを横たえた。カリーナは、あお向けになって手足を上に挙げて体を広げる。犬が人間に服従する時の格好だ。ピッコロ―ミニ司教は、なめらかな腹をゆっくりと撫でる。撫でるたびに、カリーナは嬉しそうに身もだえする。
 ピッコロ―ミニ司教は、カリーナの股に顔をうずめる。豊かな毛でおおわれたその場所は、既に濡れそぼっていた。舌で獣毛をかき分けると、小さな泉から液があふれている。桃色の泉を舌で愛撫すると、子犬は喘ぎ声を上げながら体を震わせる。
 聖職者である男は、子犬少女に四つん這いになることを命じた。子犬は、尻尾を振りながら従う。聖職者は、子犬の後ろに立って尻尾に撫でられる感触を楽しむ。そして、そのまま子犬の中へ己のものを埋めていく。
 聖職者は、子犬を後ろから攻め立てた。肉と肉がぶつかり、その間で犬の毛がクッションとなる。柔らかな衝突音が、繰り返し部屋の中に響き渡る。背徳聖職者は、小さな肉の泉の感触に歓喜の声を上げた。再び弾けそうになり、彼は子犬から離れようとする。だが、子犬は腰を押し付け、膣肉でペニスを締め付けて離さない。
 背徳聖職者は、犬の魔物娘の中で弾けた。中に勢いよく子種汁を放つ。犬の魔物娘は子種汁を注ぎ込まれて、よだれをこぼしながら喜びの声を上げる。二人の結合部からは、二人が出し合った液が混ざり合った物があふれ出る。
 人間と犬のあえぎ声が、部屋の中に響いていた。人間の男は、這いつくばっている雌犬を抱きしめる。汗に濡れた雌犬の匂いと感触を楽しむ。雌犬は、嬉しそうに背と尻を男にすり付けていた。

「フランチェスコ様、朝ですよ。起きてください」
 ピッコロ―ミニ司教は、目を見開いた。カリーナが、彼の顔をのぞき込んでいる。ピッコロ―ミニ司教は自室を見回した後、大きく伸びをする。
 フランチェスコとは、ピッコロ―ミニ司教の名だ。カリーナは、彼と二人きりの時だけその名を呼ぶ。フランチェスコは、犬耳の生えたカリーナの頭を撫でながら引き寄せる。二人は口づけを交わす。
 二人は起き上がると、あらかじめ用意してある香草を付けた水に布を浸す。そして、その布で事後の汚れをぬぐい取る。フランチェスコは、教団の中心で働く幹部の一人であり名門貴族の出だ。隠しながらコボルドと関係を結べば、教団は見て見ぬふりをするだろう。
 二人は用意を整えると、部屋を出ようとする。だが、二人は微笑み合う。フランチェスコは身をかがめ、カリーナと口づけする。そして、部屋の扉を開いた。

 ピッコロ―ミニ司教は、午後の日差しの中でもうろく枢機卿たちの面倒を見ていた。かたわらではカリーナが手伝っている。
 ファルネーゼ枢機卿は、昼食を終えて居眠りをしている。目を覚ましたら、食事をしたことを忘れているだろう。フロリス枢機卿は、相変わらず演説の練習だ。鋭い論理で言葉を放っているが、論を組み立てるための事実関係は二十年前のものだ。スフォルツァ枢機卿は、カリーナと追いかけっこをして遊んだために、疲れて木陰で休んでいる。相変わらず、カリーナをジョバンニ呼ばわりしていた。
 ローヴェレ枢機卿は中庭にはいない。昨日、暴れすぎて腰を痛めていた。二,三日は寝台の上で過ごすだろう。これでピッコロ―ミニ司教を初めとする教団関係者は、二,三日平穏な生活が出来る。
 ファルネーゼ枢機卿は目を覚ました。穏やかな風が、中庭の花の香りを運んでくる。彼の視線の先では、彼から見れば若輩の聖職者がコボルドと共に中庭を見回っている。
「子犬のお嬢ちゃんや、坊やのお守りを任せたぞ。わしはボケてしまったから、お守りは出来ないのでな」
 かつては切れ者と言われた老聖職者は、ゆっくりと目をつぶる。そして、再び寝息を立て始めた。
16/02/15 18:53更新 / 鬼畜軍曹

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